これならわかる復文の要領 ―― 漢文学習の裏技 ――

古田島洋介著 / 新典社選書83 / 新典社
p.03 入門篇後半(pp. 41–83)

基本文型以外1 英語との類似pp. 42–43

基本的な文型ぶんけい以外でも、何かと英語えいご構文こうぶんとの類似るいじが目立つことを言いえておきましょう。二つのれいを挙げてみます。英語えいごの試訳をえますので、漢文かんぶんと英文の語順ごじゅんを見比べてください。一つめは、禁止命令きんしめいれい文です。

 adv V   O

20 勿憚改 (勿カレ憚ルコト改ムルニ)

=改むるに憚ること勿かれ。

= Do not fear to mend your ways.

英語えいごが文頭に禁止命令きんしめいれい〈Do not〉を置くのと同じく、漢文かんぶんも文頭に禁止命令きんしめいれいを表す「勿」を冠するのです。英語えいごでは、動詞どうし〈mend〉に目的語もくてきご〈your ways〉を付け、意味を明確にしています。

二つめは、感嘆文かんたんぶんです。

 A   S   part

21 善哉問也 (善哉問也)

=善きかな問や。

= How good your question is!

さすがにすべての語順ごじゅんが同じとはゆきません。英語えいごでは感嘆詞かんたんし〈How〉が形容詞けいようし〈good〉に先行するのに対し、漢文かんぶんでは感嘆詞かんたんし「哉」が形容詞けいようし「善」の後方に位置しています。便宜上〈is〉に「也」を当ててはみたものの、両者の機能きのうが同じかどうか、多分に疑問が残ります。しかし、形容詞けいようしをできるだけ文頭に提示ていじし、それに感嘆詞かんたんしえるという点では、漢文かんぶん英語えいご類似るいじした構造こうぞうを持っていると言って差し支えないでしょう。左のごとく、平叙文へいじょぶんにおける強調きょうちょう副詞ふくし感嘆詞かんたんしに置き換え(「甚」→「哉」/〈very〉→〈How〉)、前後の語順ごじゅんを転倒させれば感嘆文かんたんぶんができあがる過程も似ています。

  • ・問也 甚ダ 善シ。(問也甚善) =問や甚だ善し。 → 善哉問也 =善きかな問や。
  • ・Your question is very good.          → How good your question is!

漢文かんぶんと英文の構造こうぞうを安易に同一視どういつしするのは危険きけんです。けれども、復文ふくぶんにさいして、どう語順ごじゅんみ上げるのかわからないときに、「英語えいごで書いたら、どうなるのか?」と考えるのは、なかなか有効な方法だと言ってよいでしょう。これを《英語相似律えいごそうじりつ》と名づけておきます。漢文かんぶんと英文との類似るいじについては、「Ⅱ 基礎篇」以下でも、時おり指摘してゆくこととなります。

中文翻譯

除基本文型外,漢文的構文在諸多方面與英語十分相似。以下舉兩例,附上英語試譯,請對照漢文與英文的語序。

第一是禁止命令句:

20改むるに憚ること勿かれ。→ 勿憚改(勿要畏懼改過)
= Do not fear to mend your ways.
漢文在句首冠「勿」(禁止命令),與英語句首的 "Do not" 位置相同。

第二是感嘆句:

21善きかな問や。→ 善哉問也(你的問題真好!)
= How good your question is!
英語感嘆詞 "How" 置於形容詞 "good" 之前;漢文感嘆詞「哉」置於形容詞「善」之後,位置雖異,但都盡量將形容詞提前的思路相同。

不宜輕易將漢文與英文的結構等同視之,但復文時若不知如何組建語序,「用英語寫會如何?」的思路頗為有效。作者將此稱為《英語相似律》。

基本文型以外2 日本語との類似pp. 44–47

ただし、漢文かんぶん構造こうぞうには、日本語にほんごとの類似点るいじてん存在そんざいすることを忘れてはなりません。五文型ぶんけいについて指摘した主語しゅご省略しょうりゃくが可能な点もその一つですが、ここでは、漢文かんぶん文末助詞ぶんまつじょし日本語にほんごと似ていることを確認かくにんしておきましょう。すでに例文れいぶん05・07・09に見られた「也」をも含めて例を掲げてみます。

            part

22 是礼也 (是レ礼也)

=是れ礼なり。

                part

23 君子亦有窮乎 (君子モ亦タ有ル窮スルコト乎)

=君子も亦た窮すること有るか。

右は平叙文へいじょぶん疑問文ぎもんぶんですが、「也」と「なり」、「乎」と「か」が、それぞれ互いに文末に位置している点は同じです。このような文末助詞ぶんまつじょしが占める語位ごいに関するかぎり、漢文かんぶん語順ごじゅん日本語にほんごによく似ているのです。たしかに漢文かんぶんは「孤立語こりつご」なのですが、文末助詞ぶんまつじょしには日本語にほんごと同じような「膠着語こうちゃくご」の性質が見られると考えてよいでしょう。

さらに言いえれば、漢文かんぶんには次のような文章構造ぶんしょうこうぞうも現れます。

 S     S  C

24 孔子長九尺有六寸 (孔子長サ九尺有六寸)孔子こうし=人名。

孔子こうし 長さ九尺有六寸なり。

*「有」は、+の意。孔子こうしが在世していた周代しゅうだい度量衡どりょうこう制度では、一尺=十寸=22.5㎝ですから、「九尺有六寸」=216㎝となり、多分に誇張があるにせよ、孔子こうしが非常に背の高い人物であったことがわかります。

文意は、たやすく理解りかいできます。文型ぶんけいも、第二文型ぶんけい〔変形〕=SCとしか思えません。けれども、文頭の主部しゅぶに並ぶ二つの名詞めいし「孔子 長」は、文中でどのような機能きのうを果たしているのでしょうか。「孔子」を主語しゅごと考えると、「長」は名詞めいし転用てんようした副詞ふくしとして扱うしかなくなり、何やらしっくりしません。「長」が主語しゅごだとすると、今度は「孔子」が文型ぶんけいから食み出し、落ち着きどころがなくなってしまいそうです。

ここで想い起こしてほしいのは、日本語にほんごの〈ハ-ガ〉文、つまり例の「象は鼻が長い」で有名な文章構造ぶんしょうこうぞうです。この助詞じょし「は」と「が」、特に「は」の機能きのうをどう捉えるかは、日本語にほんご文法の一大問題もんだいとしてさまざまな議論が交わされてきました。ただし、今は日本語にほんご文法の問題もんだいには深入りしません。「象は」を一文全体の話題を表す主題提示語句しゅだいていじごく、「鼻が」を主語しゅごと考えるだけですませておきます。

肝腎かんじんなのは、右の「孔子 長」に日本語にほんごの〈ハ-ガ〉文を当てはめて、「孔子は長が九尺有六寸(にも及ぶほどの長身)であった」と理解すると、何ら抵抗ていこうなく文意が汲み取れるという事実です。二つの名詞めいし「孔子 長」が「孔子は長が」と完全に一致する語感ごかんなのかどうかは議論の余地がありますが、便宜上、日本語にほんごの〈ハ-ガ〉文に同じと見なしておけば、解釈かいしゃくしやすいことはたしかでしょう。

むろん、のっけから助詞じょし「の」を補読ほどくして「孔子 長」を一つの名詞めいしに仕立て、「孔子ノ長九尺有六寸ナリ」(孔子の長 九尺有六寸なり)と訓読くんどくすることも可能です。しかし、名詞めいし名詞めいしのあいだに何らかの語句ごく挿入そうにゅうされると、助詞じょし「の」によって二つの名詞めいしを一つにまとめてしまう手は利きません。

     conj C        C        adv C  part

25 江東雖小、地方千里、衆数十万人、亦足王也

(江東雖小ナリト、地方千里、衆数十万人、亦タ足ル王タルニ也)

江東こうとう長江ちょうこう下流の東側の土地。

=江東 小なりと雖も、地 方千里、衆 数十万人、亦た王たるに足るなり。

「江東」の直下に譲歩節じょうほせつ「雖小」が挿入そうにゅうされているため、「江東」と「地」や「衆」を助詞じょし「の」でつなぐことは不可能です。けれども、「長江ちょうこう下流の東方は、たしかに狭いとはいえ、面積が千里四方に及び、人口が数十万に達しており、やはり王となるにふさわしい土地でございます」と〈ハ-ガ〉文を当てはめてみれば、これまた文意が容易に理解できるでしょう。大まかには〈「江東こうとう」は…「地」が…「衆」が…〉という語気文勢ごきぶんせいに近いものと見なして差し支えありません。漢文かんぶんには、日本語にほんごの〈ハ-ガ〉文に近似きんじする発想はっそうも認められるのです。

