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A7 Aldridge (2016) / 4 / 4

変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅん派生過程はせいかてい

Edith Aldridge(E. オルドリッジ)

§3.1 二重他動詞文にじゅうたどうしぶん(『日本霊異記にほんりょういき』・『将門記しょうもんき』)pp. 33–35

第2だいにふしべてきたように、『古事記こじき』の二重他動詞文にじゅうたどうしぶんにおいては1つの目的語もくてきごしか動詞どうし後続こうぞくできないが、『日本霊異記にほんりょういき』と『将門記しょうもんき』においては両方りょうほう目的語もくてきご動詞どうし後続こうぞくすることがある。それは、直接目的語ちょくせつもくてきご不定名詞句ふていめいしく場合ばあいであるが、このパターンは(22)の規則きそくによって容易ようい説明せつめいできる。動詞どうし最後さいご位置いちから最初さいしょ位置いち移動いどうさせれば、日本語にほんごの[VP NP ヲ NP ニ V]の語順ごじゅん変体漢文へんたいかんぶんの[VP V NP NP]の語順ごじゅん派生はせいするのである。

(23) a.
[VP V  NP  NP]
栗田卿くりたのきみ 遣 使 八方(『霊異記りょういき』上巻31縁)
栗田くりたの卿、使を 八方に 遣はし、
「栗田卿は使者を八方に派遣し、」
  b.
[VP NP ヲ  NP ニ  V]
(読み下し — 日本語語順)
(24) a.
[VP V NP PP]   [VP V NP PP]
振 兵名 於畿内  施 面目 於京中(『将門記しょうもんき』)
兵の名を 畿内に 振るひ、面目を 京中に 施す。

これに対して、直接目的語ちょくせつもくてきご定名詞句ていめいしく場合ばあいには、動詞どうしは2つの目的語もくてきごの間にあらわれる。

(25) a.
NP  [VP V _ NP]
… 此蟹 免 我。(『霊異記りょういき』中巻12縁)
… この蟹を 我に 免せ といふ。
「この蟹を私に譲れと言う。」
(26) a.
NP        [VP V _ NP]
如天女容好女 賜 我(『霊異記りょういき』中巻13縁)
天女の如き容好き女を 我に 賜へ
(27) a.
NP [VP V __ PP]
つぶさに よし  於京都きょうとに(『将門記しょうもんき』)
つぶさにに そのよしを 京都きょうとく。
  b.
NP ヲ [VP __ NP ニ V]
くだし — 日本語語順にほんごごじゅん

このパターンは表面上ひょうめんじょう、『古事記こじき』における NP-V-NP と同じであり、Miyagawa(2010)の提案ていあんしたがって、話題化わだいかされた目的語もくてきご動詞句どうしくの外に移動いどうしていると仮定かていすれば、以上の動詞どうし位置いち説明せつめいすることができる。つまり、話題化わだいかされた目的語もくてきご動詞句どうしく外に移動いどうし、(22)の語順変換規則が適用てきようされると、動詞どうし動詞句どうしく最初さいしょ位置いちまわされても詞句外部くそとがわにある目的語もくてきご先行せんこうすることはないのである。

文法・表現

定性ていせい(definiteness)による語順の分岐
不定直接目的語(新情報)→ 規則(22)適用 → V NP NP(動詞句内に留まる)。定直接目的語(旧情報・話題化済み)→ 動詞句外に移動 → NP V NP(表面上(21)と同じ構造)。定性の違いが語順を決定する。
〜しか〜できない(限定)
「1つの目的語しか動詞に後続できない」=ただ1つの目的語だけが後続する。「しか」は否定と呼応する副助詞。できない=不可能。

中文翻譯

如第2節所述,《古事記》的二重他動詞句中只有一個目的語能後接動詞;但在《日本靈異記》和《將門記》中,兩個目的語都有後接動詞的情況。這發生在直接目的語為不定名詞短語的情況下,此模式可用規則(22)輕易說明:將動詞從短語最後位置移至最初位置,便將日語的 [VP NP-ヲ NP-ニ V] 語序派生為變體漢文的 [VP V NP NP] 語序(例23、24)。

相對地,當直接目的語為定名詞短語時,動詞出現在兩個目的語之間(例25、26、27)。此模式表面上與《古事記》的 NP-V-NP 相同。按照 Miyagawa(2010) 的提案,若假設話題化的目的語移至動詞短語外,則動詞的位置可以得到說明——即話題化目的語移出動詞短語後,即使規則(22)使動詞回到動詞短語最初的位置,也不會先於短語外部的目的語出現。

