64 権中納言定頼
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木
出典: 千載集 巻六・冬
明け方、宇治川の霧の絶え間絶え間に、川の各所に立つ網代木(魚を捕る仕掛けの杭)が現れ渡る、と詠む冬の景物の歌。藤原定頼の作。
65 相模
恨みわび干さぬ袖だにあるものを恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ
出典: 後拾遺集 巻十四・恋四
恨みも涙も尽きないこの袖でさえあるのに、その上恋に朽ちてしまう私の名前が惜しい、と詠む。
66 前大僧正行尊
もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし
出典: 金葉集 巻九・雑上
山中で意外な山桜に出会った時の歌。一緒に「あはれ」と思っておくれ、山桜よ。花より他に私を知る人もないのだから、と詠む。修験僧の山中の孤独。
67 周防内侍
春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ
出典: 千載集 巻十六・雑上
「かひ」に「効・甲斐」「腕」を掛ける言葉遊び。春の夜の夢のような腕枕に、無駄に浮き名が立つのは惜しい、と詠む。藤原忠家との戯れの応酬から生まれた歌。
68 三条院
心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
出典: 後拾遺集 巻十五・雑一
心ならずも辛いこの世に生き長らえば、今夜の月を恋しく思うことだろう、と詠む。三条天皇は眼病に苦しみ譲位を望む心情を背景とする。
69 能因法師
嵐吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり
出典: 後拾遺集 巻五・秋下
嵐が吹く三室の山の紅葉が、竜田川に流れて錦のようになっている、と詠む。「もみじの錦」は和歌の典型的な見立て表現。
70 良暹法師
さびしさに宿を立ち出でてながむればいづくも同じ秋の夕暮れ
出典: 後拾遺集 巻四・秋上
寂しさに耐えかねて宿を出てあたりを眺めると、どこも同じく寂しい秋の夕暮れだった、と詠む。中世以降の「三夕の歌」の先駆ともされる。
71 大納言経信
夕されば門田の稲葉おとづれてあしのまろやに秋風ぞ吹く
出典: 金葉集 巻三・秋
夕方になると、門前の田の稲葉に音をたてて、葦で葺いた田屋に秋風が吹いてくる、と詠む。秋の田園の静かな景物。源経信の作。
72 祐子内親王家紀伊
音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ
出典: 金葉集 巻八・恋下
「高師の浜の徒波(あだ波)」と「あだ(浮気な)噂」を掛ける。噂で有名なあなたの徒波(浮気心)は、私には掛けないでほしい。袖が涙で濡れるから、と返した恋歌。