言語げんご文化ぶんか #39-41

現代げんだいぶん

こころ小説しょうせつ1]

とんかつ 【全三回ぜんさんかい

三浦みうら哲郎てつろう

講師こうし 小山こやま 志門しもん

とんかつ 【いち

学習がくしゅうのねらい

小説しょうせつ「とんかつ」を全三回ぜんさんかい学習がくしゅうしていきます。今年度こんねんどはじめての小説しょうせつ教材きょうざいですから、基本的きほんてき小説しょうせつかた確認かくにんし、物語ものがたりのスタートとなる設定せっていをきっちり把握はあくしましょう。この作品さくひんは、言葉ことばでは表現ひょうげんされていない登場とうじょう人物じんぶつ心情しんじょうを、さまざまな表現ひょうげんつないで理解りかいしていく必要ひつようがあります。作者さくしゃ表現ひょうげん工夫くふうあじわいながら、すすめましょう。

文法・表現

〜で学習していきます(手段+継続)
全三回で学習していきます」=「以全三回來學習」。
〜は、〜を読み繋いで〜していく必要があります(連繋+必要)
を読み繋いで〜していく必要があります」=「需要連讀…來…」。
〜ながら、〜進めましょう(並行+勧誘)
味わいながら、読み進めましょう」=「一邊品味,一邊讀下去」。

中文翻譯

用全三回學習小說「とんかつ」。因為是本年度第一個小說教材,先確認基本的小說讀法,並好好把握作為物語起點的設定吧。本作品中,未以言語表現的登場人物的心情,需要藉由連讀各種表現來理解。一邊品味作者表現上的用心,一邊讀下去吧。

学習がくしゅうのポイント●

いち物語ものがたりかた整理せいりする
場面ばめん設定せってい整理せいりする
さん親子おやこ様子ようす

文法・表現

〜を整理する/〜を読み取る(漢語動詞)
動作の整理

中文翻譯

〈一〉整理物語的讀法 〈二〉整理場面・設定 〈三〉讀取親子的樣子

物語ものがたりかた整理せいりする

みなさんは小説しょうせつむときに、どこに面白おもしろさをかんじるでしょうか。ひとによって、きなジャンルもことなるどおもいますが、むかしいまも、小説しょうせつ普遍的ふへんてき人間にんげんいとなみをつめ、そのこころうごきをえがいていることにわりはありません。物語ものがたりえがされた人間にんげん模様もようを、全体ぜんたいとおしてあじわうというのが、小説しょうせつむうえで一番いちばん大事だいじです。

文法・表現

〜によって、〜異なる(依存)
人によって異なる」=「依人不同」。
〜に変わりはありません(不変)
変わりはありません」=「沒有改變」。
〜うえで一番大事です(評価)
うえで一番大事です」=「在…上是最重要的」。

中文翻譯

各位讀小說的時候,會在哪裡感受到趣味呢?我想,依人不同,喜歡的類型也不同,但不論古今,小說都凝視著普遍的人類活動、描繪其心的動向——這一點未曾改變。將物語中描繪出的人間百態,貫穿全篇來品味——這在閱讀小說上是最重要的事。

物語ものがたりえがされる人間にんげん模様もようについて理解りかいふかめていくためには、どのようにんでいけばよいでしょうか。まず第一だいいちに、小説しょうせつ舞台ぶたい設定せっていをしっかり理解りかいすることが大切たいせつです。具体的ぐたいてきには、①何時いつ ②どこで ③だれが ④なにをしているのか、を意識いしきしてむとよいでしょう。作者さくしゃは、読者どくしゃ作品さくひんなかはいめるよういろいろ工夫くふうらして舞台ぶたい設定せっていをしています。ですから、その作者さくしゃ工夫くふうたのしみながら、どんな舞台ぶたい設定せっていなのかを理解りかいできるとよいですね。そうやって設定せっていをつかめたら、登場とうじょう人物じんぶつ行動こうどう、やりりを丁寧ていねいっていきましょう。そのさいには、『変化へんか』を意識いしきしてみてください。変化へんかのない小説しょうせつはありませんから、なにが、どう変化へんかするのかを意識いしきしてみましょう。そうすることで、登場とうじょう人物じんぶつ心情しんじょういかけられますし、登場とうじょう人物じんぶつ同士どうし関係かんけいにも注目ちゅうもくできるとおもいます。

文法・表現

〜深めていくためには、どのように読んでいけばよいでしょうか(目的+疑問)
ためには、どのように〜よいでしょうか」=「為了…,該如何…才好呢」。
〜を意識して読むとよいでしょう(提案)
意識して読むとよいでしょう」=「意識…來讀比較好」。
〜よう〜を凝らして〜(目的+手段)
入り込めるよう〜工夫を凝らして」=「為了能進入…,下了功夫」。
〜を意識してみてください(注意の勧誘)
を意識してみてください」=「請意識…」。
〜そうすることで、〜られます(手段+可能)
そうすることで、〜られます」=「這樣做的話,便能…」。

中文翻譯

要對物語中所描繪的人間百態加深理解,該如何閱讀才好呢?首先第一,好好理解小說的舞台設定是重要的。具體來說,意識到①何時②哪裡③誰④在做什麼來讀比較好。作者為了讓讀者能進入作品之中,下了種種功夫來設定舞台。所以,請一邊享受作者的用心,一邊理解這是怎樣的舞台設定吧。這樣掌握設定之後,請仔細讀取登場人物的行動、互動。此時,請意識到『變化』。沒有變化的小說是不存在的,所以請意識「什麼如何變化」來讀。如此一來,便能追蹤登場人物的心情,也能注目登場人物之間的關係。

− 120 −
場面ばめん設定せってい整理せいりする

この物語ものがたり舞台ぶたいはどこでしょうか。冒頭ぼうとういきなり『宿泊しゅくはくカード』とあります。「ちかくに景勝地けいしょうちひかえた北陸ほくりく城下町じょうかまち」で「裏通りうらどおりにある目立めだたない和風わふう宿やど」と表現ひょうげんされてもいます。そんなにひとおおくない、すこ地味じみ雰囲気ふんいき宿やどのようです。

文法・表現

〜とあります(書面記述)
『〜』とあります」=「(書中)寫著『…』」。
〜と表現されてもいます(受身)
と表現されてもいます」=「也被表現為」。
そんなに〜ない、〜のようです(推測)
そんなに〜ない、〜のようです」=「不那麼…、看來是…」。

中文翻譯

這個物語的舞台是哪裡呢?開頭便突然出現『住宿卡』。被表現為「近處有名勝地的北陸城下町」中「位於後街、不顯眼的和風旅館」。看來是個人不太多、稍微樸素氛圍的旅館。

季節きせつは「三月さんがつ下旬げじゅん」とあります。三月さんがつは、卒業そつぎょうわかれがあり、四月しがつになると入学にゅうがくあたらしい出会であいがあります。ですから三月さんがつ下旬げじゅんというのは、環境かんきょう変化へんかきやすい時期じきととらえられます。そんな舞台ぶたい物語ものがたりはじまります。

文法・表現

〜があり、〜になると〜があります(並列+時間条件)
別れがあり、四月になると〜があります」=「有離別,到四月有…」。
〜時期ととらえられます(受身による把握)
時期ととらえられます」=「可被把握為…的時期」。

中文翻譯

季節是「三月也下旬」之記載。三月有畢業、離別,到了四月有入學與新的相遇。所以三月下旬,可看作是環境變化容易發生的時期。在這樣的舞台,物語開始了。

登場とうじょう人物じんぶつ確認かくにんしましょう。宿やどにやってきた『はは』と『息子むすこ』の「二人連れふたりづれきゃく」でした。

文法・表現

〜にやってきた〜(連体修飾)
宿にやってきた『母』と『息子』」=「來到旅館的母與子」。

中文翻譯

也確認登場人物吧。是來到旅館的『母』與『兒子』之「二人結伴的客人」。

母親ははおやは「ひっつめがみ」で、「地味じみ和装わそう四十年配しじゅうねんぱい女性じょせい」。「ひっつめがみ」とは、かみうしろできゅっと一つひとつむすんだ髪型かみがたです。ほかには「宿泊しゅくはくカードにはせた女文字おんなもじ」だったとか、「戸口とぐちにひっそりっている」などとかれています。色んいろん表現ひょうげんわせてイメージすると、「目立めだたない和風わふう宿やど」の雰囲気ふんいきとぴったりな、ひかえめで地味じみ女性じょせいぞうおもかびます。

