NHK高校講座 言語文化
ナレーション:
NHK高校講座、言語文化の時間です。
今回は「言語活動 短歌を作る」。
講師は 吉田 茂 先生です。
吉田 茂:
ご機嫌いかがですか? 吉田 茂です。
今回は「言語活動、短歌を作る」というテーマで学習を進めていきましょう。
高校生の二人と一緒に勉強していきます。
それでは自己紹介をお願いいたします。
近藤 七海:
近藤 七海です。よろしくお願いします。
田口 颯大:
田口 颯大です。よろしくお願いします。
吉田 茂:
はい、こちらこそよろしくお願いします。
早速ですが、お二人は短歌を作ったことはありますか? 近藤さんいかがでしょう?
近藤 七海:
はい。学校の授業で何度か作ったことがあります。
吉田 茂:
田口さんいかがですか?
田口 颯大:
はい、近藤さんと同じ程度です。
吉田 茂:
授業で短歌を作ってみてどんな感想を持ちました? 田口さんいかがでしょう?
田口 颯大:
はい。単語をうまく見つけるのに時間かかりました。
吉田 茂:
そうですね。近藤さんいかがでしょう?
近藤 七海:
そうですね。私も田口さんと同じで、どんな言葉を使っていいかがすぐには出てこないし、やっぱり毎回時間がかかってしまいます。
吉田 茂:
難しいですよね。
じゃ、その難しい短歌を今日作ってもらおうと思います。
では今回の学習のポイントを紹介します。
一、本歌取りの技法を知る。
二、フレーム短歌を作り、発表する。
三、実作前と実作後で、和歌に対する考え方が変わったか確認する。
以上の三つです。
それでは学習を始めましょう。
(間奏)
吉田 茂:
「本歌取りの技法を知る」。
まずは短歌の技法の一つ、「本歌取り」を学習しましょう。
「本歌取り」とは、『新古今和歌集』以降流行する和歌の修辞技巧で、以前詠まれた有名な古歌、それを「本歌」と言うのですが、その本歌の一部を取って新しい歌を詠む修辞のことです。
例えば、『小倉百人一首』に採られている、参議雅経の、
「み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり」
の歌が本歌取りの歌です。
この歌は、『古今和歌集』の坂上是則の、
「み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり」
の歌を本歌としています。
田口さん、何かお気づきになりましたか?
田口 颯大:
あー、下の句の「ふるさと寒く」が一緒ですね。
吉田 茂:
あ、よく気がつきました。近藤さんいかがでしょう?
近藤 七海:
えっと、あ、「み吉野の 山の」も同じですよね。
吉田 茂:
そうですね。
本歌の言葉を取るのは、二句プラス四字が限度だったようです。
現代でも小論文を書く場合、引用元を示しても借りすぎ、取りすぎはいけませんよね。自分の論になりませんから。
田口 颯大:
え、先生、本歌は何でもいいのですか?
吉田 茂:
そうですね。やはり有名な歌がいいですね。
『新古今』に登場する歌人たちは、『古今和歌集』一千百首の歌をみんな覚えていたでしょうか? 雅経の歌の場合、ああそう、本歌は是則の歌だと思い、是則の歌の世界と新しい歌の世界と、二重写しにするように鑑賞したのでしょうね。
今紹介した二つの歌では、本歌の是則の歌が「山の白雪」だから冬の歌であるのに対し、雅経の歌は「山の秋風」だから秋の歌になっています。
本歌の冬を変えて、秋の歌にしたのです。新鮮味が出て見事ですね。
近藤 七海:
なるほど。そういう違いがあるんですね。
吉田 茂:
はい。雅経も『新古今和歌集』の撰者の一人です。
今まで見てきた本歌取りと同じように、本歌の言葉を借りて、それを枠組み、フレームにして、残りの部分に自分の言葉を入れて、三十一文字の和歌や短歌を完成させる方法も、やはり昔から行われてきました。
これをここでは「フレーム短歌」と呼ぶことにします。
例えば、江戸時代幕末の頃、歌人であり国学者である、橘曙覧という人がいました。
彼は、今で言う「フレーム短歌」を作っています。
田口 颯大:
どんな短歌を詠んだんですか?
吉田 茂:
はい。フレームとして、初めの五文字に「たのしみは」、結句、終わり二字を「とき(時)」にして、連作五十二首の歌を詠んだのです。
次のような歌などがあります。
「たのしみは 紙をひろげて とる筆の 思ひのほかに よく書けし時」
「たのしみは 三人の児ども すくすくと 大きくなれる 姿みる時」
こんな歌です。
田口 颯大:
前の歌は、書道の時間にうまく書けたと喜ぶ僕たちと同じですね。
近藤 七海:
後ろの歌は、親の気持ちがよく表れていますね。私もすくすくと大きくなりましたと言葉を返したいですね。
(間奏)
吉田 茂:
「フレーム短歌を作り、発表する」。
いかがですか? フレーム短歌のおよそは理解できましたか?
