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浜島書店 — pilot v2 OCR + ruby 版(PDF 5–263 ページ)

p.243 『夢十夜』の世界 — 漱石の幻想短編集

『夢十夜』ゆめ じゅうや

明治41年(1908)連載

夏目漱石なつめ そうせき朝日新聞あさひしんぶん連載れんさいした10編のみじかゆめはなし連作れんさく各話かくわは「こんなゆめた」ではじまる。理性的りせいてき写実的しゃじつてき漱石そうせき作品さくひんとは対照的たいしょうてきに、幻想的げんそうてき象徴的しょうちょうてき寓話的ぐうわてき短編集たんぺんしゅう第一夜だいいちやうつくしいおんな再会さいかい第三夜だいさんや子供こども背負せおってやまのぼはなし第六夜だいろくや運慶うんけい仁王像におうぞうはなし第七夜だいしちやふね行先ゆきさきのない不安ふあん第十夜だいじゅうや庄太郎しょうたろうおんなだまされるはなしなど、漱石そうせき内面ないめんやみ東洋的とうようてき幻想げんそう凝縮ぎょうしゅくした作品さくひん

第一夜 — 美しい女の死だいいちや — うつくしい おんなの し

腕組うでぐをして枕元まくらもとすわっていると、仰向あおむけおんなが、しずかなこえでもうにますとう」ではじまる。わたしおんなに「百年ひゃくねんってください、屹度きっといにますから」と約束やくそくされる。おんなに、月日つきひって真珠貝しんじゅがいうえいた百合ゆりはなおんな姿すがたとしてあらわれる。永遠えいえんあい再会さいかい幻想げんそう象徴的しょうちょうてきえが名場面めいばめん

第三夜・第六夜だいさんや・だいろくや

第三夜だいさんやわたし六歳ろくさい背負せおってやまのぼるが、そのが「百年前ひゃくねんまえにおまえころされた」とし、わたし恐怖きょうふおそわれる。ほとけのようなこえで「自分じぶんころされた」とげる。原罪げんざい意識いしき幻想げんそう交錯こうさく第六夜だいろくや護国寺ごこくじ山門さんもん運慶うんけい仁王像におうぞうっているのを見物けんぶつするはなし。「仁王におうはもとからなかにいる」というかんがえに、芸術げいじゅつにおける素材そざい発見はっけん哲学てつがくる。

夢の空間と時間ゆめの くうかんと じかん

夢十夜ゆめじゅうや』の十話じゅうわは、日本にほん中世ちゅうせい運慶うんけい)から近代きんだいまで、また地球ちきゅう規模きぼふね砂漠さばく)から自宅じたくまで、空間くうかん時間じかん自由じゆうえる。漱石そうせき西洋せいよう小説しょうせつ写実主義しゃじつしゅぎからはなれ、東洋的とうようてき幻想げんそう仏教的ぶっきょうてきごうカルマかるま)の概念がいねんれた前衛的ぜんえいてき小説しょうせつを作り上げた。のち幻想文学げんそう ぶんがく内田百閒うちだ ひゃっけん夏目鏡子なつめ きょうこ幻想げんそう随筆ずいひつなど)への影響えいきょうおおきい。