文法・表現

〜とは、〜(定義)
『ひっつめ髪』とは」=「所謂『緊束髮』就是」。
〜と書かれています(受身+記述)
と書かれています」=「被寫著」。
〜を合わせてイメージすると、〜が思い浮かびます(合成+想像)
を合わせてイメージすると、〜思い浮かびます」=「合在一起想像,便浮現…」。

中文翻譯

母親是「緊束髮」、「樸素和裝的四十多歲女性」。所謂「緊束髮」是把頭髮在後面緊緊束成一條的髮型。另外也寫著「住宿卡上是瘦弱的女文字」、「在門口悄悄佇立」等等。把各種表現合在一起想像,會浮現一個與「不顯眼的和風旅館」氛圍正合的、低調樸素的女性形象。

さて息子むすこのほうはどうでしょうか。「くろ学生服がくせいふく」をた、「青白いあおじろいかおの、ひょろりとした、ひよわそうな少年しょうねん」。かげから、母親ははおやびかけられてようやく姿すがたすような、とってもシャイで、目立めだたないかんじですね。その二人ふたり心情しんじょうについては直接ちょくせつ表現ひょうげんされておらず、なにをしにたかわからない、みょう雰囲気ふんいきをまとっています。

文法・表現

〜から、〜ようやく姿を出すような、〜感じ(場面の描写)
呼びかけられてようやく姿を出すような、〜感じ」=「被呼喚才終於現身般的感覺」。
〜については直接表現されておらず、〜まとっています(受身否定+連用)
直接表現されておらず、〜雰囲気をまとっています」=「未被直接表現,帶著…氛圍」。

中文翻譯

那麼兒子那邊如何呢?穿著「黑色學生服」、「臉色青白、瘦長、看起來體弱的少年」。從門的陰影處,被母親呼喚才終於現身——非常害羞、不顯眼的感覺呢。這兩人的心情沒有被直接表現出來,帶著「不知為何而來」的奇妙氛圍。

宿やどがわは「女中じょちゅう」と「おくさん」とびかけられている女性じょせいてきます。「おくさん」というのは、きっと宿やど女将おかみさんでしょう。この小説しょうせつは、その女将おかみ視点してんとおしてかたられていきます。読者どくしゃ女将おかみ視線しせんから二人連れふたりづれのことをながめていくことになります。

文法・表現

〜と呼びかけられている〜(受身連体)
と呼びかけられている女性」=「被稱為…的女性」。
〜を通して語られていきます(手段+受身)
視点を通して語られていきます」=「透過視點被敘述」。
〜から〜を眺めていくことになります(視点+進行)
視線から〜眺めていくことになります」=「將從視線眺望」。

中文翻譯

旅館那方,「女中」與被稱為「奧さん」的女性出場。「奧さん」應該是旅館的女將吧。本小說透過該女將的視點敘述。讀者將從女將的視線來眺望這對二人結伴的客人。

親子おやこ様子ようす

みょう雰囲気ふんいき二人ふたり一体いったいなにをしにたのか、整理せいりしていきましょう。

文法・表現

〜が一体何をしに来たのか(疑問内包)
一体何をしに来たのか」=「究竟為何而來」。

中文翻譯

氛圍奇妙的兩人究竟為何而來,讓我們整理一下吧。

女将おかみは、「受験じゅけん」や「下宿げしゅくさがし」、「卒業そつぎょう記念きねん観光かんこう旅行りょこう」など、二人ふたりがここに理由りゆうをいろいろと想像そうぞうしますが、そのすべてがちがっています。そのうち、女中じょちゅう二人ふたりのことを「厄介やっかいなおきゃく」ではないかといはじめます。親子おやこの「陰気いんき」なかんじ、「口数くちかずみょうにすくない」、ちかくに「東尋坊とうじんぼう」などもあることなど、いろいろわせて「親子おやこ心中しんじゅう」でもしてしまうのではないか、という疑念ぎねんべたのです。

文法・表現

〜などを想像します(推測)
を想像します」=「想像…」。
〜のすべてが違っています(否定の総括)
すべてが違っています」=「全都不對」。
〜のではないかと言いはじめます(推量の口語)
のではないかと言いはじめます」=「開始說會不會是…」。
〜など、いろいろ合わせて〜(並列+総合)
など、いろいろ合わせて」=「等等,種種合起來」。

中文翻譯

女將想像「應試」、「找下宿」、「畢業紀念的觀光旅行」等等兩人來這裡的理由,但都不對。其間,女中開始說兩人是不是「麻煩的客人」。親子的「陰沉」感、「話也奇妙地少」,加上附近也有「東尋坊」等等,種種合起來,她說出了「會不會親子心中(殉情自殺)」的疑念。

一晩ひとばんごした翌朝よくあさかけるときの二人ふたり様子ようすにも違和感いわかんえがされていました。それは、母親ははおや手ぶらてぶらで、息子むすこはしぼんだボストンバッグを一つひとつだけげている、という恰好かっこうたいする違和感いわかんです。じつは、日本にほんならわしのなかに『死出しでたび』の装束しょうぞくとして『頭陀袋ずだぶくろ』をげることがあって、そのふくろなかすこしのおかねだけをれておくようです。「親子おyaこ心中しんじゅう」などという話題わだいもあったため、そのような想像そうぞうをしてしまい女将おかみは「ぎくり」としたのでしょう。いずれにせよ、冒頭ぼうとうみょう雰囲気ふんいき疑念ぎねんへとわっていく、女将おかみ心情しんじょうの「変化へんか」がめますね。

文法・表現

〜にも違和感が描き出されていました(受身+並列)
にも違和感が描き出されていました」=「也被描繪出違和感」。
〜という恰好に対する違和感です(説明)
という恰好に対する違和感です」=「對於…這身打扮的違和感」。
〜ため、そのような想像をしてしまい〜(理由+帰結)
ため、想像をしてしまい〜」=「因為…,便產生了那樣的想像」。
いずれにせよ、〜が読めますね(総括)
いずれにせよ、〜が読めますね」=「無論如何,可以讀出…」。

中文翻譯

過了一晚的翌晨,兩人外出時的樣子也被描繪出違和感。那是——母親兩手空空、兒子只手提著一個癟掉的波士頓包——對這個打扮的違和感。其實,日本的習俗中作為「死出之旅」的裝束有「頭陀袋」,那袋中只放少許錢。因為也有「親子心中」這話題,便產生了那樣的想像,女將「驚」了一下吧。無論如何,從開頭的奇妙氛圍變為疑念——女將心情的「變化」可以讀出來。

− 121 −

とんかつ 【

学習がくしゅうのねらい

小説しょうせつ「とんかつ」の二回目にかいめです。前回ぜんかい確認かくにんした物語ものがたり設定せっていをもとに、登場とうじょう人物じんぶつ心情しんじょういかけていきましょう。「二人連れふたりづれきゃく」の境遇きょうぐうをしっかりと理解りかいし、それにたいする登場とうじょう人物じんぶつそれぞれの心情しんじょうれるとよいです。現実げんじつひと気持きもちはなかなかからないことがありますね。小説しょうせつおなじで、登場とうじょう人物じんぶつ心情しんじょう言葉ことば表現ひょうげんされない部分ぶぶんおおくあります。ひと気持きもちを理解りかいするように、本文ほんぶん表現ひょうげんがかりにさぐり、想像そうぞうしましょう。

