最新国語便覧

浜島書店 — pilot v2 OCR + ruby 版(PDF 5–188 ページ)

p.170 百人一首 64〜72番(定頼〜紀伊)

百人一首 第64首〜第72首

64 権中納言定頼ごんちゅうなごん さだより

あさぼらけ宇治うじ川霧かわぎりたえだえにあらはれわたる々の網代木あじろぎ

出典: 千載集 巻六・冬

明け方、宇治川の霧の絶え間絶え間に、川の各所に立つ網代木(魚を捕る仕掛けの杭)が現れ渡る、と詠む冬の景物の歌。藤原定頼の作。

65 相模さがみ

うらみわびさぬそでだにあるものをこいちなむこそしけれ

出典: 後拾遺集 巻十四・恋四

恨みも涙も尽きないこの袖でさえあるのに、その上恋に朽ちてしまう私の名前が惜しい、と詠む。

66 前大僧正行尊さきの だいそうじょう ぎょうそん

もろともにあはれとおも山桜やまざくらはなよりほかにひともなし

出典: 金葉集 巻九・雑上

山中で意外な山桜に出会った時の歌。一緒に「あはれ」と思っておくれ、山桜よ。花より他に私を知る人もないのだから、と詠む。修験僧の山中の孤独。

67 周防内侍すおうの ないし

はるゆめばかりなる手枕たまくらにかひなくたむこそしけれ

出典: 千載集 巻十六・雑上

「かひ」に「効・甲斐」「腕」を掛ける言葉遊び。春の夜の夢のような腕枕に、無駄に浮き名が立つのは惜しい、と詠む。藤原忠家との戯れの応酬から生まれた歌。

68 三条院さんじょういん

こころにもあらでうきにながらへばこいしかるべき夜半よわつきかな

出典: 後拾遺集 巻十五・雑一

心ならずも辛いこの世に生き長らえば、今夜の月を恋しく思うことだろう、と詠む。三条天皇は眼病に苦しみ譲位を望む心情を背景とする。

69 能因法師のういん ほうし

あらし三室みむろやまのもみぢ葉は竜田たつたかわにしきなりけり

出典: 後拾遺集 巻五・秋下

嵐が吹く三室の山の紅葉が、竜田川に流れて錦のようになっている、と詠む。「もみじの錦」は和歌の典型的な見立て表現。

70 良暹法師りょうぜん ほうし

さびしさに宿やどでてながむればいづくもおなあき夕暮ゆうぐ

出典: 後拾遺集 巻四・秋上

寂しさに耐えかねて宿を出てあたりを眺めると、どこも同じく寂しい秋の夕暮れだった、と詠む。中世以降の「三夕の歌」の先駆ともされる。

71 大納言経信だいなごん つねのぶ

ゆうされば門田かどた稲葉いなばおとづれてあしのまろやに秋風あきかぜ

出典: 金葉集 巻三・秋

夕方になると、門前の田の稲葉に音をたてて、葦で葺いた田屋に秋風が吹いてくる、と詠む。秋の田園の静かな景物。源経信の作。

72 祐子内親王家紀伊ゆうし ないしんのうけの きい

おと高師たかしはまのあだなみはかけじやそでのぬれもこそすれ

出典: 金葉集 巻八・恋下

「高師の浜の徒波(あだ波)」と「あだ(浮気な)噂」を掛ける。噂で有名なあなたの徒波(浮気心)は、私には掛けないでほしい。袖が涙で濡れるから、と返した恋歌。