85 俊恵法師
夜もすがら物思ふころは明けやらぬ閨のひまさへつれなかりけり
出典: 千載集 巻十二・恋二
一晩中物思いに沈むこの頃は、なかなか明けない閨の隙間(戸の隙間)まで冷淡に思える、と詠む。来ない男を待つ女の苦しみを代詠する。
86 西行法師
嘆けとて月やはものを思はするかこちがほなるわが涙かな
出典: 千載集 巻十五・恋五
「嘆け」と命じて月が物思いをさせるのだろうか。月のせいだという顔をして流れる私の涙よ、と詠む。月にかこつけた恋の嘆き。西行(佐藤義清)の名歌。
87 寂蓮法師
村雨の露もまだひぬまきの葉に霧立ちのぼる秋の夕暮
出典: 新古今集 巻五・秋下
通り雨の露がまだ乾かない真木の葉に、霧が立ちのぼる秋の夕暮れ、と詠む。新古今集の「三夕の歌」の一首。
88 皇嘉門院別当
難波江の芦のかりねのひと夜ゆゑ身を尽くしてや恋ひわたるべき
出典: 千載集 巻十三・恋三
「かりね」に「刈り根」「仮寝」、「みをつくし」に「澪標」「身を尽くし」を掛ける。難波江の芦の刈り根の一節ほどの短い仮寝の一夜のために、身を尽くして恋し続けるのだろうか、と詠む。
89 式子内親王
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
出典: 新古今集 巻十一・恋一
「玉の緒」は命の比喩。命よ、絶えるなら絶えてしまえ。長らえれば(恋心を)忍ぶ力が弱ってしまうから、と詠む。式子内親王の激しい恋情の歌。後白河院の皇女。
90 殷富門院大輔
見せばやな雄島のあまの袖だにも濡れにぞ濡れし色は変はらず
出典: 千載集 巻十四・恋四
雄島(陸奥松島)の漁師の袖は濡れていても色は変わらないが、私の袖は涙で血の色に染まっている、と詠む。源重之の「松島やをじまのあまの濡れ衣」の本歌取り。