これならわかる復文の要領 ――漢文学習の裏技――
発展問題1 主語+「之」+述語pp. 219–227
本篇では、前半で主語と述語をつなぐ「之」について、後半で名詞「者」に掛かる形容詞的修飾語句の組み立て方について練習します。どちらも復文において何かと応用の利く重要事項で、漢文に対する文法感覚を養うためにも甚だ有益な作業です。
〔一般形〕主語+「之」+述語(N之V)
名詞と名詞をつなぐ「之」(例:「古之賢人」)とは異なり、「之」が主語と述語のあいだに入る形式:
N之V (主語 S + 「之」 + 述語 P)
↓ 「之」が入ると、Nが主語・Vが述語でありながら文として独立できなくなる(節 clause として機能)。
① 名詞節(主語):N之Vスルヤ〔也〕Pナリ〔也〕 → NのVするやPなり
N之VスルハPナリ〔也〕 → NのVするはPなり
N之VスルコトPナリ〔也〕 → NのVすることPなり
② 名詞節(目的語):S VニN之Vスルヲ → S NのVするをVす
③ 副詞節: N之Vスルヤ〔也〕、…〈主節〉…
なお、「N之V」の動詞Vが名詞Nとも解釈できる場合(「N1之N2」とも解せる場合)があります。たとえば「不レ知ラ魚之楽シム〔ミ〕ヲ」(魚の楽しむ〔み〕を知らず/『荘子』秋水)の「楽」は、動詞「楽しむ」とも名詞「楽しみ」とも訓じられます。復文にさいして過度に神経質になる必要はありませんが、こうした揺らぎが生じ得ることは心得ておいてください。
また、述語が動詞Vでなく形容詞Aとなって「N之A」となる場合も同様です(例:「天下不レ多トセ管仲之賢ナルヲ」→ 管仲の賢なるを多とせず/『史記』管仲伝)。
では、名詞節(主語)を形成する例から練習しましょう。解説&解答 → pp. 243–256
1 名詞節を形成する例 ア 主語として機能する場合
《Q69》人の生くるや直し。(全五字/置き字ナシ)
《Q70》君子の人を愛するや徳を以てす。(全八字/置き字ナシ/第三字字「之」)
《Q71》紂の武丁を去ること未だ久しからざるなり。(全八字/置き字ナシ/第二字字「之」)
○紂・武丁武丁王の名。
《Q72》天下の道無きや久し。(全八字/第三字字「之」/第八字=置き字「矣」)
《Q73》道の将に行はれんとするや命なり。(全八字/第六字=置き字「与」)
《Q74》君子の耕さずして食らふは何ぞや。(全九字/第六字=置き字「而」/第九字「也」)
《Q75》君子の音を聴くは其の鏗鏘を聴くのみに非ざるなり。(全十三字/置き字ナシ/第三字字「之」/第十一・十二字=「而已」)
○音音音楽。 ○鏗鏘鏗鏘楽器の音色。
中文翻譯
發展篇前半練習主語+「之」+述語(N之V)的構文。此處的「之」不是連結兩個名詞的修飾「之」,而是插入主語S與述語P之間,使整個S之P無法獨立成句,只能作為從屬節(clause)——名詞節或副詞節——發揮功能。
〔一般形整理〕
① 名詞節(作主語):N之V也 P也 → 「N之V」為主語,P為謂語。
② 名詞節(作目的語):S V〔N之V〕 → 「N之V」為動詞V的賓語。
③ 副詞節(表時間):N之V也,…主節… → 「N之V」為時間狀語從句。
發展問題1的解說解答在 pp.243–256(MD 尚未 OCR,待補)。
発展問題1 N1之於N2 Q76–Q77pp. 225–226
〔一般形〕N1之於N2(N1のN2に於けるや)
前置詞「於」が動詞化したものと捉え、要領は「N之V」と同じ:
N1之於ケルヤN2ニ〔也〕Pナリ〔也〕 → N1のN2に於けるやPなり
《Q76》民の仁に於けるや水火よりも甚だし。(全九字/第二字字「之」/第七字=置き字「於」)
《Q77》君子の天下に於けるや適も無く莫も無し。(全十三字/第三字字「之」/第十・十三字=置き字「也」)
中文翻譯
「N1之於N2」是「N之V」的特殊應用:以前置詞「於」充當述語位置,構成「N1對N2的態度/狀況如何」的句型。一般形為「N1之於N2也,P也」。要領與「N之V」相同,只需將V的位置換成「於N2」即可。
