p.161 歌舞伎・浄瑠璃
歌舞伎
江戸時代 — 庶民の総合芸能
歌舞伎は江戸時代に発達した庶民の総合芸能。出雲阿国の「かぶき踊り」(17世紀初頭)に始まり、女歌舞伎・若衆歌舞伎を経て、現在のような男性中心の野郎歌舞伎へと展開した。題材は時代物・世話物・所作事に大別され、江戸の市川團十郎家の「荒事」、上方の坂田藤十郎の「和事」など、地域別の演技様式も発達した。
市川團十郎と「荒事」
市川團十郎は初世(1660–1704)から続く江戸歌舞伎の名門。代々、「荒事」と呼ばれる勇壮で誇張された演技で活躍し、暫・助六・矢の根・外郎売など「歌舞伎十八番」を制定した。隈取(くまどり)の代表的化粧法は團十郎家から発した。
歌舞伎の演目分類
- 時代物 ── 公家・武家の歴史的題材を扱う。『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』『菅原伝授手習鑑』など。
- 世話物 ── 町人の同時代生活・恋愛を扱う。『東海道四谷怪談』『東海道中膝栗毛』のような道中物も含む。
- 所作事 ── 舞踊・音楽中心の演目。『京鹿子娘道成寺』『勧進帳』など。
- 怪談物 ── 幽霊・怪異を題材とする。『東海道四谷怪談』『牡丹灯籠』など。
浄瑠璃
浄瑠璃は室町時代に語り物として発達。江戸時代になって人形の演技と結びついて「人形浄瑠璃」となり、1684年に竹本義太夫が大坂で竹本座を開いて「義太夫節」を完成。近松門左衛門の脚本と組んで隆盛を極めた。後の文楽(人形浄瑠璃文楽座)はこの伝統を継ぐ。
三人遣いの人形
文楽の人形は一体を三人で操る独特の様式。主遣い(おもづかい・かしらと右手を操る)、左遣い(ひだりづかい・左手)、足遣い(あしづかい・両足)が呼吸を合わせて精緻な動きを生む。江戸中期に確立された世界に類のない人形操作技法。
人形のかしら(首)
文楽の人形の頭部を「かしら」と呼び、役柄に応じて多様な型がある。主な型に立役(たちやく・男性主役)、女形(おやま・女性役)、敵役(かたきやく)、老人、子役などがあり、それぞれ異なる表情・髪型を持つ。仕掛けで目や眉・口が動くものもある。
『心中天網島』の文楽(写真)
近松門左衛門作の『心中天網島』を文楽で上演した場面。紙屋治兵衛と遊女小春の心中道行の場面が、人形の動きで描かれる。義太夫節の語りと三味線が劇の進行を支える。