言語文化 #39-41
三浦哲郎
講師 小山 志門
学習のねらい
小説「とんかつ」を全三回で学習していきます。今年度はじめての小説教材ですから、基本的な小説の読み方を確認し、物語のスタートとなる設定をきっちり把握しましょう。この作品は、言葉では表現されていない登場人物の心情を、さまざまな表現を読み繋いで理解していく必要があります。作者の表現の工夫を味わいながら、読み進めましょう。
用全三回學習小說「とんかつ」。因為是本年度第一個小說教材,先確認基本的小說讀法,並好好把握作為物語起點的設定吧。本作品中,未以言語表現的登場人物的心情,需要藉由連讀各種表現來理解。一邊品味作者表現上的用心,一邊讀下去吧。
●学習のポイント●
〈一〉物語の読み方を整理する
〈二〉場面・設定を整理する
〈三〉親子の様子を読み取る
〈一〉整理物語的讀法 〈二〉整理場面・設定 〈三〉讀取親子的樣子
皆さんは小説を読むときに、どこに面白さを感じるでしょうか。人によって、好きなジャンルも異なるど思いますが、昔も今も、小説が普遍的な人間の営みを見つめ、その心の動きを描いていることに変わりはありません。物語に描き出された人間模様を、全体を通して味わうというのが、小説を読むうえで一番大事です。
各位讀小說的時候,會在哪裡感受到趣味呢?我想,依人不同,喜歡的類型也不同,但不論古今,小說都凝視著普遍的人類活動、描繪其心的動向——這一點未曾改變。將物語中描繪出的人間百態,貫穿全篇來品味——這在閱讀小說上是最重要的事。
物語に描き出される人間模様について理解を深めていくためには、どのように読んでいけばよいでしょうか。まず第一に、小説の舞台設定をしっかり理解することが大切です。具体的には、①何時 ②どこで ③だれが ④何をしているのか、を意識して読むとよいでしょう。作者は、読者が作品の中に入り込めるよういろいろ工夫を凝らして舞台設定をしています。ですから、その作者の工夫を楽しみながら、どんな舞台設定なのかを理解できるとよいですね。そうやって設定をつかめたら、登場人物の行動、やり取りを丁寧に読み取っていきましょう。その際には、『変化』を意識してみてください。変化のない小説はありませんから、何が、どう変化するのかを意識して読みましょう。そうすることで、登場人物の心情を追いかけられますし、登場人物同士の関係にも注目できると思います。
要對物語中所描繪的人間百態加深理解,該如何閱讀才好呢?首先第一,好好理解小說的舞台設定是重要的。具體來說,意識到①何時②哪裡③誰④在做什麼來讀比較好。作者為了讓讀者能進入作品之中,下了種種功夫來設定舞台。所以,請一邊享受作者的用心,一邊理解這是怎樣的舞台設定吧。這樣掌握設定之後,請仔細讀取登場人物的行動、互動。此時,請意識到『變化』。沒有變化的小說是不存在的,所以請意識「什麼如何變化」來讀。如此一來,便能追蹤登場人物的心情,也能注目登場人物之間的關係。
この物語の舞台はどこでしょうか。冒頭いきなり『宿泊カード』とあります。「近くに景勝地を控えた北陸の城下町」で「裏通りにある目立たない和風の宿」と表現されてもいます。そんなに人が多くない、少し地味な雰囲気の宿のようです。
這個物語的舞台是哪裡呢?開頭便突然出現『住宿卡』。被表現為「近處有名勝地的北陸城下町」中「位於後街、不顯眼的和風旅館」。看來是個人不太多、稍微樸素氛圍的旅館。
季節は「三月も下旬」とあります。三月は、卒業や別れがあり、四月になると入学や新しい出会いがあります。ですから三月下旬というのは、環境の変化が起きやすい時期ととらえられます。そんな舞台で物語が始まります。
季節是「三月也下旬」之記載。三月有畢業、離別,到了四月有入學與新的相遇。所以三月下旬,可看作是環境變化容易發生的時期。在這樣的舞台,物語開始了。
登場人物も確認しましょう。宿にやってきた『母』と『息子』の「二人連れの客」でした。
也確認登場人物吧。是來到旅館的『母』與『兒子』之「二人結伴的客人」。
母親は「ひっつめ髪」で、「地味な和装の四十年配の女性」。「ひっつめ髪」とは、髪を後できゅっと一つに結んだ髪型です。他には「宿泊カードには痩せた女文字」だったとか、「戸口にひっそり立っている」などと書かれています。色んな表現を合わせてイメージすると、「目立たない和風の宿」の雰囲気とぴったりな、控えめで地味な女性像が思い浮かびます。
