p.144 『宇治拾遺物語』
鎌倉時代初期 — 庶民の笑いと哀しみ
編者・成立
編者未詳。鎌倉時代初期(13世紀前半)の成立とされる。「宇治大納言物語」を補い拾い遺したという意で「宇治拾遺」と呼ばれる。古い説話の散逸を防ぐ意図で編まれたとされる。
構成
全2巻、197話の説話を収める。「今・昔」の説話と「今昔物語集」と共通する話も多い。仏教説話・世俗説話・滑稽譚・教訓譚など多彩な内容を含む。
内容
「鬼に瘤取らるる事」「児のそら寝」「絵仏師良秀」など、滑稽でかつ機知に富む説話を多く含む。庶民の生活、僧侶の機略、人間の弱さや欲望をユーモラスに描き、当時の人々の生活感情を伝える。芥川龍之介の『鼻』『芋粥』『地獄変』などの素材ともなった。
文体
和文を基調とする平易な文体。話し言葉に近い口語的な表現が多く、当時の話の語り口を生かす。今昔物語集と異なり、漢字片仮名混じり文ではなく、和文・仮名文の系譜に立つ。
山号の事(巻一)
巻一所収の挿話。比叡山などの山の名の由来を語る。ページ口絵には比叡山延暦寺の根本中堂と思われる写真が添えられる。
児のそら寝(巻一・第十二話)
比叡山の僧坊で僧たちが餅を作っていた。そこにいた小坊主(児)は「起こされたら食べよう」と考えてわざと寝たふりをしていたが、結局起こされず、寝過ぎて餅を食べそびれてしまうという滑稽譚。子どもの素直な可愛らしさと欲深さを描く。