NHK高校講座 言語文化
(音楽)
ナレーション: NHK高校講座、言語文化の時間です。
木本 景子: 皆さん、ご機嫌いかがですか? 木本 景子です。
今回は唐の時代に作られた漢詩を二つ読みます。
講師は渡辺 恭子先生です。よろしくお願いします。
渡辺 恭子: はい、渡辺 恭子です。よろしくお願いします。
一緒に楽しく漢詩を学びましょう。
前回は自然をテーマにした詩、孟浩然の「春暁」を学びました。
今回は二つの漢詩を学習します。
それでは今回の学習のポイントを確認しておきましょう。
一、「黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る」の詩を味わおう。
二、「涼州詞」を味わおう。
三、唐詩、近体詩の決まりについて。
以上の三つです。
それでは学習を始めましょう。
(間奏)
木本 景子: 「黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る」の詩を味わおう。
渡辺 恭子: それでは李白の作った「黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る」の詩を、語句の意味を確認しながら解釈していきましょう。
木本 景子: はい、よろしくお願いします。
渡辺 恭子: はい。まずこの詩の題名、「黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る」ですが、孟浩然さんが揚子江下流の商業都市である広陵へ行くのを、作者が黄鶴楼から見送った詩、ということです。
ところで、ここに登場する孟浩然さんですが、皆さん覚えているでしょうか?
木本 景子: はい。前回読んだ「春暁」の作者ですよね。
渡辺 恭子: そうですね。
また、孟浩然さんの行こうとしている「広陵」というところですが、長江下流の賑やかな商業都市です。憧れの町「広陵」への旅ですから、別れと言ってもそれほど悲惨さはないかも知れません。
しかし、いつの時代にも別れは寂しいものです。また、当時は便利な交通手段もありませんから、次はいつ会えるのか分かりませんでした。
そんなことを念頭に置きながら、この詩を読んでいきましょうね。
それではまず、本文の朗読を聞いてください。朗読は高山 久美子さんです。
(朗読)
黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る 李白
故人西の方黄鶴楼を辞し
煙花三月揚州に下る
孤帆の遠影碧空に尽き
唯だ見る長江の天際に流るるを
渡辺 恭子: いかがでしたか? それでは漢詩の解釈に入りましょう。
この詩も四句からなっていますね。ただ、前回読んだ詩と違って、一句が七文字で作られています。
起承転結の構成です。
では一句目から見ましょう。木本さん、一句目、起句を読んでください。
木本 景子: はい。「故人西の方黄鶴楼を辞し」。
渡辺 恭子: この「故人」は「古くからの友人」という意味で、ここでは孟浩然さんのことです。
「西の方」は、目的地「広陵」から見て、ここ「黄鶴楼」がある西の方の土地で、という意味です。
「黄鶴楼」とは、川のほとりにある高い建物の名前です。
「辞し」は「別れを告げる」という意味。
つまり一句目は、「古くからの友人である孟浩然さんは、ここ西の地にある黄鶴楼に別れを告げ」と訳します。
そして二句目、承句です。
木本 景子: 「煙花三月揚州に下る」。
渡辺 恭子: 「煙花」とは、春の花に霞が立ちこめている風景のことです。
「三月」は旧暦の三月ですから、今の四月頃でしょうか。
次の「揚州」は、題名にある「広陵」の別名です。
ですから二句目は、「春の花に霞が立ちこめる三月に、揚州へと、舟に乗って、孟浩然さんは長江を下っていく」と訳しておきましょう。
次に三句目、転句です。
木本 景子: 「孤帆の遠影碧空に尽き」。
渡辺 恭子: ここの「孤帆」は、帆を張った一艘の舟、という意味です。孟浩然さんの乗っている舟のことですね。
「遠影」とは、遠くに見える姿を指しています。
次の「碧空」は青空のこと。
「尽き」とは、尽きること、なくなることを言います。
つまり、真っ青な空の中に、孟浩然さんの乗った舟が消えてなくなることを言っているのです。
ですから三句目は、「この黄鶴楼から見送っていると、孟浩然さんが乗った一艘の小舟の遠い姿は、やがて青空の中に見えなくなり」としましょう。
木本 景子: 最後、四句目。結句は、「唯だ見る長江の天際に流るるを」。
渡辺 恭子: 「後にはただ、尽きることのない長江の流れが、大空の果てまで流れていくのが見えるばかりである」と訳します。
最初の文字「唯だ」は、「何々だけ」、「何々ばかり」という限定を表す漢字です。
「天際」は「大空の果て」という意味です。
「長江」は中国最大の川で、「揚子江」とも言いますね。
これで全部訳せました。
(間奏)
木本 景子: 「涼州詞」を味わおう。
渡辺 恭子: 次に、「涼州詞」を語句の意味を確認しながら解釈していきましょう。
この詩の題名、「涼州詞」ですが、「涼州の歌」という意味です。「涼州」というのは地名です。
木本 景子: 涼州はどんなところだったんですか?
