言語げんご文化ぶんか #77-80

現代げんだいぶん

現実げんじつこうがわ小説しょうせつ3]

夢十夜ゆめじゅうや全四回ぜんよんかい-①②】

夏目なつめ漱石そうせき

講師こうし 齋藤さいとう たすく

夢十夜ゆめじゅうやいち

学習がくしゅうのねらい

表現ひょうげんそくして小説しょうせつ丁寧ていねいみ、そこに展開てんかいする独自どくじ世界せかいあじわおう。

文法・表現

表現に即して
「順著表現・依據表現」。に即して表示依照〜・順著〜。
丁寧に読み
「仔細閱讀」。丁寧に表示仔細地・認真地。
そこに展開する独自の世界を味わおう
「品味其中展開的獨特世界吧」。展開する表示展開・鋪展。味わう表示品味・感受。

中文翻譯

順著表現仔細閱讀小說,品味其中展開的獨特世界。

学習がくしゅうのポイント●

いち〉 「ゆめ」が「十夜じゅうや」?
ゆめゆめらしさ
さん〉 「おんな」と「自分じぶん

■ 「ゆめ」が「十夜じゅうや」?

夢十夜ゆめじゅうや』は、「ゆめ」についてえがかれた短編たんぺん十本じゅっぽん構成こうせいされています。各話かくわ共通きょうつうして登場とうじょうする言葉ことば人物じんぶつもなかにはありますが、それぞれがべつゆめ物語ものがたり、という想定そうていになっています。この学習がくしゅうでは、『夢十夜ゆめじゅうや』のなかから「第一夜だいいちや」と「第六夜だいろくや」をあじわっていきます。

文法・表現

短編十本で構成されています
「由十篇短篇構成」。構成される是受動形,表示被構成。で表示手段・以〜方式。
共通して登場する言葉や人物もなかにはありますが
「也有共通出現的詞語或人物」。なかにはある表示其中也有〜。
という想定になっています
「設定上是〜」。想定表示設定・假設。になっている表示成為〜狀態。

中文翻譯

《夢十夜》由描寫「夢」的十篇短篇構成。各篇之間雖然也有共通出現的詞語或人物,但設定上各自是不同的夢的故事。在這次學習中,從《夢十夜》中品味「第一夜」和「第六夜」。

ここで、小説しょうせつ作品さくひんなど、虚構きょこう物語ものがたりさい前提ぜんていについて確認かくにんしておきましょう。あらゆる文章ぶんしょうは、意図いともとづいてかれている。だからかなら文章ぶんしょうには、主張しゅちょうの「いたいこと」がふくまれているとおもわれがちですが、そもそも言葉ことば自体じたい虚構きょこう産物さんぶつで、かつ、でさえ、はこんだふでまかせて「かされている」という側面そくめんもあります。みなさんも、自分じぶんがしらばくまえいたものをると、自分じぶんいたはずのぶんなのに、どこかよそよそしくかんじてしまう経験けいけんはありませんか。

文法・表現

虚構の物語を読む際の前提
「閱讀虛構故事時的前提」。際(さい)表示時候・場合。前提表示前提・先決條件。
書き手でさえ、運んだ筆に任せて「書かされている」
「連書寫者也有被運筆帶動、「被書寫」的」。でさえ表示連〜都。書かされる是使役被動,表示被迫書寫。
よそよそしく感じてしまう経験
「感到陌生的經驗」。よそよそしい表示陌生・疏遠。〜てしまう表示不禁・不由得。

中文翻譯

在這裡,讓我們確認一下閱讀小說作品等虛構故事時的前提。所有文章都是根據書寫者的意圖寫成的。因此,文章中往往被認為必定包含書寫者的主張、書寫者「想說的事」,但詞語本身就是虛構的產物,而且書寫者也有被運筆的手所帶動、「被書寫」的側面。大家看看自己不久前所寫的東西,那是自己所寫的文章,是否也會感到有些陌生呢?

