木本:NHK高校講座言語文化の時間です。皆さんご機嫌いかがですか?木本景子です。今回から5回にわたって短歌と俳句を勉強していきます。講師は小山志門先生です。小山先生、よろしくお願いします。
小山:はい、小山です。よろしくお願いします。これから5回にわたって短歌・俳句の学習を進めます。短歌や俳句というのは現代において日常的な表現ではありません。そもそもどのような形式の表現か分かりますか?
木本:短歌なら五・七・五・七・七、俳句なら五・七・五という音数で作られるんですよね。
小山:そうですね。普段そのような表現をしないから身近ではないので、少し難しく感じたり遠ざけたりしてしまうかもしれませんね。でもこの五・七・五・七・七の音数から作られるリズム、私たち日本人はるか昔から用いてきたものなんですよ。きっと皆さんも教科書を声に出して読んだり朗読を聞いてみると、詳しく分からなくてもなんだか心地よさを味わうことと思います。今回の短歌・俳句の学習では、短歌・俳句をどんなふうに味わえばいいか、いくつかのポイントに沿って皆さんと確認していきたいと思います。それでは今回の学習のポイントを紹介しましょう。
木本:今回のポイントは
1、リズムを感じながら味わう。
2、感情に寄り添う。
3、情景を思い浮かべる。
以上の3つです。それでは学習を始めましょう。
小山:リズムを感じながら味わう。まず石川啄木の短歌です。朗読は高山久美子さんです。
(朗読:高山久美子)
やはらかに
柳あをめる
北上の
岸辺目に見ゆ
泣けとごとくに
石川啄木
小山:この短歌を簡単な言葉でまとめておきましょう。「川岸の柳がやわらかい若葉を芽吹く、そんな北上川の岸辺が自然と目に浮かび思い起されてくる、私に泣けと言うかのように」という感じでしょうか。
木本:なんか少し難しいですね。言いたいことをなかなか汲み取れないような感じがします。
小山:短歌に接した時に、言葉が難しいなとか、何が言いたいのと内容や意味するところが分からないと感じてしまう人はいると思います。でもそれが当然かもしれないなと思うんです。私はまずいきなり内容を理解しようとするところから始めるのではなく、声に出して読むことから始めてほしいと思ってます。
木本:まず声に出すんですか?
小山:皆さんは音楽を聞きますか?歌詞を味わうことで感動が深まりますが、例えば外国語の音楽など言葉の意味が分からない場合でも音の響きやリズムで感情が動かされることもたくさんありますよね。短歌はリズムのある韻文なんですから、それを感じてほしいと思うんです。もう一度石川啄木の短歌をリズムを感じながら声に出して読んでみてください。
木本:はい。
「やはらかに柳あをめる北上の 岸辺目に見ゆ泣けとごとくに」
声に出してみてどうですか?
木本:なんだかちょっと悲しい感じが感じられますね。
小山:そうですね。この短歌はまさに五・七・五・七・七の音数ですよね。何を悲しんでいるかは詳しく読んだり作者のことを調べる必要がありますが、その前に私たち日本人が大切にしてきたリズムを感じることを大事にしてほしいなと思います。それだは次は齋藤史の短歌です。
(朗読:高山久美子)
岡に来て
両腕に白い
帆を張れば
風はさかんな
海賊のうた
齋藤史
小山:こちらの短歌は先ほどの短歌より随分明るいイメージを受けると思いますが、「小高い丘の上に立って両腕を広げてみると、吹き抜ける風が白い服の袖をなびかせ、海賊の歌のように聞こえてくる」という感じです。声に出して読んでみるとどうでしたか?
