日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法
Ⅰ 主語・主部章扉
(1) 主 語p. 16
古文・現代文を問わず、主語はすべて体言(名詞・代名詞・活用語の連体形)である。原則として、述語の前に位置する。ただし、一つの文の中でも主語が変わる場合があるため、注意が必要である。訓読する場合、主語のあとに「者」の字が使われない限り、格助詞「が」や係助詞「は」などを補う必要はない。
なお、体言には連体修飾がなされる場合も多いが、それについてはⅡ(2)(44頁)を参照。
例1 大夫判官殿、被着於上臈之座、
→ 大夫判官殿、上臈の座に着せらる、
= 大夫判官殿が、上臈(格上)の座にお着きになった。
例2 予、賞玩之了、
→ 予、之を賞玩し了んぬ、
= 私は、これを賞玩した(鑑賞し、愛でた)。
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無論古文或現代文,主語必為體言(名詞・代名詞・活用語連體形),原則上位於述語之前。一句之中主語可能改變,需留意。訓讀時,除非主語後接「者」字,否則無需補入格助詞「が」或係助詞「は」。連體修飾的主語請參見Ⅱ(2)。
(2) 主 部pp. 17–22
体言の形の文節に接続して、それら全体で主部を形成させる語を挙げる。
①「者」 → 〜は
古文の係助詞「は」に同じ。体言の形の文節に接続し、文の主語・主部を形成する。これ以外に、接続助詞的に用いる場合もある。Ⅳ(2)①(168頁)参照。
例1 不用先例者、不審也、
→ 先例を用いざるは、不審なり、
= 先例を用いないというのは不審である。
例2 先参上者、弥四郎候、
→ 先に(先ず)参上するは、弥四郎に候、
= 先に参上したのは弥四郎である。
例3 此段者、格別之儀候、
→ この段は、格別の儀に候、
= このことは、別な話である。
例4 公方者、不被存儀也、
→ 公方は存ぜられざる儀なり、
= 公方は、ご存じない話である。
②「条」 → 〜のじょう
直前に文節と「之」をともない、文の主部を形成する。「之」があるため、その直前には体言がくる。「〜であること」「〜すること」という意味になる。これ以外に、接続助詞的に用いる場合もある。Ⅳ(2)⑦(174頁)参照。
例1 及異儀之条、甚不当也、
→ 異儀に及ぶの条、甚だ不当なり、
= 約束と違う行為におよぶとは、極めて不当である。
例2 申虚言之条、言語道断之次第候、
→ 虚言を申すの条、言語道断の次第に候、
= 偽りを言うとは、言語道断のことである。
例3 近代、無御下文、令押領之条、言語道断者也、
→ 近代、御下文なく押領せしむるの条、言語道断なるものなり、
= 近年、御下文という証拠の文書もないのに、土地を横領するのは言語道断の行為である。
③「状」 → 〜のじょう
直前に文節と「之」をともない、文の主部を形成する。「之」があるため、その直前には体言がくる。「〜であること」「〜すること」「〜のありさま」という意味になる。これ以外に、目的節を導く場合もある。Ⅲ(1)B⑤(105頁)参照。
例1 被仰出之状、如件、
→ 仰せ出さるるの状、件の如し、
= (上級権力者が)仰せ出されることは、以上の通りである。
例2 悲嘆之状、難尽筆舌候、
→ 悲嘆の状、筆舌に尽くし難く候、
= 悲嘆のありさまは、筆舌に尽くしがたい。
例3 被免除之状、如件、
→ 免除せらるるの状、件の如し、
= 免除することは、以上の通りである。
④「段」 → 〜のだん
直前に文節と「之」をともない、文の主部を形成する。「之」があるため、その直前には体言がくる。「〜のこと」「〜すること」という意味になる。
例1 被定之段、
→ 定めらるるの段、
= 定められたことは、
例2 彼等訴訟之段、
→ 彼等、訴訟の段、
= 彼らが訴訟したことは(彼らの訴訟のことは)、
※同様な意味を示すものとして「篇」という語がある。
例 云主従相論之篇、云遺財進止之段、
→ 主従相論の篇と云い、遺財進止の段と云い、
= 主人と従者が相論することも、遺産を処分することも、
⑤「趣」 → 〜のおもむき
直前に文節と「之」をともない、文の主部を形成する。「之」があるため、その直前には体言がくる。「〜の内容」「〜の事情」という意味になる。
例1 右、訴陳之趣、
→ 右、訴陳の趣、