漢文かんぶん語順ごじゅんは、その多くが英語えいご類似るいじする。ただし、時に文末助詞ぶんまつじょし語位ごい日本語にほんごと一致したり、主部しゅぶに位置する二つの名詞めいし日本語にほんごの〈ハ-ガ〉文に似た発想はっそうを示したりすることもある――これを《日本語相似律にほんごそうじりつ》と呼んでおきます。

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漢文的結構也有與日語相似之處,不可忘記。除五文型中主語可省略外,漢文的文末助詞與日語相似也值得確認。

22是れ礼なり。→ 是礼也(這是禮儀)
文末「也」=「なり」,同位於句末。
23君子も亦た窮すること有るか。→ 君子亦有窮乎(君子也會窮途末路嗎?)
文末「乎」=「か」(疑問),同位於句末。

文末助詞的語位這一點,漢文語序與日語十分相似。漢文雖屬「孤立語」,但文末助詞具有「黏著語」的特性。

24孔子 長さ九尺有六寸なり。→ 孔子長九尺有六寸
(孔子身高九尺又六寸,即約216cm)
*「有」=「+」(加法);周代一尺=22.5cm,九尺六寸=216cm,雖有誇張,可見孔子身材高大。
句首「孔子 長」兩個名詞並列,可套用日語〈ハ-ガ〉文理解:「孔子は身長が九尺六寸であった」。
25江東 小なりと雖も、地 方千里、衆 数十万人、亦た王たるに足るなり。→ 江東雖小、地方千里、衆数十万人、亦足王也
(江東雖小,土地方圓千里,人口數十萬,仍足以稱王)
〔江東〕は〔地〕が千里…〔衆〕が数十万…と解読する。套用〈ハ-ガ〉文結構即可理解。

《日本語相似律》:漢文語序多與英語相似,但文末助詞的語位與日語一致,主部的兩個名詞有時也呈現出類似日語〈ハ-ガ〉文的思路。

B 語間連結構造pp. 47–48

次に、文型ぶんけい知識ちしきだけでは把握はあくしきれない語と語の連結れんけつ構造こうぞうを説明しましょう。細かい問題もんだいはいろいろありますが、最も重要じゅうようなのは修飾構造しゅうしょくこうぞう並列構造へいれつこうぞうです。この二つさえ心得ておけば、復文ふくぶんで悩む場面ばめんが大幅に減少げんしょうするに違いありません。まずは処理の容易な並列構造へいれつこうぞうを、次いで何かと注意ちゅうい点の多い修飾構造しゅうしょくこうぞうを取り上げることにします。

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接下來說明僅憑文型知識無法把握的詞與詞之間的連結構造。其中最重要的是修飾構造與並列構造。掌握這兩點,復文時困惑的情況將大幅減少。先介紹處理較容易的並列構造,再介紹注意點較多的修飾構造。

1 並列構造p. 48

並列構造へいれつこうぞうは、さして難しくありません。「直接並列ちょくせつへいれつ」すなわち接続詞せつぞくしを用いずに複数の語句ごくをそのまま並べる場合と、「間接並列かんせつへいれつ」すなわち接続詞せつぞくしを用いて複数の語句ごくを並べる場合とに分けられます。

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並列構造分兩種:「直接並列」(不用接続詞,直接並排多個詞句)和「間接並列」(用接続詞連接)。

 ア 直接並列p. 48

日本語にほんごでも直接並列ちょくせつへいれつ構造こうぞう漢語かんご常用じょうようしているので、何も抵抗ていこうはないでしょう。

・左右 ・善悪 ・大中小 ・雪月花 ・東西南北 ・春夏秋冬

直接並列ちょくせつへいれつ構造こうぞう語句ごくは、そのまま修飾構造しゅうしょくこうぞうになるときもあります。どちらの構造こうぞうなのかは、文脈ぶんみゃくによって判断はんだんするしかありません。

┌ 青緑〔直接並列構造〕=青色と緑色
└ 青緑〔修飾構造〕  =青みがかった緑色

いずれにせよ、直接並列ちょくせつへいれつ構造こうぞうについて、復文ふくぶん語順ごじゅんを入れ換える必要ひつようは生じません。

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日本語にほんご中常用漢語直接並列構造,如:左右、善悪、大中小、雪月花、東西南北、春夏秋冬。

直接並列構造有時也可解釋為修飾構造(如「青緑」:青色+緑色 vs 帶青的緑色),需依文脈判斷。無論如何,直接並列構造在復文時無需轉換語序。

 イ 間接並列pp. 49–50

接続詞せつぞくし(与・而・且・及・或・若など)を用いて、複数の語句ごくを並べます。「与・而・且・及」は英語の〈(both)…and…〉に、「或・若」は英語の〈(either)…or…〉に相当します。

  • 26陰与陽 (陰ト与陽ト) =陰と陽と
  • 27柔而弱 (柔ニシテ而弱ナリ) =柔にして弱なり
  • 28貧且賤 (貧シク且ツ賤シ) =貧しく且つ賤し
  • 29賓客及子弟 (賓客及ビ子弟) =賓客及び子弟
  • 30或遅或疾 (或イハ遅ク、或イハ疾シ) =或いは遅く或いは疾し
  • 31木若泥 (木若シクハ泥) =木若しくは泥

右のうち、復文ふくぶんにさいして一瞬まごつく可能性があるのは、返り点かえりてんが現れる26「与」の並列構造へいれつこうぞうだけでしょう。助詞じょし「と」を二つ用いて訓読くんどくしますが、接続詞せつぞくし「与」は一つしかありません。二つの「と」に惑わされないよう、一般形を用いて注意ちゅうい点をまとめておきます。

*一般形 XとYと → X与Y (Xト与Yト)
 〔訓読くんどく
  ⅰ 二つの並列要素X・Yそれぞれに助詞じょし「と」を付ける。
  ⅱ 一つめの「と」はXの送り仮名おくりがなとし、二つめの「と」はYから返って接続詞せつぞくし「与」そのものの読みとする。
 〔復文〕
  ⅰ 他の接続詞せつぞくしと同じく、二つの並列要素X・Yのあいだに「与」を記す。
  ⅱ その「与」は、二つめの「と」つまり「Yと」の「と」を漢字に改めたものであり、一つめの「と」つまり「Xと」の「と」ではない。

右の「与」に関する注意ちゅうい点さえ心得ておけば、間接並列かんせつへいれつ構造こうぞう復文ふくぶんにも難点は存在しません。「与」をも含めて、二つの並列要素のあいだに接続詞せつぞくしを置くのが原則げんそくです。30のみ接続詞せつぞくし「或」が二つ繰り返されてはいるものの、やはり書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんのままに漢字を並べるだけで、語順ごじゅんを変換する必要ひつようはありません。

「与」については、もう一つ補足すべきことがありますが、それは後述することにしましょう。

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用接続詞(与・而・且・及・或・若等)連接多個詞句。「与・而・且・及」相當於英語 (both)…and…;「或・若」相當於 (either)…or…。

26陰と陽と → 陰与陽(陰與陽)  ※「与」有返り點
27柔にして弱なり → 柔而弱(柔弱)  ※「而」為置字
28貧しく且つ賤し → 貧且賤(貧賤)
29賓客及び子弟 → 賓客及子弟(賓客及子弟)
30或いは遅く或いは疾し → 或遅或疾(或慢或快)
31木若しくは泥 → 木若泥(木或泥)

最需注意的是26「与」的並列構造:訓讀用兩個「と」,但接続詞「与」只有一個。復文要領:兩並列要素X・Y之間置「与」即可;「与」對應的是第二個「と」(即「Yと」的「と」),非第一個。掌握此要點,間接並列構造的復文無難處——其他接続詞均無需轉換語序,直接按書き下し文順序排列即可。

