p.156 近世の小説(黄表紙・洒落本・滑稽本・人情本・読本)
黄表紙
江戸中期 — 風刺絵入り小説
黄色い表紙の絵入り小説で、安永・天明期(1770年代〜80年代)に流行。風刺・滑稽・洒落を中心とし、当時の世相を批判的に描く。代表作に恋川春町『金々先生栄花夢』(1775年)、山東京伝などの作品がある。
『金々先生栄花夢』
安永4年(1775)刊・作者:恋川春町
黄表紙の代表作。田舎から江戸に出てきた金村屋金兵衛(金々先生)が一杯の粟饗で見た夢の中で、栄華の極みから没落までを経験するという、唐の「邯鄲の夢」を翻案した夢落としの物語。当時の風俗を批判的に描く。
洒落本
江戸中期 — 遊里小説
遊里(吉原など)を舞台に、遊客・遊女・幇間の会話を中心に描く小冊子。「うがち」(鋭い観察眼で人情の機微を捉えること)を理想とする。代表作は山東京伝『通言総籬』『繁千話』など。寛政の改革(1791年)で発禁となり、衰退した。
滑稽本
江戸後期 — 笑いの小説
庶民の日常を滑稽に描く小説。十返舎一九『東海道中膝栗毛』(1802–1822年)、式亭三馬『浮世風呂』『浮世床』が代表作。会話を多用し、当時の風俗・方言を生き生きと写す。
『東海道中膝栗毛』
享和2年(1802)〜文政5年(1822)刊・作者:十返舎一九
弥次郎兵衛・喜多八という二人が江戸から伊勢参りに出かけ、各地で滑稽な失敗を繰り返す道中記。会話と方言の妙、機転と機智の応酬で、当時の旅と街道の風俗を活写する。21年にわたって刊行された大ベストセラー。
『浮世風呂』
文化6–10年(1809–1813)刊・作者:式亭三馬
町中の銭湯を舞台に、湯に浸かる町人たちの会話を聞き書きする形式の滑稽本。四篇九巻。武士・商人・職人・遊女など、さまざまな階層の人物が登場し、当時の世相と人間像を多面的に描き出す。
人情本
江戸後期 — 男女の情愛小説
江戸末期に流行した、男女の恋愛・人情を細密に描いた小説。為永春水『春色梅児誉美』(1832–33年)が代表作。町人の恋愛感情と心理を写実的に描き、後の近代恋愛小説の先駆ともいわれる。天保の改革(1841年〜)で発禁となった。
読本(江戸読本)
中国の白話小説や日本の古典を題材とする伝奇的長編小説。上田秋成『雨月物語』『春雨物語』が初期の代表作、後半は曲亭馬琴『南総里見八犬伝』『椿説弓張月』など長編が主流となる。挿絵が多く、読み物としての完成度を高めた。