79 左京大夫顕輔
秋風にたなびく雲のたえ間よりもれ出づる月の影のさやけさ
出典: 新古今集 巻四・秋上
秋風にたなびく雲の絶え間から漏れ出る月光の清らかなこと、と詠む。秋の月の美をひと筋の光に集約した名歌。藤原顕輔の作。
80 待賢門院堀河
長からむ心も知らず黒髪のみだれて今朝はものをこそ思へ
出典: 千載集 巻十三・恋三
「みだれて」は黒髪の乱れと心の乱れの両義。永くあなたが愛してくれるかどうかも分からない。黒髪が乱れるように心が乱れて、今朝は物思いに沈んでいる、と詠む。
81 後徳大寺左大臣
ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明の月ぞ残れる
出典: 千載集 巻三・夏
ほととぎすが鳴いた方を見ると、ただ有明の月が空に残っているばかり、と詠む。夏の夜明けの情景。藤原実定の作。
82 道因法師
思ひわびさてもいのちはあるものを憂きにたへぬは涙なりけり
出典: 千載集 巻十三・恋三
物思いに沈み苦しんでもなお命はあるものなのに、辛さに耐えきれず流れるのは涙だけだ、と詠む恋歌。
83 皇太后宮大夫俊成
世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
出典: 千載集 巻十七・雑中
この世から逃れる道はないのか。深く分け入ろうとする山の奥でも、(同じく憂きを訴えるように)鹿が鳴いている、と詠む。藤原俊成の作。新古今的幽玄美の先駆。
84 藤原清輔朝臣
ながらへばまたこの頃やしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋しき
出典: 新古今集 巻十八・雑下
もしも長く生きていれば、今のこの辛い日々もまた懐かしく思い出されるだろう。辛いと思っていた昔の世が今は恋しいのと同じように、と詠む。