明治23年(1890)刊
鷗外の文壇デビュー作。雑誌『国民之友』に発表された短編。ベルリン留学中の主人公・太田豊太郎が、貧しい踊り子エリスと出会って恋に落ちるが、出世の道と妻となる祖国を選び、エリスと別れる悲恋物語。ドイツ三部作(『うたかたの記』『文づかひ』との三作)の最初の作品で、近代日本文学における恋愛の発見と、立身出世主義との葛藤を主題とする画期的作品。
舞台はドイツ・ベルリン。1880年代の街並み、クロステル巷(Klosterstraße)、現在のアレキサンダー・プラッツ近辺など、鷗外自身が留学した町を背景とする。主人公・太田豊太郎は東京帝国大学を卒業し、ベルリンに留学した若き官僚。物語はエリスとの恋愛・別離後、帰国船上で太田が回想する形式で語られる。本ページにベルリン市街の地図と現代の写真(ブランデンブルク門、関連教会、王宮)が掲載される。
「エリス」は『舞姫』の女主人公。長く小説の虚構と思われていたが、鷗外帰国の翌月、明治21年9月17日にエリーゼ・ヴィーゲルト(Elise Wiegert)という若いドイツ女性が日本を訪問していた事実が、近年の研究で判明した(小堀桂一郎『鷗外と「エリス」』など)。彼女は新興国・日本で踊り子として活動していた女性で、鷗外との関係は史実の上に虚構を重ねた、半私的・半文学的な作品である。
本ページに、鷗外がベルリンで最後の下宿先(クロステル街11番に近い場所)の写真、鷗外記念館(津和野および東京)の写真、鷗外のデスマスクの絵などが掲載される。鷗外晩年の知性的・哲学的境地を物語る品々。