文章ぶんしょうは、できあがったとたんにもとはなれ、によってさまざまなりがおこなわれます。それゆえ、夏目なつめ漱石そうせきがそれぞれのゆめみたた、のではなく、「こんなゆめた」というかたで、物語ものがたりにおける虚構きょこうかたゆめえがかれている、とかんがえてみてください。かれたものをわたしたちがどうむのかというてんに、文学ぶんがく作品さくひん醍醐味だいごみかくされています。

文法・表現

できあがったとたんに
「一完成就」。とたんに表示剛〜就立刻〜、前後相隨。
虚構の語り手の夢が描かれている
「描繪的是虛構的敘述者的夢」。語り手表示敘述者・說故事的人。描かれている是受動持續態。
書かれたものを〜どう読み込むのかという点に、醍醐味が隠されています
「文學作品的醍醐味隱藏於我們如何讀入所寫下的東西」。読み込む表示深入閱讀・讀入。醍醐味表示精髓・真正樂趣。

中文翻譯

文章一完成就離開書寫者,由讀者進行各種各樣的解讀。因此,請不要認為是夏目漱石分別做了那些夢,而要認為,以「做了這樣一個夢」的說法,描繪的是故事中虛構的敘述者的夢。我們如何讀入所寫下的東西,文學作品的醍醐味正隱藏於此。

ゆめゆめらしさ

わたしたちは、自分じぶんゆめおおくをいつまでもおぼえていることができません。ゆめからめて、あらためてそのゆめをもう一度いちどたどりなおそうとすると、それはもうリアリティをうしなっていて、ずいぶんといろあせたものにかんじられます。

文法・表現

いつまでも覚えていることができません
「無法一直記住」。いつまでも表示一直・永遠。ことができない表示無法做到〜。
夢から覚めて
「從夢中醒來」。夢から覚める表示從夢中醒來(与「覚める」搭配)。
たどり直そうとすると
「想要再次追尋時」。たどる表示追尋・追溯。直す表示重新做。とすると表示嘗試〜就〜。

中文翻譯

我們沒有辦法一直記住自己所做的大多數夢。從夢中醒來,重新想要再次追尋那個夢時,它已經失去了真實感,感覺大為褪色了。

− 261 −

ゆめは、本人ほんにんさえもないような意識いしきふかいところにっていて、しかもそれは、意識いしきひかりもとではんでしまうのだ、とかんがえられます。「ゆめ」には「ゆめ」の居場所いばしょがあるのです。そうかんがえると『夢十夜ゆめじゅうや』は、ゆめというものの手触てざわりを、小説しょうせつむという行為こういとおじて、追体験ついたいけん可能かのうなものとして読者どくしゃしている、とえそうです。

文法・表現

本人さえも知り得ないような
「連本人都無從知曉的那種」。さえも表示連〜都。知り得ない(知りえない)表示無法知曉。
意識の光の元では死んでしまう
「在意識的光芒下便會消亡」。元(もと)表示在〜的照射下・在〜之下。てしまう表示結果性完了。
追体験可能なものとして差し出している
「作為可以追體驗的東西呈獻」。追体験表示追體驗・重新經歷。差し出す表示呈獻・遞出。

中文翻譯

夢紮根於連本人都無從知曉的、意識深處,而且那一旦暴露在意識的光芒下便會消亡,如此認為。「夢」有「夢」的棲身之處。這樣想來,《夢十夜》,可以說是將夢這東西的質感,通過閱讀小說這一行為,作為可以追體驗的東西呈獻給讀者的。

ゆめかた時点じてんで、その中身なかみはすでに過去かこのもののはずなのに、『夢十夜ゆめじゅうや』においては、現在進行中げんざいしんこうちゅう出来事できごととしてかたられていきます。いわば、ゆめ実況中継じっきょうちゅうけいのようなかんじです。このかたくちによって読者どくしゃは、かたによってられた奇妙きみょうゆめ物語世界ものがたりせかいまれ、それを自分自身じぶんじしんによって想像そうぞうされたものとしてめることが可能かのうになるのです。

文法・表現

過去のもののはずなのに
「理應是過去的事物,但」。はずなのに表示理應〜卻〜(表示意外・反預期)。
夢の実況中継のような感じ
「夢的現場直播一般的感覺」。実況中継表示現場直播・實況轉播。
引き込まれ〜受け止めることが可能になる
「被吸引進去〜能夠接受」。引き込まれる是受動,表示被吸引進去。受け止める表示接受・承接。

中文翻譯

在講述夢的時間點上,其內容理應已是過去的事物,但在《夢十夜》中,卻作為現在進行中的事件被講述下去。可以說是夢的現場直播一般的感覺。通過這種敘述方式,讀者被吸引進敘述者所見的奇妙夢的故事世界,並能夠將其作為由自己本身所想象的東西來接受。

