p.108 『伊勢物語』
歌物語の代表作・在原業平の歌物語
伊勢物語とは
10世紀前半に成立した歌物語の代表作。125段の短編集。各段は「昔、男ありけり」で始まり、和歌と物語が一体化した形式。在原業平の歌を中心に、業平を主人公的人物(昔男)として、その風雅な恋愛と人生を描く。
作者・成立
作者未詳。10世紀前半に原型が成立し、後に増補された。主人公の「男」を在原業平(825-880)と見立てる解釈が伝統的。「伊勢」の名は、伊勢神宮の斎宮との恋愛が描かれることに由来するとも、伊勢の斎宮女御徽子の手によるとも諸説あり。
内容
125段の短編集。各段は独立した短編で、初段「春日野」から最終段の業平辞世の歌「つひに行く道とは」まで、業平の生涯を象徴的にたどる構成。中盤の「東下り」(9段)、「筒井筒」(23段)は特に名高い。和歌約209首を含む。
文体
簡潔で凝縮された散文(地の文)と、深い情趣の和歌が交互に展開する。各段は「昔、男ありけり」で始まり、説話的・物語的色彩を持つ。文学評論家の本居宣長は『伊勢物語玉澪集』を著し、伊勢の文学的価値を高く評価した。
評価
後の物語文学に多大な影響を与えた。『源氏物語』にも引用される。江戸時代には注釈書が数多く編まれ、本居宣長は「もののあはれ」の理念で再評価。芭蕉も『笈の小文』で業平を讃える。
代表名歌
から衣きつつなれにし妻しあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
— 第9段 東下り(三河の八橋) 「かきつばた」の折句
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつはもとの身にして
— 第4段 西の対
ついに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
— 辞世(第125段)