日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法
補足 文書の書き止め文言pp. 84–94
文書の末尾には、その文書を発給することを特に強調したり、文書が相手側に到着してからの手続きを指示するような文言が記されることが多い。これらは、文書の様式に応じて、文言がほぼ定まっている。一般的な訓読法からは外れる部分が多いため、以下では文書の様式ごとに書き止め文言の訓読のしかたを掲げておく。なお、⑫以下はあくまで参考であり、用例自体も少ないか、またはあまりにも多様であって法則性に乏しいため、あえて覚える必要のないものである。各文書名とその様式については、緒言(3)A―1(6頁)を参照。
① 詔書(しょうしょ)・勅書(ちょくしょ)
例 主者施行、→ 主どる者、施行え、 = 責任者は執行せよ。
※後世には、「しゅしゃ、しぎょうせよ」と音読みするようになった。
② 綸旨(りんじ)
例1 依 天気、上啓如件、→ 天気に依り、上啓件の如し、
例2 依 御気色、上啓如件、→ 御気色に依り、上啓件の如し、 = 天皇の仰せによって、以上の通りお知らせする。
例3 天気如此、悉之、以状、→ 天気此くの如し、之を悉くせよ、以て状す、
例4 依 御気色、執達如件、→ 御気色に依り、執達件の如し、 = 天皇の仰せにより、以上の通り下達する。
例5 綸言如此、悉之、以状、→ 綸言此くの如し、之を悉くせよ、以て状す、 = 天皇のお言葉は以上の通りである。すべて執行せよ。状を発給する。
※皇后や親王が発給する「令旨」の場合は「依 女院御気色、執達如件」などとなる。
③ 符(ふ)
例 符到奉行、→ 符到らば奉り行なえ(奉行せよ)、 = この符がそちらに届いたら、敬意を払い執行せよ。
④ 牒(ちょう)
例1 今以状牒、牒至准状、故牒、→ 今状を以て牒す、牒至らば状に准ぜよ、故に牒す、 = 今、文書によって通達する。この牒が届いたら、本来の指示書と見なして従え。よって通達する。
例2 右、牒事如件、→ 右、牒する事件の如し、 = 右の通り、通達することは以上の通りである。
⑤ 解(げ)
例1 以状解、→ 状を以て解す、
例2 以解、→ 以て解す、
例3 以上解、→ 以て上解す、 = 文書によって上申する。
例4 右、解事如件、→ 右、解する事件の如し、 = 右の通り、上申することは以上の通りである。
例5 誠惶誠恐、謹言、→ 誠惶誠恐、謹んで言す(もうす)、 = まことに恐れ多く、謹んで申し上げる。
⑥ 移(い)
例1 以状移、→ 状を以て移す、 = 文書によって通達する。
例2 右、移事如件、→ 右、移す事件の如し、 = 右の通り、通達することは以上の通りである。
⑦ 下文(くだしぶみ)
例1 仍下知如件、→ 仍って下知、件の如し、 = よって下達することは、以上の通りである。
例2 所下如件、→ 下す所、件の如し、 = 下達することは、以上の通りである。
例3 故以下、→ 故に以て下す、 = よって、下達する。
⑧ 御教書(みぎょうしょ)
例1 依仰、執達如件、→ 仰せに依り、執達件の如し、
例2 所候也、依仰執達如件、→ 候う所なり、仰せに依り執達件の如し、 = ご主人の仰せにより、以上の通り下達する。
⑨ 院宣(いんぜん)
例1 院宣如此、悉之、以状、→ 院宣此くの如し、之を悉くせよ、以て状す、
例2 院宣如此、可被存知候、悉之、以状、→ 院宣此くの如し、存知せらるべく候、之を悉くせよ、以て状す、 = 上皇の仰せは以上の通りである。すべて執行せよ。状を発給する。
例3 依 院宣、執達如件、→ 院宣に依り、執達件の如し、 = 上皇の仰せにより、以上の通り下達する。
⑩ 奉書(ほうしょ)
例1 依仰令申候、恐々謹言、→ 仰せに依り申しせしめ候、恐々謹言、
例2 所候也、依仰令申候、恐々謹言、→ 候う所なり、仰せに依り申しせしめ候、恐々謹言、
⑫ 券文(けんもん)
例1 以件文契為実耳、→ 件の文契を以て実となすのみ、 = その文契(契約書)を実効あるものと見なす。
例2 券文如件、→ 券文、件の如し、 = 以上の通り、券文を記す。
→ 申し送ること件の如し、以て解す、 = 以上の通り申し送り、上申する。