■ 「おんな」 と 「自分じぶん

では、物語ものがたり登場人物とうじょうじんぶつについてていきましょう。「こんなゆめた」とっているとう人物自身じんぶつじしんだれでしょうか。すすめていくと、「自分じぶんたしかにこれはぬなとおもった」とありますから、「自分じぶん」と名乗なの人物じんぶつ ─ ─ 言葉遣ことばづかいからすると 「おとこ」 とえそうです ─ が、「こんなゆめた」 とかたしている、とえます。

文法・表現

当の人物自身は誰でしょうか
「那個人物自身是誰呢?」。当の表示當事的・正是那個的。でしょうか表示疑問・推測。
言葉遣いからすると 「男」 と言えそうです
「從用詞看來可以說是「男」」。言葉遣い表示用詞・說話方式。からすると表示從〜來看。
語り出している、と言えます
「可以說是正在講述」。語り出す表示開始講述。と言える表示可以說。

中文翻譯

那麼,讓我們來看看故事的登場人物。說「做了這樣一個夢」的那個人物自身是誰呢?讀下去可以看到「自分也確實覺得這要死了」,所以,可以說是自稱「自分」的人物——從用詞看來可以說是「男」——正在講述「做了這樣一個夢」。

まずは一番いちばんおおきな 「ゆめ」 という枠組わくぐみあたえられて、その後、のちに 「自分じぶん」 と名乗なの人物じんぶつ腕組うでぐみをして、枕元まくらもとすわっている。だれ枕元まくらもとかとると、そこには 「あおむきにおんな」 がいて、しずかなこえで 「もうにます」 とつぶやきます。

文章ぶんしょうかさねられるごとに、幻想世界げんそうせかい舞台ぶたいととのっていきます。ただ、ここがどこなのか、いつのことなのかは判然はんぜんとせず、どこまでも不思議なふしぎなかんじがつきまといます。

つぎに 「おんな」 のえがかれかたについてておきましょう。「おんな」 のかお輪郭りんかくは 「やわらかなうりざねがお」 とあります。これは平安時代へいあんじだい美人顔びじんがお象徴しょうちょうです。ウリには、スイカやカボチャがふくまれます。そして 「うりざね」 は漢字かんじで 「瓜実うりざね」 とくので、てっきり 「うりざねがお」 はスイカやカボチャのような、ぽっちゃりしたかおのことだど誤解ごかいされがちですが、ここでわれているのは 「じつ」 のほうではなく 「たね」 のほうです。スイカやカボチャのたねは、よくると、んなかがすこふくらんだ、細長ほそながたまごのようなかたちをしています。そこで、面長おもながですっきりした輪郭りんかくのことを 「うりざねがお」 とうのです。

文法・表現

描かれ方について見ておきましょう
「讓我們看看描繪方式」。描かれ方表示被描繪的方式。ておく表示預先・事前確認。
平安時代の美人顔の象徴
「平安時代美人臉的象徴」。象徴表示象徴・符號。
誤解されがちですが
「往往被誤解,但」。がち表示容易〜・往往〜。される是受動,表示被誤解。

中文翻譯

接下來讓我們看看「女」的描繪方式。「女」的臉部輪廓寫作「柔和的瓜實臉」。這是平安時代美人臉的象徵。瓜科包含西瓜和南瓜。「瓜實」用漢字寫作「瓜実」,往往被誤解為「瓜實臉」是像西瓜或南瓜那樣圓潤的臉,但這裡說的不是「果實」而是「種子」那一邊。西瓜或南瓜的種子仔細看,是中間稍微鼓起、細長的蛋形。因此,面部修長、輪廓清晰的臉被稱為「瓜實臉」。

また、冒頭ぼうとうの 「もうにます」 と、そのあとの 「おんなしずかなこえで、もうにますとはっきりった」 の部分ぶぶんは、「おんな」 が 「もうにます」 という言葉ことばを、かえしてったわけではありません。「自分じぶん」 と名乗なのかたが、おんな言葉ことば反芻はんすうしているだけです。ということは、冒頭ぼうとうからここまで、「おんな」 が言葉ことばはっしたまま、その状態じょうたい時間じかんまっている、とかんがえることができます。

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場面ばめん設定せっていがあって、おんながつぶやいて、「自分じぶん」 にえているおんな様子ようすえがかれているこのかん描写びょうしゃすすんでいますが、物語ものがたり時間じかん一秒いちびょうすすんでいません。えがかれる時間じかん物語内ものがたいない時間進行じかんしんこう同時どうじではないということをさえておきましょう。