発展問題1 名詞節(目的語)Q78–Q84pp. 226–228
次は、名詞節「N之V」が目的語となる場合です。
〔一般形〕名詞節が目的語として機能する場合
S VニN之Vスルヲ → S NのVするをVす
S VニN之Aナルヲ → S NのAなるをVす (述語が形容詞の場合)
《Q78》紫の朱を奪ふを悪むなり。(全六字/置き字ナシ/第三字字「之」)
《Q79》天の高き・気の迥けきを見る。(全七字/置き字ナシ)
《Q80》老いの将に至らんとするを知らざるのみ。(全八字/置き字ナシ/第七・八字「云爾」)
《Q81》君子は其の言の其の行に過ぐるを恥づ。(全九字/置き字ナシ)
《Q82》臣強秦の漁父と為らんことを恐るるなり。(全九字/置き字ナシ/第五字「之」)
○秦秦国名。
《Q83》吾が生の須臾なるを哀しみ、長江の窮まり無きを羨む。(全十二字/置き字ナシ/第四・十字「之」)
《Q84》天の秦を亡ぼすは、愚智と無く皆之を知る。(全十字/置き字ナシ/第二字字「之」)
○秦秦国名。
最後の《Q84》は、目的語となる名詞節「N之V」が、本来の動詞の下ではなく、主題提示語句として文頭に置かれた例です。
中文翻譯
本組練習「N之V」作目的語的用法。名詞節「N之V」(或「N之A」)整體作為上位動詞的賓語,訓讀形式為「NのVするを…Vす」「NのAなるを…Vす」。
特殊情形(Q84):目的語名詞節「N之V」不置於動詞下方,而是作為主題提示語句置於文頭(助詞「は」提示),後接主語+動詞。此為強調倒置用法。
Q80 末尾「云爾」(第七・八字)為語氣助詞,表「只是說罷了・不過如此」,相當於「のみ」的書面語形式。
発展問題1 時を表す副詞節 Q85–Q86pp. 228
「N之V」が時を表す副詞節になる例を二題練習します。一般形を再掲します:
〔一般形〕副詞節(時を表す)
N之Vスルヤ〔也〕、…〈主節〉… → NのVするや、…〈主節〉…
《Q85》小人の過つや、必ず文る。(全七字/置き字ナシ)
《Q86》人の将に死なんとするや、其の言や善し。(全八字/置き字ナシ/第七字「也」)
中文翻譯
「N之V也,…」中前半「N之V也」作時間狀語從句(副詞節),意為「當N…V之時,……」。日文訓讀為「NのVするや、…」,助詞「や」起到時間接續作用。
Q86 含再讀文字「将」(将に…んとする),整體仍以「N之V也」形式構成副詞節,後接主節「其の言や善し」。
発展問題2 形容詞的修飾語句+「者」pp. 229–236
漢文では、長めの形容詞的修飾語句が下方の名詞「者」へと掛かってゆく例が珍しくありません。すでに「Ⅰ 入門篇」で 38「苗ニシテ而不レ秀デ者」(苗にして秀でざる者)、39「好ムコト徳ヲ如クスル好ムガ色ヲ者」(徳を好むこと色を好むが如くする者)などの例を挙げましたし、また「Ⅲ 修練篇」の《Q68》では「此ノ女ノ所ヲ以テ不ルヨメ嫁ガ者」(此の女の嫁がざりし所以の者)の復文も練習しました。こうした修飾語句を組み立てるのは、おそらく復文において最も難度の高い作業に数えられます。
要するに、英語などとは異なり、関係代名詞や関係副詞がなく、名詞の直後に関係節を置いて説明を加えることのできない漢文や日本語では、長い修飾語句を被修飾語たる名詞の直前に置かざるを得ない事態が生じ得るのです。ここでは、被修飾語「者」を典型として、短から長へと地道に練習します。解説&解答 → pp. 256–272
まずは、二〜三字の修飾語句が「者」に冠せられる例から:
《Q87》仁を好む者(全三字/置き字ナシ)
《Q88》徳有る者(全三字/置き字ナシ)
《Q89》不仁を悪む者(全四字/置き字ナシ)
《Q90》鳴くこと能はざる者(全四字/置き字ナシ)
《Q91》速やかに成らんと欲する者(全四字/置き字ナシ)
次は、四字の修飾語句です。長い修飾語句を組み立てるとき直接に役立つ要素も登場します。
