NHKエヌエイチケイ高校こうこう講座こうざ 言語げんご文化ぶんか

音楽おんがく

ナレーション:
NHKエヌエイチケイ高校こうこう講座こうざ言語げんご文化ぶんかはじまります。

かわ 実里夏みりか
みなさん、ご機嫌きげんいかがですか? かわ 実里夏みりかです。
今回こんかいから三回さんかいにわたって、「とんかつ」という小説しょうせつんでいきます。
どんなおはなしなんでしょうか? 小山こやま 志門しもん先生せんせい一緒いっしょすすめていきましょう。
それでは小山こやま先生せんせい、よろしくおねがいします。

小山こやま 志門しもん
小山こやまです。よろしくおねがいします。
今回こんかいから三回さんかいにわたって、三浦みうら哲郎てつおさんの「とんかつ」を学習がくしゅうしていきます。

かわ 実里夏みりか
それでは今回こんかい学習がくしゅうのポイントを紹介しょうかいしましょう。
ひと物語ものがたりかた整理せいりする。
ふた場面ばめん設定せってい整理せいりする。
みっ親子おやこ様子ようする。
以上いじょうみっつです。
それでは学習がくしゅうはじめましょう。

間奏かんそう

かわ 実里夏みりか
物語ものがたりかた整理せいりする」。

小山こやま 志門しもん
小説しょうせつまえに、かた整理せいりしておきましょう。

かわ 実里夏みりか
どのようにんでいけばいいんでしょうか?

小山こやま 志門しもん
そうですね。大前提だいぜんていとして、まず全体ぜんたいとおしてむということが重要じゅうようです。
一通ひととおんで、自分じぶんなりにその世界せかいひたったり、面白おもしろさをかんじるというのは、純粋じゅんすい小説しょうせつたのしみかたです。
だれがいて、なにがあったのか、あるいは共感きょうかんできることや、ぎゃくまった理解りかいできないことなど、まず一通ひととおんで、自分じぶんなりの感想かんそうつといいですね。
そのうえで、今回こんかい学習がくしゅうでは、より作品さくひんあじわうためにどうめばいいか、いくつかポイントを整理せいりしたいとおもいます。
小説しょうせつ世界せかい登場とうじょう人物じんぶつ心情しんじょうふかるのがむずかしいというときもありますが、そんなときは、物語ものがたり設定せっていをまず理解りかいしようとおもってすすめると、物語ものがたり世界せかいはいっていけるとおもいますよ。
まず小説しょうせつ舞台ぶたいるために、具体的ぐたいてきには、「いつ」、「どこで」、「だれが」、「なにをしているのか」を意識いしきするといいでしょう。
たとえば、季節きせつ時間じかんたいによって雰囲気ふんいきことなりますし、朝日あさひ時間じかんしずんでいく時間じかんとでは、心境しんきょうわりますよね。
場所ばしょも、人物じんぶつも、なるべくひろ視点してんで、こまかいところまで意識いしきすることが大事だいじです。
なにしろ人間にんげんこころ繊細せんさいですから、目線めせんひとつや些細ささい行動こうどうなど、ちいさなものにもくばって場面ばめん理解りかいしていきましょう。

かわ 実里夏みりか
はい。

小山こやま 志門しもん
そうやって設定せっていつかめたら、つぎ登場とうじょう人物じんぶつ行動こうどう、やりりを丁寧ていねいりながら、「変化へんか」を意識いしきしてみましょう。
物語ものがたりにおいて、はじめからわりまでなににも変化へんかしない作品さくひんなんてありません。
時間じかん経過けいかし、人物じんぶつなにかに出会であい、変化へんかしていきます。
つくされたり、こわされたり、気持きもちがうごいたり。そういった変化へんか理解りかいとおして、小説しょうせつえがそうとしたものをれるといいですね。