2 修飾構造pp. 50–51

修飾構造しゅうしょくこうぞうは〈修飾語しゅうしょくご被修飾語ひしゅうしょくご〉、すなわち修飾語しゅうしょくごが上から下へと被修飾語ひしゅうしょくごに掛かるのが原則げんそくです。これは漢文かんぶんの著しい特徴たる《修飾原則しゅうしょくげんそく》ですので、しっかり肝に銘じてください。

そして、被修飾語ひしゅうしょくごが、名詞めいしなのか、それ以外の要素なのかによって、修飾構造しゅうしょくこうぞうは二種に分かれることができます。前者ぜんしゃを「形容詞的修飾構造けいようしてきしゅうしょくこうぞう」、後者こうしゃを「副詞的修飾構造ふくしてきしゅうしょくこうぞう」と名づけておきましょう。

大ざっぱには、日本語にほんご修飾構造しゅうしょくこうぞうを援用して、形容詞的修飾構造けいようしてきしゅうしょくこうぞうを「連体修飾れんたいしゅうしょく」、副詞的修飾構造ふくしてきしゅうしょくこうぞうを「連用修飾れんようしゅうしょく」と考えてもよいのですが、漢文かんぶん語句ごくは一切の語形変化ごけいへんかを起こさない、つまり活用を持たないので、用言ようげんすなわち活用する自立語じりつごという概念がいねんを持ち出して「連用修飾れんようしゅうしょく」と呼ぶと、誤解を招くおそれがあります。簡明で馴染み深い「連体修飾れんたいしゅうしょく」「連用修飾れんようしゅうしょく」という分類を捨てるのは惜しい気もするのですが、ここでは慎重を期しておきましょう。

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修飾構造的原則是〈修飾語+被修飾語〉,修飾語從上方(前方)修飾被修飾語。這是漢文的顯著特徵,稱為《修飾原則》。

按被修飾語的詞性分為兩類:被修飾語為名詞者稱「形容詞的修飾構造」,被修飾語為名詞以外要素者稱「副詞的修飾構造」。大致可借用日語的「連體修飾」・「連用修飾」概念,但因漢文語句無活用變化,故此處慎用這組術語。

 ア 形容詞的修飾構造pp. 51–54

修飾語しゅうしょくご形容詞けいようし名詞めいし動詞どうし被修飾語ひしゅうしょくご名詞めいしとなる修飾構造しゅうしょくこうぞうです。

a 形容詞けいようし名詞めいし

32 善人 (善キ人) =善き人

33 白馬 (白キ馬) =白き馬

b 名詞めいし名詞めいし

34 山頂 (山ノ頂) =山の頂

c 動詞どうし名詞めいし

35 獣心 (獣ノゴトキ心) =獣のごとき心

36 流水 (流ルル水) =流るる水

37 往時 (往キシ時) =往きし時

復文ふくぶんは、容易そのもの。語順ごじゅんの変換は必要ひつようありません。

左のように、形容詞句けいようしくも、形容詞けいようしと同じく名詞めいしを修飾する機能きのうを持ちます。ただし、形容詞句けいようしくの復元は最も難しい復文ふくぶん作業さぎょうに属しますので、詳しい説明は「Ⅳ 発展篇」に譲ります。

d 形容詞句けいようしく名詞めいし

┌──┐
AJG N

38 苗而不秀者 (苗ニシテ而不ル秀デ者)

=苗にして秀でざる者

39 好徳如好色者 (好ムコト徳ヲ如クスル好ムガ色ヲ者)

=徳を好むこと色を好むが如くする者

ここで一つ付け加えておきたいのは、主として右のb〈名詞めいし名詞めいし〉・d〈形容詞句けいようしく名詞めいし〉において、修飾語しゅうしょくご名詞めいし形容詞句けいようしく)と被修飾語ひしゅうしょくご名詞めいし)とのあいだに「之」が割り込む場合があるということです。

《「之」介入現象かいにゅうげんしょう

名詞めいし+「之」+名詞めいし

40 当世之民 (当世之ノ民) =当世の民

形容詞句けいようしく+「之」+名詞めいし

41 忍人之心 (不ル忍ビ人ニ之ノ心) =人に忍びざるの心

40「当世之民」は、すんなり耳に入ってくるでしょう。それに対して、41「不忍人之心」は、日本語にほんご語感ごかん抵抗ていこうをもたらす響きです。この「不ル」(ざる)は連体形れんたいけいであり、そもそも連体形れんたいけいは「体言たいげん(=名詞めいし)に連なる形」なのですから、直接に名詞めいし「心」と結びついて「人に忍びざる心」となるはず。不要な「の」の割り込みは、いかにも耳障りみみざわりでしょう。日本語にほんごならば、誰もが「人を愛する心」と言い、「人を愛するの心」とは言わないので。けれども、漢文かんぶんでは、現に「之」字が存在そんざいする以上、置き字おきじ扱いすることなく、機械的に「之」と訓読くんどくするのが通例つうれいのため、勢い「人に忍びざるの心」と読まざるを得ません。日本語にほんごとしては不自然でも、訓読くんどくとしては常用じょうようされる言い回しなのです。

ともあれ、今は、右のように「之」が修飾語しゅうしょくご被修飾語ひしゅうしょくごのあいだに介入かいにゅうする場合があるという事実を認識にんしきしておいてください。これを《「之」介入現象かいにゅうげんしょう》と名づけておきましょう。復文ふくぶんでは、たとえば書き下し文かきくだしぶん「人の心」に見える助詞じょし「の」が、送り仮名おくりがなの「の」として「人ノ心」になるのか、それとも漢字「之」の読みとして「人之心」になるのか、自ら判断はんだんせねばならぬ場面に見舞われることになります。

ただし、右を逆に言えば、形容詞的修飾構造けいようしてきしゅうしょくこうぞうにおいては、「之」が介入かいにゅうする場合を除き、修飾語しゅうしょくご形容詞けいようしなど)と被修飾語ひしゅうしょくご名詞めいし)は直接に結びつくということにほかなりません。修飾語しゅうしょくご被修飾語ひしゅうしょくごの距離をmと置けば、あくまでm=0が原則げんそく。例外的にm≠0ならば、必ずm=1すなわち「之」となるわけです。

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修飾語為形容詞・名詞・動詞,被修飾語為名詞的修飾構造:

a 形容詞+名詞32 善人(善き人) 33 白馬(白き馬)
b 名詞+名詞34 山頂(山の頂)
c 動詞+名詞35 獣心(獸之心) 36 流水(流動之水) 37 往時(往昔之時)
d 形容詞句+名詞38 苗而不秀者(苗而未秀之物) 39 好徳如好色者(好德如好色之人)

a〜c復文時語序無需轉換;d(形容詞句)最難,詳見「Ⅳ発展篇」。

《「之」介入現象》:在b・d結構中,修飾語與被修飾語之間有時插入「之」:

40当世之民 ── 自然,「の」為送り仮名
41不忍人之心 ── 「之」不作置字,訓讀為「の」,日語感覺別扭但訓讀常用

原則:m=0(修飾語與被修飾語直接結合);唯一例外:m=1(插入「之」)。

 イ 副詞的修飾構造pp. 54–58

修飾語しゅうしょくご副詞ふくし被修飾語ひしゅうしょくご名詞めいし以外の要素、すなわち動詞どうし形容詞けいようし副詞ふくし・文となる修飾構造しゅうしょくこうぞうです。

a 副詞ふくし動詞どうし

42 大喜 (大イニ喜ブ) =大いに喜ぶ。

43 悠然去 (悠然トシテ去ル) =悠然として去る。

b 副詞ふくし形容詞けいようし

44 甚衆 (甚ダ衆シ) =甚だ衆し。

45 極狭 (極メテ狭シ) =極めて狭し。

c 副詞ふくし副詞ふくし

46 不必有徳 (不ズ必ズシモ有ラ徳) =必ずしも徳有らず。

*否定の副詞ふくし「不」が副詞ふくし「必」を修飾しています。

d 副詞ふくし+文

47 不幸、短命死矣 (不幸、短命ニシテ死セリ矣)

=不幸、短命にして死せり。

副詞ふくし「不幸」が下文「短命死矣」全体を修飾しています。英語えいごの文修飾副詞ふくし〈regrettably, unfortunately, unhappily〉などに相当すると考えてください。置き字「矣」は、完了を表します。

次のように、前位副詞句ぜんいふくしく(後述)も、副詞ふくしと同じく動詞どうしなどを修飾する機能きのうを持ちます。前に言及した形容詞句けいようしくほど複雑ではありませんが、〈前置詞ぜんちし名詞めいし〉という構造こうぞうになります。