文法・表現

〜をもとに、〜を追いかけていきましょう(前提+勧誘)
をもとに、〜を追いかけていきましょう」=「以…為基礎,來追蹤…」。
〜が分からないことがありますね(不確実)
分からないことがありますね」=「有不知道的情況」。
〜を手がかりに探り、想像しましょう(手段+勧誘)
を手がかりに探り、想像しましょう」=「以…為線索去探索、想像吧」。

中文翻譯

小說「とんかつ」的第二回。以上回確認的物語設定為基礎,來追蹤登場人物的心情吧。好好理解「二人結伴的客人」的境遇,並能讀取各登場人物對它的心情就好。現實中人的心情,往往不容易理解。小說也一樣,登場人物的心情未以言語表現的部分很多。如同理解他人的心情那樣,以本文的表現為線索去探索、想像吧。

学習がくしゅうのポイント●

いち女将おかみの「おどろき」について
親子おやこ境遇きょうぐうについて整理せいりする
〈三〉母親ははおや心情しんじょうかんがえる

文法・表現

〜について(範囲)
について」=「關於」。

中文翻譯

〈一〉關於女將的「驚」 〈二〉整理關於親子的境遇 〈三〉思考母親的心情

女将おかみの「おどろき」について

まずこの場面ばめんはじめの一文に、「親子おやこは、約束やくそくどおり日暮れひぐれまえかえってきたが、それを玄関げんかん出迎でむかえて、おもわず、あ、とおどろきのこえをもらしてしまった。」とあります。これは「息子むすこ」の「あたま」が「すっかりまるめられ」ていたことにたいするおどろきですね。かけるまえには、「厄介やっかいきゃく」で「親子おやこ心中しんじゅう」するのではないかという疑念ぎねんまでいだいていましたが、無事ぶじかえってきてほっとしたとおもったら、息子むすこがすっかりあたままるめていた。そんなこと想像そうぞうもしていなかったから、きゃくではあるものの、あ、とこえるほどおどろいたわけです。

文法・表現

〜とあります。これは〜に対する驚きですね(書面記述+解釈)
とあります。これは〜に対する驚きですね」=「寫著…。這是對…的驚訝」。
〜と思ったら、〜(期待+逆転)
ほっとしたと思ったら、〜」=「本以為鬆了口氣,沒想到…」。
そんなこと想像もしていなかったから、〜驚いたわけです(理由+帰結)
想像もしていなかったから、〜驚いた」=「因為連想都沒想,所以驚訝」。

中文翻譯

首先這個場面的第一句寫著:「親子如約定地在日落前回來,但去玄關迎接時,不禁發出『啊』的驚聲。」這是對「兒子」的「頭」「徹底剃了」這件事的驚訝。出門前,曾抱有「麻煩的客人」、「會不會親子殉情」這種疑念,本以為平安回來鬆了口氣,沒想到兒子已經把頭整個剃了。完全沒想到會這樣,雖是客人,但驚到「啊」地出聲了。

しかしこのときに、『二人ふたりがここにやってきた理由りゆう』を女将おかみ理解りかいしました。「ふと、宿泊しゅくはくカードに光林寺こうりんじないとあったのをおもした」とかれていますね。「光林寺こうりんじない」ということは、おてらんでいるひとたちだということです。しかも息子むすこは「今春こんしゅん中学ちゅうがく卒業そつぎょう」ともいてありましたね。この宿やどちかくには曹洞宗そうとうしゅう大本山だいほんざんもある。つまり、おてらんでいる親子おやこは、そこへの入門にゅうもんのために青森あおもりからやってきたのだということです。

文法・表現

〜と書かれていますね(受身的引用)
と書かれていますね」=「被寫著」。
〜ということは、〜だということです(推論)
ということは、〜だということです」=「意思就是…」。
つまり、〜のためにやってきたのだということです(要約+目的)
つまり、〜のためにやってきたのだ」=「也就是說,是為了…而來」。

中文翻譯

然而此時,女將理解了『兩人為什麼來這裡』。寫著「她忽然想起住宿卡上寫著光林寺內」。「光林寺內」是說,他們是住在寺裡的人。而且兒子也寫著「今春中學畢業」呢。這旅館附近也有曹洞宗的大本山。也就是說,住在寺中的親子是為了到那兒入門而從青森來的。

それを理解りかいした女将おかみ一つひとつ心配しんぱいいだきます。「痛々しいいたいたしいほど可憐かれんえた」この少年しょうねんが、「峻烈しゅんれつきわめる」と修行しゅぎょうえられるのかと心配しんぱいしたわけです。

文法・表現

〜を抱きます(感情の発生)
心配を抱きます」=「抱有擔心」。
〜ほど〜(程度)
痛々しいほど可憐に見えた」=「痛切般可憐」。
〜に耐えられるのかと心配した(疑問内包+心情)
耐えられるのかと心配した」=「擔心能否承受」。

中文翻譯

理解這件事的女將抱有一個擔心。她擔心——這個「看起來痛切般可憐」的少年,能否承受聽說「嚴峻至極」的修行。

それに対する母親ははおや答えこたえは、「しんつよですからに、なんとかこらえてくれましょう。父親ちちおや見守みまもってくれてます。」とありました。セリフのあとには「めずらしくりきんだ口調くちょうで、息子むすこにも自分じぶんにもかせるようにそうった」とかれています。このセリフからは、「息子むすこなら大丈夫だいじょうぶ」とおもっている以上いじょうなにやらおも決意けついめいたかんじがつたわってくるようながしませんか?

文法・表現

〜ですから、〜なんとか〜くれましょう(理由+意志推量)
ですから、なんとか〜くれましょう」=「因為是…,所以總會…吧」。
〜にも自分にも言い聞かせるようにそう言った(連体+態度)
に言い聞かせるようにそう言った」=「像是對…說那樣地說了」。
〜以上の〜感じが伝わってくる気がしませんか(程度+感受+疑問)
以上の〜感じが伝わってくる気がしませんか」=「不覺得傳達出超過…的感覺嗎」。

中文翻譯

對此母親的回答是:「是個內心堅強的孩子,總會忍耐過去吧。父親也在守護著。」台詞後寫著「以難得的用力口吻,像是對兒子也像是對自己說那樣地說了出來」。從這台詞中,傳達出超過「兒子應該沒問題」的某種沉重決意般的感覺——你不覺得嗎?

親子おやこ境遇きょうぐうについて整理せいりする

さて、母親ははおや女将おかみうえはなします。そのはなしが、作品さくひん冒頭ぼうとう二人ふたりみょう雰囲気ふんいき...

文法・表現

〜の話します(陳述)
身の上を話します」=「訴說身世」。
〜を一気に解決していきます(程度+進行)
を一気に解決していきます」=「一口氣解決」。

中文翻譯

那麼,母親向女將訴說了身世。這番話,將作品開頭兩人的奇妙氛圍與疑念,一口氣解決了。

− 122 −

疑念ぎねん一気いっき解決かいけつしていきます。

さきほど「父親ちちおや見守みまもってくれてます」という母親ははおやのセリフがありました。じつは、てら住職じゅうしょくであった父親ちちおやはお仕事しごとちゅう交通こうつう事故じこくなったというのです。そだざかりの息子むすこのこして。その後、いろんなおつとめを父親ちちおやしでしのがなければならなかった母親ははおやはきっと大変たいへんだったと想像そうぞうします。「出費しゅっぴ」もかさみ「檀家だんかこえ」もたかまっていき、でも息子むすこ住職じゅうしょく仕立したてるには大本山だいほんざん三年さんねん以上いじょう、ほかに本科ほんか一年間いちねんかん修行しゅぎょうまなければならない。そういう状況じょうきょうのもと、仕方しかたなく中学ちゅうがく卒業そつぎょうとともに修行しゅぎょうすことになったようです。母親ははおやは「入門にゅうもんするのを見届みとどけたら」「面会めんかいなどせずに」「五年間ごねんかん修行しゅぎょうえてかえってくるのをつつもりでいる」とかたっています。本当ほんとう心配しんぱいでたまらなくて、面会めんかいもしたいのではないでしうか。でも自分じぶんがそんな思いおもいいだいては、息子むすこにも「里心さとごころ」がついてはいけない、という「母親ははおや」の決意けついつたわってきます。