間奏かんそう

かわ 実里夏みりか
場面ばめん設定せってい整理せいりする」。

小山こやま 志門しもん
それでは「とんかつ」をすすめていきましょう。朗読ろうどく高山たかやま 久美子くみこさんです。

朗読ろうどく
とんかつ 三浦みうら哲郎てつお
須貝すがいはるよ、三十八さんじゅうはちさい主婦しゅふ
どう直太郎なおたろう十五じゅうごさい。(今春こんしゅん中学ちゅうがく卒業そつぎょう)。
宿泊しゅくはくカードにはせたおんな文字もじでそういてあった。
住所じゅうしょは、青森あおもりけん三戸さんのへぐんむら番地ばんちしたに、光林寺こうりんじないとある。
ちかくに景勝地けいしょうちひかえた北陸ほくりく城下町じょうかまちでも、うらどおりにある目立めだたない和風わふう宿やどだから、こういう遠来えんらいきゃくめずらしい。
れてもなく、女中じょちゅう二人ふたりれのきゃくだというので、てみると、地味じみ和装わそう四十年配しじゅうねんぱいおんな一人ひとり戸口とぐちにひっそりっている。れの姿すがたえない。
おんなは、きがあればはくしたいのだが、とった。言葉ことばに、日頃ひごろれないなまりがあった。
「お一人ひとりさまで?」
「いえ、二人ふたりですけんど。」
おんなかえって、半分はんぶんけたままのそとするどこえをかけた。ちゃんづけでんだのが、なおちゃ、とこえた。
青白あおじろかおの、ひょろりとした、ひよわそうな少年しょうねんかげからあらわれて、はにかみわらいをかべながらぺこりとあたまげた。両手りょうてふくらんだボストンバッグをげている。
もう三月さんがつ下旬げじゅんだというのに、まだおもそうな冬外套ふゆがいとうのままで、襟元えりもとからくろ学生服がくせいふくがのぞいている。
そういえば、おんなのほうもあつぼったい防寒ぼうかんコートで、くびにスカーフまでいていた。
「これ、息子むすこでやんして……。」
おんなもはにかむようにわらいながら、ひっつめがみのほつれみみのうしろへかきげた。
はじめは、近在きんざいから市内しない高校こうこう受験じゅけんてきた親子おやこかとおもったが、女中じょちゅうによれば、高校こうこう入学にゅうがく試験しけん半月はんつきまえんだという。
そんなら、進学しんがく準備じゅんびものだろうか。下宿げしゅくさがしだろうか。それとも、卒業そつぎょう記念きねん観光かんこう旅行りょこうだろうか。
いずれにしても、はく三日みっかとは豪勢ごうせいな、とおもっていたが、いてもらった宿泊しゅくはくカードをると、なんときたのはずれからきたひとたちである。
これは、ただの物見遊山ものみゆさんたびではあるまい。
宿泊しゅくはくカードの職業しょくぎょうらんに、主婦しゅふ、とか、今春こんしゅん中学ちゅうがく卒業そつぎょう、などとれるところをると、あまりたびれているひとともおもえないが、どうしたのだろう。
「まさか、厄介やっかいなおきゃくじゃないでしょうね。」
女中じょちゅうこえをひそめてった。
厄介やっかいな、というと?」
「たとえば、親子おやこ心中しんじゅうしにきたなんて……。」
「あほらしい。」
「だけど、あの二人ふたり、なんだか陰気いんきで、湿しめっぽいじゃありませんか。めったに笑顔えがおせないし、口数くちかずみょうにすくないし……。」
「それは田舎いなかひとたちで、こんなところにまるのにれてないから。第一だいいち心中しんじゅうなんかするつもりなら、なんでわざわざこんなとこまで遠出とおでしてくるのよ。」
「ここなら、ちかくに東尋坊とうじんぼうもあるし、越前岬えちぜんみさきも……。」
景色けしきのいい場所ばしょなら、東北とうほくにだっていくらもあるわ。それに、心中しんじゅうするひとたちがふたばん道草みちくさう?」
案外あんがい道草みちくさじゃないかも、おくさん。まず、明日あした一日いちにち場所ばしょさがして、明後日あさってはいよいよ……。」
「よしてよ、薄気味悪うすきみわるい。」
もちろん、冗談じょうだんのつもりだったが、翌朝よくあさ親子おやこが、食事しょくじませるともなく、外出がいしゅつ支度したくをしてりてきたときは、ぎくりとした。
母親ははおやぶらで、息子むすこのほうがしぼんだボストンバッグをひとつだけげている。
「おかけですか。」
「はい……。」
この親子おやこは、なにをはなすときでも、きまってはにかむようなわらいをかべる。
きゃくのことでよけいな詮索せんさくはしないのがならわしなのだが、つい、さりげなく、
今日きょうあさからおだやかな日和ひよりで……どちらまで?」
たずねないではいられなかった。
「え……あちこち、いろいろと……。」
母親ははおやはそうこたえただけであった。あやうく、東尋坊とうじんぼう、とくちかかったが、
「もし、郊外こうがいほうへおかけでしたら、私鉄してつやバスの時間じかん調しらべてさしあげますが。」
って顔色かおいろをうかがうと、
「いえ、けっこうで……交通こうつう便べんまえにだいたいいてきましたすけに。日暮ひぐれまでにはもどります。」
母親ははおやは、べつだんどうじたふうもなくそううと、んだら、いってまいります、と丁寧ていねいあたまげた。

小山こやま 志門しもん
まずは設定せってい把握はあくしておきましょう。
この物語ものがたり舞台ぶたいはどこでしょうか?

