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A7 Aldridge (2016) / 2 / 4

変体漢文へんたいかんぶん語順ごじゅん派生過程はせいかてい

Edith Aldridge(E. オルドリッジ)

§2 『古事記こじき』における語順ごじゅん派生はせいpp. 24–25

(1)に示した「動詞どうし目的語もくてきご」のような中国語ちゅうごくご語順ごじゅん日本語にほんごの「目的語もくてきご動詞どうし」から容易に派生はせいできる。生成文法せいせいぶんぽう理論りろん(Chomsky 1981 等)の枠組わくぐみ内でぶん句構造くこうぞう分析ぶんせきすると、一般に他動詞文たどうしぶんあらわれる動詞どうしとその目的語もくてきご動詞句どうしくという構成素こうせいそをなし、動詞どうしをその句の主要部しゅようぶと考え、動詞どうし隣接りんせつする目的語もくてきごをその補部ほぶと考えるのでる。実際じっさいに、『古事記こじき』の例文を見ていくと、語順ごじゅん交換こうかんされている要素ようそは常に動詞どうしまたは後置詞こうちしとその補部ほぶであるから、本論は(4)の語順変換規則ごじゅんへんかんきそく提案ていあんする。

(4) 『古事記こじき』の語順ごじゅん派生過程はせいかてい
主要部しゅようぶ動詞どうし後置詞こうちし)とその補部ほぶ位置いちえる。

その過程かてい具体的ぐたいてきに見てみると、(5a)の読み下し文よみくだしぶんを下敷きにある日本語にほんごと考えれば、目的語もくてきご「そこの青菜あおなを」と動詞どうし「つむ」の位置いちぎゃくになり、本文にあらわれている「動詞どうし目的語もくてきご」の漢文かんぶん語順ごじゅんになるのである。

(5) a.
[VP [NP そこの青菜を] つむ ]
(読み下し)
  b.
[VP 採 [NP 其地之青菜 ]]
古事記こじき・下巻・仁徳天皇にんとくてんのう

動詞句どうしくと同様に後置詞句こうちしく(PP)においては、Pを主要部しゅようぶと考え、その目的語もくてきごである名詞句めいしく補部ほぶと考えるので、(4)の語順変換規則ごじゅんへんかんきそく適用てきようされると、NP-Pという日本語にほんご語順ごじゅん漢文かんぶん的なP-NPになる。

(6) a.
NP  P
[PP [NP そこ] より ]
  b.
P  NP
[PP 自[NP 其地 ]]
(中巻・神武天皇じんむてんのう

文法・表現

主要部しゅようぶ(head)と補部ほぶ(complement)
生成文法の基本概念。VP内で動詞が主要部、目的語NP・後置詞PPが補部。日本語はhead-final(主要部後置)、中国語はhead-initial(主要部前置)。規則(4)はこの方向性を逆転させる操作。
〜をなし(中止形)
「なし」は動詞「なす」の連用形中止。「動詞句という構成素をなし、…動詞をその句の主要部と考え」のように、複数の述語を並列する学術的な書き方。
後置詞こうちし(postposition)
日本語の「に・を・から・より」などに相当する文法的要素。英語の前置詞(preposition)と方向が逆(後に置く)。変体漢文では日本語後置詞の補部との位置関係が逆転して中国語風の語順になる。

中文翻譯

(1)所示「動詞・目的語」這種中文型語序,可以輕易從日語的「目的語・動詞」派生出來。在生成文法理論(Chomsky 1981等)的框架內分析句子的短語結構,一般認為他動詞文中的動詞與其目的語構成動詞短語(VP)這一成分,動詞為該短語的主要部(head),緊鄰動詞的目的語為其補部(complement)。實際查閱《古事記》的例文,語序發生交換的要素始終是動詞或後置詞與其補部,因此本論提出(4)的語序變換規則。

(4)《古事記》語序的派生過程:將主要部(動詞與後置詞)與其補部的位置互換。

具體地說,若將(5a)的訓讀文視為底層日語,則目的語「那裡的青菜を」與動詞「採」的位置相互對調,便成為本文中呈現的「動詞・目的語」這一漢文式語序。同樣,在後置詞短語(PP)中,以P為主要部、以名詞短語NP為其補部,當(4)的語序變換規則適用時,日語的NP-P語序便成為漢文式的P-NP語序。

§2.1 不定主語ふていしゅごpp. 25–26

動詞句どうしく内部ないぶあらわれる目的語もくてきごちがって、主語しゅご動詞句どうしく外側そとがわ位置いちする。したがって、主語しゅごは(4)の適用対象てきようたいしょうとならないことが予想よそうされるが、まさにそのとおりである。『古事記こじき』における主語しゅごかなら動詞どうし先行せんこうする。