母親是「緊束髮」、「樸素和裝的四十多歲女性」。所謂「緊束髮」是把頭髮在後面緊緊束成一條的髮型。另外也寫著「住宿卡上是瘦弱的女文字」、「在門口悄悄佇立」等等。把各種表現合在一起想像,會浮現一個與「不顯眼的和風旅館」氛圍正合的、低調樸素的女性形象。
さて息子のほうはどうでしょうか。「黒い学生服」を着た、「青白い顔の、ひょろりとした、ひ弱そうな少年」。戸の陰から、母親に呼びかけられてようやく姿を出すような、とってもシャイで、目立たない感じですね。その二人の心情については直接表現されておらず、何をしに来たかわからない、妙な雰囲気をまとっています。
那麼兒子那邊如何呢?穿著「黑色學生服」、「臉色青白、瘦長、看起來體弱的少年」。從門的陰影處,被母親呼喚才終於現身——非常害羞、不顯眼的感覺呢。這兩人的心情沒有被直接表現出來,帶著「不知為何而來」的奇妙氛圍。
宿の側は「女中」と「奥さん」と呼びかけられている女性が出てきます。「奥さん」というのは、きっと宿の女将さんでしょう。この小説は、その女将の視点を通して語られていきます。読者は女将の視線から二人連れのことを眺めていくことになります。
旅館那方,「女中」與被稱為「奧さん」的女性出場。「奧さん」應該是旅館的女將吧。本小說透過該女將的視點敘述。讀者將從女將的視線來眺望這對二人結伴的客人。
妙な雰囲気の二人が一体何をしに来たのか、整理していきましょう。
氛圍奇妙的兩人究竟為何而來,讓我們整理一下吧。
女将は、「受験」や「下宿探し」、「卒業記念の観光旅行」など、二人がここに来た理由をいろいろと想像しますが、そのすべてが違っています。そのうち、女中が二人のことを「厄介なお客」ではないかと言いはじめます。親子の「陰気」な感じ、「口数も妙にすくない」、近くに「東尋坊」などもあることなど、いろいろ合わせて「親子心中」でもしてしまうのではないか、という疑念を述べたのです。
女將想像「應試」、「找下宿」、「畢業紀念的觀光旅行」等等兩人來這裡的理由,但都不對。其間,女中開始說兩人是不是「麻煩的客人」。親子的「陰沉」感、「話也奇妙地少」,加上附近也有「東尋坊」等等,種種合起來,她說出了「會不會親子心中(殉情自殺)」的疑念。
一晩過ごした翌朝、出かけるときの二人の様子にも違和感が描き出されていました。それは、母親が手ぶらで、息子はしぼんだボストンバッグを一つだけ手に提げている、という恰好に対する違和感です。実は、日本の習わしの中に『死出の旅』の装束として『頭陀袋』を下げることがあって、その袋の中は少しのお金だけを入れておくようです。「親子心中」などという話題もあったため、そのような想像をしてしまい女将は「ぎくり」としたのでしょう。何れにせよ、冒頭の妙な雰囲気が疑念へと変わっていく、女将の心情の「変化」が読めますね。
過了一晚的翌晨,兩人外出時的樣子也被描繪出違和感。那是——母親兩手空空、兒子只手提著一個癟掉的波士頓包——對這個打扮的違和感。其實,日本的習俗中作為「死出之旅」的裝束有「頭陀袋」,那袋中只放少許錢。因為也有「親子心中」這話題,便產生了那樣的想像,女將「驚」了一下吧。無論如何,從開頭的奇妙氛圍變為疑念——女將心情的「變化」可以讀出來。
学習のねらい
小説「とんかつ」の二回目です。前回確認した物語の設定をもとに、登場人物の心情を追いかけていきましょう。「二人連れの客」の境遇をしっかりと理解し、それに対する登場人物それぞれの心情を読み取れるとよいです。現実の人の気持ちはなかなか分からないことがありますね。小説も同じで、登場人物の心情が言葉で表現されない部分が多くあります。人の気持ちを理解するように、本文の表現を手がかりに探り、想像しましょう。
小說「とんかつ」的第二回。以上回確認的物語設定為基礎,來追蹤登場人物的心情吧。好好理解「二人結伴的客人」的境遇,並能讀取各登場人物對它的心情就好。現實中人的心情,往往不容易理解。小說也一樣,登場人物的心情未以言語表現的部分很多。如同理解他人的心情那樣,以本文的表現為線索去探索、想像吧。
●学習のポイント●
〈一〉女将の「驚き」について
〈二〉親子の境遇について整理する
〈三〉母親の心情を考える
〈一〉關於女將的「驚」 〈二〉整理關於親子的境遇 〈三〉思考母親的心情