木本:
「岡に来て両腕に白い帆を張れば 風はさかんな海賊のうた」
なんだかこう後半のリズムがとてもリズミカルで、音の連なりもとても若々しくて軽快な感じがしますね。
小山:ま、そうですね。でもこちらは五・七・五・七・七の二句目が八音になっています。こういうものを字余りと呼んでいます。しかし基本的にはやっぱり五・七・五・七・七の音数が土台になっていましたね。若々しい雰囲気、意志の強さなど一定のリズム感に乗っかってより爽快に伝わってくるような感じがしませんか?このように短歌に出会ったらまず声に出して読んだりしながらそのリズムを味わってください。私たち日本人が馴染んできたリズムを感じながら、それぞれの短歌によってそのリズムが異なり音の響きが違うことを感じてみてください。
木本:感情に寄り添う。
小山:私たち日本人が長きにわたって親しんできたリズムについては理解していただけたと思います。しかし皆さん、どうしてわざわざ五・七・五・七・七の形にするんでしょうか?
木本:言われてみればなぜなんでしょう?文字数を気にしない方が作るのも読むのも簡単ですよね。
小山:そうですよね。単純に大事なことを特別なリズムに乗せているということでもなさそうです。例えば毎日のニュースで重要なニュースが短歌で伝えられたら困りますよね。何が困るかと言うと、五・七・五・七・七という決まった形にいろんな情報を分かりやすく詰め込むのは不可能だからです。ニュースは正しい情報を正確に伝えてほしいですよね。短歌は正確な情報を記録したり伝えるための形式ではないということです。それではどうして短歌を作るのか、今度は内容に注目して何をリズムに乗せて表現しているのかを読んでみましょう。次は斎藤茂吉の短歌です。
(朗読:高山久美子)
我が母よ
死にたまひゆく
我が母よ
我を生まし
乳足らひし母よ
斎藤茂吉
小山:おそらく言葉が分かりづらいところも、どんな場面で描かれているかは読み取れると思います。分かりやすくまとめると、「お母さん。もうすぐ死んでいかれる私のお母さん。私を生んで育ててくれたお母さん」となるでしょうか。皆さんこの斎藤茂吉の短歌を読んでどんな感想を持ちますか?木本さんはいかがですか?
木本:そうですね。「母よ」と何度も繰り返しているのが少し悲しく感じます。
小山:そうですよね。自分を生んでくれた母親が死んでいく際に、「母よ」と何度も呼びかける茂吉の悲しさが伝わってきます。そして後半に注目してみましょう。「我を生まし」は私をお産みになった。「乳足らひし」は十分な乳を与えてくださった、となります。死んでいく母は自分自身を生み、乳を十分に足りるまで与えて育ててくださったのだ、ということを噛みしめています。そして特に注目してほしいのはこの短歌のリズムです。何か音読をしてみて感じることはありませんか?前半は五・七・五の定型で始まっていましたが、後半の「我を生まし乳足らひし母よ」は五・八と音数が変化しています。ポイント1で字余りは出てきましたが、定型の音数に足りないものを字足らずと言います。
木本:後半はリズミカルではなく、なんだかもたついているような不安定な感じがしました。
小山:その通りですね。そのリズムの不安定さは、まさに茂吉の心の乱れ、苦しい心境が短歌として絞り出された印象を受けませんか?この心の声を表すことが短歌の存在の意味なんです。この斎藤茂吉の短歌は悲しい気持ちでしたが、喜びでも幸せでも心に湧き上がってくる溢れる感情を短歌にしているんです。短歌は心の叫びです。出来事を正確に記録し、広く誰にも理解されるように書く文章ではなく、時に希望に溢れ、時に絶望の淵に立たされ、その心の動きを文字とリズムに託して表現します。ですからその歌がどのような心情を描いているのか、作者が何をそこに表現したのかを掴もうとすることも短歌の大事な読み方の一つですね。
木本:情景を思い浮かべる。