それから、前半ぜんはん人物じんぶつのセリフに 「 」 なしですすんでいきます。これも、はっせられたセリフなのか、それともこころこえなのかが曖昧あいまいで、事物じぶつ輪郭りんかく曖昧あいまいにしてせる効果こうかがあるどえそうです。

一方いっぽうで、いろづかいはとってもあざやかです。「おんな」 の描写びょうしゃとして 「しろほおそこあたたかいいろほどよくして、くちびるいろ無論むろんあかい」 とあります。とうていにそうにはえないですね。「おとこ」 のにも、この 「おんな」 がにそうにはうつっていません。それなのに 「おんな」 のこえくと 「たしかにこれはぬな」 とおもってしまう。「おとこ」 がおもっていることと実際じっさい発言はつげん行動こうどうとのあいだに、つじつまがっていないのです。

文法・表現

とうてい死にそうには見えない
「完全看不出像要死」。とうてい〜ない表示完全不〜・怎麼也不〜。
確かにこれは死ぬなと思ってしまう
「便覺得確實這要死了」。確かに表示確實・的確。〜てしまう表示不由得・不禁。
つじつまが合っていない
「前後不一致・說不通」。つじつまが合う表示前後一致・說得通(否定形表示矛盾)。

中文翻譯

另一方面,色彩的運用非常鮮艷。作為「女」的描繪,寫有「雪白的臉頰底下、溫熱的血色恰到好處地映出,嘴唇的顏色自然是紅的」。完全看不出像要死的樣子啊。在「男」的眼中,這個「女」也不像要死。然而一聽到「女」的聲音,便覺得「確實這要死了」。「男」所想的與實際的發言和行動之間,是前後不一致的。

つまり、自分じぶんえている 「にそうにえない」 様子ようすよりも、「もうにます」 という 「おんな」 の言葉ことばのほうが、影響えいきょうおおきいということになります。たとえどんなに 「おんな」 のほおあかみをびていても 「おんな」 がぬとうならぬんだ、というこどです。そしてこのてんこそが、『夢十夜ゆめじゅうや』 の 「第一夜だいいちや」 で設定せっていされた、唯一ゆいいつのルールなのだとえます。これは、「おんな」 のうことがすべて本当ほんとうだ、というこどであり、あとはどんなに荒唐無稽こうとうむけいでも、「おんな」 のはっした言葉ことばだけが真実しんじつだ、ということになります。

今度こんどは、ふたのやりりとまなざしに注目ちゅうもくしてみましょう。「くろひとみおくに、自分じぶん姿すがたあざやかにかんでいる」 というのは、「おんな」 のくろ部分ぶぶんに、のぞきんでいる 「おとこ」 の姿すがたうつっている、というこどです。「おんな」 の黒目くろめ部分ぶぶん瞳孔どうこう) に 「おとこ」 の姿すがたうつっています。

問題もんだいはこのあとです。「おとこ」 が 「おんな」 に 「わたしかおえるかい」 と聞いきいたとき、「おんな」 は 「えるかいって、そら、そこに、うつってるじゃありませんか」 とっています。では、「そこに、うつってるじゃありませんか」 というときの 「そこ」 って、いったいどこでしょうか。

「そこ」 とは、自分以外じぶんいがい場所ばしょしめすものなので、いったんは 「おとこ」 の瞳孔どうこううつった 「おんな」 のかお、とめるのですが、「おとこ」 が質問しつもんしているのは 「わたしかおえるかい」 なので、「えるか」 といういかけに 「うつっている」 とこたえているのだとかさねてみると、「おんな」 が 「そこ」 とっているのは、「おんな」 の瞳孔どうこうである、ということにもなります。

つまり、「おんな」 が自身じしんることはできないはずなのに、まるで 「おとこ」 と一緒いっしょになって、「おんな」 のをのぞきんでいるかのようにっているのです。「おんな」 の視線しせんは 「おとこ」 にかさなっています。「おんな」 は 「おとこ」 とおなじものをているのだといえるでしょう。

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夢十夜ゆめじゅうや

学習がくしゅうのねらい

表現ひょうげん特徴とくちょうそくして小説しょうせつ丁寧ていねいみ、独自どくじ世界せかいあじわっていこう。

文法・表現

表現の特徴に即して
「順著表現特徵」。特徴表示特徵・特點。に即して表示依照〜・順著〜。
味わっていこう
「品味下去吧」。ていく表示持續進行。よう是意志形,表示〜吧。

