p.254 井伏鱒二 — 庶民の日常/葉山嘉樹 — プロレタリア文学
井伏鱒二
一八九八(明治31)〜一九九三(平成5)
近代文学の長老作家。広島県加茂村(現福山市)生まれ。独特のユーモアとペーソスを兼ね備えた文体で知られる。
画家から作家へ
幼時から絵を描き、早稲田大学仏文科に入学。同郷の画家を目指したが文学に転向、大正末から昭和初期の文壇に登場。同時期の太宰治・佐藤春夫・河上徹太郎らと深い交流をもち、太宰の文学的師父として一生太宰を導いた。
戦後の活躍
戦中はマレー半島で軍属。戦後は大乗的なユーモアと諦観の文体で多くの代表作を生む。一九六六(昭和41)年、原爆を扱った長編『黒い雨』を発表、野間文学賞・読売文学賞を受賞。一九六七年文化勲章。一九八〇年代まで現役で書き続けた。
独自の道へ
文学的師父として太宰治を陰で支え、自身は素朴な「庶民の日常」を主題とした独自の作風を確立。「漢詩の訳詩」(漢詩の口語訳)や、戦争記録物・歴史物・釣り紀行など、ジャンルを超えて活躍。八〇歳を超えても創作を続けた長寿作家。
山椒魚
短編小説 一九二九年発表
岩穴に閉じ込められた山椒魚と、迷い込んだ蛙の対話を寓話風に描いた、井伏文学の出世作・代表作。閉鎖空間の中で、強がりと孤独の哀しみを共に味わう二匹の動物の対話に、人生の不条理を象徴的に表す。
さざなみ軍記
中編小説 一九三〇年代発表
源平の合戦・平家の落人をテーマとした歴史物の代表作。記録的な筆致と若い武将の心情を交え、ユーモアと哀感を湛えた歴史小説。
葉山嘉樹
一八九四(明治27)〜一九四五(昭和20)
プロレタリア文学の代表作家。福岡県豊津生まれ。早稲田大学中退、海員や船員として現場体験を作品に活かした。
セメント樽の中の手紙
短編小説 一九二六年発表
岐阜県中津川のセメント工場を舞台に、樽の中から発見された手紙の話。労働者の妻が、夫がセメント機械に巻き込まれて粉砕され、その粉がセメントに混入したことを訴える告発。プロレタリア文学の代表的短編。