p.212 大正の文学 耽美派(荷風/谷崎)・白樺派(実篤/直哉/有島)
概観
大正期(1912–1926)の文学は、自然主義の身辺暴露・写実主義を反批判する形で、新たな流派が次々に登場した。耽美派(永井荷風・谷崎潤一郎)、白樺派(武者小路実篤・志賀直哉・有島武郎)、新思潮派(芥川龍之介・菊池寛・久米正雄)、白樺派の延長としてのプロレタリア文学などが並立した。大正は近代日本文学の最も豊穣な時期となる。
耽美派
耽美派は、官能的・感覚的な美を文学の中心に据える流派。永井荷風(1879–1959)は『あめりか物語』(1908)『ふらんす物語』『すみだ川』(1909)『腕くらべ』『つゆのあとさき』『濹東綺譚』等で、江戸情緒と都市の退廃美を描いた。谷崎潤一郎(1886–1965)は『刺青』(1910)『痴人の愛』(1924)『細雪』(1943–48)『春琴抄』(1933)『陰翳礼讃』等で、官能と古典的耽美の世界を構築した。
白樺派
1910年創刊の雑誌『白樺』を中心とする学習院出身者の同人。武者小路実篤(1885–1976)・志賀直哉(1883–1971)・有島武郎(1878–1923)・里見弴・柳宗悦らで構成。個性主義・人道主義・理想主義を掲げ、トルストイなどロシア文学の影響を受けた。武者小路『おめでたき人』『その妹』『友情』、志賀『城の崎にて』『暗夜行路』『小僧の神様』、有島『カインの末裔』『或る女』『生まれ出づる悩み』など。
大正の文学展開(系譜図)
ページ下部の系譜図は、明治40年代の自然主義から大正期にかけての文学の展開を示す。自然主義→白樺派・新思潮派→新感覚派・プロレタリア文学・私小説の流れが視覚化される。本ページは耽美派・白樺派を中心に紹介し、新思潮派と新現実主義は次ページに続く。
大正の文学年表(上段)
上部の年表は大正3年〜10年(1914–1921)を扱う。夏目漱石『こころ』『道草』、森鷗外『山椒大夫』『高瀬舟』、谷崎潤一郎『刺青』、永井荷風『散柳窓夕栄』、武者小路実篤『その妹』、志賀直哉『大津順吉』『城の崎にて』、芥川龍之介『鼻』『芋粥』『地獄変』『羅生門』など、大正前期の主要作品の刊行年が並ぶ。