文法・表現

〜があり、〜なければならなかった〜大変だったと想像します(事実+必要+推測)
父親無しでしのがなければならなかった〜大変だった」=「必須在父親不在的情況下渡過,一定很辛苦」。
〜には〜を積まなければならない(要件)
には〜積まなければならない」=「必須累積…」。
〜仕方なく〜出すことになった(無奈+帰結)
仕方なく〜出すことになった」=「不得已便讓…」。
〜本当は〜ではないでしょうか(裏の心情)
本当は〜ではないでしょうか」=「其實是…不是嗎」。
〜ては〜いけない、という決意(禁止+決意)
てはいけない、という決意」=「不能…的決意」。

中文翻譯

剛才有母親「父親也在守護著」這句台詞。其實,身為寺住職的父親是在工作中因交通事故而過世的。留下了正在成長的兒子。其後,必須在父親不在的情況下繼續寺裡的種種事務的母親,想像起來一定很辛苦。「支出」也增加,「檀家的聲音」也高漲,但要把兒子培養成住職,必須在大本山修行三年以上、加上本科一年。在這樣的狀況下,不得已便在中學畢業後讓他出去修行。母親說「看見他入門之後」、「不會去探視」、「打算等他結束五年修行回來」。其實是擔心得不得了、也想去探視吧。但若自己懷有那樣的念頭,兒子也會生『鄉愁』之心——傳達出「母親」的決意。

息子むすこについては、この場面ばめんでも、なかなか心情しんじょうりづらいです。でもまえ場面ばめんあたままるめてかえってきたとき、「仕方しかたない」というふうあたまっていました。自らみずからよろこんでの入門にゅうもんではもちろんありませんが、そのみちつよ反発はんぱつしているわけでもありません。きっと自分じぶんちちあとぐことをれている、そんなかんじではないでしょうか。

文法・表現

〜なかなか〜読み取りづらいです(困難)
なかなか〜読み取りづらい」=「很難讀取出」。
〜ではもちろんありませんが、〜わけでもありません(否定+並列の否定)
ではもちろんありませんが、〜わけでもありません」=「當然不是…,但也不是…」。
きっと〜、そんな感じではないでしょうか(推量+柔軟疑問)
きっと〜、そんな感じではないでしょうか」=「應該是…,這樣的感覺吧」。

中文翻譯

關於兒子,這場面也很難讀取出心情。但在前一場面剃了頭回來時,他以「沒辦法」的樣子搖了搖頭。當然不是自己樂於入門,但也並不是強烈地反對那條路。應該是接受了自己繼承父業——這樣的感覺吧。

母親ははおや心情しんじょうかんがえる

二人ふたり境遇きょうぐうった女将おかみ心情しんじょう整理せいりしましょう。物語ものがたり冒頭ぼうとう二人ふたりに「親子おやこ心中しんじゅう」の疑念ぎねんいだいていた気持きもちとはまった心情しんじょうことなっています。息子むすこがしばらく「娑婆しゃば」とわかれるという事実じじつめ、母親ははおやに「お夕食ゆうしょくはうんとごちそうしましょう。なにがおきかしら。」とたずねていました。二人ふたり境遇きょうぐうれ、応援おうえん気持きもちが芽生めばえるように『変化へんか』しています。

文法・表現

〜とは全く心情が異なっています(対比)
とは全く心情が異なっています」=「完全不同」。
〜を受け止め、〜と尋ねていました(接納+詢問)
を受け止め、〜と尋ねていました」=「接納並詢問」。
〜が芽生えるように『変化』しています(変化の様態)
が芽生えるように『変化』しています」=「變化為萌生…」。

中文翻譯

讓我們整理一下知道兩人境遇後女將的心情吧。與物語開頭抱有「親子心中」疑念的心情完全不同。她接受了兒子將暫時與「娑婆(俗世)」分離這個事實,問母親:「晚餐就讓他大吃一頓吧。喜歡什麼呢?」。觸及兩人的境遇,心情『變化』為萌生應援的心情。

母親ははおや思いおもい確認かくにんしておきます。大本山だいほんざん入門にゅうもん修行しゅぎょうをはじめる少年しょうねん。その入門にゅうもん見届みとどけるはは。さて、いったいどんな料理りょうり注文ちゅうもんしたのでしょうか。母親ははおや即答そくとうしたのは「とんかつ」でした。旅館りょかん料理りょうりとしては特別とくべつ高価こうか料理りょうりというものでもありません。また、おてら戒律かいりつや、修行しゅぎょうをはじめるという状況じょうきょうかんがえると「とんかつ」というのはてきさないようにおもえます。でも、母親ははおやはそれを即答そくとうしました。入門にゅうもんまえにおなかいっぱいきなものをたべさせてやりたい、まさに『親心おやごころ』というかんじですよね。

文法・表現

〜を確認しておきます(事前確認)
を確認しておきます」=「事先確認」。
〜というものでもありません(否定的限定)
というものでもありません」=「並不是…」。
〜を考えると〜適さないように思えます(推測)
を考えると〜適さないように思えます」=「考慮…似乎不合適」。
〜まさに『親心』という感じ(強調)
まさに『親心』という感じ」=「正是『親心』的感覺」。

中文翻譯

也確認一下母親的想法吧。即將入門大本山開始修行的少年。看著入門的母。那麼,到底點了什麼料理呢?母親即答的是「炸豬排」。作為旅館供應的料理,並不是特別昂貴的東西。又,考慮寺廟的戒律與正要開始修行的狀況,「炸豬排」似乎並不合適。但是,母親卻即答了。「想在入門前讓他飽食喜歡的東西」——這正是『親心』的感覺呢。

その注文ちゅうもんに「これまででいちばん厚いあついとんかつ」でこたえる女将おかみ心情しんじょうにもあたたかさをかんじます。この場面ばめん最後さいご二人ふたり食事しょくじ様子ようすも含め、言葉ことばこまかく表現ひょうげんされてはいませんが、とっても人間的にんげんてきふかみのあるこころ交流こうりゅうえがかれていますね。

文法・表現

〜にも温かさを感じます(感情)
にも温かさを感じます」=「也感到溫暖」。
〜も含め、〜表現されてはいませんが、〜が描かれています(並列+逆接+受身)
も含め、表現されてはいませんが、描かれています」=「包含…,雖未被表現,但被描繪」。

中文翻譯

對那個點餐,以「至今最厚的炸豬排」回應的女將之心情,也讓人感到溫暖。這個場面,包含最後兩人吃飯的樣子,雖然沒有以言語細細表現,但描繪了非常人間性、有深度的心的交流呢。

− 123 −

とんかつ 【さん

学習がくしゅうのねらい

小説しょうせつ「とんかつ」の三回目さんかいめです。最後さいご場面ばめんです。前回ぜんかいはなしから1ねん場面ばめんになります。一年いちねんという時間じかんながいかみじかいかは、ひとによってちがうとおもいますが、この小説しょうせつ一年間いちねんかんはどのような「変化へんか」をもたらしたでしょうか。それぞれの「変化へんか」に注目ちゅうもくしてみましょう。そして「変化へんか」したものの理解りかいとおして、作品さくひん全体ぜんたいつたえたかったこともかんがえられるとよいでしょう。

文法・表現

〜から1年後の場面になります(時間関係)
から1年後の場面」=「一年後的場面」。
〜どのような「変化」をもたらしたでしょうか(疑問詠嘆)
どのような『変化』をもたらしたでしょうか」=「帶來了什麼樣的變化」。
〜を通して、〜も考えられるとよいでしょう(手段+勧誘)
を通して、〜も考えられるとよい」=「透過…,也能思考…就好」。

中文翻譯

小說「とんかつ」的第三回。是最後的場面。是前一回故事的一年後的場面。一年的時間是長是短,依人而異,但這篇小說的一年帶來了什麼樣的「變化」呢?請注目各種「變化」來閱讀。然後通過理解「變化」之物,也能思考作品整體想傳達的事就好。

