p.253 梶井基次郎 — 鋭敏な感覚と病的精神/伊豆の文学
梶井基次郎
一九〇一(明治34)〜一九三二(昭和7)
鋭敏な感覚と病的な精神。三一歳で肺結核により早世した昭和初期の短編作家。大阪府生まれ。
揺れる青春
大阪に生まれる。父の転勤で東京・三重・大阪と転居。第三高等学校(京都)に進学。同人誌『青空』を仲間と創刊(1925-27)。京都・東京の文学青年たちと交わり、卒業時から既に肺結核を発症。神経衰弱と肺結核の病に苦しみながら、短編作品を執筆した。
文学活動期
湯ヶ島(伊豆)での療養期間中(1927-28年)に、北川冬彦・三好達治・井伏鱒二らと交流。湯ヶ島で執筆した『冬の蠅』『冬の日』『闇の絵巻』など晩年の代表作を生む。一九三二(昭和7)年、結核悪化の中、長編構想の『のんきな患者』を未完で残し、三一歳で死去。
檸檬
短編小説 一九二五年発表
京都の街を彷徨する病んだ「私」は、果物店で買った冷たい檸檬の鋭い香りと色彩に魅了され、書店の本の塔に置いて去る。爆弾に見立てた「檸檬」のシュールな空想が、青年の鬱屈した感性を表す。梶井文学の代表作にして出世作。
闇の絵巻
短編小説 一九三〇年発表
深い闇の中で過ごす一夜の感覚と思考を描いた、感覚的散文詩風の短編。湯ヶ島の山林で結核療養中の梶井が、闇に身を委ねる感覚を、極限の感性で文学化した名品。
伊豆の文学
伊豆半島は近代文学の重要な舞台。川端康成『伊豆の踊子』(1926湯ヶ島)、梶井基次郎『冬の蠅』『闇の絵巻』(湯ヶ島)、井上靖『しろばんば』(伊豆湯ヶ島が舞台)など、湯ヶ島・修善寺・河津・下田の自然と温泉地の風物が多くの作家の創作の場となった。
伊豆の踊子
短編小説 一九二六年発表
川端康成が一高生時代の一九一八年に湯ヶ島〜河津〜下田の伊豆旅行の体験を元に、孤独な高校生「私」と旅芸人の踊子・薫との交流を描いた青春小説。「私」は薫の純真さに惹かれ、別れの後、人々の素朴な情の温かさに涙する。
冬の蠅 — 梶井基次郎
短編小説 一九二八年発表
湯ヶ島の冬、自室で死にゆく蠅を観察する病人「私」の心境を描いた病的感性の傑作。冷たい部屋の中で命を尽くす蠅を見つめる、極限の生死の感覚。梶井後期の代表作。