中文翻譯

順著表現特徵仔細閱讀小說,品味獨特的世界吧。

学習がくしゅうのポイント●

いち表現ひょうげん特徴とくちょう
〉 「百年ひゃくねんはもうていたんだな」
さん第一夜だいいちや意味いみ

表現ひょうげん特徴とくちょう

前回ぜんかいは、かたりがすすんでいるのに物語ものがたり時間じかんまっていたり、「おんな」 のているものと 「おとこ」 のているものとかさなっていたりということをりました。ここからさき部分ぶぶんについても表現ひょうげん特徴とくちょうそくしてていきましょう。

文法・表現

語りが進んでいるのに物語の時間が止まっていたり
「故事雖在推進但故事時間卻停止著」。のに表示逆接・雖然〜卻〜。〜たり〜たりする表示舉例列舉。
重なっていたりということを読み取りました
「讀取了重疊著等情形」。読み取る表示解讀・讀取。
表現の特徴に即して見ていきましょう
「順著表現的特徵來看吧」。ていく表示持續進行。

中文翻譯

上回讀取了故事雖在推進但故事時間卻停止著、「女」所看到的和「男」所看到的重疊著等情形。從這裡以後的部分,也讓我們順著表現的特徵來看。

まず、途中とちゅうから 「おんな」 のセリフに 「 」 がつきます。「んだら、めてください」 の部分ぶぶんです。「おんな」 のセリフは冒頭ぼうとうからあるのですが、「 」 がついているのは、中盤ちゅうばんしょだけです。

さて 「おんな」 は、自分じぶんんだら、真珠しんじゅ養殖ようしょく使わつかわれる 「真珠貝しんじゅがい」 であなって、てんからちてくる 「星の破片ほしのはへん」 を墓標ぼひょうにするよう、おとこつたえます。ここで 「星の破片ほしのはへん」 とは隕石いんせきのこと、「真珠貝しんじゅがい」 は真珠しんじゅ養殖ようしょく使わつかわれるおお二枚貝にまいがいのことです。どちらもすぐにははいらなそうな代物しろものですが、この文脈ぶんみゃくかれると、幻想的なげんそうてきな雰囲気ふんいきかもすのに一役ひとやくっています。

文法・表現

真珠の養殖で使われる 「真珠貝」
「真珠養殖所用的「真珠貝」」。養殖表示養殖・人工培育。使われる是受動,表示被使用。
墓標にするよう、男に伝えます
「讓男作為墓標,傳達給男」。ように表示目的・以便。伝える表示傳達・告訴。
幻想的な雰囲気を醸し出すのに一役買っています
「在營造夢幻氣氛上起到了一定作用」。醸し出す表示釀造・營造。一役買う表示出一份力・扮演一個角色。

中文翻譯

那麼,「女」在自己死後,讓男用真珠養殖所用的「真珠貝」挖洞,並告訴男要將從天上落下來的「星の破片」作為墓標。這裡「星の破片」指的是隕石,「真珠貝」是用於真珠養殖的較大的雙殼貝。兩者都是不容易馬上到手的東西,但被放在這個語境中,在營造夢幻氣氛上起到了一定作用。

そのうえで 「おんな」 は、またいにるからはかのそばでっていてください、とげます。明治時代めいじじだいにおける、人々ひとびと平均寿命へいきんじゅみょう五十歳ごじゅうさい程度ていどですから、百年ひゃくねんというと人生じんせい二回分にかいぶん相当そうとうします。とおくなるような時間軸じかんじくです。

また、「おんな」 のくなる瞬間しゅんかんも、描写びょうしゃ普通ふつうとはちがっています。「おとこ」 がただ 「っている」 とこたえたあと、「くろひとみなかあざやかにえた自分じぶん姿すがた」 とありますから、これは、「おんなくろ瞳孔どうこううつったおとこ姿すがた」 です。それが 「しずかなみず」 がうごいて、「うつかげ」 をみだすということは、「おんな」 のなみだで 「おとこ」 のぞうがにじんだ、というこどになります。

おとこ」 はずっとかがみうつった自分じぶん姿すがたているかのようです。「おんな」 の黒目くろめ部分ぶぶんは 「おおきなうるおいのある」 で、「とおるほどふかえる」 ともわれていたのですが、ここではまるで水面すいめん姿すがたうつす 「水鏡みずかがみ」 のようにえがかれます。さきほどまでは姿すがたが 「うつる」 こどが 「えている」 ことの担保たんぽとして機能きのうしていたはずなのに、ここでは、姿すがたを 「うつす」 ことも 「まなざす」 こどをもできなくなってしまうのです。