┌──┐
M  V

48 朋自遠方来 (朋自リ遠方来タル) =朋 遠方より来たる。

*「自」は、英語えいごの〈from〉に相当する前置詞ぜんちしで、「自リ」と読みます。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、前位副詞句ぜんいふくしくの内部の前置詞ぜんちし名詞めいし、すなわち「遠方より」→「自遠方」の部分です。

M      V

49 女為悦己者容 (女ハ為ニ悦ブ己ヲ者ノ容ヅクル)

=女は己を悦ぶ者の為に容づくる。

*「為」は、英語えいごの〈for, for the sake of〉に相当する前置詞ぜんちしです。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうし目的語もくてきご、すなわち「己を悦ぶ」→「悦己」の部分です。前位副詞句ぜんいふくしくの内部でも、前置詞ぜんちし名詞めいし、すなわち「己を悦ぶ者の為に」→「為悦己者」の語順ごじゅん変換が必要ひつようとなります。

名詞めいしがそのまま副詞ふくし転用てんようされて動詞どうしを修飾する場合もありますので、ちょっと注意ちゅういしておきましょう。名詞めいしに付いている特徴的な送り仮名から、名詞めいし副詞ふくし転用てんようされた表現ひょうげんだとわかります。一瞥いちべつしてわかるように、50「目礼す」・52「師事す」・53「客死す」・54「蛇行す」・55「雲散霧消す」のごとく、ほとんどが音読みサ変動詞どうしとして訓読することの多い語句ごくですので、過度に懸念するには及びません。

p 名詞めいし副詞ふくし手段しゅだん・素材〕 *名詞めいしに送り仮名「もて」が付く。

50 目礼 (目モテ礼ス) =目もて礼す。

51 土造 (土モテ造ル) =土もて造る。

q 名詞めいし副詞ふくし身分みぶん・資格〕 *名詞めいしに送り仮名「として」が付く。

52 師事 (師トシテ事フ) =師として事ふ。

53 客死 (客トシテ死ス) =客として死す。

r 名詞めいし副詞ふくし比喩ひゆ・類似〕 *名詞めいしに送り仮名「のごとく」が付く。

54 蛇行 (蛇ノゴトク行ク) =蛇のごとく行く。

55 雲散霧消 (雲ノゴトク散リ霧ノゴトク消ユ) =雲のごとく散り霧のごとく消ゆ。

ただし、時間じかんを表す名詞めいし場所ばしょを表す名詞句めいしくがそのまま副詞ふくし副詞句ふくしく転用てんようされると、特徴的な送り仮名は付きません。時間じかん副詞ふくしは、訓読すれば日本語にほんごと同じ語感ごかんで容易に把握はあくできます。場所ばしょの副詞句は、本来は冠せられるべき前置詞ぜんちし「於」が省かれたものと考えればわかりやすいでしょう。

s 名詞めいし副詞ふくし時間じかん

56 吾日三省吾身 (吾日ニ三タビ省ミル吾ガ身ヲ)

=吾 日に三たび吾が身を省みる。

名詞めいし「日」が副詞ふくし(「日ごと」の意)に転用てんようされた例です。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうし目的語もくてきご、すなわち「吾が身を省みる」→「省吾身」の部分です。

t 名詞めいし副詞句ふくしく場所ばしょ

57 和氏得玉璞楚山中 (和氏得タリ玉璞ヲ楚ノ山中ニ)

和氏かし 玉璞ぎょくはくの山中に得たり。 和氏かし=人名。 〇=国名。

名詞めいし「楚山中」が副詞句(「楚の山中で」の意)に転用てんようされた例です。後位副詞句こういふくしく「於楚山中」の前置詞ぜんちし「於」が省略されたものと見なせば、容易に理解できます。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうしと〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉、すなわち「玉璞を楚の山中に得たり」→「得玉璞楚山中」の部分です。〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉について、語順ごじゅんを変換する必要ひつようはありません。

右のp~sに関し、復文ふくぶんのさいに別して注意ちゅういすべき点はありません。書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんどおりに記すだけです。tに見える後位副詞句こういふくしくについては、次節で詳しく説明します。

確認かくにんしておくべきは、ここまで挙げた例文れいぶんからわかるように、形容詞的修飾構造けいようしてきしゅうしょくこうぞうと同じく、副詞的修飾構造ふくしてきしゅうしょくこうぞうにおいても、修飾語しゅうしょくご副詞ふくし前位副詞句ぜんいふくしく)と被修飾語ひしゅうしょくご動詞どうしなど)は直接に結びつき、修飾語しゅうしょくご被修飾語ひしゅうしょくごの距離をmと置けばm=0が原則げんそくだということです。この形容詞的修飾構造けいようしてきしゅうしょくこうぞう副詞的修飾構造ふくしてきしゅうしょくこうぞうに共通する原則げんそくを《修被直結原則しゅうひちょっけつげんそく》と呼んでおきましょう。例外は、既述のごとく、形容詞的修飾構造けいようしてきしゅうしょくこうぞうにおける《「之」介入現象かいにゅうげんしょう》のみと考えて差し支えありません。

中文翻譯

修飾語為副詞,被修飾語為名詞以外要素(動詞・形容詞・副詞・文)的修飾構造:

a 副詞+動詞42 大喜(大為高興) 43 悠然去(悠然而去)
b 副詞+形容詞44 甚衆(甚多) 45 極狭(極為狹窄)
c 副詞+副詞46 不必有徳(不一定有德) ※「不」修飾「必」
d 副詞+文47 不幸、短命にして死せり(不幸短命而死) ※「矣」=完了置字

前位副詞句(M)也具有修飾動詞的功能,一般形為〈前置詞+名詞〉:

48朋 遠方より来たる → 朋自遠方来
「自」= from;復文需轉換:「遠方より」→「自遠方」
49女は己を悦ぶ者の為に容づくる → 女為悦己者容
「為」= for;需轉換:「己を悦ぶ」→「悦己」・「己を悦ぶ者の為に」→「為悦己者」

名詞轉用為副詞(識別方式:特殊送り仮名):

p〔手段:もて〕50 目もて礼す 51 土もて造る
q〔身分:として〕52 師として事ふ 53 客として死す
r〔比喩:のごとく〕54 蛇のごとく行く 55 雲のごとく散り霧のごとく消ゆ
s〔時間:無特殊送仮名〕56 吾日三省吾身 → 需轉換「吾が身を省みる」→「省吾身」
t〔場所:「於」省略〕57 和氏得玉璞楚山中 → 需轉換「玉璞を楚の山中に得たり」→「得玉璞楚山中」

《修被直結原則》:形容詞的・副詞的修飾構造共通──修飾語與被修飾語的距離m=0為原則。唯一例外:《「之」介入現象》(m=1)。

 ウ 前位副詞句と後位副詞句pp. 59–68

今までの例文れいぶんに関する説明のなかで、時として前位副詞句ぜんいふくしく(48・49)および後位副詞句こういふくしく(14~16の文型ぶんけい変化・57)という呼称こしょうを使ってきましたが、ここで改めて二種の副詞句ふくしくについて説明しましょう。この両者の捌き方さばきかたさえ心得ておけば、復文ふくぶん作業さぎょうの負担がはるかに軽くなるに違いありません。逆に言えば、前位副詞句ぜんいふくしく後位副詞句こういふくしくの扱い方があやふやなまま打ち過ごしていると、いつまで経っても原文げんぶん語順ごじゅんを取り違え、復文ふくぶんのたびに苦しむことになってしまうのです。

