p.251 菊池寛 — 新理智派・文壇の大御所/横光利一 — 新感覚派の旗手
菊池寛
一八八八(明治21)〜一九四八(昭和23)
新理智派・現代社会と価値観を扱う作家。香川県高松生まれ。本名は菊池寛(ひろし)。
文壇の大御所
一九二〇(大正9)年、通俗的な『真珠夫人』が大新聞に連載、家庭を舞台に当時の家族制度に対する女性の批判と反逆という近代テーマで打ち出された小説で評判となり、文壇の大御所として地位を固めた。一九二三(大正12)年、雑誌『文藝春秋』を創刊。芥川賞・直木賞の創設(1935)にも関わり、近代日本の文壇プロデューサー的存在となった。
テーマ小説
「無名作家の日記」「真珠夫人」など、現代社会の人間関係・倫理問題を中心テーマに据えた小説を多数発表。「思想の傾向」を打ち出した明快なテーマ小説で「文壇の大御所」「テーマ小説の旗手」と呼ばれた。
恩讐の彼方に
短編小説 一九一九年発表
戯曲一幕「父帰る」(1917)で文壇に登場。「恩讐の彼方に」は、人を殺した僧侶が罪を償うために、断崖に隧道(とんねる)を掘り続ける物語。倫理問題と人間の和解の主題を二十年ぶりに表す。家を捨てた父との和解を主題とした「父帰る」、家を支える長男・喜代美の責任を主題にした「父帰る」の続編。
横光利一
一八九八(明治31)〜一九四七(昭和22)
新感覚派の旗手・鋭い心理描写の作家。福島県東山温泉生まれ。本名は横光利一(としかず)。
新感覚派の誕生
渡欧で民衆派の影響を退け、芥川賞・直木賞などにも縁の深い文壇活動。蘭学者の子孫として、奇抜な発想と鋭い感性で「新感覚派時代」のリーダー的存在となる。一九二四(大正13)年、雑誌『文芸時代』を川端康成らと創刊、「新感覚派」を称する。「春は馬車に乗って」(小品)など、感性的手法に転換を試み、それぞれの事物を見るたびに感受する瞬間を作品に表す。
蠅
短編小説 一九二三年発表
一刻一刻の変化を追う映画的手法を試みた、新感覚派の代表作。馬車に乗り合わせた数人の旅人と、それを見つめる蠅の視点から、人の運命と一瞬の偶然性を描いた印象主義的短編。
機械
短編小説 一九三〇年発表
ネームプレート工場で働く「私」と二人の同僚をめぐる心理描写の傑作。視覚と感覚の表現を新たな段階に進めた新心理主義小説の代表作。横光が新感覚から新心理主義へと作風を転換した転換点となった作品。
日輪
中編小説 一九二三年発表
古代日本の卑弥呼を主人公にした、新感覚派の文体の典型的な作品。馬台国(邪馬台国)の女王卑弥呼を題材に、太陽信仰の壮大な伝説と、彼女を取り巻く男たちの愛欲を、新感覚派的な鋭利な文体で描いた。