55 大納言公任
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
出典: 拾遺集 巻八・雑上
嵯峨大覚寺の枯滝を見て詠む。滝の水音は絶えて久しいが、その名声は流れ伝わって今も聞こえている、と詠む。藤原公任の作。
56 和泉式部
あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな
出典: 後拾遺集 巻十三・恋三
もうすぐ死ぬであろうわが身。あの世への思い出として、もう一度あなたに逢いたい、と詠む。和泉式部の情熱的な恋歌の代表作。
57 紫式部
めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半の月かな
出典: 新古今集 巻十六・雑上
幼なじみと久しぶりに会ったが、それと分かる間もなく相手は帰ってしまった。雲に隠れた夜半の月のように、と詠む。紫式部集にも見える歌。
58 大弐三位
有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする
出典: 後拾遺集 巻十二・恋二
「いで(それは)そよ(そうですよ)」と「笹原に風が吹いて立てる音」を掛ける。あなたが私を忘れたのではないかと案じる相手に、「そうですよ、私が忘れるはずがないでしょう」と答える歌。紫式部の娘・賢子の作。
59 赤染衛門
やすらはで寝なましものをさ夜更けてかたぶくまでの月を見しかな
出典: 後拾遺集 巻十二・恋二
ためらわずに寝てしまえばよかったのに、夜更けて傾くまでの月を見ながら待ち続けてしまった、と詠む。来ない男を待つ女の歌。
60 小式部内侍
大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立
出典: 金葉集 巻九・雑上
「ふみ」に「文」「踏み」を掛ける。母(和泉式部)が丹後にいるが、大江山・生野を経て天の橋立は遠いので、まだ文も見ていないし、踏んだこともない、と詠む。歌合での即興歌として有名。
61 伊勢大輔
いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな
出典: 詞花集 巻一・春
「八重」と「九重」(宮中)の対比、「奈良」と「けふ(京)」の対比を含む技巧的な歌。奈良の八重桜が、今日は宮中で見事に咲き匂っている、と詠む。
62 清少納言
夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
出典: 後拾遺集 巻十六・雑二
中国の故事「函谷関」の鶏鳴で関を開けた話を踏まえる。夜のうちに鶏の鳴き真似で人を騙そうとしても、逢坂の関は決して開かない、と藤原行成への返歌。清少納言の機知を示す。
63 左京大夫道雅
今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならでいふよしもがな
出典: 後拾遺集 巻十三・恋三
今はただ「諦めよう」とだけ、人づてではなく直接あなたに言える機会があってほしい、と詠む。藤原道雅と当子内親王(三条天皇の皇女)の恋の歌。