例3 言上如件、謹解、→ 言上件の如し、謹みて解す、 = 以上の通りの内容で、謹んで解を提出する。
⑬ 勘文(かんもん)
例 仍勘申、→ 仍って勘え(勘じ)申す、 = よってお尋ねに対して考えた結果を上申する。
⑭ 解由状(げゆじょう)
例 仍与解由如件、→ 仍って解由を与うること件の如し、 = よって以上の通り解由を与える。
⑮ 返抄(へんしょう)
例 且検納如件、故返抄、→ 且検納件の如し、故に返抄す、 = およそ以上の通り照合して収納した。特に返抄(領収証)を渡す。
⑯ 記文(きぶん)
例 仍留斯記文、→ 仍って斯の記文を留む、 = よってこの記文を書き留める。
⑰ 定文(さだめぶみ)
例 仍且定之、→ 仍って且之を定む、 = よって、およそこのように定める。
⑱ 施入状(せにゅうじょう)
例1 右、奉入如件、→ 右、奉入すること件の如し、 = 右の通り、寄付し納める。
例2 奉納如件、→ 奉納すること件の如し、 = 以上の通り、奉納する。
中文翻譯
本節整理日本古文書末尾的「書き止め文言」(結語套式)。各種文書類型有固定的結語訓讀方式:①詔書・勅書(「主者施行」)、②綸旨(「依天気、上啓如件」「綸言如此」等,天皇命令)、③符(「符到奉行」)、④牒(衙門間平等通牒)、⑤解(下級向上級申報)、⑥移(同級官衙互通)、⑦下文(上級向下級下達)、⑧御教書(主家代筆下達)、⑨院宣(上皇命令)、⑩奉書(奉主人之命)、⑫券文(契約書)、⑬勘文(學者上申意見)、⑭解由状(交接證明)、⑮返抄(收據)、⑯記文(記錄類)、⑰定文(決議文)、⑱施入状(捐贈文)。⑫以下用例稀少或樣式多元,可作參考。
【演習問題三】 文書の書き止め文言pp. 95–97
◆以下に挙げる変体漢文を訓読しなさい。
① 神護寺灌頂阿闍梨事、可令存知給者、依 天気、上啓如件、
(『鎌遺』二九一三二号、後醍醐天皇綸旨)
② 贈后御八講結願、可参仕給者、依 御気色、上啓如件、
(『鎌遺』一八二四〇号、後深草上皇院宣)
③ 武蔵法花寺当知行地事、被聞食畢、僧衆可存其旨者、天気如此、悉之、以状、
(『南北朝遺文 関東編』八号、後醍醐天皇綸旨)
④ 筥崎宮事、召取摂政家下文、遣之者、依御気色、執達如件、
(『鎌遺』一七号、後白河法皇院宣)
⑤ 専修念仏興行之輩、可停止之由、被宣下五畿七道候畢、且可有御存知候者、綸言如此、悉之、
(『鎌遺』三六三七号、後堀河天皇綸旨)
⑥ 件道清、宜為彼宮検校令執行者、府宣承知、依宣行之、符到奉行、
(『鎌遺』二一〇号、太政官符)
⑦ 今以状牒、牒到准状、故牒、
(『鎌遺』一〇五八八号、大宰府守護所牒)
⑧ 依実勘糺之、今録具状、以牒、
(『平遺』一五八号、筑前国観世音寺牒案)
⑨ 進牒如件、謹牒、
(『鎌遺』二九〇六号、豊後御許山牒)
⑩ 右、件人、宜為大祢宜之職、従社務之状、所仰如件、神官等承知、不可違失、故下、
(『鎌遺』九六一号、兵部省移)
⑪ 今明両年、可閣其節之由、宜仰五畿七道者、諸国承知、依宣行之、
(『南北朝遺文 関東編』六四号、官宣旨案)
⑫ 不得疎略、故告、
(『平遺』二八一号、東大寺告書案)
⑬ 所詮、被停無道之訴訟、任道理、欲蒙御裁断矣、仍勒状、以解、
(『鎌遺』一二〇五号、尼真妙陳状案)
⑭ 右、愁訴之趣、所訴申如件、仍勒状、以解、
(『鎌遺』一二二三三号、橘貞康申状)
⑮ 以此趣、宜被奏達之者、依 御気色、所候也、依仰執達如件、
(『鎌遺』四五九七号、六波羅探題御教書案)
⑯ 可被相計之由、所候也、依仰執達如件、
(『室町幕府引付史料集成』上、引付五、将軍足利義満御教書案)
⑰ 将軍家祈祷事、先可有其沙汰之由、所候也、仍執達如件、
(『鎌遺』四四九八号、関東御教書案)
⑱ 自今年如本、可致其沙汰、仍下知如件、
(『鎌遺』二一五七号、関東下知状案)
⑲ 右、早任理任法、可破却件非分訴訟者、依仰令申候、恐々謹言、
(『建内記』嘉吉元年正月五日条)
⑳ 今以状移、移到准状、故移、
(『平遺』三三〇八号、安楽寺定額僧等移)
※解答は karigome_p09.html を参照。
中文翻譯
演習問題三:對應前節「書き止め文言」,請考生訓讀 20 段史料(含後醍醐天皇綸旨、後深草上皇院宣、後白河法皇院宣、後堀河天皇綸旨、太政官符、大宰府守護所牒、東大寺告書案、室町幕府御教書案等)。解答見 karigome_p09.html。