学習がくしゅうのポイント●

いち息子むすこ成長せいちょうについて
かたについてかんがえる
〈三〉変化へんかしたものはなにだろう

文法・表現

〜について(範囲)
について」=「關於」。

中文翻譯

〈一〉關於兒子的成長 〈二〉思考關於敘述者 〈三〉變化的是什麼

息子むすこ成長せいちょうについて

最後さいご場面ばめんみましょう。入門にゅうもんした一年いちねん修行しゅぎょうちゅう右足みぎあし骨折こっせつして入院にゅういんした息子むすこのお見舞みまいに、母親ははおやがやってくる場面ばめんです。息子むすことの再開さいかい時間じかん夕方ゆうがた六時ろくじ、ちょうど夕飯ゆうはんどきです。

文法・表現

〜中に〜入院した息子の〜にやってくる場面です(連体修飾+場面)
中に〜入院した〜にやってくる場面」=「來看…的場面」。
ちょうど〜時です(時間の合致)
ちょうど夕飯時です」=「正好是晚餐時」。

中文翻譯

讀最後的場面吧。是——入門一年後、在修行中右腳骨折而住院的兒子,母親來探病的場面。與兒子重逢的時間是傍晚六點,正好是晚餐時候。

まえ場面ばめんでは「とんかつ」をたべていましたが、今回こんかいなにすのでしょうか。今回こんかい完全かんぜんに「修行しゅぎょうちゅう」です。そんな息子むすこに「とんかつ」をしていいものか、女将おかみ母親ははおやすこしためらいはあるようでした。それでも、お互いたがい気持きもちをさっい、息子むすこ一番いちばんきな「とんかつ」をしてやります。この女将おかみ母親ははおやのやりりの場面ばめんは、母親ははおや親心おやごころや、女将おかみあたたかい思いやりおもいやりがよくつたわってきます。なかなかごたえのある場面ばめんです。ぜひゆっくりあじわってください。

文法・表現

〜していいものか、〜ためらいはあるようでした(疑問內含+推測)
していいものか、〜ためらいはあるようでした」=「好不好…似乎有猶豫」。
〜お互い気持ちを察し合い、〜出してやります(互いの理解+行動)
お互い気持ちを察し合い、〜出してやります」=「彼此察知對方的心情,端出」。
〜なかなか読み応えのある場面です(評価)
なかなか読み応えのある場面です」=「是個非常有讀頭的場面」。

中文翻譯

前一場面吃的是「炸豬排」,本回端出什麼呢?本回完全是「修行中之身」。對這樣的兒子端出「炸豬排」好不好,女將與母親似乎也有些猶豫。即便如此,彼此察知對方的心情,端出兒子最喜歡的「炸豬排」。這個女將與母親的互動場面,可以很好地傳達母親的親心、女將溫暖的體貼。是個非常有讀頭的場面。請務必慢慢品味。

さて、再開さいかいした息子むすこ様子ようすもまとめておきましょう。物語ものがたり最初さいしょ息子むすこは「青白いあおじろいかおの、ひょろりとした、ひよわそうな少年しょうねん」でした。「修行しゅぎょうえられるか」という心配しんぱいいだくほどでしたよね。一年いちねんぶりにやって息子むすこ様子ようすはいかがですか? 「わずか一年いちねんらずのあいだかおからもからだつきからも可憐かれんさがすっかりえて、見違みちがえるようなりんとしたそうになっている」と表現ひょうげんされています。「りんとした」とはきりっとして、りりしいまった様子ようすのことです。人前ひとまえるのもれて母親ははおやうしろ言葉ことばはっしなかった少年しょうねんが、「そのせつはお世話せわになりました」という立派りっぱあいさつを「れた太いふといこえ」でしていますよ。「れた」の「れん」は「鍛錬たんれん」の「れん」です。つまり修行しゅぎょうきたえられてこころからだ成長せいちょうして、こえふとくなっているのでしょうね。まだ十六歳じゅうろくさいですが、ずいぶん大人おとなっぽくなりました。

文法・表現

〜ほどでしたよね(程度の確認)
を抱くほどでしたよね」=「到了抱有…的程度呢」。
〜と表現されています(受身)
と表現されています」=「被表現為」。
〜とは、〜のことです(定義)
『凛とした』とは〜のことです」=「所謂『凜然』就是…」。
〜だった少年が、〜挨拶をしていますよ(過去対比+現在)
だった少年が、〜挨拶をしていますよ」=「曾是…的少年,現在做著…的招呼」。
〜つまり〜のでしょうね(要約+推量)
つまり〜のでしょうね」=「也就是說…吧」。

中文翻譯

那麼,也整理一下重逢時兒子的樣子吧。物語最初的兒子是「臉色青白、瘦長、看起來體弱的少年」。曾擔心「能否承受修行」呢。一年後來到的兒子的樣子如何呢?被表現為「在短短不到一年之間,從臉、體型上可憐之態完全消失,變成了讓人認不出來的凜然之僧」。「凜然」是說端正、英俊、神情緊繃的樣子。連在人前都會害羞地躲在母親後面、不發一言的少年,現在以「鍛鍊過的粗厚聲音」說出「那時承蒙照顧了」這樣得體的招呼。「錬」是「鍛鍊」的「錬」。也就是說,在修行中被鍛鍊,心與身都成長了,聲音也變粗了吧。雖然才十六歲,但已經很有大人味了。

さて、最後さいご場面ばめんんでみると、少年しょうねん成長せいちょうをよりつよかんじます。「好物こうぶつ」の「とんかつ」を用意よういしてくれたことにづいた少年しょうねん女将おかみのやりりです。とっても大人おとなっぽい会話かいわです。無言むごん合掌がっしょうをする仕草しぐさ表情ひょうじょうも、ずいぶん成長せいちょうしたことがかります。

文法・表現

〜を読んでみると、〜感じます(試み+感受)
読んでみると、〜感じます」=「讀讀看,便感受到」。
〜気づいた〜とのやり取り(連体修飾)
気づいた〜とのやり取り」=「察覺到的…的互動」。
〜も〜も、〜成長したことが分かります(並列+認識)
も〜も、〜成長したことが分かります」=「…和…,可看出有了成長」。

中文翻譯

那麼,讀最後場面的話,更強烈地感受到少年的成長。是發現端出了「最愛的」「炸豬排」的少年與女將的互動。是非常成人的對話。無言地合掌的動作與表情,可看出有了相當大的成長。

− 124 −
かたについてかんがえる

みなさん、今回こんかい物語ものがたりの『主人公しゅじんこう』ってだれだとおもいましたか? おも登場とうじょうしたのは、母親ははおや息子むすこ女将おかみですよね。物語ものがたりの『主人公しゅじんこう』というものを、『ストーリーの展開てんかい中心ちゅうしんになるもの』『全体ぜんたいとおしてもっとおおきく変化へんかするもの』ととらえると『息子むすこ』が主人公しゅじんこうだとえそうです。父親ちちおやからはじまり、入門にゅうもんして一年いちねんいたるまでの時間じかん経過けいかがあります。それを通して、ひよわそうだった少年しょうねん立派りっぱ大人おとなになっていく、そんな成長せいちょうがみられる物語ものがたりだとえそうです。

文法・表現

〜って誰だと思いましたか(口語の疑問)
って誰だと思いましたか」=「各位覺得是誰呢」。
〜と捉えると〜だと言えそうです(仮定+帰結)
と捉えると〜だと言えそうです」=「若把握為…,可以說…」。
〜から始まり、〜に至るまでの〜があります(時間範圍)
から始まり、〜に至るまでの〜」=「從…開始、到…的」。
〜成長がみられる物語だと言えそうです(評価)
成長がみられる物語だと言えそうです」=「可說是能見到成長的物語」。