§3.2 『将門記しょうもんき』における受動文じゅどうぶんpp. 35–37

さきほどべたように、目的語もくてきご定性ていせいによって『日本霊異記にほんりょういき』と『将門記しょうもんき』における二重他動詞文にじゅうたどうしぶんは2種類しゅるいかれている。ところで、『将門記しょうもんき』における受動文じゅどうぶんにもおなじパターンがある。2.2節でべたように、『古事記こじき』における受動文じゅどうぶん動作主どうさしゅかなら動詞どうし先行せんこうする。

(28)
[s NP [VP NP [VS V ]]]
汝者なんじは われに 見欺みたぶ古事記こじき上巻かみまき大国主神おおくにぬしのかみ
は我にあざむかえつ。
「お前は私に騙された。」

2.2節でべたように、これは(4)によって容易ようい説明せつめいできる。動作主どうさしゅ動詞どうし補部位置ほぶいちめるのではなく動詞句どうしく付加ふかされているため、動詞どうし位置いち交換こうかんしない。

(29) 日本語にほんご変体漢文へんたいかんぶん古事記こじき受動文じゅどうぶん
[VP NP ニ [VP V]] ⇒ [VP NP [VP V]]

不定ふてい動作主どうさしゅ場合ばあいには、動詞どうし後続こうぞくする。不定ふてい動作主どうさしゅ動詞句どうしく内部ないぶ付加ふかされていると仮定かていすれば、(22)の語順変換規則ごじゅんへんかんきそく適用てきようされると、動詞どうし動詞句どうしく最初さいしょ位置いち移動いどうした結果、動作主どうさしゅ先行せんこうすることになる。

(30) a.
[VP 被 V    NP]
将門 被摶 度々之敵
将門は 度々の敵に 挫かれ、
「将門は何度も敵に挫かれ、」
(31) a.
[VP 被 V   NP]
万五千之絹布 被奪 五主之客
万五千の絹布は、五主の客に 奪はれ、
「万五千の絹布は、五人の持ち主に奪われ、」

一方、定名詞句ていめいしく場合ばあいには、動作主どうさしゅ動詞どうし先行せんこうする。ここで、目的語もくてきごと同様に、動作主どうさしゅ定名詞句ていめいしく場合ばあいには、動詞句どうしく外側そとがわ移動いどうしていると仮定かていすれば、(22)の適用てきようによって動作主どうさしゅ動詞どうし相対的位置そうたいてきいち説明せつめいすることができる。

(32) a.
為 NP   ADV [VP 被 V _]
為 夫兵等 悉 被 慮頓
その兵らのために、悉く 慮頓さらるるなり。
「皆それらの兵隊に捕虜にされた。」
(33) a.
為 NP          [VP 被 V _]
息子扶・隆・繁等 為 将門 被 害 之由
息子扶・隆・繁ら 将門のために、害せられし の由
「息子の扶・隆・繁らが将門に殺されたという知らせ」

本節ほんせつにおいて、後世こうせいのテクストにおける語順ごじゅんが『古事記こじき』と多少ことなっているにもかかわらず、『古事記こじき』と類似るいじしている規則きそくによって派生はせいできることを観察かんさつしてきた。

(34) 変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅん派生過程はせいかてい(8世紀せいきのテクスト)
主要部しゅようぶ動詞どうし後置詞こうちし)とその補部ほぶ位置いちえる。
(35) 変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅん派生過程はせいかてい後世こうせいのテクスト)
主要部しゅようぶ動詞どうし後置詞こうちし)とその補部ほぶ位置いちえる。
日本霊異記にほんりょういき将門記しょうもんき(9世紀・10世紀)では動詞どうし動詞句内どうしくないのすべての要素ようそまえに置かれる。

いうまでもないが、後世こうせい変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅんは、前世ぜんせいより中国語ちゅうごくごちかづいているようにえる。

(36) a.
[VP V NP PP]
もと 仏法ぶっぽう 於大廟たいびょうに(『日本霊異記にほんりょういき上巻じょうかん22縁)
仏法ぶっぽうを 大廟たいびょうに もとめ、
  b.
[VP V NP PP]
おく 一車枝いっしゃし 與和公わこうに(『世説新語せせつしんご下卷げかん儉嗇けんしょく
おくる 一個ひとつ車枝しゃしを 和公わこう
くるまにいっぱいんであるえだ和公わこうおくった。」