近藤 七海:
はい。
田口 颯大:
はい。
吉田 茂:
せっかくですからフレームを少し増やしましょう。これも『小倉百人一首』に採られています、ご存知だと思います、光孝天皇の、
「君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ」
の、「君がため」、「わが」、「つつ」をフレームにしましょう。
また、橘曙覧の方も増やしましょう。「たのしみは」、「時」に加えて、「苦しみは」、「時」、「かなしみは」、「時」を加えます。
では、光孝天皇の言葉を借りる「君がため」、「わが」、「つつ」は必須で、曙覧風のものは三つの中から一つを選んで、二首作りましょう。ですからお二人は二首ずつになります。
お二人には事前に作ってもらったものを発表してもらいましょう。
近藤 七海:
はい。
田口 颯大:
はい。
吉田 茂:
それでは発表してもらう前に、「推敲」という作業をしてみましょう。
近藤 七海:
あ、推敲は漢文の授業で習いました。詩や文章を作るにあたって、その字句や表現をよく練ったり練り直したりすることですよね。
吉田 茂:
はい、その通りです。
推敲するにあたって、五・七・五・七・七のリズムになっているか注意してみてください。
短歌にも「破調」と言って、わざと音律を外して印象深い歌を詠む方法もありますが、今回は五・七・五・七・七の定型のリズムに乗せて詠んでみましょう。
次に、今作っているのはフレーム短歌なので、「君がため」、「わが」、「つつ」の置き所、また、「苦しみは」、「たのしみは」、「かなしみは」と「時」の置き所が正しいか確認してください。
田口さんどうですか?
田口 颯大:
はい。
吉田 茂:
また推敲する場合、欲を言えば印象深い表現になっているかという視点も大切ですね。
それでは近藤さんから発表してください。
近藤 七海:
はい。私が作ってきた歌は、
「君がため 隅から隅まで ぬかりなく わが口元を 輝かせつつ」
「苦しみは クロール背泳ぎ 平泳ぎ 掻いても掻いても 進まざる時」
です。
吉田 茂:
はい。よく詠めてます。
「君がため」の歌は、「ぬかりなく」が効果的で印象深い表現になっています。「わが口元を輝かす」は、リップグロスのようなものを考えればいいんでしょうか?
近藤 七海:
実は違うんです。これはリップグロスじゃなくて、歯ブラシで歯を磨いている時のことを表現していて、「わが口元を輝かせつ」は、笑った時に少しでも歯が白く光ればいいなと思って付けました。
吉田 茂:
ああ、なるほど。私は勘違いしてしまいました。で、私は恋の歌として、え、読みました。それは間違いですかね?
近藤 七海:
どうなんでしょう? でも笑顔が輝けばいいなっていうところは、恋につながるのかもしれないですね。
吉田 茂:
はい。「苦しみは」の歌は、「掻いても掻いても」は字余りですが、リズムが良いので気になりません。必死に泳いでる姿が目に浮かびます。素直な歌で良いのですが、結句、これは第五句を言うのですが、「進まない時」を古語を交えて「進まざる時」とすると歌が締まりますね。
田口さんいかがでしたか?
田口 颯大:
はい。僕は近藤さんが水泳できないのを知りませんでした。
吉田 茂:
水泳は苦手ですか?
近藤 七海:
とっても苦手です。
吉田 茂:
なるほど。でもいい感じですよ、この歌は。
近藤 七海:
ありがとうございます。
吉田 茂:
近藤さん、作った意図、あるいはどんな思いで、え、この歌を作ったのか簡単に紹介していただけますか?
近藤 七海:
はい。え、体育の授業とかで泳ぐ時に、なかなか進まない自分の少し滑稽な姿を表現してみました。
吉田 茂:
よく表れてると思います。
次は田口さんが作ってきた歌を発表してください。
田口 颯大:
はい。
「君がため 空気入れたよ 自転車に わが着衣に 汗は染みつつ」
「たのしみは ゲームで敵と 対峙して 被弾をせずに 完封せし時」
です。
吉田 茂:
なるほど。苦労が忍ばれますね。
「君がため」の歌は、タイヤに空気を入れてあげた時の歌ですね。四句目の「わが着衣に」が少し落ちつかない感じがするので、例えば「わが袖口に」とか、「わが襟口に」などとするとイメージしやすくなると思います。どうでしょうか?
田口 颯大:
ああ、そうですね。ちょっといい言葉が思いつきませんでした。
吉田 茂:
「たのしみは」の歌からは、ゲームをやっている感じがよく伝わってきました。第四句の「被弾をせずに」が特に印象深い表現です。「せず」という古語を用いていますから、続けて結句も「完封せし時」と結ぶのも良いかもしれません。現代的なゲームと古辞が混在しているのは面白いように思います。
近藤さん、どんな感想お持ちですか?