まずこの場面の初めの一文に、「親子は、約束どおり日暮れ前に帰ってきたが、それを玄関に出迎えて、思わず、あ、と驚きの声をもらしてしまった。」とあります。これは「息子」の「頭」が「すっかり丸められ」ていたことに対する驚きですね。出かける前には、「厄介な客」で「親子心中」するのではないかという疑念まで抱いていましたが、無事帰ってきてほっとしたと思ったら、息子がすっかり頭を丸めていた。そんなこと想像もしていなかったから、客ではあるものの、あ、と声が出るほど驚いたわけです。
首先這個場面的第一句寫著:「親子如約定地在日落前回來,但去玄關迎接時,不禁發出『啊』的驚聲。」這是對「兒子」的「頭」「徹底剃了」這件事的驚訝。出門前,曾抱有「麻煩的客人」、「會不會親子殉情」這種疑念,本以為平安回來鬆了口氣,沒想到兒子已經把頭整個剃了。完全沒想到會這樣,雖是客人,但驚到「啊」地出聲了。
しかしこのときに、『二人がここにやってきた理由』を女将は理解しました。「ふと、宿泊カードに光林寺内とあったのを思い出した」と書かれていますね。「光林寺内」ということは、お寺に住んでいる人たちだということです。しかも息子は「今春中学卒業」とも書いてありましたね。この宿の近くには曹洞宗の大本山もある。つまり、お寺に住んでいる親子は、そこへの入門のために青森からやってきたのだということです。
然而此時,女將理解了『兩人為什麼來這裡』。寫著「她忽然想起住宿卡上寫著光林寺內」。「光林寺內」是說,他們是住在寺裡的人。而且兒子也寫著「今春中學畢業」呢。這旅館附近也有曹洞宗的大本山。也就是說,住在寺中的親子是為了到那兒入門而從青森來的。
それを理解した女将は一つの心配を抱きます。「痛々しいほど可憐に見えた」この少年が、「峻烈を極める」と聞く修行に耐えられるのかと心配したわけです。
理解這件事的女將抱有一個擔心。她擔心——這個「看起來痛切般可憐」的少年,能否承受聽說「嚴峻至極」的修行。
それに対する母親の答えは、「芯の強い子ですからに、なんとかこらえてくれましょう。父親も見守ってくれてます。」とありました。セリフの後には「珍しく力んだ口調で、息子にも自分にも言い聞かせるようにそう言った」と書かれています。このセリフからは、「息子なら大丈夫」と思っている以上の何やら重い決意めいた感じが伝わってくるような気がしませんか?
對此母親的回答是:「是個內心堅強的孩子,總會忍耐過去吧。父親也在守護著。」台詞後寫著「以難得的用力口吻,像是對兒子也像是對自己說那樣地說了出來」。從這台詞中,傳達出超過「兒子應該沒問題」的某種沉重決意般的感覺——你不覺得嗎?
さて、母親が女将に身の上を話します。その話が、作品冒頭の二人の妙な雰囲気...
那麼,母親向女將訴說了身世。這番話,將作品開頭兩人的奇妙氛圍與疑念,一口氣解決了。
や疑念を一気に解決していきます。
先ほど「父親も見守ってくれてます」という母親のセリフがありました。じつは、寺の住職であった父親はお仕事中に交通事故で亡くなったというのです。育ち盛りの息子を残して。その後、いろんなお務めを父親無しでしのがなければならなかった母親はきっと大変だったと想像します。「出費」もかさみ「檀家の声」も高まっていき、でも息子を住職に仕立てるには大本山で三年以上、ほかに本科一年間の修行を積まなければならない。そういう状況のもと、仕方なく中学卒業とともに修行に出すことになったようです。母親は「入門するのを見届けたら」「面会などせずに」「五年間の修行を終えて帰ってくるのを待つつもりでいる」と語っています。本当は心配でたまらなくて、面会もしたいのではないでしうか。でも自分がそんな思いを抱いては、息子にも「里心」がついてはいけない、という「母親」の決意が伝わってきます。
剛才有母親「父親也在守護著」這句台詞。其實,身為寺住職的父親是在工作中因交通事故而過世的。留下了正在成長的兒子。其後,必須在父親不在的情況下繼續寺裡的種種事務的母親,想像起來一定很辛苦。「支出」也增加,「檀家的聲音」也高漲,但要把兒子培養成住職,必須在大本山修行三年以上、加上本科一年。在這樣的狀況下,不得已便在中學畢業後讓他出去修行。母親說「看見他入門之後」、「不會去探視」、「打算等他結束五年修行回來」。其實是擔心得不得了、也想去探視吧。但若自己懷有那樣的念頭,兒子也會生『鄉愁』之心——傳達出「母親」的決意。