かわ 実里夏みりか
冒頭ぼうとうで、「宿泊しゅくはくカード」とありましたね。あと、「北陸ほくりく城下町じょうかまちうらどおりにある目立めだたない和風わふう宿やど」とありました。

小山こやま 志門しもん
そのとおりですね。場所ばしょ設定せっていというのは物語ものがたり舞台ぶたいですから、できるだけこまかくつかんでいきましょう。
今回こんかいであれば、そんなにひとおおくなくって、すこ地味じみ雰囲気ふんいきかんじられるといいですね。
つぎ季節きせつはどうでしょう?

かわ 実里夏みりか
「もう三月さんがつ下旬げじゅんだというのに」とありました。

小山こやま 志門しもん
そうですよね。この三月さんがつ下旬げじゅんというのが大事だいじかもしれません。
三月さんがつ卒業そつぎょうわかれがあり、四月しがつになると入学にゅうがくあたらしい出会であいがあるので、三月さんがつ下旬げじゅんというのは環境かんきょう変化へんかきやすい時期じきですよね。そんな舞台ぶたい物語ものがたりはじまっていきます。
つぎ登場とうじょう人物じんぶつ確認かくにんしていきましょう。
冒頭ぼうとう宿泊しゅくはくカードに、「須貝すがいはるよ、三十八さんじゅうはちさい主婦しゅふどう直太郎なおたろう十五じゅうごさい。(今春こんしゅん中学ちゅうがく卒業そつぎょう)」とてきます。はは息子むすこ二人ふたりです。
わざわざ青森あおもりけん三戸さんのへぐんからやってきたようです。
三月さんがつ下旬げじゅんだというのに二人ふたりとも真冬まふゆのコートをんでいて、とありますから、随分ずいぶんさむかったんだろうなということもかんじることができます。
それでは具体的ぐたいてきに、それぞれの人物じんぶつぞう確認かくにんしてみましょう。
まず、この母親ははおやかんする表現ひょうげんはどんなものがありましたか?

かわ 実里夏みりか
「ひっつめがみ」で、「地味じみ和装わそう四十年配しじゅうねんぱい女性じょせい」とありました。

小山こやま 志門しもん
「ひっつめがみ」は、かみうしろでキュッとひとつにむすんだ髪型かみがたです。ほかにはいかがでしょう?

かわ 実里夏みりか
宿泊しゅくはくカードの文字もじせたおんな文字もじ」とかれていました。「戸口とぐちにひっそりとっている」。

小山こやま 志門しもん
いろんな母親ははおやかんする表現ひょうげん全部ぜんぶわせてイメージしたら、どんな女性じょせい想像そうぞうしますか?

かわ 実里夏みりか
とてもひかえめなイメージをかんじます。

小山こやま 志門しもん
そのとおりですよね。
さきほど確認かくにんした、「目立めだたない和風わふう宿やど」の雰囲気ふんいきとぴったりな、ひか地味じみ女性じょせいぞうおもかぶとおもいます。
でも息子むすこときには、「するどこえをかけた」とありましたから、内面ないめんつよ部分ぶぶんもありそうです。
さて、息子むすこほうはいかがでしょう?

かわ 実里夏みりか
息子むすこかんする表現ひょうげんおおくないんですよね。「学生服がくせいふくた、青白あおじろかおで、ひょろりとした、ひよわそうな少年しょうねん」。「かげからあらわれた」。

小山こやま 志門しもん
母親ははおやびかけられて、ようやく姿すがたしてくる。
母親ははおや地味じみ様子ようすでしたが、息子むすこほう一層いっそう目立めだたないかんじですね。
とにかく登場とうじょうする二人ふたりは、なんとなくになる存在そんざいなんですが、それにしてもかれらは一体いったいなにをしにこの宿やどたのでしょう。
んでみると、冒頭ぼうとう二人ふたり心情しんじょう表現ひょうげんがなくって、はっきりしません。
なんともみょう雰囲気ふんいきたせて物語ものがたりがスタートをっています。
そのさき展開てんかい読者どくしゃをうまくみちび作者さくしゃ工夫くふうです。
宿やどがわ人物じんぶつも、だれがいるかはめましたか?