渡辺 恭子: はい。涼州は現在の甘粛省に当たりますが、中央から遠く離れた国境、中国の西の外れの国境付近にあります。
この時代の政治、経済、軍事上の重要な課題は、西の異民族の反乱、暴動などを鎮めて穏やかにすること。
そして、西の地域への交通路、シルクロードの確保でした。
ですから涼州は、他国からの侵略を防いで国を守る、防衛の拠点でもあったんです。
木本 景子: とても重要なところだったんですね。
渡辺 恭子: そうなんです。
それでは「涼州詞」の内容を見ていきましょう。
まずは本文の朗読を聞いてください。朗読は高山 久美子さんです。
(朗読)
涼州詞 王翰
葡萄の美酒夜光の杯
飲まんと欲して琵琶馬上に催す
酔うて沙場に臥す君笑うこと莫かれ
古来征戦幾人か回る
渡辺 恭子: いかがでしたか? それでは漢詩の解釈に入りましょう。
この詩も四句、それぞれ七文字からなっていますね。
木本 景子: うん。そうですね。
渡辺 恭子: 起承転結の構成です。
では一句目、起句から見ましょう。
木本 景子: 「葡萄の美酒夜光の杯」。
この「葡萄の美酒」とは、上等なワインのことです。
次の「夜光の杯」とは、どんな杯なんでしょうか?
渡辺 恭子: 「夜光」とは、中央アジア産の夜光珠という玉、宝石のことで、夜の闇の中でも光を発するそうです。
その夜光珠で作った杯を「夜光の杯」と言います。
また、シルクロードを経て伝わってきたガラスで作った杯も「夜光杯」と呼ぶことから、ここではガラス製の杯のことではないか、とも言われています。
この一句目は、「葡萄の美味しいお酒を、夜光の杯に注ぎ」と訳しましょう。
そして二句目、承句です。
木本 景子: 「飲まんと欲して琵琶馬上に催す」。
渡辺 恭子: 「飲まん」は「飲もう」という意味。「欲して」とは「何々しようとして」と訳しますので、ここは「飲もうとして」となります。
「琵琶」は、大きな茄子の形をした平たい胴に、四弦または五弦を張った楽器です。
「催す」とは「急き立てる」ということ。
ですからここは、「飲もうとすると、早く酒を飲み干せというように、琵琶が馬上で鳴り響く」となります。
次に三句目、転句です。
木本 景子: 「酔うて沙場に臥す君笑うこと莫かれ」。
渡辺 恭子: それほど難しい語句はありませんね。
「沙場」というのは「砂漠」のことです。
砂漠はしばしば異民族との抗争の場、つまり戦場となることが多かったので、戦場のイメージを合わせ持つ言葉となりました。
「君笑うこと莫かれ」の「君」とは、戦場にいる同僚の兵士とする説と、広く世間の人々、読者一般を指すとする説がありますが、このような呼びかけは大抵、広く世間の人々、作者から読者への言葉として使われます。
ですから三句目は、「たとえもし酔いつぶれて、戦場である砂漠に寝そべってしまっても、世間の人よ、そのだらしない姿を笑わないでくれ」くらいに訳しましょう。
最後、四句目、結句です。
木本 景子: 「古来征戦幾人か回る」。
渡辺 恭子: 「古来」というのは「昔から今に至るまで」ということ。「征戦」は「戦場に行くこと」です。ここでは西の国境の戦場に行くことを言います。
最後の「幾人か回る」とは、「一体何人が無事に帰ったであろうか」ということです。
木本 景子: ここの「回る」は、どこからどこへ帰るんでしょうか?
