木本 景子:NHK 高校講座「言語文化」の時間です。ご機嫌いかがですか? 木本 景子です。今回と次回で「雪の深さを〈俳句〉」を学習します。前回まで学んだ「短歌」との違いを見つけましょう。講師は 小山 志門 先生です。よろしくお願いします。
小山 志門:よろしくお願いします。
木本 景子:皆さん、俳句に対してどんなイメージを持っていますか?もちろん人それぞれ印象は異なると思いますが、例えば前回の放送で学習した「短歌」と比べたりしてみると、俳句に対してはどんな印象を持ったでしょうか?そうですね。より短いので意図を汲み取るのが難しい印象があります。
小山 志門:そうですよね。「短歌」より短いですね。リズムも似ています。でもやっぱり難しそう、「短歌」より古そうと思う人もいるかもしれません。でも実際、「短歌」と「俳句」だったらどちらが古くからあるものだと思いますか?
木本 景子:うーん。「短歌」は奈良時代の『万葉集』からあると学びました。なので「短歌」の方が古いような気がします。
小山 志門:その通りです。俳句の有名な作品や作者は、一般的には江戸時代です。もう少し前の戦国時代あたりには「俳諧の連歌」というものが行われていたようですが、五・七・五の形で定着したジャンルとなったのは江戸時代です。奈良時代と比べると随分俳句は新しい形だということです。難しそうなイメージがあるものの、実はそんなに古くない俳句をどのように味わえばいいか、今回から二回に渡って学習を進めたいと思います。
木本 景子:それでは今回の学習のポイントを紹介しましょう。今回のポイントは、
〈一〉リズムを感じながら味わう
〈二〉自然を感じる
〈三〉音を想像する
以上の三つです。
小山 志門:それでは学習を始めましょう。「リズムを感じながら味わう」。やはり「俳句」も「短歌」と同じく、音読をしてリズムを味わってほしいと思います。前回の講座との繰り返しになりますが、五・七・五の音数は、私たち日本人が慣れ親しんできたものです。このリズムをまず体で感じるというのは、古くから今に至るまでの日本語の営みを実感することでもあります。そんな気持ちで、次の俳句の朗読を聞いてみましょう。高浜 虚子の俳句です。朗読は 高山 久美子 さんです。
(朗読)
金亀子擲つ闇の深さかな 高浜 虚子
小山 志門:言葉が少し難しく感じたり、意味の分からない言葉があったりすると、内容が理解できず不安になるかもしれませんが、まずはリズムです。何度か音読していると、誰に教わるともなく自分なりにリズムや音をつけて読んでいくのではないでしょうか。文字として眺め、音で表現するだけで、すでに自分なりに読み取ろうとしているんです。
木本 景子:なるほど。だから何度か読んでみると自然に読むことができるんですね。
小山 志門:そうなんです。そして作者の 高浜 虚子 という人は、俳人としても有名な人です。前回「短歌」で学習した 正岡 子規 の門下生です。子規が病床にある間も近くにいて世話をした弟子のひとりだよ。
では俳句の内容を軽くまとめておきましょう。分かりやすく言葉を直してみると、「近くに飛び回るコガネムシを捕まえて投げ捨てると闇が深いことに気づいた」となります。ここに「闇」とありますが、一体どんな闇を見つけたんでしょうか。
木本 景子:確かにパッと分かりづらいですよね。でも、投げ捨てた虫の行き先が、例えば草の茂みや植え込みや、何かの物影だったとイメージしたらどうでしょうか。その影が濃くて、虫の姿が見えなくなるほどの「闇」を見つけてしまった、という感じです。
小山 志門:身近な場所の一角にある暗い場所が、妙に怖く感じられるような経験は子供の頃にあったような気もします。案外はっとしたりしますよね。
次の俳句はどうでしょうか?朗読を聞いてください。
(朗読)
芋の露連山影を正しうす 飯田 蛇笏
小山 志門:では少し細かい部分に注目をして音を味わってみましょう。第二句を注目してください。
木本 景子:「連山影を」というところですね。
小山 志門:はい。第二句目と第三句目の七・五を音数では分けることもできますが、意味のまとまりで考えると、第二句目の「影を」は第三句「正しうす」にかかる言葉です。つまり意味のつながりを捉えると、第二句と第三句は切り離されておらず、滑らかに続いて展開しています。ですから第二句と第三句を少し続けて読んでみてください。