息子については、この場面でも、なかなか心情を読み取りづらいです。でも前の場面で頭を丸めて帰ってきたとき、「仕方ない」という風に頭を振っていました。自ら喜んでの入門ではもちろんありませんが、その道を強く反発しているわけでもありません。きっと自分が父の後を継ぐことを受け入れている、そんな感じではないでしょうか。
關於兒子,這場面也很難讀取出心情。但在前一場面剃了頭回來時,他以「沒辦法」的樣子搖了搖頭。當然不是自己樂於入門,但也並不是強烈地反對那條路。應該是接受了自己繼承父業——這樣的感覺吧。
二人の境遇を知った女将の心情を整理しましょう。物語の冒頭で二人に「親子心中」の疑念を抱いていた気持ちとは全く心情が異なっています。息子がしばらく「娑婆」と別れるという事実を受け止め、母親に「お夕食はうんとごちそうしましょう。何がお好きかしら。」と尋ねていました。二人の境遇に触れ、応援の気持ちが芽生えるように『変化』しています。
讓我們整理一下知道兩人境遇後女將的心情吧。與物語開頭抱有「親子心中」疑念的心情完全不同。她接受了兒子將暫時與「娑婆(俗世)」分離這個事實,問母親:「晚餐就讓他大吃一頓吧。喜歡什麼呢?」。觸及兩人的境遇,心情『變化』為萌生應援的心情。
母親の思いも確認しておきます。大本山に入門し修行をはじめる少年。その入門を見届ける母。さて、いったいどんな料理を注文したのでしょうか。母親が即答したのは「とんかつ」でした。旅館で出す料理としては特別に高価な料理というものでもありません。また、お寺の戒律や、修行をはじめるという状況を考えると「とんかつ」というのは適さないように思えます。でも、母親はそれを即答しました。入門前にお腹いっぱい好きなものをたべさせてやりたい、まさに『親心』という感じですよね。
也確認一下母親的想法吧。即將入門大本山開始修行的少年。看著入門的母。那麼,到底點了什麼料理呢?母親即答的是「炸豬排」。作為旅館供應的料理,並不是特別昂貴的東西。又,考慮寺廟的戒律與正要開始修行的狀況,「炸豬排」似乎並不合適。但是,母親卻即答了。「想在入門前讓他飽食喜歡的東西」——這正是『親心』的感覺呢。
その注文に「これまででいちばん厚いとんかつ」で応える女将の心情にも温かさを感じます。この場面、最後の二人の食事の様子も含め、言葉で細かく表現されてはいませんが、とっても人間的な深みのある心の交流が描かれていますね。
對那個點餐,以「至今最厚的炸豬排」回應的女將之心情,也讓人感到溫暖。這個場面,包含最後兩人吃飯的樣子,雖然沒有以言語細細表現,但描繪了非常人間性、有深度的心的交流呢。
学習のねらい
小説「とんかつ」の三回目です。最後の場面です。前回の話から1年後の場面になります。一年という時間が長いか短いかは、人によって違うと思いますが、この小説の一年間はどのような「変化」をもたらしたでしょうか。それぞれの「変化」に注目して読みましょう。そして「変化」したものの理解を通して、作品全体で伝えたかったことも考えられるとよいでしょう。
小說「とんかつ」的第三回。是最後的場面。是前一回故事的一年後的場面。一年的時間是長是短,依人而異,但這篇小說的一年帶來了什麼樣的「變化」呢?請注目各種「變化」來閱讀。然後通過理解「變化」之物,也能思考作品整體想傳達的事就好。
●学習のポイント●
〈一〉息子の成長について
〈二〉語り手について考える
〈三〉変化したものは何だろう
〈一〉關於兒子的成長 〈二〉思考關於敘述者 〈三〉變化的是什麼
最後の場面を読みましょう。入門した一年後、修行中に右足を骨折して入院した息子のお見舞いに、母親がやってくる場面です。息子との再開の時間は夕方六時、ちょうど夕飯時です。
讀最後的場面吧。是——入門一年後、在修行中右腳骨折而住院的兒子,母親來探病的場面。與兒子重逢的時間是傍晚六點,正好是晚餐時候。
前の場面では「とんかつ」をたべていましたが、今回は何を出すのでしょうか。今回は完全に「修行中の身」です。そんな息子に「とんかつ」を出していいものか、女将も母親も少しためらいはあるようでした。それでも、お互い気持ちを察し合い、息子が一番好きな「とんかつ」を出してやります。この女将と母親のやり取りの場面は、母親の親心や、女将の温かい思いやりがよく伝わってきます。なかなか読み応えのある場面です。ぜひゆっくり味わってください。