(7) a.
[S NP    [VP V ]]
気多けた之前時、裸兔 伏也。(上巻・大国主神おおくにぬしのかみ
気多けたの前に到りし時、裸の兔がそこに横になっていた。
「けたの崎に着いたとき、裸の兔がそこに横になっていた。」
  b.
PP    [S NP  [VP V ]]
頭者かしらには、大雷 居(上巻・伊邪那岐命いざなきのみこと伊邪那美命いざなみのみこと
頭には、大雷居り
「頭には雷神がいて」
(8) a.
[S NP  [VP V   LOC]]
火打  有 其裏。(中巻・景行天皇けいこうてんのう
火打ち そのうちに ありき。
「その(袋の)中に火打石があった。」
  b.
[S NP  [VP LOC   V]]
火打ち そのうちに ありき。(読み下し)
(9) a.
[S NP      [VP V LOC]]
須佐之男命すさのをのみこと以為 人 有 其河上(上巻・天照大神あまてらすおおかみ
須佐之男すさのをの命、人 その河上に 有り と以為ひて
「須佐之男の命は、川の岸に人がいると思って、」

これに対して当時とうじ中国語ちゅうごくごにおいては、現代中国語げんだいちゅうごくごと同じように不定名詞句ふていめいしく動詞どうし先行せんこうすることはほとんどない。とく存在文そんざいぶん場合ばあいには、その存在そんざい主張しゅちょうされる名詞句めいしくかなら動詞どうし後続こうぞくする。

(10) a.
LOC  [VP V  NP]
村中 有 好美水。(『百喩経ひゃくゆきょう』34)
Cunzhong you hao mei shui.
「村に、きれいな水がある。」
  b.
TIME [VP V NP]
昔 有 愚人。(『百喩経ひゃくゆきょう』4)
Xi you yuren.
「昔、愚かな人がいた。」

こうした中世中国語ちゅうせいちゅうごくごとの対比たいひ性から、(7)-(9)における「主語しゅご動詞句どうしく」の語順ごじゅん中国語ちゅうごくご真似まねではないことはあきらかであるが、(4)の適用てきようによって簡単かんたん説明せつめいできる。主語しゅご動詞句どうしくの外にあるので、基となっている日本語にほんご文章ぶんしょうに(4)が適用てきようされると、動詞どうし位置いち交換こうかんする要素ようそは、その補部位置ほぶいちめる構成素こうせいそのみである。具体的ぐたいてきには、(8)と(9)における動詞どうし場所ばしょ表すあらわす名詞句めいしくまえかれるが、主語しゅご依然いぜんとして動詞どうし先行せんこうする。

文法・表現

不定名詞句ふていめいしく(indefinite NP)
文脈上まだ導入されていない、聞き手が特定できない名詞句。存在文(「〜がある/いる」)の主語は典型的に不定。中国語では不定NPは動詞後続(There構文と同様)→ 古事記では逆に動詞先行。これが日本語語順の証拠。
〜ことが予想よそうされるが、まさにそのとおりである
理論的予測を立て(「されるが」)、実証により確認するという論証パターン。「正にその通り」は確認の強調表現。
〜に後続こうぞくする
「後続する」=後ろに続く・後ろに現れる。言語学論文の専門用語。対義語は「先行する(せんこうする)」。

中文翻譯

不同於出現在動詞短語內部的目的語,主語位於動詞短語的外側。因此,可以預測主語不會成為規則(4)的適用對象——實際情況正是如此。《古事記》中的主語必定先於動詞出現。

相對地,當時的中文(如同現代中文)中,不定名詞短語幾乎不會先於動詞出現。尤其在存在句中,被斷言存在的名詞短語必定後接於動詞之後(參照例10)。

由此與中世紀中文的對比可以明顯看出,(7)-(9)中「主語・動詞短語」的語序並非對中文的模仿,但可以用規則(4)的適用來簡單說明。由於主語在動詞短語之外,當(4)適用於底層日語文章時,與動詞交換位置的要素僅限於佔據其補部位置的成分。

§2.2 受動文じゅどうぶん動作主どうさしゅpp. 27–28

古事記こじき』における受動文じゅどうぶん動作主どうさしゅ動詞どうし先行せんこうする。これもまた、(4)の語順変換規則ごじゅんへんかんきそくによって説明せつめいできる。つまり、動作主どうさしゅ構造的位置こうぞうてきいちにより(4)の適用対象てきようたいしょうとならないのである。