木本 景子:芋の露連山影を正しうす。本当ですね。滑らかなリズムを感じます。
小山 志門:そうですよね。そして内容は、「秋の朝、芋の葉におりた朝露の水滴に、姿勢を正したような山々がはっきり映っている」となります。芋の葉、その上の「露」という小さいものに焦点を当てていますが、それに映っているのは壮大な山の姿です。小さな露から大きな山々へと上手にイメージを膨らませている。なんとも視覚的に壮大な印象です。このように、俳句も音の響きやリズムをまず感じてほしいなと思います。
木本 景子:「自然を感じる」。
小山 志門:さて、リズムを味わいながら内容を理解していく時に、一つ注目してほしいのは、その俳句に描かれた自然の様子です。「俳句」は「短歌」よりも写生的に、目で見たものを描き出すものが多いです。その俳句にどんな情景が描かれているのかをイメージし、想像を膨らませるのも俳句の楽しみの一つです。そんな気持ちで、次の俳句の朗読を聞いてみましょう。
(朗読)
来しかたや馬酔木咲く野の日のひかり 水原 秋桜子
小山 志門:冒頭の「来しかたや」の「や」は切れ字です。強く言い切ることで間を持たせたり、余韻を生んだりします。
木本 景子:ここで一旦止まった感じがしますね。
小山 志門:その通りですね。この「来しかたや」は「ここまで歩いてきた方向」を表し、そこに切れ字があります。つまり作者は、歩いてきた道のりを立ち止まって振り返っているシーンが想像されます。「馬酔木」はツツジ科の木です。春に白い花をつけるので「春」の季語です。俳句は季語を使います。季語をうまく使うことで、十七音と限られた音数の中でも読者に季節感をうまく伝えることができますね。
この俳句では、馬酔木の白い花が、春の日ざしできらきら輝いているような風景が想像できるでしょうか?旅をして歩いてきた作者が、自分の歩いてきた道のりを振り返った時に見た、春の情景が描かれています。
木本 景子:そういう光景を詠っているんですね。なんとも美しく、優しい雰囲気を感じられる春の情景です。
小山 志門:そんな綺麗な情景の春の野原に立ち、馬酔木に囲まれながら春の日ざしを満喫していた様子が想像できますよね。
では次も同じ春の俳句です。
(朗読)
外にも出よ触るるばかりに春の月 中村 汀女
小山 志門:月といえばどんな季節をイメージしますか? 木本 さんはいかがでしょうか?
木本 景子:やはりお月見、中秋の名月はよく聞きますので、秋でしょうか?
小山 志門:そうですよね。実は俳句で「月」だけで使えば、確かに秋の季語なんです。秋の月はどんな月でしょうか?秋は空気も澄んでいて、少し黄色っぽい透き通った輝きを持った月です。お月見の満月はアニメなどでも濃い夜空に黄色っぽいはっきりした月が描かれます。それに対して「春の月」ってイメージできますか?
木本 景子:そうですね。秋の澄んだ月に比べると、ぼんやりとしたイメージでしょうか?
小山 志門:春には「朧月」という言葉がありますよね。空気に少し湿度があって、ぼんやりと膨張したような大きな月が見られます。この俳句の「触るるばかりに」というのは、手に触れるくらい大きく見える月ということです。ふと外に出てみると、ぼんやり淡い、でもとっても大きくて美しい月を見つけた時の気持ち。思わず、きれいだなとつぶやくだけでなく、まだ部屋の中にいる人を「外にも出よ」と呼びかけて、早く見せたいという気持ちが伝わってきます。自然のものに注目をして、そこに託された作者の気持ちを味わうというのが一つの俳句の楽しみ方です。
木本 景子:「音を想像する」。
小山 志門:最後に、俳句に描かれた情景の中をイメージし、さらにその場面の「音」を想像してみることで、俳句の味わいを深めてみましょう。次の俳句の朗読を聞いてください。
(朗読)
海に出て木枯帰るところなし 山口 誓子
小山 志門:「木枯」は冬の季語です。秋から冬の間にかけて吹く強い風です。冬になると天気予報などで「今日は木枯らしが強く吹きました」など言いますが、木枯らしってどんな風か、音で表すとどうなるでしょうか?