《Q92》人の悪を称する者(全五字/置き字ナシ/第三字字「之」)
《Q93》始め有り卒り有る者(全五字/置き字ナシ)
《Q94》無為にして治まる者(全五字/第三字字置き字「而」)
《Q95》勇にして礼無き者(全五字/第二字字置き字「而」)
《Q96》生まれながらにして之を知る者(全五字/第二字字置き字「而」)
さらに、修飾語句が五~七字にわたる例を練習してみましょう。
《Q97》知らずして之を作る者(全六字/第三字字置き字「而」)
《Q98》多く学んで之を識る者(全六字/第三字字置き字「而」)
《Q99》我に陳・蔡に従ふ者(全六字/第三字字置き字「於」)
○陳・蔡蔡国名。
《Q100》女子にして男子のごとく飾る者(全七字/第三字字置き字「而」)
《Q101》其の不可なるを知りて之を為す者(全八字/第五字=置き字「而」)
《Q102》親ら其の身に於いて不善を為す者(全八字/置き字ナシ)
では、いよいよ修飾語句が八~十字に及ぶ練習に取り組むことにします。慎重に字句を組み上げてください。
《Q103》貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好む者(全九字/第二・六字=置き字「而」)
《Q104》平らかに天下を治めて栄名を垂れんと欲する者(全十字/第六字=置き字「而」)
《Q105》狐貉を衣たる者と立ちて恥ぢざる者(全十字/第七字=置き字「而」)
《Q106》千金を以て涓人をして千里の馬を求めしめし者(全十一字/置き字ナシ/使役動詞「使」)
以上で、「者」に掛かる修飾語句を組み立てる骨法は、おおむね理解できたと思います。ただし、ここまでの問題は、すべて〈形容詞的修飾語句+「者」〉という構造の字句ですから、全体として一つの名詞相当語句を形成するにすぎず、あくまで文の一部分にとどまります。そこで、最後に〈形容詞的修飾語句+「者」〉を含む長めの復文問題を練習しましょう。わずか三題ですが、総仕上げのつもりで取り組んでください。
《Q107》王の臣に其の妻子を其の友に託して楚に之きて遊ぶ者有り。(全十六字/第九・十二字=置き字「於・而」)
○楚楚国名。
《Q108》国を為めて数しば法令を更ふる者は、法を法とせず、其の善しとする所を以て法と為す者なり。(全十九字/第三字字置き字「而」)
《Q109》此を為す所以の者は、将に以て天下後世の人臣と為り二心を懐きて以て其の君に事ふる者を愧ぢしめんとすればなり。(全二十五字/置き字ナシ/第十三字「之」)
中文翻譯
發展問題2練習「形容詞的修飾語句+者」——即長串修飾語前置於名詞「者」之前的結構(相當於英語的關係子句,但修飾語在前)。
Q87–Q91(二〜三字):最基本的形式。Q92–Q96(四〜五字):開始出現「之」介入(第三字)與置き字「而」。Q97–Q102(六〜八字):修飾語延長,置き字「而・於」的位置需精確計算。Q103–Q106(九〜十一字):組合多個子句,結構更為複雜。
Q107–Q109(十六〜二十五字):「形容詞的修飾語句+者」的完整句子練習。Q108「国を為めて数しば法令を更ふる者は……法と為す者なり」為「者」主語+判定文結構;Q109「此を為す所以の者は……愧ぢしめんとすればなり」為理由陳述的複雑文。
解說解答見 pp.256–272(OCR 追加待ち)。
〔付〕連体形+「之」+名詞pp. 237–239
ここまでの「者」に関する練習では、「者」の直前に動詞を読む場合、《Q87》「好む者」・《Q91》「欲する者」・《Q99》「従ふ者」など、動詞の連体形に直接「者」が接続する例ばかりでした。「者」の直前に助動詞や形容詞を訓ずる場合も、《Q90》「能はざる者」・《Q95》「無き者」・《Q106》「求めしめし者」のように、やはり連体形に「者」が接続しています。連体形すなわち「連ナル体ニ形」(体に連なる形)である以上、連体形がそのまま体言つまり名詞「者」につながるのは当然の話で、日本語として不自然な点はありません。