名称めいしょうから見て、両者がそれぞれ文中で占める位置いちはわかりやすいでしょう。述部じゅつぶの中核語(多くは動詞どうし、時に形容詞けいようし)の前方に位置するのが前位副詞句ぜんいふくしくM、後方に位置するのが後位副詞句こういふくしくQです。いずれも一般形は〈前置詞ぜんちし名詞めいし〉。前掲の例文れいぶんで確認しておけば、略号Mで示したごとく、48の〈前置詞ぜんちし「自」+名詞めいし「遠方」〉=「自遠方」が中核動詞どうし「来」の上方に位置する前位副詞句ぜんいふくしく、49の〈前置詞ぜんちし「為」+名詞めいし「悦己者」〉=「為悦己者」も中核動詞どうし「容」の上方に位置する前位副詞句ぜんいふくしくです。また、14~16の文型ぶんけい変化に見える〈前置詞ぜんちし「於」+名詞めいし単于ぜんう/秦/汝」〉=「於単于ぜんう/於秦/於汝」は、それぞれ中核動詞どうし「遺/予/賜」の下方に位置する後位副詞句こういふくしく、57の〈前置詞ぜんちし(〔於〕省略)+名詞めいし山中」〉=「〔於〕山中」も中核動詞どうし「得」の下方に位置する後位副詞句こういふくしくとなります。なお、後位副詞句こういふくしくという言葉こそ使いませんでしたが、19に見えた「於水上」も、略号Qが示すように、動詞どうし「浮」の後位副詞句こういふくしくです。一文全体の中核となる動詞どうしは「見」ですが。

副詞句ふくしくである以上、前位副詞句ぜんいふくしく後位副詞句こういふくしく文型ぶんけい構成こうせいする要素にはなりません。しかし、場合によっては、前位副詞句ぜんいふくしくなのか後位副詞句こういふくしくなのかによって訓読くんどく語順ごじゅん・形式が異なり、結果として、いざ復文ふくぶんに臨んだとき、語順ごじゅんの組み立て方に大きな相違そういをもたらしますので、ぜひ両者の区別を明確に意識しておいてください。

以下、二つの視点してんから二種の副詞句ふくしくについて詳述しましょう。一つめは文型ぶんけいを用いた解説、二つめは五つの代表的な前置詞ぜんちしごとの説明です。

① 文型ぶんけい副詞句ふくしく

副詞句ふくしくが活躍するのは、五文型ぶんけいのうち、第一文型ぶんけい・第二文型ぶんけい〔変形〕・第三文型ぶんけいです。第二文型ぶんけい・第四文型ぶんけい・第五文型ぶんけい副詞句ふくしくを伴うこともありますが、どちらかと言えば例外に属し、もし副詞句ふくしくが現れたとしても、第三文型ぶんけいその他から容易に理解できますので、心配は無用です。

1 第一文型ぶんけい=(S)V と後位副詞句こういふくしく

S V  Q

58 王立於沼上 (王立ツ於沼上ニ)

=王 沼上しょうじょうに立つ。

置き字おきじ「於」は、英語えいご〈on〉に相当する前置詞ぜんちしです。「於」は、ほとんど万能前置詞ぜんちしとも呼べる語で、以下、種々しゅじゅの意味の後位副詞句こういふくしくを形成します。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうし後位副詞句こういふくしく、すなわち「沼上に立つ」→「立於沼上」の部分です。

V  Q  V  Q  V  Q

59 興於詩、立於礼、成於楽 (興リ於詩ニ、立チ於礼ニ、成ル於楽ニ)

=詩に興り、礼に立ち、楽に成る。

*三つの置き字おきじ「於」は、いずれも英語えいご〈at, in〉などに相当する前置詞ぜんちしです。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、それぞれの動詞どうし後位副詞句こういふくしく、すなわち「詩に興り」→「興於詩」、「礼に立ち」→「立於礼」、「楽に成る」→「成於楽」の部分です。

右から明らかなように、復文ふくぶんにさいして、動詞どうし後位副詞句こういふくしく語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあります。これを〔V/Q〕変換と名づけておきましょう。

2′ 第二文型ぶんけい〔変形〕=(S)C と後位副詞句こういふくしく

S  C  Q

60 季氏富於周公 (季氏富メ於周公ヨリモ) 季氏きし周公しゅうこう=人名。

季氏きし 周公しゅうこうよりも富む。

置き字おきじ「於」は、英語えいご〈than〉に相当する前置詞ぜんちしです。比較ひかくを表すとき、英語えいご形容詞けいようしでは原形〈rich〉が比較級ひかくきゅう〈richer〉に変化しますが、漢文かんぶん語形変化ごけいへんかを起こさないので、「富」には何も変化が生じません。なお、形容詞けいようし「富」を動詞どうし「富む」として訓ずるのは、日本語にほんごに「富」を形容詞けいようしとして訓読くんどくみする習慣しゅうかんがないためで、あくまで訓読くんどく便宜べんぎによって生じた品詞転換ひんしてんかんです。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、形容詞けいようし後位副詞句こういふくしく、すなわち「周公しゅうこうよりも富む」→「富於周公しゅうこう」の部分です。

S adv C  Q

61 吾一日長乎爾 (吾一日長ジ乎爾ヨリモ)

=吾 一日爾よりも長ぜり。

置き字おきじ「乎」は、60に見える「於」と同じく、英語えいご〈than〉に相当する前置詞ぜんちしです。「長」は英語えいご比較級ひかくきゅう〈older, senior〉などに相当しますが、やはり語形変化ごけいへんかを起こしません。「一日」は、名詞めいしがそのまま転用てんようされた時間じかん副詞ふくしで、ここでは形容詞けいようし「長」の程度(「ほんの少しだけ」の意)を表しています。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、形容詞けいようし後位副詞句こういふくしく、すなわち「爾よりも長ぜり」→「長乎爾」の部分です。

右でわかるとおり、復文ふくぶんでは形容詞けいようし後位副詞句こういふくしく語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあります。これを〔A/Q〕変換と呼んでおきましょう。

3 第三文型ぶんけい=(S)V O と前位副詞句ぜんいふくしく後位副詞句こういふくしく

M    V O

62 以五十歩笑百歩 (以テ五十歩ヲ笑フ百歩ヲ)

=五十歩を以て百歩を笑ふ。

*「以」は、英語えいご〈by, by means of〉〈because of〉などに相当する前置詞ぜんちしです。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうし目的語もくてきご、すなわち「百歩を笑ふ」→「笑百歩」の部分です。前位副詞句ぜんいふくしくの内部でも、前置詞ぜんちし名詞めいし、すなわち「五十歩を以て」→「以五十歩」の語順ごじゅん変換が必要ひつようとなります。前位副詞句ぜんいふくしく「以五十歩」と動詞どうし「笑」は書き下し文かきくだしぶんの順序どおりに並べるだけで、語順ごじゅんを変換する必要ひつようはありません。

M  V O

63 与俗同好悪 (与ニ俗同ジウス好悪ヲ)

=俗と好悪を同じうす。

*「与」は、英語えいご〈with〉に相当する前置詞ぜんちしで、「与に」と読みます。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうし目的語もくてきご、すなわち「好悪を同じうす」→「同好悪」の部分です。前位副詞句ぜんいふくしくの内部でも、前置詞ぜんちし名詞めいし、すなわち「俗と」→「与俗」の語順ごじゅん変換が必要ひつようとなります。前位副詞句ぜんいふくしく「与俗」と動詞どうし「同」は、書き下し文かきくだしぶんの順序どおり記せば宜しく、語順ごじゅんを入れ換える必要ひつようはありません。

S  V O  Q

64 斉景公問政於孔子 (斉ノ景公問フ政ヲ於孔子ニ) せい=国名。 〇景公けいこう孔子こうし=人名。

せい景公けいこう 政を孔子こうしに問ふ。

置き字おきじ「於」は、動作どうさ間接かんせつ的な対象を表す前置詞ぜんちしで、英語えいご〈ask…of…〉の〈of〉に相当します。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうしと〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉、すなわち「政を孔子こうしに問ふ」→「問政於孔子こうし」の部分です。〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉の順序は入れ換える必要ひつようがありません。

S V O Q

65 子路逢虎於水 (子路逢フ虎ニ於水ニ) 子路しろ=人名。

子路しろ 虎に水に逢ふ。

置き字おきじ「於」は、英語えいご〈in〉に相当する前置詞ぜんちしです。「虎に水に」がぎこちなく聞こえるかもしれませんが、訓読くんどくにしばしば現れる助詞じょし「に」の連用で、訓読くんどくとしては不自然な響きではありません。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうしと〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉、すなわち「虎に水に逢ふ」→「逢虎於水」の部分です。やはり〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉の順序は入れ換える必要ひつようがありません。

V O  Q

66 救民於水火之中 (救フ民ヲ於水火之中ヨリ)

=民を水火すいかの中より救ふ。

置き字おきじ「於」は、英語えいご〈from〉に相当する前置詞ぜんちしです。

書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんを変換する必要ひつようがあるのは、動詞どうしと〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉、すなわち「民を水火すいかの中より救ふ」→「救民於水火すいか之中」の全体です。〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉の順序は入れ換える必要ひつようがありません。