木本 景子:「ぴゅーぴゅー」という感じでしょうか?
小山 志門:そうですね。童謡にも北風ぴゅーぴゅー吹いているとありますよね。木枯らしは、「ぴゅーぴゅー」と大きな音を立て、木々を揺らし、枯れ葉を吹き飛ばしてしまう強い風です。この俳句では、そんな木枯らしが、陸の上でいろんなものを吹き飛ばした後、海まで吹き抜けてきた場面です。冬の波が高い荒れた海、強い風。波の音とあいまって激しい轟音が鳴り響くような情景が想像されませんか。
木本 景子:はい。しっかりと想像ができます。
小山 志門:その木枯らしは、いろんなものを吹き飛ばして海にたどり着いた後、もう帰る場所がなくなっている。この帰る場所もない、寄りどころの無い荒れた木枯らしが、きっとその時の作者の心情だったのではないしょうか。
次の俳句も同じ「冬」を表現しています。朗読を聞いてください。
(朗読)
冬の水一枝の影も欺かず 中村 草田男
小山 志門:こちらは「冬の水」と書いてありますので、冬であることは一目瞭然です。冬の池の水面に、周りの木々の様子が映し出されている様子ですが、水面には木々の一本の枝の様子まで「欺かず」、正確に映し出されているというのです。水面に細かい枝が正確に映り込むというのは、それだけ水面が穏やかでなければなりません。少しのさざ波が立っているだけでも、水面に映し出されたものはぼやけるものです。空気がピンと張り詰めて、寒くて静かな中で、水面が鏡のようになっているんですね。
木本 景子:とても素敵な表現ですね。
小山 志門:その時の周りの様子も想像してみましょう。どんな音が聞こえますか? 先ほどの俳句の荒涼とした激しい情景と比べて、随分静かな感じですよね。風の音も、水の音も聞こえてきません。真冬の凛とした寒さの中、生き物も息をひそめ、緊張感のある張り詰めた静けさに包まれているような気がしませんか?
木本 景子:します。
小山 志門:このように、俳句は描き出された情景をイメージし、その場に身を置き、どんな音をしているのかまで味わうことができると、さらに面白くなると思います。何気なくでは気づかない音から、作者の思いに迫るのも、俳句の面白さの一つですね。
木本 景子:さて、今回の講座のポイントをまとめておきましょう。学習のポイントは、
〈一〉リズムを感じながら味わう
〈二〉自然を感じる
〈三〉音を想像する
この三つでした。いかがでしたか?今回は「俳句」の読み方を学習しました。十七音という限られた音の数の中に、筆者の思いや自然の様子が豊かに読み込まれたのが俳句です。今回の学習を踏まえて、自分なりに楽しんでみてくださいね。
それでは今回学習した俳句の朗読をもう一度聞いてください。
(朗読)
金亀子擲つ闇の深さかな 高浜 虚子
芋の露連山影を正しうす 飯田 蛇笏
来しかたや馬酔木咲く野の日のひかり 水原 秋桜子
外にも出よ触るるばかりに春の月 中村 汀女
海に出て木枯帰るところなし 山口 誓子
冬の水一枝の影も欺かず 中村 草田男
木本 景子:さて、今回は「雪の深さを〈俳句〉」を学習しました。小山 先生、ありがとうございました。
小山 志門:ありがとうございました。
木本 景子:NHK 高校講座「言語文化」、木本 景子 と 小山 志門 先生でお送りしました。