中文翻譯

各位,本回物語的『主角』各位覺得是誰呢?主要登場的是母親、兒子、女將呢。物語的『主角』,若把握為『故事展開的中心者』、『貫穿全篇變化最大者』,可以說『兒子』是主角。從父親之死開始,至入門一年後的時間經過。透過這個經過,看似體弱的少年逐漸成為了得體的大人——可說是個能見到這樣成長的物語。

でも、主人公しゅじんこうは『女将おかみ』ではないかとおもったひとすくなくないのではないでしょうか。おそらく、この物語ものがたりが『女将おかみ』の視点してんとおしてえがかれていたからだとおもいます。『女将おかみ』のとおして、二人ふたり様子ようす心情しんじょうかたられていたのです。ですから、読者どくしゃであるわたしたちは、自然しぜん女将おかみ立場たちばから物語ものがたりながめていたのです。

文法・表現

〜と思った人も少なくないのではないでしょうか(推量)
と思った人も少なくない」=「覺得…的人應該不少」。
〜から、〜たと思います(理由+推量)
視点を通して描かれていたから〜と思います」=「因為透過…視點被描繪」。
〜を通して、〜が語られていた(手段+受身)
を通して、〜が語られていた」=「透過…被敘述」。

中文翻譯

但是,覺得主角是『女將』的人應該不少吧。恐怕是因為這個物語是透過『女將』的視點來描繪的。透過『女將』的眼,敘述了兩人的樣貌與心情。所以,作為讀者的我們,自然從女將的立場眺望物語。

このように物語ものがたりむときには登場とうじょう人物じんぶつ心情しんじょう変化へんかいかけるだけでなく、『かた』や『視点してん』などを意識いしきするのもいです。そこにも作者さくしゃ意図いとがあるわけですから。

文法・表現

〜だけでなく、〜も意識するのも良いです(範囲拡張)
だけでなく、〜も意識するのも良いです」=「不只…,意識…也很好」。
そこにも〜があるわけですから(理由)
そこにも〜があるわけですから」=「因為這裡也有…」。

中文翻譯

如此這般,讀物語時,不只追蹤登場人物的心情與變化,意識『敘述者』『視點』等也很好。因為這裡也有作者的意圖。

変化へんかしたものはなにだろう

物語ものがたりさいには『変化へんか』を意識いしきしてくださいとおはなししてきました。『変化へんか』というてんではまえのポイントで『少年しょうねん』の変化へんかについて確認かくにんをしました。少年しょうねん成長せいちょうわせて、その周りまわりにいるひと変化へんかにも注目ちゅうもくしてみましょう。

文法・表現

〜してくださいとお話ししてきました(依頼+継続)
してくださいとお話ししてきました」=「一直說請…」。
〜では、〜について確認をしました(場所+実施)
では、〜について確認をしました」=「在…,確認了關於…」。
〜にも注目してみましょう(注目の勧誘)
にも注目してみましょう」=「也注目…吧」。

中文翻譯

我一直說讀物語時請意識『變化』。『變化』這一點,前一個要點中確認了『少年』的變化。配合少年的成長,也注目其周圍人物的變化吧。

まず母親ははおやてみましょう。入門にゅうもん見舞みまいにやってきたさいははについて「和装わそうの、小鬢こびん白いしろいものがにつくようになった母親ははおや」と表現ひょうげんされています。白髪しらが目立めだつようになったという表現ひょうげんから、母親ははおやがどんなふうにごしてきたのか想像そうぞうできるでしょうか。おっと交通こうつう事故じこくし、その後継あとつぎである息子むすこ修行しゅぎょうしてからこの一年いちねん母親ははおや一人ひとりてらまもってきたのです。いろんな苦労くろうがあったことでしょう。おてら仕事しごと檀家だんかとの関係かんけい、おかねのこと、いろんなことを一人ひとりかかえながらも、息子むすこ応援おうえんつづけてごした一年間いちねんかんだったことがかんじられる変化へんかだとおもいませんか。

文法・表現

〜と表現されています(受身)
と表現されています」=「被表現為」。
〜から、〜想像できるでしょうか(線索+疑問)
から、〜想像できるでしょうか」=「從…,能想像嗎」。
〜を抱えながらも、〜続けて過ごした〜(並行+継続)
を抱えながらも、〜続けて過ごした」=「一邊扛著一邊持續…度過」。
〜と思いませんか(同意確認)
と思いませんか」=「不覺得嗎」。

中文翻譯

首先看母親吧。對於入門後來探病時的母,被表現為「和裝、鬢角白色變得醒目的母親」。從白髮變得醒目的這個表現,是否能想像母親是如何度過這一年的呢?丈夫因交通事故過世,將其後繼之兒子送去修行的這一年。母親一人守著寺。應該有種種辛苦吧。寺裡的工作、與檀家的關係、金錢的事,一邊一人扛著種種,一邊持續應援兒子——可以感到這是這樣度過的一年所帶來的變化。

女将おかみはいかがでしょうか。物語ものがたりのはじめとおわりで、「二人連れふたりづれきゃく」にたいするとらかたおおきくわりましたよね。みょう雰囲気ふんいき二人ふたりたいする疑念ぎねんえて、こころから応援おうえんするようになりました。息子むすこたいしても、入門にゅうもんしてやっていけるかという心配しんぱいが、一年いちねん凛々しいりりしい様子ようすてすっかりんだ様子ようすでした。特に、女将おかみ息子むすこに「とんかつ」をしてやる心情しんじょうには深いふかいあじわいをかんじます。なんせ、仏道ぶつどう修行しゅぎょうちゅうである「息子むすこ」に、直接ちょくせつたのまれていない「とんかつ」をしてやるのですから。母親ははおや苦労くろう息子むすこへの思いおもい息子むすこ成長せいちょう、さまざまな思いおもいいだいてこの宿やどむかえた二人ふたり気持きもちをさっした女将おかみ戒律かいりつなんかよりも、ひと気持きもちや愛情あいじょう優先ゆうせんさせようという気持きもちをかんじます。想像そうぞうしすぎでしょうか。

文法・表現

〜が大きく変わりましたよね(変化の確認)
が大きく変わりましたよね」=「大大改變了呢」。
〜を超えて、〜ようになりました(過程+帰結)
を超えて、〜ようになりました」=「超越…,變成…」。
〜には深い味わいを感じます(評価)
には深い味わいを感じます」=「感到深的滋味」。
〜なんかよりも、〜を優先させようという気持ち(比較+意志)
なんかよりも、〜を優先させようという気持ち」=「比起…,更要優先…的心情」。

中文翻譯

女將如何呢?在物語的開始與結尾,對於「二人結伴的客人」的把握方式大大改變了呢。超越了對奇妙氛圍兩人的疑念,變成發自內心應援。對兒子也是,擔心入門能否堅持,看到一年後凜凜然的樣子完全飛散。特別是女將對兒子端出「炸豬排」的心情,讓人感到深的滋味。畢竟,是對「修行中」的「兒子」端出沒被直接拜託的「炸豬排」啊。母親的辛苦、對兒子的思念、兒子的成長,懷著種種思緒在這旅館迎接兩人——女將察知了她們的心情。比起戒律,更要優先人的心情與愛——這樣的心情能感受到。是不是想像得太多了呢。

でも、そうやって母親ははおや女将おかみ変化へんかわせてかんがえると、この物語ものがたりなかむかえた息子むすこ成長せいちょう意味いみも、よりあじわいが深くふかくなります。

文法・表現

〜も合わせて考えると、〜なります(合成+帰結)
も合わせて考えると、〜なります」=「合在一起思考的話,會變成…」。
より味わいが深くなります(程度の上昇)
より味わいが深くなります」=「變得更有滋味」。

中文翻譯

但是,把母親與女將的變化合在一起思考的話,這物語中迎來的兒子之成長的意義,也會變得更有滋味。

− 125 −

以上いじょう三回さんかいにわたって小説しょうせつ「とんかつ」をすすめました。作者さくしゃ読者どくしゃをひきつけるためにさまざまな工夫くふうらしていましたね。その作者さくしゃ工夫くふうあじわいながら、物語ものがたり世界せかい入り込んはいりこんだり、登場とうじょう人物じんぶつ心情しんじょう想像そうぞうしたりしながら、小説しょうせつたのしくめるとよいですね。