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■ 「百年ひゃくねんはもうていたんだな」

ついに 「おんな」 がんだのち、「おとこ」 はわれたとおりに真珠貝しんじゅがいあなり、「おんな」 のからだめます。「かいうらつきひかりし」 たり、「やわらかいつちを、うえからそっとかけ」 たりする様子ようすには、「おとこ」 の愛情あいじょうさえかんじられます。

文法・表現

言われたとおりに
「照著被告知的・按照所說的」。とおりに表示按照〜・如同〜。言われた是受動過去形。
埋葬の場面とは思えない静けさや軽やかさ
「令人難以想象是埋葬場面的寧靜和輕盈」。とは思えない表示難以認為是〜。

中文翻譯

「女」終於死後,「男」照著被告知的用真珠貝挖了洞,將「女」的身體埋入。「貝の裏に月の光が差し」、「柔らかい土を、上からそっとかけ」等樣子,甚至能感受到「男」的愛情。撿來的「星の破片」,雖然按照「抱き上げて」所寫應該相當大,但已是一個連重力也被解放了的空間。埋葬場面卻感受到令人難以想象的寧靜和輕盈。

ひろってきた 「星の破片ほしのはへん」 も、「げて」 とあるように相当大そうとうおおきいはずですが、すでに重力じゅうりょくからも解放かいほうされた空間くうかんになっています。あなるときも、「湿しめったつちにおい」 がしたり、はかうえいしいたら 「自分じぶんむねすこあたたかくなった」 りとあるので、埋葬まいそう場面ばめんとはおもえないしずけさやかろやかさがかんじられます。

おんな」 にわれた通りとおりおとこ」 がはかのそばでっていると、「おんな」 がった通りとおりひがしからのぼり、やがて西にししずんでいきます。そうしてまたのぼり、しずんでゆく。冒頭ぼうとうではおんなのセリフをかええがいてそのかん時間じかんまっているようにせていましたが、ここはぎゃく太陽たいよう高速こうそく回転かいてんしていくような時間じかんすす具合ぐあいです。

何時いつしか 「おとこ」 がいたほし破片はへん墓石ぼせきも 「こけえたまるいし」 になっています。これは、いしこけむすほど、なが時間じかんったということでしょう。それでも百年ひゃくねんはまだません。ついに、「自分じぶんおんなにだまされたのではないかろうか」 と 「おとこ」 がおもはじめたその瞬間しゅんかんいししたからあおくきびてきます。このくきかたも、まるで植物しょくぶつとはちがったもののようなスピードかんがあります。

文法・表現

何時しか〜になっています
「不知不覺間〜成了」。何時しか表示不知不覺間・不知何時。になっている表示(已經)成為了的狀態。
石が苔むすほど、長い時間が経った
「石頭長滿苔蘚,已過去了相當長的時間」。苔むす表示長滿苔蘚。経つ表示(時間)過去・流逝。
女にだまされたのではないかろうか
「難道是被女欺騙了嗎」。だまされる是受動,表示被欺騙。ではないかろうか表示難道不是〜嗎(婉轉推測)。

中文翻譯

不知不覺間,「男」所放的星之碎片的墓碑也成了「長了苔蘚的圓石頭」。這意味著石頭長滿苔蘚,已過去了相當長的時間。即便如此,百年還沒到來。終於,就在「男」開始想「難道是被女欺騙了嗎」的那一瞬間,石頭下面伸出了青色的莖。青莖的伸長方式,也有著與植物截然不同的生物般的速度感。那青色的莖伸到自分的胸口處停下,「ふっくらと花びら」便綻開,「真っ白な百合」出現了。「露」令人聯想到「女」死去時的「涙」,「真っ白な百合」令人聯想到冒頭「女」的「真っ白な頬」。

そしてそのあおくきが 「ちょうど自分じぶんむねあたりまでまった」 かとおもうと 「ふっくらとはなびら」 がひらき、「しろ百合ゆり」 があらわれます。「おとこ」 が見下みおろしている極小きょくしょう世界せかいと、見上みあげている極大きょくだい宇宙うちゅうとが、ちてくる 「つゆ」 によって交差こうさする瞬間しゅんかんです。この 「つゆ」 は 「おんな」 がくなるときの 「なみだ」 を、「しろ百合ゆり」 というのは冒頭ぼうとうの 「おんな」 の 「しろほお」 を連想れんそうさせます。