近藤 七海:
はい。え、先生の言うように、現代と昔のことがすごく混ざっていて面白いなと思いました。
吉田 茂:
なるほど。その通りですよね。
田口さん。
田口 颯大:
はい。
吉田 茂:
この二首の歌、どんな思いを託したか説明していただけますか?
田口 颯大:
はい。え、まず「君がため」の方の歌は、あの、さっき先生がおっしゃってくれた通り、タイヤに空気を入れてあげた時の歌です。夏の暑い時、自転車に空気を入れてる時は体全体から汗が出て服が濡れてしまいます。その時のことを歌にしました。
「たのしみは」の方は、ゲームをしている時の楽しいことを歌にしました。「せず」という言葉が古語だということは知らなかったのですが、もし知っていたら最後の結句も「完封せし時」としていたかもしれません。
吉田 茂:
なるほど。そうですか。でもよく詠めてますね。「対峙して被弾をせずに」、大変重い言葉として受け取りました。良かったと思います。
田口 颯大:
ありがとうございます。
(間奏)
吉田 茂:
「実作前と実作後で、和歌に対する考え方が変わったか確認する」。
自分で和歌を作ってみて、田口さんいかがでしたか?
田口 颯大:
はい、作る前は難しそうだなと思っていましたが、フレームに言葉を入れるというのは簡単で面白かったです。
吉田 茂:
ああ、それは良かった。近藤さんいかがでしたか?
近藤 七海:
私も田口さんと同じで、初めは難しそうだなとか、少し抵抗があるなと思っていたのですが、フレーム短歌で少し身近なものに感じられるようになりました。
吉田 茂:
ああ、そんな風におっしゃっていただくと大変有難いですね。
ま、何もないところで全て三十一文字を、え、読み上げるっていう方法もありますよね。でもまず最初のステップとして、ま、フレームを作ってその空いてるところに言葉を入れる。そんな形で短歌を詠み始めると、気軽に簡単にできるんじゃないでしょうか。
作る前に比べて少し短歌があなた方に近づいたとすると、大変私としては、あの、嬉しい限りです。どうもありがとう。
さて、今回は和歌の技法の内、本歌取りを学習しましたが、「折句歌」という技法もあります。
『伊勢物語』に出てくる歌ですが、
「唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」
という歌です。
田口さん、歌の各句の初めの文字をゆっくり順に読み上げていただけますか?
田口 颯大:
はい。え、「か・き・つ・は・た」ですか?
吉田 茂:
はい。
田口 颯大:
あ、花の名前ですね。菖蒲に似た花ですよね。
吉田 茂:
はい、その通りです。目の前に美しく咲く「杜若」の五文字を、各句の頭に置いて旅の心を詠んだものです。『古今和歌集』では在原業平の歌となっています。
また、悪戯心で折句歌を詠めば、
「かぜ吹きて ふり返る夏 とおい日よ むぎわら帽子 しらゆりの君」
これも駄作でした。
近藤 七海:
あ、さっきと同じように、各句の初めの文字を読んでみると、「か・ふ・と・む・し」。あ、カブトムシが隠れていますね。フレーム短歌と同様に、この折句歌もパズル遊びをしているみたいで面白そうです。私も作ってみたいです。
吉田 茂:
はい、是非作ってください。
皆さんが和歌、短歌を学びながら、さらに短歌を作り続けることで、我が国の言語文化を担っている一人なんだという自覚を持ってくだされば、本当に嬉しいことです。
今回の講座のポイントを確認しましょう。
一、本歌取りの技法を知る。
二、フレーム短歌を作り、発表する。
三、実作前と実作後で、和歌に対する考え方が変わったか確認する。
の三つでした。
初めに本歌取りの技法について学びました。皆さんの知っている勅撰集『新古今和歌集』以降、本歌取りの歌が多くなります。
そしてフレーム短歌について説明して、実際に作ってもらいました。
近藤さんいかがでしたか?
近藤 七海:
はい、作る前は難しいなと思っていたのですが、フレーム以外に言葉を入れ込む作業はとても楽しかったし、意外と簡単に作ることができました。
吉田 茂:
ああ、それは良かった。
最後に実作前と実作後で、和歌や短歌に対する考え方が変わったか伺いました。田口さんどうでしたか?
田口 颯大:
はい、和歌や短歌を身近に感じることができました。折句歌も面白そうなので作ってみたいと思います。
吉田 茂:
是非そうしてください。
田口さん、近藤さん、本日はありがとうございました。
田口 颯大:
ありがとうございました。
近藤 七海:
ありがとうございました。
吉田 茂:
君たちの自作の短歌、素敵でしたよ。
ナレーション:
NHK高校講座、言語文化。講師は吉田茂先生でした。