前一場面吃的是「炸豬排」,本回端出什麼呢?本回完全是「修行中之身」。對這樣的兒子端出「炸豬排」好不好,女將與母親似乎也有些猶豫。即便如此,彼此察知對方的心情,端出兒子最喜歡的「炸豬排」。這個女將與母親的互動場面,可以很好地傳達母親的親心、女將溫暖的體貼。是個非常有讀頭的場面。請務必慢慢品味。
さて、再開した息子の様子もまとめておきましょう。物語の最初の息子は「青白い顔の、ひょろりとした、ひ弱そうな少年」でした。「修行に耐えられるか」という心配を抱くほどでしたよね。一年ぶりにやって来た息子の様子はいかがですか? 「わずか一年足らずの間に顔からも体つきからも可憐さがすっかり消えて、見違えるような凛とした僧になっている」と表現されています。「凛とした」とはきりっとして、りりしい引き締まった様子のことです。人前に出るのも照れて母親の後で言葉も発しなかった少年が、「その節はお世話になりました」という立派な挨拶を「錬れた太い声」でしていますよ。「錬れた」の「錬」は「鍛錬」の「錬」です。つまり修行で鍛えられて心も体も成長して、声も太くなっているのでしょうね。まだ十六歳ですが、ずいぶん大人っぽくなりました。
那麼,也整理一下重逢時兒子的樣子吧。物語最初的兒子是「臉色青白、瘦長、看起來體弱的少年」。曾擔心「能否承受修行」呢。一年後來到的兒子的樣子如何呢?被表現為「在短短不到一年之間,從臉、體型上可憐之態完全消失,變成了讓人認不出來的凜然之僧」。「凜然」是說端正、英俊、神情緊繃的樣子。連在人前都會害羞地躲在母親後面、不發一言的少年,現在以「鍛鍊過的粗厚聲音」說出「那時承蒙照顧了」這樣得體的招呼。「錬」是「鍛鍊」的「錬」。也就是說,在修行中被鍛鍊,心與身都成長了,聲音也變粗了吧。雖然才十六歲,但已經很有大人味了。
さて、最後の場面を読んでみると、少年の成長をより強く感じます。「好物」の「とんかつ」を用意してくれたことに気づいた少年と女将のやり取りです。とっても大人っぽい会話です。無言で合掌をする仕草も表情も、ずいぶん成長したことが分かります。
那麼,讀最後場面的話,更強烈地感受到少年的成長。是發現端出了「最愛的」「炸豬排」的少年與女將的互動。是非常成人的對話。無言地合掌的動作與表情,可看出有了相當大的成長。
皆さん、今回の物語の『主人公』って誰だと思いましたか? 主に登場したのは、母親、息子、女将ですよね。物語の『主人公』というものを、『ストーリーの展開の中心になる者』『全体を通して最も大きく変化する者』と捉えると『息子』が主人公だと言えそうです。父親の死から始まり、入門して一年後に至るまでの時間の経過があります。それを通して、ひ弱そうだった少年が立派な大人になっていく、そんな成長がみられる物語だと言えそうです。
各位,本回物語的『主角』各位覺得是誰呢?主要登場的是母親、兒子、女將呢。物語的『主角』,若把握為『故事展開的中心者』、『貫穿全篇變化最大者』,可以說『兒子』是主角。從父親之死開始,至入門一年後的時間經過。透過這個經過,看似體弱的少年逐漸成為了得體的大人——可說是個能見到這樣成長的物語。
でも、主人公は『女将』ではないかと思った人も少なくないのではないでしょうか。おそらく、この物語が『女将』の視点を通して描かれていたからだと思います。『女将』の目を通して、二人の様子や心情が語られていたのです。ですから、読者である私たちは、自然と女将の立場から物語を眺めていたのです。
但是,覺得主角是『女將』的人應該不少吧。恐怕是因為這個物語是透過『女將』的視點來描繪的。透過『女將』的眼,敘述了兩人的樣貌與心情。所以,作為讀者的我們,自然從女將的立場眺望物語。
このように物語を読むときには登場人物の心情や変化を追いかけるだけでなく、『語り手』や『視点』などを意識するのも良いです。そこにも作者の意図があるわけですから。
如此這般,讀物語時,不只追蹤登場人物的心情與變化,意識『敘述者』『視點』等也很好。因為這裡也有作者的意圖。
物語を読む際には『変化』を意識してくださいとお話ししてきました。『変化』という点では前のポイントで『少年』の変化について確認をしました。少年の成長に合わせて、その周りにいる人の変化にも注目してみましょう。
我一直說讀物語時請意識『變化』。『變化』這一點,前一個要點中確認了『少年』的變化。配合少年的成長,也注目其周圍人物的變化吧。