しかし、このあたらしい傾向けいこう中国語ちゅうごくご真似まねだということはできないであろう。なぜなら、本節ほんせつべてきたように、中国語型ちゅうごくごがたのパターン V-NP-NP のほか中国語ちゅうごくご見出みいださない NP-V-NP というパターンもあり、かつこの2つのパターンのけを決定けっていする語順変換規則ごじゅんへんかんきそくがあるからである。したがって、語順変換規則ごじゅんへんかんきそく変化へんか理由りゆうとしては、日本語にほんごそのものをもっと充実じゅうじつ表記ひょうきするためだといったほうが相応ふさわしいであろう。

文法・表現

「為 NP 被 V」構文
『将門記』に見られる受動構文。「為(ため)+定名詞句(動作主)+被+動詞」の語順。動作主が定名詞句(旧情報)の場合、動詞句外に移動して被V動詞に先行する。不定動作主は動詞句内に留まり「被V NP」の語順。
〜にもかかわらず
逆接の複合助詞。「後世のテクストが古事記と多少異なっているにもかかわらず、類似した規則によって派生できる」=「差異はあるが共通規則が成立する」という論証の締め方。
規則(34) vs (35)の通時的変化
8世紀(古事記)→ 補部位置のNPのみと動詞が交換。9-10世紀(霊異記・将門記)→ 動詞が句内すべての要素の前に出る。後者の方がより中国語(V-head-initial)に近づく。通時的変化の軌跡。

中文翻譯

§3.2一開始,以例(28)「汝者我見欺」(《古事記》上巻・大国主神)確認《古事記》被動句中施事者置於動詞前的模式。這由規則(4)可輕鬆解釋:施事者附加在動詞短語上而非佔據補部位置,故與動詞無需交換位置(規則29)。

《將門記》被動句也呈現與二重他動詞句相同的模式。不定施事者後接動詞(例30、31);定名詞短語施事者先於動詞出現(例32、33)。若假設定名詞施事者如目的語一樣移至動詞短語外,則規則(22)適用後,動詞移至動詞短語最初位置,仍不會先於短語外部的施事者出現。

規則(34)(8世紀文本):主要部(動詞與後置詞)與其補部的位置互換。
規則(35)(後世文本):動詞移至動詞短語內所有要素之前(日本靈異記・將門記・9-10世紀)。

後世文本的語序雖比前世更接近中文(V-NP-PP,如例36),但這並非單純模仿中文。原因在於:除了中文型的 V-NP-NP 外,本節中也見到中文所沒有的 NP-V-NP 模式;決定這兩種模式的語序變換規則的存在,說明後世變體漢文語序的演變,是為了更充分地表記日語本身,而非模仿中文。

本節觀察到後世文本的語序雖與《古事記》略有差異,但仍可用與《古事記》相似的規則派生。

§4 まとめp. 37

以上、『古事記こじき』、『日本霊異記にほんりょういき』と『将門記しょうもんき』における変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅんを、下敷きにあった日本語文にほんごぶんから簡単かんたん派生はせいできる語順変換規則ごじゅんへんかんきそく提案ていあんし、論証ろんしょうしてきた。前世ぜんせい後世こうせいのテクストで運用うんようされている規則きそくに多少の相違点そういてんみとめなければならないが、各テクストにおける変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅんは一貫した規則性きそくせいを持っていることは明瞭めいりょうである。この規則性きそくせいもまた、変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅん随意的ずいいてき中国語ちゅうごくごあやまりではなく、日本語にほんごそのものを表記ひょうきする手段しゅだんであることを裏付うらづけているといってよいであろう。

文法・表現

〜といってよいであろう
「〜といってよい」=〜と言っても差し支えない(控えめな断定)+「であろう」(推量)。二重の緩和表現で、論文の結論として最大限の主張を慎重に提示する典型的な学術的締め方。
〜ならない / 〜は明瞭である
「相違点を認めなければならない」=差異の存在を認める必要がある(譲歩)。直後の「〜は明瞭である」(強調断定)と対比的に用い、差異を認めつつも主論を強調する論証構造。

中文翻譯

以上,針對《古事記》、《日本靈異記》與《將門記》中變體漢文的語序,本論提出並論證了可從底層日語文簡單派生的語序變換規則。雖然必須承認前世與後世文本所運用的規則之間存在若干差異,但各文本中變體漢文語序具有一貫的規則性,這是顯而易見的。這一規則性本身,也可以說是印證了變體漢文的語序並非任意的中文錯誤,而是表記日語本身的一種手段。

参考文献さんこうぶんけんpp. 37–38

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