右の五例で理解できるように、復文ふくぶんにおいては、すでに述べた〔V/O〕変換に加え、前位副詞句ぜんいふくしくの内部で前置詞ぜんちし名詞めいしを入れ換える〔prep/N〕変換、および動詞どうしと〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく〉の語順ごじゅんを変換する〔V/(OQ)〕変換が必要ひつようとなります。「(OQ)」の部分、つまり目的語もくてきご後位副詞句こういふくしくの順序は変換する必要ひつようがありません。

最後さいごに、後位副詞句こういふくしくが二つ並ぶめずらしい例を掲げておきましょう。67は第一文型ぶんけい、68は第三文型ぶんけいで、どちらも主語しゅご省略しょうりゃくされています。

V  Q   Q

67 号泣于旻天于父母 (号泣ス于旻天ニ于父母ニ)

旻天びんてん父母ふぼ号泣ごうきゅうす。

*二つの後位副詞句こういふくしくに見える置き字おきじ「于」は、「於」と同義どうぎ前置詞ぜんちしで、ここでは動詞どうし号泣ごうきゅう」の方向・対象を表し、英語えいご〈toward〉〈for〉に相当します。

◎58・59で用いた〔V/Q〕変換のQが一つ増えただけですから、復文ふくぶん作業さぎょうは、動詞どうしと二つの後位副詞句こういふくしく、すなわち「号泣ごうきゅう」と「于旻天びんてん父母ふぼ」とを入れ換えて完了です。二つの後位副詞句こういふくしく書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんどおりに並べるのみ。

V O Q  Q

68 用牲于社于門 (用ヰル牲ヲ于社ニ于門ニ)

いけにえやしろもんに用ゐる。

*二つの後位副詞句こういふくしくに見える置き字おきじ「于」は、やはり「於」と同義どうぎ前置詞ぜんちしで、場所ばしょを表し、英語えいご〈on, at〉に相当します。

◎64~66で用いた〔V/(OQ)〕変換にQが一つ加わっただけですから、復文ふくぶんにおいては、動詞どうしと〈目的語もくてきご後位副詞句こういふくしく×2〉、すなわち「用」と「牲于やしろもん」の順序をそのまま入れ換えることになります。目的語もくてきご「牲」と二つの後位副詞句こういふくしく「于やしろもん」は書き下し文かきくだしぶん語順ごじゅんそのままに並べておけば宜しい。

敢えて言えば、67には〔V/(QQ)〕変換が、68には〔V/(OQQ)〕変換が必要ひつようとなりますが、いずれもまれな例ですので、それぞれ前掲の〔V/Q〕変換・〔V/(OQ)〕変換の応用おうよう範囲に含めて扱うこととし、個別こべつの変換規則きそくは立てません。

中文翻譯

前位副詞句M:位於述部中核語(動詞・形容詞)的前方(上方)。
後位副詞句Q:位於述部中核語的後方(下方)。
兩者一般形均為〈前置詞+名詞〉。兩者的區別決定訓讀語序與復文組建方式的重大差異。

前位M(例)48「自遠方」(在「来」之前) 49「為悦己者」(在「容」之前)
後位Q(例)14–16「於単于」等 57「〔於〕楚山中」 19「於水上」

副詞句主要用於第一文型・第二文型〔変形〕・第三文型。各文型的變換規則:

〔V/Q〕変換第一文型+後位Q:動詞與後位副詞句需互換語序
58 立→沼上(王立於沼上) 59 興→詩、立→礼、成→楽
〔A/Q〕変換第二文型〔変形〕+後位Q:形容詞與後位副詞句需互換
60 富→周公(季氏富於周公) 61 長→爾(吾一日長乎爾)
〔prep/N〕変換
〔V/(OQ)〕変換
第三文型+前位M・後位Q:
62 以五十歩笑百歩 63 与俗同好悪
64 斉景公問政於孔子 65 子路逢虎於水 66 救民於水火之中
※〈目的語+後位副詞句〉的相對語序不變
後位Q×267 号泣于旻天于父母(〔V/QQ〕) 68 用牲于社于門(〔V/OQQ〕)
※均視為〔V/Q〕・〔V/OQ〕之應用,不另立規則

  ② 代表的な前置詞ぜんちしpp. 68–80

前位副詞句ぜんいふくしく後位副詞句こういふくしくに用いられる代表的な前置詞ぜんちしは、次の五つです。61に現れた「乎」や67・68で見た「于」は、ともに「於」と同義どうぎ前置詞ぜんちしですから、「於」に含めて考えることにしましょう。

前位副詞句ぜんいふくしく〕以・為・自・与
後位副詞句こういふくしく〕於(乎・于)

現行げんこう書き下し文かきくだしぶん体裁たいさいでは、一般いっぱん表記ひょうきが三種に分かれます。前位副詞句ぜんいふくしくのうち、「以」は「以て」、「為」は「為に」と漢字で記されますが、「自」は「より」、「与」は「と」のごとく仮名書かながききになり、後位副詞句こういふくしくの「於」に至っては、置き字おきじであるがゆえに、かげも形もなくなってしまうのが実際じっさいです。

問題もんだいは、前位副詞句ぜんいふくしく後位副詞句こういふくしく判別はんべつです。もし「以・為・自・与」を用いた後位副詞句こういふくしくや「於」に導かれた前位副詞句ぜんいふくしくが現れたりしたら、どのように前位か後位かを見抜けばよいのでしょうか。

前位副詞句ぜんいふくしく後位副詞句こういふくしくという名称めいしょうは、原文げんぶんまたは訓読くんどく文において、述部じゅつぶの中核語(多くは動詞どうし、時に形容詞けいようし)に対する位置いちが前方か後方かによって付けられたものにすぎず、書き下し文かきくだしぶんにおける位置いちを表すわけではありません。復文ふくぶん結果けっかとして復元ふくげんされた原文げんぶんにおいてはじめて前位副詞句ふくしく後位副詞句こういふくしくかが明瞭めいりょうになるにすぎず、書き下し文かきくだしぶんのなかで二種の副詞句ふくしくをどう判別はんべつするのかがわからなければ、復文ふくぶんのしようがなくなってしまいます。

けれども、じつのところ、右の五つの前置詞ぜんちしが用いられた副詞句ふくしくについて過度かど心配しんぱいする必要ひつようはありません。前位か後位かによって訓読くんどく方法ほうほうが変わる前置詞ぜんちしもありますし、そもそも前位か後位かがほとんど決まっている前置詞ぜんちしもあるからです。以下、それぞれの前置詞ぜんちしについて検討けんとうしてゆきましょう。

ⅰ 「以」

「以」が導く副詞句ふくしくの前位と後位を判別はんべつするのは、きわめて容易です。なぜなら、「以」は、前位副詞句ぜんいふくしくでは「以テNヲVス」(Nを以てVす)と読みますが、後位副詞句こういふくしくでは「Vスルニ以テスNヲ」(VするにNを以てす)とサ変動詞どうし化して訓読くんどくするからです。前位と後位とで訓読くんどくが異なるうえ、書き下し文かきくだしぶんにおいても、前位の場合は動詞どうしの上方に記され、後位の場合は動詞どうしの下方に記される。たやすく見分けがつくことでしょう。

M   V O

69 君以礼使臣 (君以テ礼ヲ使フ臣ヲ)

=君 礼を以て臣を使ふ。 〔前位副詞句ぜんいふくしく

S V O  Q

70 君使臣以礼 (君使フニ臣ヲ以テス礼ヲ)

=君 臣を使ふに礼を以てす。 〔後位副詞句こういふくしく

*後位の訓法くんほう「Vスルニ以テスNヲ」(VするにNを以てす)をきもに銘じてください。

ⅱ 「為」

「為」が形成する副詞句ふくしくも前位と後位とで訓読くんどくが異なります。書き下し文かきくだしぶんにおいても、前位の場合は動詞どうしの上方に、後位の場合は動詞どうしの下方に記されますから、不安を抱く必要ひつようはありません。

adv M   V

71 皆為利来 (皆為ニ利ノ来タル)

=皆 利の為に来たる。 〔前位副詞句ぜんいふくしく

adv V   Q

72 皆来為利 (皆来タルハ為ナリ利ノ)