= 右、訴訟の内容は、
例2 書状之趣、誠以外也、
→ 書状の趣、誠に以ての外なり、
= 書状の内容は、本当にけしからぬものである。
例3 此返事之趣、叶御意之由、有仰、
→ この返事の趣、御意に叶うの由、仰せあり、
= この返事の内容は意に叶っている、との主人の仰せがあった。
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本節列舉接續於體言之後、形成主部的詞語:「者」(同古文係助詞「は」)、「条」「状」「段」「趣」(皆需前接「之」與體言),分別意指「⋯⋯這件事/這樣的內容/這樣的情形」。其中「条」「状」亦可作接續助詞或引導目的節,請參照後文相關章節。「篇」與「段」用法相近,可互換。
(3) 動詞の体言化pp. 22–25
きわめて限定された範囲だが、動詞を体言化し、主語として用いるための特殊な接尾語がある。相当する漢字は存在しないが、動詞の直後に補って、慣用的に「〜らくは」と訓読している。「〜するのは」「〜することは」という意味になる。概して、上級権力者への訴えかけなどに際して用いられる傾向が強い。
もとは、「る」の語尾をもつ活用語の連体形に、古代の形式名詞「あく」が付いて変化したものとされている。「見らく」「告ぐらく」「すらく」「死ぬらく」などの形が知られる。のちには他の動詞の連体形にも付くようになった。
例1 恐地変、
→ 恐るらくは地変、
= 私が恐れるのは、地変である。
例2 若主非賢聖、則恐唯乱起数年之後、
→ もし主、賢聖にあらずば、則ち恐るらくはただ乱、数年の後に起こらん、
= もし国王が賢明・誠実でないとすれば、私が恐れますのは、反乱が数年の後に起こるだろうということです。
例3 望請 天恩、(一字分の空白は闕字という。敬意の表現)
→ 望み請うらくは天恩、
= 私が望みますのは、天皇の恩沢です。
例4 望請 天裁、
→ 望み請うらくは天裁、
= 私が望みますのは、天皇の御裁許です。
例5 請願憐憫、
→ 請い願うらくは憐憫、
= 私が願いますのは、あなたの憐憫です。
例6 乞願、為功徳成就之妙体、留仏法擁護之効験而已、
→ 乞い願うらくは、功徳成就の妙体をなし、仏法擁護の効験を留むるのみ、
= 私が願うのは、功徳が成就し、仏法が公的に保護されることだけです。
※「請い願う」「乞い願う」と同様な読みをする漢語に「庶幾」がある。
例7 庶幾、施玄渙於九域、
→ 庶幾うらくは、玄渙を九域に施し、
= 私が願いますに、国王の徳を全域に施し、
例8 彼男為体、
→ 彼の男の体たらく、
= その男の人相風体というのは、
例9 当国之為体、亡弊難治之間、依造社事、被下免除 宣旨候了、
→ 当国の体たらく、亡弊難治の間、造社の事に依り、免除の宣旨を下され候い了んぬ、
= 当国の状況というのは、人民が疲弊しているので、神社を造営するための租税の徴収は免除するとの宣旨(文書)が下された。
※類似の用法に、「申さく」「云わく」「願わく(は)」などの形があるが、これは動詞の未然形に体言化をうながす接尾語「く」が付いたもの。直後に発言などの引用文を導く。
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變體漢文中存在一種特殊接尾語,可將動詞名詞化作主語使用,但無對應漢字,慣例上於動詞之後補入「〜らくは」訓讀(意「⋯⋯這件事是⋯⋯」)。多用於對上級權力者的請願文。其源於古代形式名詞「あく」附於連體形(如「見らく」「告ぐらく」),後擴展到其他動詞。「請願」「乞願」「庶幾」「為体」等亦讀為「〜らくは/たらく」。類似用法「申さく」「云わく」「願わく」則接於未然形,後接引用文。
【演習問題一】 主語・主部p. 26
◆設問 次に挙げる変体漢文の訓読文を記し、また現代語訳しなさい。
① 可申之条
② 不出頭之条
③ 可令披露之状
④ 不可致乱妨之条
⑤ 無沙汰之段
⑥ 被仰出之趣
⑦ 致沙汰之篇
⑧ 申訴訟之段者
⑨ 此状之趣者
⑩ 可全知行之状
※解答は karigome_p09.html(演習問題《解答》)を参照。
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演習問題一:請寫出下列變體漢文的訓讀文與現代日語譯,共 10 題。解答見 karigome_p09.html。