「ゆり」 は漢字かんじで 「ひゃく」 に 「う」 ときます。「第一夜だいいちや」 においては、「おとこ」 と 「おんな」 が 「ひゃく年後ねんごふたたび 「う (う)」 から 「百合ゆり」 がえらばれた、ともえます。

第一夜だいいちや意味いみ

第一夜だいいちや」 は、「こんなゆめた」 というしで一気いっき幻想世界げんそうせかいまれたあと、「おんな」 と 「おとこ」 のあいだ距離きょり非常ひじょう接近せっきんした状態じょうたいでストーリーが進行しんこうします。「おんな」 は全身ぜんしんではなく 「かお」 だけでえがかれ、「おとこ」 にいたっては 「腕組うでぐみ」 をしているほかになに説明せつめいもありません。いわば読者どくしゃが 「おんな」 のかおと 「おとこ」 の胴体どうたいしか想像そうぞうできないようなかれかたをしています。

文法・表現

一気に幻想世界に引き込まれたあと
「一口氣被引入幻想世界後」。一気に表示一口氣・一鼓作氣。引き込まれる是受動,表示被吸引進去。
何の説明もありません
「完全沒有說明」。何の〜もない表示完全沒有〜。
現実世界の生死を超えた、非常に美しい両想いの成就
「超越現實世界生死的、非常美麗的兩情相悅的成就」。両想い表示兩情相悅。成就表示成就・實現。

中文翻譯

「第一夜」以「こんな夢を見た」這個書寫開頭,一口氣被引入幻想世界後,在「女」和「男」之間的距離非常接近的狀態下故事推進。「女」只以「臉」而非全身來描繪,至於「男」,除了「抱著臂」之外完全沒有說明。可以說是讀者只能想象「女」的臉和「男」的身體的一種書寫方式。然而,正因為兩者如此被描繪,結末部分「男」終於確信,「女」履行了約定而來與他相會了。可以說,這是超越了現實世界的生死、非常美麗的兩情相悅的成就。

しかし、両者りょうしゃがこのようなかれかたをしているからこそ、結末部分けつまつぶぶんの 「しろ百合ゆりはなさきほねにこたえるほどにおった」 や、「はるかのうえから、ぽたりとつゆちた」、「自分じぶんくびまえして、つめたいつゆしたたる、しろはなびらに接吻せっぷんした」 という描写びょうしゃきているのだどともえます。すで指摘してきしたように、「百合ゆり」 の 「しろさ」 は 「おんな」 のほおの 「しろさ」 を、てんからる 「つゆ」 は 「おんな」 の 「なみだ」 を連想れんそうさせます。そして、生前せいぜんついにれることのできなかった 「おんな」 = 「百合ゆり」 のにおいが 「おとこ」 の 「ほねにこたえるほどにおった」 とき、「おとこ」 はついに 「おんな」 が約束やくそくたしていにてくれたことを確信かくしんするのです。現実世界げんじつせかい生死せいしえた、非常ひじょううつくしい両想りょうおもいの成就じょうじゅだどっていいでしょう。

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現代げんだいぶん

夢十夜ゆめじゅうや

夏目なつめ漱石そうせき

第一夜だいいちや

こんなゆめみたた。

腕組うでぐみをして枕元まくらもとすわっていると、あおむきにおんなが、しずかなこえでもうにますとう。おんなながかみまくらいて、輪郭りんかくやわらかなうりざねがおをそのなかよこたえている。しろほおそこあたたかいいろほどよくして、くちびるいろ無論むろんあかい。とうていにそうにはえない。しかしおんなしずかなこえで、もうにますとはっきりった。自分じぶんたしかにこれはぬなとおもった。そこで、そうか、もうぬのか、とうえからのぞきむようにしてきいてみた。にますとも、といながら、おんなはぱっちりとけた。おおきなうるおいのあるで、ながいまつげにつつまれたなかは、ただ一面いちめんくろであった。そのくろひとみおくに、自分じぶん姿すがたあざやかにかんでいる。

自分じぶんとおるほどふかえるこの黒目くろめのつやをながめて、これでもぬのかとおもった。それで、ねんごろにまくらのそばへくちをつけた、ぬんじゃなかろうね、大丈夫だいじょうぶだろうね、とまたききかえした。するとおんなくろねむそうに見張みはったまま、やっぱりしずかなこえで、でも、ぬんですもの、仕方しかたがないわとった。