まず母親を見てみましょう。入門後に見舞いにやってきた際の母について「和装の、小鬢に白いものが目につくようになった母親」と表現されています。白髪が目立つようになったという表現から、母親がどんなふうに過ごしてきたのか想像できるでしょうか。夫を交通事故で亡くし、その後継ぎである息子を修行に出してからこの一年。母親が一人で寺を守ってきたのです。いろんな苦労があったことでしょう。お寺の仕事、檀家との関係、お金のこと、いろんなことを一人で抱えながらも、息子を応援し続けて過ごした一年間だったことが感じられる変化だと思いませんか。
首先看母親吧。對於入門後來探病時的母,被表現為「和裝、鬢角白色變得醒目的母親」。從白髮變得醒目的這個表現,是否能想像母親是如何度過這一年的呢?丈夫因交通事故過世,將其後繼之兒子送去修行的這一年。母親一人守著寺。應該有種種辛苦吧。寺裡的工作、與檀家的關係、金錢的事,一邊一人扛著種種,一邊持續應援兒子——可以感到這是這樣度過的一年所帶來的變化。
女将はいかがでしょうか。物語のはじめとおわりで、「二人連れの客」に対する捉え方が大きく変わりましたよね。妙な雰囲気の二人に対する疑念を超えて、心から応援するようになりました。息子に対しても、入門してやっていけるかという心配が、一年後の凛々しい様子を見てすっかり吹き飛んだ様子でした。特に、女将が息子に「とんかつ」を出してやる心情には深い味わいを感じます。なんせ、仏道の修行中である「息子」に、直接頼まれていない「とんかつ」を出してやるのですから。母親の苦労、息子への思い、息子の成長、さまざまな思いを抱いてこの宿で迎えた二人の気持ちを察した女将。戒律なんかよりも、人の気持ちや愛情を優先させようという気持ちを感じます。想像しすぎでしょうか。
女將如何呢?在物語的開始與結尾,對於「二人結伴的客人」的把握方式大大改變了呢。超越了對奇妙氛圍兩人的疑念,變成發自內心應援。對兒子也是,擔心入門能否堅持,看到一年後凜凜然的樣子完全飛散。特別是女將對兒子端出「炸豬排」的心情,讓人感到深的滋味。畢竟,是對「修行中」的「兒子」端出沒被直接拜託的「炸豬排」啊。母親的辛苦、對兒子的思念、兒子的成長,懷著種種思緒在這旅館迎接兩人——女將察知了她們的心情。比起戒律,更要優先人的心情與愛——這樣的心情能感受到。是不是想像得太多了呢。
でも、そうやって母親や女将の変化も合わせて考えると、この物語の中で迎えた息子の成長の意味も、より味わいが深くくなります。
但是,把母親與女將的變化合在一起思考的話,這物語中迎來的兒子之成長的意義,也會變得更有滋味。
以上三回にわたって小説「とんかつ」を読み進めました。作者が読者をひきつけるためにさまざまな工夫を凝らしていましたね。その作者の工夫を味わいながら、物語の世界に入り込んだり、登場人物の心情を想像したりしながら、小説を楽しく読めるとよいですね。
以上歷經三回讀完了小說「とんかつ」。作者為了吸引讀者下了種種功夫呢。一邊品味作者的用心,一邊進入物語的世界、想像登場人物的心情,能愉快地讀小說就好了。
三浦哲郎
須貝はるよ。三十八歳。主婦。
同 直太郎。十五歳(今春中学卒業)。
宿泊カードには痩せた女文字でそう書いてあった。住所は、青森県三戸郡下の村。番地の下に、光林寺内とある。
近くに景勝地を控えた北陸の城下町でも、裏通りにある目立たない和風の宿だから、こういう遠来の客は珍しい。
日が暮れて間もなく、女中が二人連れの客だというので、出てみると、地味な和装の四十年配の女が一人、戸口にひっそり立っている。連れの姿は見えない。
女は、空きがあれば二泊したいのだガ、と言った。言葉に、日頃聞き慣れない訛があった。
「お一人さまで?」
「いえ、二人ですけんど。」
女は振り返って、半分開けたままの戸の外へ鋭く声をかけた。ちゃんづけで名を呼んだのが、なおちゃ、と聞こえた。青白い顔の、ひょろりとした、ひよわそうな少年が戸の陰からあらわれて、はにかみ笑いを浮かべながらぺこりと頭を下げた。両手に膨らんだボストンバッグを提げている。もう三月も下旬だというのに、まだ重そうな冬外套のままで、襟元から黒い学生服がのぞいている。そういえば、女のほうも厚ぼったい防寒コートで、首にスカーフまで巻いていた。
「これ、息子でやんして……。」
女もはにかむように笑いながら、ひっつめ髪のほつれ毛を耳のうしろへかき上げた。