文法・表現

〜にわたって〜を読み進めました(範囲+進行)
にわたって〜を読み進めました」=「歷經…讀完了」。
〜ためにさまざまな工夫を凝らしていました(目的+手段)
ためにさまざまな工夫を凝らしていました」=「為了…下了種種功夫」。
〜ながら、〜したりしながら、〜読めるとよいですね(並行+勧誘)
ながら〜したりしながら、〜読めるとよいですね」=「一邊…一邊…,能讀就好」。

中文翻譯

以上歷經三回讀完了小說「とんかつ」。作者為了吸引讀者下了種種功夫呢。一邊品味作者的用心,一邊進入物語的世界、想像登場人物的心情,能愉快地讀小說就好了。

− 126 −
現代げんだいぶん

とんかつ

三浦みうら哲郎てつろう

須貝すがいはるよ。三十八歳。主婦しゅふ
どう 直太郎なおたろう。十五歳(今春こんしゅん中学ちゅうがく卒業そつぎょう)。
宿泊しゅくはくカードにはせた女文字おんなもじでそういてあった。住所じゅうしょは、青森あおもりけん三戸さんのへぐんしたむら番地ばんちしたに、光林寺こうりんじないとある。

ちかくに景勝地けいしょうちひかえた北陸ほくりく城下町じょうかまちでも、裏通りうらどおりにある目立めだたない和風わふう宿やどだから、こういう遠来えんらいきゃく珍しいめずらしい

れてもなく、女中じょちゅう二人連れふたりづれきゃくだというので、てみると、地味じみ和装わそう四十年配しじゅうねんぱいおんなが一人、戸口とぐちにひっそりっている。連れつれ姿すがた見えみえない。
おんなは、きがあれば二泊にはくしたいのだガ、と言ったいった言葉ことばに、日頃ひごろ聞ききき慣れなれないなまりがあった。

「お一人ひとりさまで?」
「いえ、二人ふたりですけんど。」

おんな振り返っふりかえって、半分はんぶん開けあけたままのそと鋭くふるどくこえをかけた。ちゃんづけで呼んよんだのが、なおちゃ、と聞こえきこえた。青白いあおじろいかおの、ひょろりとした、ひよわそうな少年しょうねんかげからあらわれて、はにかみ笑いわらい浮かべうかべながらぺこりとあたま下げさげた。両手りょうて膨らんふくらんだボストンバッグを提げさげている。もう三月さんがつ下旬げじゅんだというのに、まだおもそうなふゆ外套がいとうのままで、襟元えりもとから黒いくろい学生服がくせいふくがのぞいている。そういえば、おんなのほうも厚ぼったいあつぼったい防寒ぼうかんコートで、くびにスカーフまで巻いまいていた。

「これ、息子むすこでやんして……。」

おんなもはにかむように笑いわらいながら、ひっつめがみのほつれみみのうしろへかき上げあげた。

初めはじめは、近在きんざいから市内しない高校こうこう受験じゅけんてきた親子おやこかと思っおもったが、女中じょちゅうによれば、高校こうこう入学にゅうがく試験しけん半月はんげつまえ済んすんだという。そんなら、進学しんがく準備じゅんび買いものかいものだろうか。下宿げしゅく探しさがしだろうか。それとも、卒業そつぎょう記念きねん観光かんこう旅行りょこうだろうか――いずれにしても、二泊三日にはくみっかとは豪勢ごうせいな、と思っおもっていたが、書いかいてもらった宿泊しゅくはくカードをると、なんときたのはずれからきたひとたちである。

これは、ただの物見遊山ものみゆさんたびではあるまい。宿泊しゅくはくカードの職業しょくぎょうらんに、主婦しゅふ、とか、今春こんしゅん中学ちゅうがく卒業そつぎょう、などと書き入れかきいれるところをると、あまりたび慣れなれているひととも思えおもえないが、どうしたのだろう。

「まさか、厄介やっかいなおきゃくじゃないでしょうね。」
女中じょちゅうこえをひそめて言ったいった
厄介やっかいな、というと?」
「たとえば、親子おやこ心中しんじゅうしにきたなんて……。」
「あほらしい。」
「だけど、あの二人ふたり、なんだか陰気いんきで、湿っぽいしめっぽいじゃありませんか。めったに」

− 127 −

笑顔えがお見せみせないし、口数くちかずみょうにすくないし……。」
「それは田舎いなかひとたちで、こんなところに泊まるとまるのに慣れなれてないから。だいいち、心中しんじゅうなんかするつもりなら、なんでわざわざここまで遠出とおでしてくるのよ。」
「ここなら、近くちかく東尋坊とうじんぼうもあるし、越前えちぜんみさきも……。」
景色けしきのいい死に場所しにばしょなら、東北とうほくにだっていくらもあるわ。それに、心中しんじゅうするひとたちが二晩にばん道草みちくさ食うくう?」
案外あんがい道草みちくさじゃないかも、おくさん。まず、明日あした一日いちにち死に場所しにばしょ探しさがして、明後日あさってはよいよい……。」
「よしてよ、薄気味悪いうすきみわるい。」

もちろん、冗談じょうだんのつもりだったが、翌朝よくあさ親子おやこが、食事しょくじ済ませるすませるもなく外出がいしゅつ支度したくをして降りおりてきたときは、ぎくりとした。母親ははおや手ぶらてぶらで、息子むすこのほうがしぼんだボストンバッグを一つひとつだけ提げさげている。
「お出かけでかけですか。」
「はい……。」

この親子おやこは、なにを話すはなすときでも、きまってはにかむような笑いわらい浮かべるうかべるきゃくのことでよけいな穿鑿せんさくはしないのがならわしなのだが、つい、さりげなく、
今日きょうあさから穏やかおだやか日和ひよりで……どちらまで?」と尋ねたずねないではいられなかった。
「え……あちこち、いろいろと……。」

母親ははおやはそう答えこたえただけであった。あやうく、東尋坊とうじんぼう、とくちかかったが、
「もし、郊外こうがいほうへお出かけでかけでしたら、私鉄してつやバスの時間じかん調べしらべてさしあげますが。」
言っいっ顔色かおいろをうかがうと、
「いえ、けっこうで……交通こうつう便べん発つたつまえにだいたい聞いきいてきましたすけに。日暮れひぐれまでには戻りもどります。」
母親ははおやは、べつだん動じどうじたふうもなくそう言ういうと、んだら、いってまいります、と丁寧ていねいあたま下げさげた。

親子おやこは、約束やくそくどおり日暮れひぐれまえ帰っかえってきたが、それを玄関げんかん出迎えでむかえて、思わおもわず、あ、と驚きおどろきこえをもらしてしまった。母親ははおや出かけでかけたときのままだったが、息子むすこのほうは、かみ短くみじかく伸ばしのばしていたあたまがすっかり丸めまるめられて、雲水うんすいのように青々とあおあおとしていたからである。

あまりの思いがけなさおもいがけなさに、ただをみはっていると、
「まんず、こういうことになりゃんして……やっぱしかぜがしみると見えみえて、くしゃみを、はや三度さんどもしました。」
母親ははおやは、仕方なさしかたなさそうに笑っわらっ息子むすこをかえりみた。息子むすこのほうはにこりともせずにうつむいて、これまた仕方しかたがないというふうに青いあおいあたまをゆるく左右さゆう振っふっている。どうやら、どちらも納得なっとくずくの剃髪ていはつらしく、
「なんとまあ、涼しげすずしげあたまにおなりで。」
と、ようやくこえ上げあげてから、ふと、宿泊しゅくはくカードに光林寺こうりんじないとあったのを思い出しおもいだした。
「それじゃ、こちらがおぼうさんに……?」
「へえ、雲水うんすいになりますんで。明日あしたから、ここの大本山だいほんざん入門にゅうもんするんでやんす。」