受動文じゅどうぶんにおける動作主どうさしゅは、意味的いみてき目的語もくてきごである被動者ひどうしゃではないため動詞どうし補部位置ほぶいちめることができず、それよりたか位置いちにしかあらわれ得ない。通常つうじょうにおいては受動文じゅどうぶん動作主どうさしゅはVPの付加詞ふかし分析ぶんせきされる。一方、受動文じゅどうぶん主語しゅご被動者ひどうしゃなので元々もともと動詞どうし補部位置ほぶいちめるが、他に主語しゅごになりうる名詞句めいしくがないので、文頭ぶんとう主語位置しゅごいち移動いどうしなければならないのである。

(11) a.
お前は(私に)だまされた。
  b.
        S
       / \
      NP   VP
   お前は  /  \
          PP    VP
         私に    |
               騙された

その結果、動作主どうさしゅ被動者ひどうしゃ動詞どうし補部位置ほぶいちあらわれていないので、『古事記こじき』においては、両方りょうほう動詞どうし先行せんこうすることが予想よそうされるが、予想通よそうどおり『古事記こじき』における受動文じゅどうぶんは「主語しゅご動作主どうさしゅ動詞どうし」という語順ごじゅんを示している。「見」は古代中国語こだいちゅうごくご紀元前きげんぜん3-5世紀せいき)に倣って受動態じゅどうたいを表す形態素けいたいそとして使つかわれている。

(12) a.
[S NP   [VP NP   [VP V ]]]
汝者  我  見欺。(上巻・大国主神おおくにぬしのかみ
汝(な)は我に欺かえつ。
「お前は私に騙された。」
  b.
[S NP      [VP NP  [VP V ]]]
其身皮 悉 風 見吹折。(上巻・大国主神おおくにぬしのかみ
其の身の皮、悉に風に吹きさかえき。
「体中の皮膚は風に吹かれて、裂けていた。」

中国語ちゅうごくごの例を見てみると、受動形態素じゅどうけいたいそ「見」が使用しようされた構文こうぶんは『古事記こじき』と大いにことなる。古代中国語こだいちゅうごくご受動文じゅどうぶんにおける動作主どうさしゅ動詞どうしうしろにあらわれる。

(13)
[VP [VP V   ] [PP P  NPAG ]]
卒 見弑 於其 臣。韓非子かんぴし、十過)
Zu jian-shi yu qi chen.
「最後に自らの部下に暗殺された。」

このため、『古事記こじき』における受動文じゅどうぶん語順ごじゅん中国語ちゅうごくご真似まねであるとはいえないが、(4)の適用てきようによって日本語にほんごから派生はせいすることはできる。つまり、動作主どうさしゅ動詞句どうしく補部位置ほぶいちめていないので、この語順変換規則ごじゅんへんかんきそく対象たいしょうとならないので、動詞どうし位置いち交換こうかんすることはない。

文法・表現

付加詞ふかし(adjunct)と補部ほぶ(complement)の区別
補部は主要部が義務的に選択する要素(他動詞の目的語など)。付加詞は任意的な修飾要素(動作主PPなど)。規則(4)は補部位置の要素のみを対象とするため、付加詞の動作主は位置交換の対象外。
〜にしか現れ得ない
「にしか」=限定の副助詞「しか」+場所格「に」。「〜以外には現れない」の意。「得ない(えない)」は可能の否定形で「〜できない」。
「見」受動形態素じゅどうけいたいそ
古代中国語(紀元前3〜5世紀)の受動マーカー「見」が古事記に用いられている。現代中国語の「被(bèi)」に相当。古事記が古典的漢文の用法を借用した例。

中文翻譯

《古事記》被動句中的施事者(動作主)也先於動詞出現。這同樣可以用規則(4)的語序變換規則來說明——即動作主的結構位置使其不成為(4)的適用對象。

被動句中的施事者並非語義上的目的語(被動者),因此無法佔據動詞的補部位置,只能出現在更高的位置。通常,被動句的施事者被分析為VP的附加語(adjunct)。另一方面,被動句的主語(被動者)原本佔據動詞的補部位置,但由於沒有其他可以充當主語的名詞短語,必須移動至句首的主語位置。

結果,施事者和被動者均未出現在動詞的補部位置,因此在《古事記》中,兩者均應先於動詞出現——事實正是如此,《古事記》被動句呈現「主語・施事者・動詞」的語序。「見」在此倣照古代漢語(公元前3–5世紀)用法,作為表示被動態的形態素。

(例13)中文被動句中施事者後接動詞,與《古事記》形式截然不同。由此可知《古事記》的被動句語序並非中文的模仿,而可從日語語序通過規則(4)的適用加以派生——因施事者不佔補部位置,故不成為規則(4)的交換對象,動詞位置不發生改變。

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