初めは、近在から市内の高校へ受験に出てきた親子かと思ったが、女中によれば、高校の入学試験は半月も前に済んだという。そんなら、進学準備の買いものだろうか。下宿探しだろうか。それとも、卒業記念の観光旅行だろうか――いずれにしても、二泊三日とは豪勢な、と思っていたが、書いてもらった宿泊カードを見ると、なんと北のはずれからきた人たちである。
これは、ただの物見遊山の旅ではあるまい。宿泊カードの職業欄に、主婦、とか、今春中学卒業、などと書き入れるところを見ると、あまり旅慣れている人とも思えないが、どうしたのだろう。
「まさか、厄介なお客じゃないでしょうね。」
と女中が声をひそめて言った。
「厄介な、というと?」
「たとえば、親子心中しにきたなんて……。」
「あほらしい。」
「だけど、あの二人、なんだか陰気で、湿っぽいじゃありませんか。めったに」
笑顔を見せないし、口数も妙にすくないし……。」
「それは田舎の人たちで、こんなところに泊まるのに慣れてないから。だいいち、心中なんかするつもりなら、なんでわざわざここまで遠出してくるのよ。」
「ここなら、近くに東尋坊もあるし、越前岬も……。」
「景色のいい死に場所なら、東北にだっていくらもあるわ。それに、心中する人たちが二晩も道草食う?」
「案外、道草じゃないかも、奥さん。まず、明日は一日、死に場所を探して、明後日はよいよい……。」
「よしてよ、薄気味悪い。」
もちろん、冗談のつもりだったが、翌朝、親子が、食事を済ませると間もなく外出の支度をして降りてきたときは、ぎくりとした。母親は手ぶらで、息子のほうがしぼんだボストンバッグを一つだけ手に提げている。
「お出かけですか。」
「はい……。」
この親子は、なにを話すときでも、きまってはにかむような笑いを浮かべる。客のことでよけいな穿鑿はしないのがならわしなのだが、つい、さりげなく、
「今日は朝から穏やかな日和で……どちらまで?」と尋ねないではいられなかった。
「え……あちこち、いろいろと……。」
母親はそう答えただけであった。あやうく、東尋坊、と口に出かかったが、
「もし、郊外の方へお出かけでしたら、私鉄やバスの時間を調べてさしあげますが。」
と言って顔色をうかがうと、
「いえ、けっこうで……交通の便は発つ前にだいたい聞いてきましたすけに。日暮れまでには戻ります。」
母親は、べつだん動じたふうもなくそう言うと、んだら、いってまいります、と丁寧に頭を下げた。
親子は、約束どおり日暮れ前に帰ってきたが、それを玄関に出迎えて、思わず、あ、と驚きの声をもらしてしまった。母親は出かけたときのままだったが、息子のほうは、髪を短く伸ばしていた頭がすっかり丸められて、雲水のように青々としていたからである。
あまりの思いがけなさに、ただ目をみはっていると、
「まんず、こういうことになりゃんして……やっぱし風がしみると見えて、くしゃみを、はや三度もしました。」
母親は、仕方なさそうに笑って息子をかえりみた。息子のほうはにこりともせずにうつむいて、これまた仕方がないというふうに青い頭をゆるく左右に振っている。どうやら、どちらも納得ずくの剃髪らしく、
「なんとまあ、涼しげな頭におなりで。」
と、ようやく声を上げてから、ふと、宿泊カードに光林寺内とあったのを思い出した。
「それじゃ、こちらがお坊さんに……?」
「へえ、雲水になりますんで。明日から、ここの大本山に入門するんでやんす。」
母親は目をしばたたきながらそう言った。
それで、この親子にまつわる謎がいちどに解けた。大本山、というのは、ここからバスで半時間ほどの山中にある曹洞宗の名高い古刹で、毎年春先になると、そこへ入門を志す若い雲水たちが墨染めの衣姿で集まってくる。この少年もそのひとりで、北のはずれから母親に付き添われてはるばる修行にきたのである。
それにしても、頭を丸めた少年は、前にも増してなにか痛々しいほど可憐に見えた。さっき青々とした頭に気づいたとき、まるで雲水のような、とは思ったものの、本物の雲水になるための剃髪だとは思いも及ばなかったのは、そのせいだが、母親によれば、得度さえ済ませていれば中学卒で入門が許されるという。
けれども、ここの大本山での修行は峻烈を極めると聞いている。果たしてこの幼い少年に耐えられるだろうかと、他人事ながらはらはらして、