かわ 実里夏みりか
女中じょちゅう」と、「おくさん」とばれている女性じょせい二人ふたりです。

小山こやま 志門しもん
そうですね。その「おくさん」はきっと宿やど女将おかみさんなのでしょう。
その女将おかみが、二人ふたりれのきゃく対応たいおうをしています。
この宿やど二人ふたりについては、親子おやこちがって、容姿ようしなどについての具体的ぐたいてき描写びょうしゃはありません。
しかしぎゃくに、二人ふたりれのきゃくのことを二人ふたり会話かいわしている様子ようすえがかれていて、おも女将おかみ視点してん二人ふたりれのことをながめていけるようになっています。
登場とうじょう人物じんぶつ整理せいりできたら、それらの関係かんけいせい意識いしきしてすすめるようにしましょう。

間奏かんそう

かわ 実里夏みりか
親子おやこ様子ようする」。

小山こやま 志門しもん
みょう雰囲気ふんいき二人ふたりが、一体いったいなにをしにたのかはっきりさせたいところですが、二人ふたり心情しんじょう直接ちょくせつえがかれていません。すこすすめないとからないようです。
そこで、宿やど二人ふたりがどうかんじているか、その台詞せりふ行動こうどうえがかれているので、それをいながらかんがえていきましょう。

かわ 実里夏みりか
はい。まず最初さいしょ二人ふたりのことについて、「受験じゅけん」や「下宿げしゅくさがし」、「卒業そつぎょう記念きねん旅行りょこう」など、色々いろいろ状況じょうきょう想像そうぞうしますが、そのすべてがちがっていて、ますます不思議ふしぎおもいます。

小山こやま 志門しもん
そのながれで、女中じょちゅうが「厄介やっかいなおきゃくではないか」とはじめます。
親子おやこ陰気いんきかんじ、口数くちかずすくなさ、ちかくに東尋坊とうじんぼうなどもあるということで、二人ふたりが「親子おやこ心中しんじゅう」をしようとしているのではないか、という疑念ぎねんべたのです。
でもそのあとに、女将おかみが「あほらしい」よとってますね。

かわ 実里夏みりか
はい。その疑念ぎねん否定ひていしていますね。

小山こやま 志門しもん
まさかそんなことはないだろうっていうかんじです。
でも、まりに翌朝よくあさ様子ようすも、女将おかみを「ぎくり」とさせています。
母親ははおやぶらで、息子むすこはしぼんだボストンバッグをひとつだけげている」。
そうです。その格好かっこう女将おかみ違和感いわかんかんじています。
じつ日本にほんならわしのなかに、死出しでたび装束しょうぞくとして、頭陀袋ずだぶくろげることがあるようです。
ふくろなかにいろんなものをたくさんめるのではなく、すこしのおかねだけをれておくようです。
親子おやこ心中しんじゅう」などという話題わだいもあったため、そのような想像そうぞうをしてしまって、「ぎくり」としたのかもしれません。
いずれにせよ、冒頭ぼうとうみょう雰囲気ふんいき疑念ぎねんへとわっていく、女将おかみ心情しんじょう変化へんかめますね。

かわ 実里夏みりか
そんな二人ふたり一体いったい何者なにもので、なにをしにたんでしょうか?

小山こやま 志門しもん
ますますになっていきますね。つづきは次回じかいです。
さて、今回こんかい講座こうざのポイントをまとめておきましょう。
ひと物語ものがたりかた整理せいりする。
ふた場面ばめん設定せってい整理せいりする。
みっ親子おやこ様子ようする。
このみっつでした。

小山こやま 志門しもん
今日きょう小説しょうせつはじめるポイントを学習がくしゅうしました。
一番いちばん大事だいじなのは、作品さくひん自分じぶんなりにたのしむことなので、あまりむずかしくかんがえすぎなくてもいいです。
でもよりふかあじわい、小説しょうせつ理解りかいふかめるというてんでは、今日きょう学習がくしゅうした「小説しょうせつ舞台ぶたい把握はあく」を意識いしきできるといいですね。

かわ 実里夏みりか
さて今回こんかいは、「とんかつ」という小説しょうせつみました。小山こやま先生せんせい、ありがとうございました。

小山こやま 志門しもん
ありがとうございました。

かわ 実里夏みりか
NHKエヌエイチケイ高校こうこう講座こうざ言語げんご文化ぶんかかわ 実里夏みりか小山こやま 志門しもん先生せんせいでおおくりしました。