p.155 上田秋成・曲亭馬琴
上田秋成
江戸時代後期(1734–1809)— 読本作家
上田秋成(1734–1809)は大坂の生まれで、医を業とする一方、国学・歌学にも通じた文人。読本(よみほん)の作者として『雨月物語』『春雨物語』を著した。中国の白話小説(『剪灯新話』『三言二拍』等)の翻案や、日本の古典・伝説を題材として、幻想的・怪奇的な短編集を作り上げた。
『雨月物語』
安永5年(1776)刊・五巻九話
秋成の代表作で、読本の最高峰とされる。「白峯」「菊花の約」「浅茅が宿」「夢応の鯉魚」「仏法僧」「吉備津の釜」「蛇性の婬」「青頭巾」「貧福論」の九話を収める。和漢の古典に取材し、雅文体で書かれた怪異・幻想譚。「浅茅が宿」の宮木の貞節、「菊花の約」の友情の死、「青頭巾」の僧の妄執など、各話の人間心理の描写が深く、後の幻想文学に大きな影響を残した。
『春雨物語』
文化5年(1808)成立(生前未刊)
秋成の最晩年の作。「血かたびら」「天津処女」「海賊」「目ひとつの神」「死首の咲顔」「捨石丸」「宮木が塚」「樊噲」「二世の縁」「樊噲後伝」の十話前後を収める(諸本で構成が異なる)。古代史への関心と批判精神を込めた歴史的題材の短編集で、生前は刊行されなかった。
曲亭馬琴
江戸時代後期(1767–1848)— 長編読本の第一人者
曲亭馬琴(本名・滝沢馬琴)は江戸の生まれで、武家の出。長く戯作者として身を立て、後半生のほとんどを長編読本『南総里見八犬伝』の執筆に費やした。盲目になっても口述で執筆を続けた強い意志で名高い。馬琴の作品は儒教的勧善懲悪を骨格とし、雄渾な構想力で長大な物語を組み立てる。
『南総里見八犬伝』
文化11年(1814)〜天保13年(1842)刊・全98巻106冊
馬琴の代表作で、江戸読本の到達点。28年をかけて完成した大長編。安房国里見家の伏姫が八房(やつふさ)という犬と結ぶ宿縁から、「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の徳目を体現する八犬士(犬塚信乃・犬川荘助・犬山道節など)が生まれ、彼らが里見家の再興のために戦う物語。中国の『水滸伝』に着想を得ている。儒教的徳目を物語の骨格とする勧善懲悪小説の集大成。
『椿説弓張月』
文化4–8年(1807–1811)刊
馬琴の代表作の一つで、平安時代の武将・源為朝の生涯を伝奇的に描く長編読本。葛飾北斎の挿絵が添えられ、絵と本文の結合が読本の魅力を高めた。