− 128 −

母親ははおやをしばたたきながらそう言っいった。
それで、この親子おやこにまつわるなぞがいちどに解けとけた。大本山だいほんざん、というのは、ここからバスで半時間はんじかんほどの山中さんちゅうにある曹洞宗そうとうしゅう名高いなだかい古刹こさつで、毎年まいねん春先はるさきになると、そこへ入門にゅうもん志すこころざす若いわかい雲水うんすいたちが墨染めすみぞめ衣姿ころもすがた集まっあつまってくる。この少年しょうねんもそのひとりで、きたのはずれから母親ははおや付き添わつきそわれてはるばる修行しゅぎょうにきたのである。

それにしても、あたま丸めまるめ少年しょうねんは、まえにも増しましてなにか痛々しいいたいたしいほど可憐かれん見えみえた。さっき青々とあおあおとしたあたま気づいきづいたとき、まるで雲水うんすいのような、とは思っおもったものの、本物ほんもの雲水うんすいになるための剃髪ていはつだとは思いおもい及ばおよばなかったのは、そのせいだが、母親ははおやによれば、得度とくどさえ済ませすませていれば中学ちゅうがくそつ入門にゅうもん許さゆるされるという。

けれども、ここの大本山だいほんざんでの修行しゅぎょう峻烈しゅんれつ極めるきわめる聞いきいている。果たしてはたしてこの幼いおさない少年しょうねん耐えたえられるだろうかと、他人事ひとごとながらはらはらして、
「でも……おかあさんとしてはなにかとご心配しんぱいでしょうねえ。」
言うゆうと、
「なに、こう見えみえてもしん強いつよいですからに、なんとかこらえてくれましょう。父親ちちおや見守っみまもってくれてます。」
母親ははおや珍しくめずらしく力んりきん口調くちょうで、息子むすこにも、自分じぶんにも言い聞かせるいいきかせるようにそう言っいった。――息子むすこ使っつかっているあいだ帳場ちょうば母親ははおやちゃ出すだすと、問わず語りとわずがたりにこんなことを話しはなしてくれた。自分じぶんてら梵妻ぼんさいだが、おととしの暮れくれ近くちかくに、おっと住職じゅうしょく交通こうつう事故じこ亡くなっなくなった。おっとは、四、五年前ごねんまえから、遠いとおい檀家だんか法事ほうじ出かけるでかけるときは自転車じてんしゃ使っつかっていたが、まちのセールスマンの口車くちぐるま乗せのせられてスクーターに乗り換えのりかえたのがまずかった。凍いてついた峠道とうげみちで、スリップしたところを大型おおがたトラックにはねられてしまった。

跡継ぎあとつぎ息子むすこはすでに得度とくど済ませすませていたが、まだ中学ちゅうがく二年生にねんせいである。仕方しかたなく、まちにあるおなじ宗派しゅうはてら応援おうえん仰いあおいでなんとか急場きゅうばをしのいできたが、出費しゅっぴもかさむし、いつまでも住職じゅうしょくのいないてらでは困るこまるという檀家だんかこえ高まったかまって、一刻いっこく早くはやく息子むすこ住職じゅうしょく仕立てしたてないわけにはいかなくなった。住職じゅうしょくになるには、大本山だいほんざん三年さんねん以上いじょう、ほかに本科ほんか一年間いちねんかん修行しゅぎょう積まつまねばならない。ゆくゆくは高校こうこうからしかるべき大学だいがく進学しんがくさせるつもりだったが、もはやそんな悠長ゆうちょうなことは言っいっていられない。十五で修行しゅぎょう出すだすのはかわいそうだが、仕方しかたがなかった。

自分じぶん明日あした息子むすこ入門にゅうもんするのを見届けみとどけたら、すぐ帰郷ききょうする。入門にゅうもん百日ひゃくにち面会めんかいはできないというが、里心さとごころがつくといけないから面会めんかいなどせずに、郷里きょうりてら守りまもりながら、息子むすこがおよそ五年ごねんかん修行しゅぎょう終えおえ帰っかえってくるのを待つまついつもりでいる……。

「それじゃ、息子むすこさんは今夜こんや娑婆しゃばとは当分とうぶんのお別れわかれですね。お夕食ゆうしょくはうんとごちそうしましょう。なにがお好きすきかしら。」 そうきくと、母親ははおや即座そくざに、 「んだら、とんかつにしていただけゃんす。」
言っいった。
「とんかつ……そんなものでよろしいんですか?」
「へえ。あのは、てら育ちそだちのくせに、どういうものかとんかつが大好物だいこうぶつでやんして……。」

母親ははおやは、はにかむように笑いわらいながらそう言っいった。
だから、夕食ゆうしょくには、これまででいちばん厚いあついとんかつをじっくりと揚げあげ出しだし

− 129 −

た。しばらくすると、給仕きゅうじ女中じょちゅう降りおりてきて、
「お二人ふたりは、しんみり食べたべてますよ。いまのぞいてみたら、おかあさんのさらはもうからっぽで、おさんのほうはまだ食べたべてます。おかあさんははし置いおいて、おさんがせっせと食べるたべるのを黙っだまってるんです。」
言っいった。

それから一年いちねん近くちかくたった翌年よくねん二月にがつ母親ははおやだけが一人ひとりでひょっこり訪ねたずねてきた。面会めんかいなどしないと強気つよきでいても、やはり、いちどかおずにはいられなくなったのだろうと思っおもったが、そうではなかった。修行しゅぎょうちゅう息子むすこが、雪作務ゆきさむのとき僧坊そうぼう屋根やねからゆきといっしょに転落てんらくし、右脚みぎあし骨折こっせつして、いま市内しない病院びょういん入院にゅういんしているのだという。

「もう歩けるあるけるふうでやんすが、どういうことになっているやらと思いおもいましてなあ。」あい変わらかわら地味じみ和装わそうの、小鬢こびん白いしろいものがにつくようになった母親ははおやは、決してけっして面会めんかいではなく、ただちょっと見舞みまいにきただけだと言っいった。

息子むすこ手紙てがみには、病院びょういんにきてはいけない、夕方ゆうがた六時ろくじ去年きょねん宿やど待っまっているようにとあったと言うゆうから、
「じゃ、お夕食ゆうしょくはごいっしょですね。でも、去年きょねんとは違いちがいますから、なにををお出しだしすればいいのかしら。」
「さあ……修行しゅぎょうちゅうですからになあ。したが、やっぱし……。」
「わかりました。お任せまかせください。」
引き下がっひきさがって、女中じょちゅうにとんかつを用意ようい言い渡しいいわたした。

夕方ゆうがた六時ろくじきっかりに、衣姿ころもすがた雲水うんすい玄関げんかん立ったった。びっくりした。わずか一年いちねんらずのあいだに、かおからもからだつきからも可憐かれんさがすっかり消えきえて、見違みちがえるようなりんとしたそうになっている。去年きょねん人前ひとまえではくちをつぐんだままだったかれは、思いがけなくおもいがけなくれた太いふといこえで、
「おひさしぶりです。そのせつはお世話せわになりました。」
言っいった。それから、調理場ちょうりばから漂っただよってくる好物こうぶつ匂いにおい気づいきづいたらしく、ふと和まなごませて、こちらをた。
「……よろしかったでしょうか。」
かれ無言むごん合掌がっしょうれいをすると、右脚みぎあしをすこし引きずるひきずるようにしながら、母親ははおや待つまつ二階にかいへゆっくり階段かいだん昇っのぼっていった。

三浦みうら哲郎てつろう 一九三一年[昭和しょうわ6]─二〇一〇年[平成へいせい22]。
青森あおもりけん生まれうまれ小説家しょうせつか本文ほんぶんは『短編集たんぺんしゅうモザイクⅠ みちづれ』(一九九一年かん)による。

− 130 −

このページの文書ぶんしょ画像がぞう無断むだん転載てんさい及びおよび商用しょうよう利用りよう固くかたく禁じきんじます。