「でも……お母さんとしてはなにかとご心配でしょうねえ。」
と言うと、
「なに、こう見えても芯の強い子ですからに、なんとかこらえてくれましょう。父親も見守ってくれてます。」
母親は珍しく力んだ口調で、息子にも、自分にも言い聞かせるようにそう言った。――息子が湯を使っている間、帳場で母親に茶を出すと、問わず語りにこんなことを話してくれた。自分は寺の梵妻だが、おととしの暮れ近くに、夫の住職が交通事故で亡くなった。夫は、四、五年前から、遠い檀家の法事に出かけるときは自転車を使っていたが、町のセールスマンの口車に乗せられてスクーターに乗り換えたのがまずかった。凍いてついた峠道で、スリップしたところを大型トラックにはねられてしまった。
跡継ぎの息子はすでに得度を済ませていたが、まだ中学二年生である。仕方なく、町にあるおなじ宗派の寺に応援を仰いでなんとか急場をしのいできたが、出費もかさむし、いつまでも住職のいない寺では困るという檀家の声も高まって、一刻も早く息子を住職に仕立てないわけにはいかなくなった。住職になるには、大本山で三年以上、ほかに本科一年間の修行を積まねばならない。ゆくゆくは高校からしかるべき大学へ進学させるつもりだったが、もはやそんな悠長なことは言っていられない。十五で修行に出すのはかわいそうだが、仕方がなかった。
自分は明日、息子が入門するのを見届けたら、すぐ帰郷する。入門後は百日、面会はできないというが、里心がつくといけないから面会などせずに、郷里で寺を守りながら、息子がおよそ五年間の修行を終えて帰ってくるのを待ついつもりでいる……。
「それじゃ、息子さんは今夜で娑婆とは当分のお別れですね。お夕食はうんとごちそうしましょう。何がお好きかしら。」 そうきくと、母親は即座に、 「んだら、とんかつにしていただけゃんす。」
と言った。
「とんかつ……そんなものでよろしいんですか?」
「へえ。あの子は、寺育ちのくせに、どういうものかとんかつが大好物でやんして……。」
母親は、はにかむように笑いながらそう言った。
だから、夕食には、これまででいちばん厚いとんかつをじっくりと揚げて出し
た。しばらくすると、給仕の女中が降りてきて、
「お二人は、しんみり食べてますよ。今のぞいてみたら、お母さんの皿はもう空っぽで、お子さんのほうはまだ食べてます。お母さんは箸を置いて、お子さんがせっせと食べるのを黙って見てるんです。」
と言った。
それから一年近くたった翌年の二月、母親だけが一人でひょっこり訪ねてきた。面会などしないと強気でいても、やはり、いちど顔を見ずにはいられなくなったのだろうと思ったが、そうではなかった。修行中の息子が、雪作務のとき僧坊の屋根から雪といっしょに転落し、右脚を骨折して、今は市内の病院に入院しているのだという。
「もう歩けるふうでやんすが、どういうことになっているやらと思いましてなあ。」相変わらず地味な和装の、小鬢に白いものが目につくようになった母親は、決して面会ではなく、ただちょっと見舞いにきただけだと言った。
息子の手紙には、病院にきてはいけない、夕方六時に去年の宿で待っているようにとあったと言うから、
「じゃ、お夕食はごいっしょですね。でも、去年とは違いますから、なにををお出しすればいいのかしら。」
「さあ……修行中の身ですからになあ。したが、やっぱし……。」
「わかりました。お任せください。」
と引き下がって、女中にとんかつを用意を言い渡した。
夕方六時きっかりに、衣姿の雲水が玄関に立った。びっくりした。わずか一年足らずの間に、顔からも体つきからも可憐さがすっかり消えて、見違えるような凜とした僧になっている。去年、人前では口をつぐんだままだった彼は、思いがけなく錬れた太い声で、
「おひさしぶりです。その節はお世話になりました。」
と言った。それから、調理場から漂ってくる好物の匂いに気づいたらしく、ふと目を和ませて、こちらを見た。
「……よろしかったでしょうか。」
彼は無言で合掌の礼をすると、右脚をすこし引きずるようにしながら、母親の待つ二階へゆっくり階段を昇っていった。
● 三浦哲郎 一九三一年[昭和6]─二〇一〇年[平成22]。
青森県生まれ。小説家。本文は『短編集モザイクⅠ みちづれ』(一九九一年刊)による。
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