じゃ、わたしかおえるかいと一心いっしんにきくと、えるかいって、そら、そこに、うつってるじゃありませんかと、にこりとわらってみせた。自分じぶんだまって、かおまくらからはなした。腕組うでぐみをしながら、どうしてもぬのかなとおもった。

しばらくして、おんながまたこうった。

んだら、めてください。おおきな真珠貝しんじゅがいあなって。そうしててんからちてくるほし破片はへん墓標はかじるしいてください。そうしてはかのそばにっていてください。またいにますから。」

自分じぶんは、いついにるねときいた。

るでしょう。それからしずむでしょう。それからまたるでしょう、そうしてまたしずむでしょう。──あかひがしから西にしへ、ひがしから西にしへとちてゆくうちに、──あなた、っていられますか。」

自分じぶんだまってうなずいた。おんなしずかな調子ちょうしをいちだんげて、

百年ひゃくねんっていてください。」とおもったこえった。

百年ひゃくねんわたくしはかのそばにすわってっていてください。きっどきっといにますから。」

自分じぶんは、ただっているとこたえた。すると、くろひとみなかあざやかにえた自分じぶん姿すがたが、ぼうっとくずれてきた。しずかなみずうごいてうつかげみだしたように、ながしたとおもったら、おんながぱちりとじた。ながいまつげのあいだからなみだほおれた。

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──もうんでいた。

自分じぶんはそれからにわりて、真珠貝しんじゅがいあなった。真珠貝しんじゅがいおおきななめらかなふちするどかいであった。つちをすくうたびに、かいうらつきひかりしてきらきらした。湿しめったつちにおいもした。あなはしばらくしてれた。おんなをそのなかれた。そうしてやわらかいつちを、うえからそっとかけた。かけるたびに真珠貝しんじゅがいうらつきひかりした。それからほし破片はへんちたのをひろってきて、かろくつちうえせた。ほし破片はへんまるかった。なが間大空あいだおおぞらちているに、かどれてなめらかになったんだろうとおもった。げてつちうえくうちに、自分じぶんむねすこあたたかくなった。

自分じぶんこけうえすわった。これから百年ひゃくねんあいだ、こうしてっているんだなとかんがえながら、腕組うでぐみをして、まる墓石ぼせきながめていた。そのうちに、おんなったとおりひがしからた。おおきなあかであった。それがまたおんなったとおり、やがて西にしちた。あかいまんまで、のっとちていった。ひとつと自分じぶん勘定かんじょうした。

しばらくするとまた唐紅からくれない天道てんどうがのそりとあがってきた。そうしてだまってしずんでしまった。ふたつとまた勘定かんじょうをした。

自分じぶんはこういうふうにひとふたつと勘定かんじょうしてゆくうちに、あかをいくつたかわからない。勘定かんじょうしても、勘定かんじょうしても、しつくせないほどあかあたまうえとおしていった。それでも百年ひゃくねんがまだない。しまいには、こけえたまるいしながめて、自分じぶんおんなにだまされたのではないかろうかどおもいだした。

するといししたからはす自分じぶんほういてあおくきびてきた。ながくなって、ちょうど自分じぶんむねあたりまでまった。とおもうと、すらりと、らぐくきいただきに、心持こころもちくびかたむけていた細長ほそなが一輪いちりんのつぼみが、ふっくらとはなびらをひらいた。しろ百合ゆりはなさきほねにこたえるほどにおった。そこへはるかのうえから、ぽたりとつゆちたので、はな自分じぶんおもみでふらふらとうごいた。自分じぶんくびまえして、つめたいつゆしたたる、しろはなびらに接吻せっぷんした。自分じぶん百合ゆりからかおはな拍子ひょうしおもわず、とおそらたら、あかつきほしがたったひとまたたいていた。

百年ひゃくねんはもうていたんだな。」とこのときはじめてがついた。

夏目なつめ漱石そうせき 一八六七年せんはっぴゃくろくじゅうななねん慶応けいおう 3] ─ 一九一六せんきゅうひゃくじゅうろくねん大正たいしょう 5]。
東京都とうきょうとまれ。本名ほんみょう金之助きんのすけ小説家しょうせつか英文学者えいぶんがくしゃ本文ほんぶんは『漱石全集そうせきぜんしゅう第十二巻だいじゅうにかん一九九四年せんきゅうひゃくきゅうじゅうよねんかん) による。

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