=皆 来たるは利の為なり。 〔後位副詞句こういふくしく

*一般形:前位=「為ニNノVス」(Nの為にVす)、後位=「Vスルハ為ナリNノ」(VするはNの為なり)。後位はしばしば「Vスルハ為レNノ也」とも書かれます。

ⅲ 「自」

「自」は、なかなか厄介やっかいです。前位副詞句ぜんいふくしく「自NV」(自リNヨリVス)でも後位副詞句こういふくしく「V自N」(Vス自リNヨリ)でも、訓読くんどくすれば、結果けっかとして書き下し文かきくだしぶんがまったく同じになってしまうからです。

S  M    V

73 余自揚州還 (余自リ揚州ヨリ還ル) 揚州ようしゅう=地名。

=余 揚州ようしゅうより還る。 〔前位副詞句ぜんいふくしく

S V  Q

74 余還自揚州 (余還ル自リ揚州ヨリ)

=余 揚州ようしゅうより還る。 〔後位副詞句こういふくしく

S V  Q

74′ 余還自揚州 (余還ルコト自リ揚州ヨリ)

=余 還ること揚州ようしゅうよりす。 〔後位副詞句こういふくしく

*74′のように後位副詞句ふくしくの「自」を「自リス」(よりす)とサ変動詞どうし化する訓法くんほうもありますが、優勢ゆうせいとは言いがたく、書き下し文かきくだしぶんから前位か後位かを確定するのは一般に不可能です。私見しけんでは、「自」を用いる副詞句ふくしく復文ふくぶんで無条件のまま出題するのは不適切と考えます。もし出題されたならば、前位副詞句ぜんいふくしくとして扱っておくのが穏当おんとうでしょう。

ⅳ 「与」

「与」を冠した副詞句ふくしく後位副詞句こういふくしくとして用いられることはほとんどないでしょう。たとえまれに現れたとしても、「以」と同じく、異なる訓法くんほうを採らざるを得ず、書き下し文かきくだしぶんにおける位置いちも、前位副詞句ぜんいふくしく動詞どうしの上方に、後位副詞句こういふくしく動詞どうしの下方に記されるはずですから、懸念けねんするには及びません。

M   V

75 与朋友交 (与ニ朋友交ハル)

朋友ほうゆうと交はる。 〔前位副詞句ぜんいふくしく

V  Q

76 交与朋友 (交ハルニ与ニス朋友ト) 〔?〕

=交はるに朋友ほうゆうと与にす。 〔後位副詞句こういふくしく

ただし、接続詞せつぞくし「与」も存在そんざいします。動詞どうしの上方に「X与Y」が現れると、文法ぶんぽう上、次のような二つの可能性かのうせいが生じます。

並列構造へいれつこうぞう〕X与YV(Xト与レYトVス) =XとYとVす *「与」=接続詞せつぞくし〈and〉
  →「XとYの両者がVする」意。 ◇主語しゅご=X+Y
〔SM構造〕X与YV(X与ニYVス) =X YとVす  *「与」=前置詞ぜんちし〈with〉
  →「XがYと一緒にVする」意。 ◇主語しゅご=X

S      V

77 固与奴奔走 (固ト与レ奴ト奔走ス) 〇固=人名。 〇奴=下男。

=固と奴と奔走ほんそうす。 〔並列構造へいれつこうぞう〕 →固と下男の二人は急いで走り去った。 ◇主語しゅご=固+奴

S  M   V

78 固与奴奔走 (固与ニ奴奔走ス)

=固 奴と奔走ほんそうす。 〔SM構造〕 →固は下男と一緒に急いで走り去った。 ◇主語しゅご=固

復文ふくぶんのさい、接続詞せつぞくし「与」と前置詞ぜんちし「与」を判別はんべつするのは容易です。助詞じょし「と」が、連続れんぞくする名詞めいしそれぞれに付いていれば接続詞せつぞくし「与」、単独の名詞めいしに一つだけ添えられていれば前置詞ぜんちし「与」と考えて差し支えないでしょう。

さらに、有名な成語せいご「習ひ性と成る」の復文ふくぶんを例に挙げましょう。正解は〇のみ、他の二つは誤答です。

S  M   V

79 〇習与性成 (習ヒ与ニ性成ル) =習ひ性と成る

S  V  C

  ×習成性 (習ヒ成ルレ性ト) =習ひ性と成る

V  O

  ×成習性 (成ス習性ヲ) =習ひ性と成る

*正解の原文げんぶんだけが四字から成り、他の二つの原文げんぶんは三字から成る——これが要点ようてんです。正解の前位副詞句ぜんいふくしく「与性」に注目ちゅうもくしてください。

ⅴ 「於」

「於」は、「以」や「為」と同じく、前位か後位かによって訓読くんどくの方法が変わります。後位副詞句こういふくしくでは置き字おきじとして読まずにすませますが、前位副詞句ぜんいふくしくに用いられたときは「於て」と訓読くんどくすることになっています。つまり、「於」を読んでいるか否かで、前位か後位かが判別はんべつできる。一般形で示せば、前位副詞句ぜんいふくしくが「於テNニVス」(Nに於てVす)、後位副詞句こういふくしくが「VスNニ」(NにVす)となります。

M    V O

80 於城外飲酒 (於テ城外ニ飲ム酒ヲ)

城外じょうがいに於て酒を飲む。 〔前位副詞句ぜんいふくしく

V O  Q

81 飲酒於城外 (飲ム酒ヲ於城外ニ)

=酒を城外じょうがいに飲む。 〔後位副詞句こういふくしく

書き下し文かきくだしぶんにおける目的語もくてきご「酒を」と副詞句ふくしく城外じょうがいに(於て)」の順序からも、副詞句ふくしく「於城外じょうがい」が前位なのか後位なのかを容易に見分けられます。

この目的語もくてきご副詞句ふくしくとの順序によって副詞句ふくしくが前位か後位かを確定する方法は、意外に広く応用おうようが利きます。「於」がない場合、つまり名詞めいしがそのまま副詞句ふくしく転用てんようされている場合は、書き下し文かきくだしぶんにおける目的語もくてきご副詞句ふくしくの順序こそが前位か後位かを判別はんべつする基準きじゅんになるからです。

S     adv M   V O

82 管寧華歆共園中鋤菜 (管寧華歆共ニ園中ニ鋤ク菜ヲ) 管寧かんねい華歆かきん=人名。

管寧かんねい華歆かきん 共に園中えんちゅうに菜をく。

書き下し文かきくだしぶんが「園中えんちゅうに菜をく」ならば「園中えんちゅう」は前位副詞句ぜんいふくしく(原文:園中えんちゅう鋤菜)。「菜を園中えんちゅうく」ならば後位(原文:鋤菜於園中えんちゅう)。目的語もくてきご副詞句ふくしくの順序が前位・後位の判断基準はんだんきじゅんとなります。

ここで、前置詞ぜんちし「於」がはぶかれた後位副詞句こういふくしくの例を三つ補いましょう。各訓読くんどく文に見える「〔於〕」が前置詞ぜんちし「於」の省略しょうりゃくを表します。

S adv V  Q

83 孔子独立郭東門 (孔子独リ立ツ〔於〕郭ノ東門ニ)

孔子こうし 独りかく東門ひがしもんに立つ。

*第一文型ぶんけいの一文で、場所ばしょを表す名詞めいしかく東門ひがしもん」が後位副詞句こういふくしく転用てんようされています。

復文ふくぶんでは〔V/Q〕変換を適用します。

S V O Q

84 景公問政孔子 (景公問フ政ヲ〔於〕孔子ニ) 景公けいこう=人名。

景公けいこう 政を孔子こうしに問ふ。

*第三文型ぶんけいの一文で、動詞どうし「問」の間接かんせつ対象たいしょうたる「孔子こうし」が後位副詞句こういふくしく転用てんようされています。ほぼ同一の字句から成る64では、「孔子こうし」に前置詞ぜんちし「於」が冠せられています。

