p.146 松尾芭蕉
江戸時代前期 — 蕉風俳諧の確立者
概観
松尾芭蕉(1644–1694)は、江戸時代前期の俳諧師。伊賀上野(現在の三重県伊賀市)に生まれ、若いころは藤堂家に仕えた。後に江戸に出て俳諧の道に進み、貞門・談林の俳諧から独自の境地を開いて「蕉風」と呼ばれる新しい俳諧を確立した。
貞門・談林の修業
若い芭蕉は北村季吟に俳諧を学び、貞門派から出発した。江戸に出てからは談林派の自由な俳風にも親しんだが、いずれにも飽き足らず、漢詩・連歌・能・荘子などを学びつつ独自の俳風を求めていった。
蕉風の確立
天和年間(1681–84)頃から芭蕉は新しい俳風を確立した。深川の芭蕉庵に住み、隠者的な生活の中で俳諧を磨き、後に「蕉風」と呼ばれる作風を打ち立てた。「さび」「しをり」「ほそみ」「軽み」などの美意識を中心に置く。
旅での実践・完成
芭蕉は生涯にわたって旅を続け、旅の中で俳諧を磨いた。代表的な旅は『野ざらし紀行』(1684–85)『笈の小文』(1687–88)『更科紀行』(1688)『おくのほそ道』(1689)など。1694年大坂で病没。「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」を辞世の句とする説が伝わる。
蕉風の美学(さび・しをり・ほそみ・軽み)
- さび ── 閑寂・古色の中に感じる静かな美。年月を経た物事や老いた境地に宿る趣。
- しをり ── 対象への深い思いやりや慈しみの心が、作品ににじみ出る情趣。
- ほそみ ── 対象に対する繊細で鋭敏な感受性。微細な対象や心情を捉える鋭さ。
- 軽み ── 晩年の芭蕉が目指した境地。日常の卑近な題材から、軽妙な詩境を立ち上げる。