変体漢文の語順の派生過程
§0 はじめにpp. 23–24
変体漢文は、上古・中世時代に使用されていた日本語の表記法の1つである。ただし、変体漢文は、音節ごとに直接的に表記する仮名文とは違い、語順を始め、漢文の文法的要素を多く含むため、一見漢文体の一種に見える。例えば、(1a)においては、中国語の語順と同様、動詞がその目的語に先行する。漢文体の文章を訓読するには、(1b)に示すように、日本語の単語を漢字に置き換え、目的語を動詞の前に置いて、日本語で読める文章にする。
しかし、変体漢文における語順とその他の文法的要素が全て中国語の文法規則に従っているわけではない。(2)のように、目的語が動詞に先行する日本語の語順を表している例も少なくない。
また、(3)のように、二重他動詞がその2つの目的語の間に挟まれるような、中国語にも日本語にも存在しないような語順の種類もある。
築島(1963)、峰岸(1980, 1986)、西宮(1993, 1995)、山口(1995)、中川(1995)、馮(1995)、浅見(1995)、Rabinovitch(1996)、瀬間(1999)、沖森(2000)、内田(2005)等、変体漢文における語順の独特さに焦点を当てている先行研究は少なくない。しかしながら、その殆どは、以上の(2)や(3)のように中国語から逸脱している例を、日本人である著者による中国語の間違いとしか考えておらず、その本質を分析しようとしていない。例えば、西宮(1993:19)は、変体漢文を「純粋の『漢文体』(中国語でも読める文章)を下敷きにして、それを日本語の構文として読めるように歪曲した文体である」というふうにまとめている。
これに対して本論は、下敷きにあるのは中国語ではなく日本語だと仮定すれば、変体漢文に現れている語順の基本的なパターンは簡単に説明できると主張する。したがって、変体漢文の語順に現れている独特さは、中国語を書くときに生じた誤りではなく、基となっている日本語の語順を漢文に類似したものに変えて派生した結果とみなすことができる。つまり、変体漢文の語順は、随意的な間違いではなく、非常に規則性を持っている文体であるという結論が得られる。本論は、『古事記』、『日本霊異記』と『将門記』における変体漢文の語順を分析し、それを日本語から派生できる変換規則を提案する。
文法・表現
- 〜とされていた
- 受身+過去。「使用されていた」=「かつて使用されていた」。客観的事実として提示する学術的表現。〜されている(現在進行)との対比に注意。
- 〜わけではない
- 「全て…に従っているわけではない」=部分否定。全否定(〜ない)との区別が重要:一部は従っているが全部ではない、という含みを持つ。
- 〜とみなすことができる
- 「〜とみなす」=みなす(見做す)+ことができる。学術的な主張の提示に用いる可能表現。断定(〜である)より客観性・慎重さを演出する。
中文翻譯
變體漢文是上古・中世時代曾用於書寫日本語的表記法之一。然而,變體漢文不同於直接以音節書寫的假名文,由於其語序及文法要素大量借自漢文,乍看之下彷彿是漢文體的一種。例如,(1a)中如同中文語序,動詞先於目的語。若要將漢文體文章訓讀,需如(1b)所示,將日語單詞換為漢字並將目的語置於動詞之前,使其成為可以日語閱讀的文章。
然而,變體漢文的語序及其他文法要素並非全部遵循中文文法規則。如(2)所示,目的語先於動詞的日語語序例子亦為數不少。另外,如(3)所示,也存在二重他動詞夾於兩個目的語之間這種中文和日文均不存在的語序類型。
築島(1963)、峰岸(1980, 1986)、西宮(1993, 1995)等先行研究不乏關注變體漢文語序特異性者。然而,其中大多數僅將(2)(3)這類偏離中文的例子視為日本作者的中文錯誤,而未試圖分析其本質。例如,西宮(1993:19)將變體漢文總結為「以純粹的『漢文體』(可用中文閱讀的文章)為底稿,加以扭曲使其能以日語語法閱讀的文體」。
對此,本論主張:若假定底稿所依據的是日語而非中文,則變體漢文語序的基本模式便可簡單說明。因此,變體漢文語序所呈現的獨特性,並非書寫中文時產生的錯誤,而應視為將底層日語語序轉化為類似漢文形式後派生出的結果。換言之,由此可得出結論:變體漢文的語序絕非任意的錯誤,而是具有高度規則性的文體。本論將分析《古事記》、《日本靈異記》與《將門記》中變體漢文的語序,並提出可從日語派生的變換規則。