渡辺 恭子: はい。ここでは戦場から故郷に帰るのですね。
ですから四句目は、「昔から今に至るまで、こうして遠く戦争に駆り出された兵士の内、一体何人が戦場から故郷に無事に帰ったのであろうか、分からないのだから」と訳しましょう。
さて皆さん、「涼州詞」を語句の意味に注意しながら訳せるようになったでしょうか?
(間奏)
木本 景子: 唐詩、近体詩の決まりについて。
渡辺 恭子: 唐詩の決まりについて確認しましょう。
まず詩の形式ですが、この「涼州詞」も、「黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る」の詩も、一句が七文字からできています。
さて質問です。五文字でできている詩は五言詩。それでは七文字でできている詩を何と言うのでしょうか?
木本 景子: 七言詩、でしょうか?
渡辺 恭子: その通り、七言詩ですね。
木本 景子: あと、起承転結の四つの句で構成されていますね。
渡辺 恭子: はい、その通りです。
ですから絶句です。つまりこの詩の形式は、七言絶句と言いますね。
また七言詩は、一つの句が、二文字足す二文字足す三文字で七字、という構成になっていますが、もっと大きく区切れば、四文字足す三文字で七字であることも、忘れないでくださいね。
これを意識して読むと、リズムが良い上に、意味も取りやすいですよ。
次に、韻の復習です。
五言詩の場合は、二句目と四句目、つまり偶数句の最後の漢字の音を同じ響きにするんでしたね。
木本 景子: 「韻を踏む」、ですよね。
渡辺 恭子: うん、そうです。
七言詩でも、やはり二句目と四句目、つまり偶数句末に韻を踏みます。
そしてさらに、一句目の最後の漢字にも韻を踏む決まりになっています。
では「黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る」から具体的に見ていきましょう。
木本 景子: はい。えっと、まず一句目の最後の漢字は「楼」。そして二句目の最後の漢字は「州」。四句目の最後の漢字は「流」です。
「ろう」、「しゅう」、「りゅう」となって、初めの「ろう」だけ、最後の音の響きがしっくりきませんね。
渡辺 恭子: そうなんです。それは唐の時代の発音と、私たちが現在日本で使っている漢字の音読みとが、ちょっと違うからなんです。
この三つの漢字、唐の発音で読むと、ちゃんと韻を踏んでいるんです。
次に「涼州詞」でも押韻を確認しましょう。
一句目の最後「杯」、二句目の最後の漢字「催」。そして四句目末の漢字は「回」。
「はい」、「さい」、「かい」。音読みすると、どれも最後の音、母音が「アイ」で共通ですよね。
このように七言詩では、偶数句末だけでなく、一句目末にも韻を踏むことを、しっかり覚えといてくださいね。
(間奏)
木本 景子: それでは今回の学習のポイントをまとめましょう。学習のポイントは、
一、「黄鶴楼にて孟浩然の広陵之之くを送る」の詩を味わおう。
二、「涼州詞」を味わおう。
三、唐詩、近体詩の決まりについて。
以上の三つでした。
渡辺 恭子: 今回は二つの詩を学習しました。
皆さんも情景を浮かべながら、それぞれの詩を声に出して読んでみてくださいね。
木本 景子: さて今回は、渡辺 恭子先生と唐詩を二つ読みました。渡辺先生、ありがとうございました。
渡辺 恭子: ありがとうございました。
木本 景子: NHK高校講座、言語文化。木本 景子と渡辺 恭子先生でお送りしました。