復文ふくぶんでは〔V/(OQ)〕変換を適用します。

S   V O  Q

85 孔子学鼓琴師襄子 (孔子学ブ鼓スルヲ琴ヲ〔於〕師襄子ニ) 師襄子しじょうし=人名。楽師がくし襄子じょうし

孔子こうし きんするを師襄子しじょうしに学ぶ。

*第三文型ぶんけいの一文で、動詞どうし「学」の間接かんせつ対象たいしょうたる名詞めいし師襄子しじょうし」が後位副詞句こういふくしく転用てんようされています。目的語もくてきご鼓琴こきん」の内部ないぶは「鼓琴こきん」の構造こうぞう、つまり〈動詞どうし目的語もくてきご〉=目的語もくてきごという文法関係ぶんぽうかんけいになり、英語えいご〈how to play the zither〉に相当そうとうします。

復文ふくぶんでは〔V/(OQ)〕変換を適用てきようします。

14~16の文型ぶんけい変化へんか説明せつめいくわえたとき、「もとIOであった名詞めいしおおくは前置詞ぜんちし「於」が付いて後位副詞句こういふくしくを成す」(→p. 38)としるしましたが、あくまで「おおくは」にすぎません。84でわかるように、前置詞ぜんちし「於」が省略しょうりゃくされて、一見〈SVOO〉としかおもえない文章ぶんしょうあらわれるわけです。

以上が前位副詞句ぜんいふくしく後位副詞句こういふくしくかんする説明せつめいです。あれこれ複雑ふくざつうつったかもしれませんが、少し復文ふくぶんれさえすれば、前位・後位のあつかいは、さほど難度なんどたか作業さぎょうにはなりません。何かまよいがしょうじたときは、右の58~85を見返みかえしてください。

中文翻譯

前位・後位副詞句所用的代表性前置詞共五個:〔前位〕以・為・自・与;〔後位〕於(乎・于同義)。書き下し文中,「以」・「為」用漢字寫出,「自」→「より」・「与」→「と」以假名書寫,「於」因是置字而完全消失。

前置詞前位訓法後位訓法判別方法
以テNヲVス
(Nを以てVす)
Vスルニ以テスNヲ
(VするにNを以てす)
訓法不同+書き下し文位置不同
→容易判別
為ニNノVス
(Nの為にVす)
Vスルハ為ナリNノ
(VするはNの為なり)
訓法不同+書き下し文位置不同
→容易判別
自リNヨリVスVス自リNヨリ(同形)書き下し文無法判別;遇到時建議視為前位
与ニNVス(幾乎不存在)注意與接続詞「与」的區別:連續名詞各附「と」→接続詞;單一名詞附「と」→前置詞
於テNニVス
(Nに於てVす)
讀「於て」
VスNニ
(NにVす)
置字,不讀
讀「於て」→前位;不讀→後位。目的語與副詞句的順序也是判別基準

例文一覧(pp.68–80):

69君以礼使臣(礼を以て臣を使ふ)→ 前位M
70君使臣以礼(臣を使ふに礼を以てす)→ 後位Q
71皆為利来(利の為に来たる)→ 前位M
72皆来為利(来たるは利の為なり)→ 後位Q
73余自揚州還(揚州より還る)→ 前位M
74/74′余還自揚州(揚州より還る)→ 後位Q(書き下し文同形)
75与朋友交(朋友と交はる)→ 前位M
76交与朋友(交はるに朋友と与にす)→ 後位Q〔?〕
77/78固与奴奔走 → 並列構造(二人ともに走る)or SM構造(固が奴と走る)
79習与性成(習ひ性と成る)→ 〇正解;習成性・成習性 → ×誤答
80於城外飲酒(城外に於て酒を飲む)→ 前位M
81飲酒於城外(酒を城外に飲む)→ 後位Q
82管寧華歆共園中鋤菜 → 「園中に菜を鋤く」=前位;「菜を園中に鋤く」=後位
83孔子独立郭東門(郭の東門に立つ)→ 後位Q省略〔V/Q〕変換
84景公問政孔子(政を孔子に問ふ)→ 後位Q省略〔V/(OQ)〕変換
85孔子学鼓琴師襄子(琴を鼓するを師襄子に学ぶ)→ 後位Q省略〔V/(OQ)〕変換;目的語「鼓琴」内部は〈V+O〉=O構造

說明補充:14–16文型變化時提到「原為IO的名詞多半附前置詞『於』而成後位副詞句」(→p.38),但這只是「多くは(大多如此)」的概括。如例84所示,「於」省略後外觀可能類似〈SVOO〉。以上是前位・後位副詞句說明的全部——稍加練習後辨別前位・後位並不困難,有疑問時可回頭查閱例58~85。

語順変換規則pp. 82–83

最後に、本篇にあらわれた復文ふくぶん語順変換規則ごじゅんへんかんきそくをまとめておきましょう。太字ふとじしるしておいた語順変換ごじゅんへんかん規則きそく八種に些少さしょう整理せいりを加えて再掲さいけいすれば、次のとおりです。

・〔V/O〕変換  ・〔V/C〕変換  ・〔V/Q〕変換  ・〔A/Q〕変換
・〔V/(OO)〕変換 ・〔V/(OC)〕変換 ・〔V/(OQ)〕変換 ・〔prep/N〕変換

一瞥いちべつしてわかるように、前七種には共通きょうつうした特徴とくちょうられます。述部じゅつぶ中核語ちゅうかくご(六種は動詞どうしV、一種のみ形容詞けいようしA)と、その下接かせつする要素ようそとを、そっくりそのままえるということです。「そっくりそのまま」と言うのは、たとえ下接かせつする要素ようそ複数個ふくすうこ(OO・OC・OQ)であっても、その内部ないぶでは語順ごじゅん変換へんかんする必要ひつようがなく、書き下し文かきくだしぶんあらわれる順序じゅんじょのまま動詞どうしVとえればよいとの意味いみです。七種では記憶きおく負担ふたんおもすぎるとかんじるきは、一つだけ形容詞けいようしAにかかわる〔A/Q〕変換をえてて、その他を一くくりにして、左のごときおおまかなイメージを脳裡のうりおさめておけばよいでしょう。厳密げんみつには不正確ふせいかくなものの、実際じっさい復文ふくぶん作業さぎょうにはおおいに役立やくだちます。

〔V/(O and/or C and/or Q)〕変換

末尾まつびげた〔prep/N〕変換だけは、前七種と毛色けいろことなり、副詞句ふくしく内部ないぶにおける変換規則へんかんきそくです。もちろん、前置詞ぜんちし日本語にほんご助詞じょしてて訓読くんどくされ、書き下し文かきくだしぶん仮名書かながききされている場合ばあい(前位〔後位〕副詞句ふくしく「自」=より、前位副詞句ふくしく「与」=と)は、それを漢字かんじあらためたうえで名詞めいしかんすることになります。また、後位副詞句こういふくしく前置詞ぜんちし「於(乎・于)」が訓読くんどくされずに置き字おきじとしてあつかわれ、書き下し文かきくだしぶんあらわれない場合ばあいについては、次篇を参照さんしょうしてください。すでにしるしたように、本書にかんするかぎり、置き字おきじとなる前置詞ぜんちしについておもなや事態じたいしょうじません。

長々ながなが説明せつめいつらねてきましたが、これでようやく下準備したじゅんびわりました。
それでは、いよいよ復文ふくぶん作業さぎょう現場げんばあしれることにしましょう。

中文翻譯

最後,彙整本篇出現的語序變換規則。太字所示八種規則稍加整理後重新列出如下:

・〔V/O〕變換 ・〔V/C〕變換 ・〔V/Q〕變換 ・〔A/Q〕變換
・〔V/(OO)〕變換 ・〔V/(OC)〕變換 ・〔V/(OQ)〕變換 ・〔prep/N〕變換

一眼可知,前七種具有共同特徵:將述部核心詞(六種為動詞V,一種為形容詞A)與其下接要素整體對調。「整體對調」的意思是:即使下接要素有複數個(OO・OC・OQ),其內部語序無需變換,直接按書き下し文中出現的順序與動詞V對調即可。若覺得七種太多負擔,可捨棄唯一涉及形容詞A的〔A/Q〕變換,將其餘六種合併為一個大致印象:

〔V/(O and/or C and/or Q)〕變換

最後一種〔prep/N〕變換與前七種性質不同,是副詞句內部的變換規則。前置詞「自」・「与」在書き下し文中以假名書寫(より・と)時,需改回漢字再冠名詞。後位副詞句的前置詞「於(乎・于)」作置き字不讀,故書き下し文中完全消失,詳見下篇(本書範圍內無需為此煩惱)。

至此,準備工作終於大功告成。讓我們正式踏入復文作業的現場吧。

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