小山:リズム、感情と短歌のポイントを整理してきましたが、次は情景を思い浮かべることを意識して読んでみましょう。北原白秋の短歌です。
(朗読:高山久美子)
昼ながら
幽かに光る
蛍一つ
孟宗の藪を
出でて消えたり
北原白秋
小山:「幽かに」は「わずかに」という意味。「孟宗の藪」は竹藪のことです。皆さんもこの短歌を一度声に出して読んでみてください。
「昼ながら幽かに光る蛍一つ 孟宗の藪を出でて消えたり」。
なんかゆったりとした静かな感じがしますね。
木本:その通りだと思います。
小山:そして読んでみて、どんな情景、場面が表現されているのか頭の中でイメージしてみてください。皆さん、絵を描くのは得意ですか?絵が得意な人は短歌を読んで絵にしてみてもいいですね。白秋が眺めていた情景はどんなだったでしょうか?どこかの竹藪の様子ですね。そこに夜でもない時間なのに蛍が一匹、ぼんやり淡い光を灯して飛んでいます。その弱々しい光が竹藪から出ると消えてしまった。そんな情景が描かれています。短歌は描かれた情景を思い浮かべることも大切です。その場に自分がいるような気持ちになれればいいですね。ドラマや映画のシーンのように、自分がカメラを通して眺めているようなイメージをしてもいいでしょう。そしてイメージができたら、その情景や風景に触れて何か感じることはないかを次に考えていくと良いと思います。今回は、静かな竹藪からぼんやり光り、消えていく蛍。なんとなく寂しげだなと感じたり、あの蛍はどうなってしまったのかな、など自分なりに感じることを整理できたら、作品に込められた作者の思いを理解しやすくなると思いますよ。次は与謝野晶子の短歌の情景をイメージしてみましょう。
(朗読:高山久美子)
清水へ
祇園をよぎる
桜月夜
こよひ逢う人
みなうつくしき
与謝野晶子
小山:舞台は私の生まれの京都です。清水寺は桜の名所でもあります。「桜月夜」(月夜の花見)とは随分風流な感じですね。皆さんは京都に行ったことがありますか?
木本:はい、行ったことはあります。歴史を感じる古い街並みがとても美しいところですよね。
小山:そうですよね。特に清水寺へ向かう途中の祇園の街並みは、今でも古い雰囲気が残っていて紅い壁がとても美しいです。たくさんの人が行きかう華やかな街並みなんです。そんな賑やかで華やかな街並みを、夜桜見学に向かう作者の気持ちはどうだったでしょうか?誰に会いにいくのでしょうか?「逢う人みなうつくしき」とありますが、すれ違う人みんながキラキラきれいに見えるというほど、うきうきとした気分ですね。友達や恋人などと楽しんでいる気持ちが伝わってきますね。
木本:さて、今回の講座のポイントをまとめておきましょう。学習のポイントは
1、リズムを感じながら味わう。
2、感情に寄り添う。
3、情景を思い浮かべる。
この3つでした。さて小山先生、いかがだったでしょうか?
小山:短歌というものがあまり身近でなかった人にとっても、短歌を味わうポイントが少し分かりましたか?とにかくあまり堅苦しく考えすぎず、「分からない」ということも含めながら味わい、感じることがまずは一番かなと考えます。
木本:最後に今回取り上げた短歌の朗読を続けて聞いてください。
(朗読:高山久美子)
やはらかに
柳あをめる
北上の
岸辺目に見ゆ
泣けとごとくに
石川啄木
岡に来て
両腕に白い
帆を張れば
風はさかんな
海賊のうた
齋藤史
我が母よ
死にたまひゆく
我が母よ
我を生まし
乳足らひし母よ
斎藤茂吉
昼ながら
幽かに光る
蛍一つ
孟宗の藪を
出でて消えたり
北原白秋
清水へ
祇園をよぎる
桜月夜
こよひ逢う人
みなうつくしき
与謝野晶子
木本:さて今回は「柳あをめる」短歌の1回目の学習を小山志門先生と進めてきました。小山先生ありがとうございました。
小山:ありがとうございました。
木本:NHK高校講座言語文化、木本景子と小山志門先生でお送りしました。