ところが、漢文では、例の《「之」介入現象》すなわち修飾語と被修飾語のあいだに「之」が入って〈修飾語+「之」+被修飾語〉となる書き方があり、しかも修飾語の末尾で訓読する語が動詞・助動詞という場合があります。このようなときは、被修飾語の名詞につなげるべく動詞や助動詞を連体形に活用させつつ、「之」を機械的に「の」と訓読するのです。動詞Vを典型とし、一般形で示せば次のようになります。
〔一般形〕連体形+「之」+名詞(VするのN)
VスルノN → VするのN
連体形が直接に名詞へとつながらず、両者のあいだに「の」が割り込む形式。いわゆる漢文訓読体の文章(明治〜大正期の書き言葉)で多用された言い回し(例:福沢諭吉『学問のすゝめ』「其子を教るの道」「独立すること能はざるの証拠」)。漢文として不自然な点は一切なく、復文にさいしては「の」をあっさり「之」に改めるだけでよい。
《Q110》死するの日(全三字/置き字ナシ)
《Q111》物を覧るの情(全四字/置き字ナシ)
《Q112》師と言ふの道(全五字/置き字ナシ)
中文翻譯
〔付〕介紹「連体形+之+名詞」的特殊用法:修飾語與被修飾名詞之間插入「之」字,訓讀時「之」讀作「の」,整體形式為「VするのN」(V之N)。
此形式在漢文訓讀體文章(明治〜大正期書面語)中頻繁出現,如福澤諭吉「其子を教ふるの道」(教導子女之道)。復文時只需將「の」改寫為「之」即可,操作簡單。
Q110「死するの日」→ 死之日;Q111「物を覧るの情」→ 覧物之情;Q112「師と言ふの道」→ 言師之道。
◎総合問題pp. 240–242
最後に、ここまで説明してきた種々の要領を確認すべく、計八題の総合問題に取り組んでみてください。字数は手ごろな八~十四字にとどまり、内容もあらゆる要領を覆い尽くすわけではありませんが、どのような要領を用いて復文するのか、あらかじめ明示されていませんので、さまざまな知識を柔軟に活用する必要があります。この八題をすんなりこなせれば、本書の学習目的は十分に達せられたと考えてよいでしょう。要点&解答 → pp. 273–277
《Q113》未だ仁を踏みて死する者を見ざるなり。(全八字/第五字=置き字「而」)
《Q114》民の利する所に因りて之を利す。(全八字/第六字=置き字「而」)
《Q115》子の哭するや、壱に重ねて憂へ有る者に似たり。(全十字/置き字ナシ)
《Q116》与に言ふべからずして之と言へば、言を失ふ。(全十字/第五字=置き字「而」)
《Q117》孤の孔明有るは、猶ほ魚の水有るがごときなり。(全十一字/置き字ナシ/第二・八字「之」)
○孤孤君主の自称。 ○孔明孔明人名。
《Q118》君子は其の人を養ふ所以の者を以て人を害せず。(全十二字/置き字ナシ/第五字「其」)
《Q119》呉王之を聞き、晋を去りて帰り、越と五湖に戦ふ。(全十四字/第七・十二字=置き字「而・於」)
○呉・晋・越越国名。
《Q120》夫子の性と天道とを言ふは、得て聞くべからざるなり。(全十四字/第三字字「之」/第十二字=置き字「而」)
中文翻譯
總合問題共八題(Q113–Q120),綜合運用各篇所學,字數八〜十四字,文法類型事先不提示。
Q113:「未だ…ざるなり」再読+「而」置き字。Q114:「民之所利に因りて之を利す」→ N之所V(所Vする)+「而」。Q115:N之V副詞節(子の哭するや)+形容詞的修飾語句+者。
Q116:「与に言ふべからず」(副詞「与」)+「而」+前置詞「与之」言。Q117:孤之有孔明、猶魚之有水也(再読文字「猶」による比較)。Q118:所以養人者(所以Vする者)を前置詞「以」で副詞句化。
Q119:「晋を去りて帰り」→「而」置き字、「越と…に戦ふ」→ 前置詞「与」(共に)+「於」(後位副詞句)。Q120:N之V也(夫子之言性与天道は)+「得而聞」(得て聞く)+「不可」否定。