言語文化 #75
講師 渡辺恭子
学習のねらい
「史話」学習の三回目です。今回は、「魏武捉刀を捉る」を学習します。前々回の二回は、正史『三国志』に書かれている、曹操の話を読みました。今回は、南朝宋時代に劉義慶(四〇三~四四四年)という人が編集した『世説新語』という書物の中から、曹操についてのニュースレターエピソードを読みます。
今回は、漢文の文章を読む最後の回です。漢文訓読の総仕上げをしましょう。そして、話の展開を追いながら、主人公「魏武(曹操)」の心理を考え、「史話」の面白さを味わってほしいと思います。
這是「史話」學習的第三回。本回學習「魏武捉刀」。前兩回是閱讀正史《三國志》中所記載的、關於曹操的故事。本回從南朝宋時代劉義慶(403~444年)所編集的《世說新語》這部書物中,閱讀關於曹操的逸聞趣事。 本回是閱讀漢文文章的最後一回。讓我們做好漢文訓讀的總複習。然後,希望大家一邊追隨故事的發展,一邊思考主人公「魏武(曹操)」的心理,品味「史話」的有趣之處。
●学習のポイント●
〈一〉 本文を声に出して読む
〈二〉 漢字の意味に注意しながら現代語に訳す
〈三〉 「魏武」の心理を読み取る
漢文の文章を読むのにも大分なれたと思います。漢文訓読のきまりを思い出しながら「魏武捉刀を捉る」の文章を、声に出して、何時も読みましょう。読み方が分からないときは、第二十回、二十一回の 「訓読の基本」 の回をもう一度確認してください。
我想大家對閱讀漢文文章也已經相當熟悉了。讓我們一邊回憶漢文訓讀的規則,一邊大聲反覆朗讀「魏武捉刀」的文章吧。當不知道讀法的時候,請再確認一次第二十回、第二十一回「訓讀的基本」那一回。
「再読文字」には、特に注意しましょう。
・ 将に (まさニ ~ セントす) …… これから ~ しようとする。
請特別注意「再讀文字」。 ・将に(まさニ~セントす)……今後打算~、即將要~。
この話の主な登場人物は、
● 風采の上がらない 「魏の武帝 (曹操)」
● 見栄えのする臣下 「崔季珪」
● 人を見抜く力のある 「匈奴の使者」
の三人です。
この時代の匈奴は、たびたび中国を脅かす存在でした。「魏武捉刀を捉る」は、そんな匈奴からの使者が、会見の後、臣下になりすましていた曹操を 「英雄である」 と見抜き、その結果、曹操は匈奴からの使者を殺してしまった、というお話です。
這個故事的主要登場人物是: ● 風采不揚的「魏的武帝(曹操)」 ● 相貌堂堂的臣下「崔季珪」 ● 有看穿人的能力的「匈奴的使者」 這三個人。 這個時代的匈奴,是時常威脅中國的存在。「魏武捉刀」講述的是:那匈奴的使者,在會見之後,看穿了假扮成臣下的曹操「是英雄」,其結果,曹操將匈奴的使者殺了這樣一個故事。
【 語句の意味 】
● 作品に出てくる重要語句の意味を理解しましょう。
・ 匈奴 ………… 中国北方の騎馬民族。たびたび中国を脅かした。
・ 自ら以へらく …… 自分で、自分を ~ だと思う。 「以へらく」 は、 「思うことには」。
・ 形陋 ………… 風采が上がらない、見栄えがしない。
・ 牀頭 ………… 王座のかたわら。
・ ~ をして ~ しめ (使 ・ 令) …… ~ に ~ させる。 「使役形」。
・ 間諜 ………… スパイ ・ 秘密工作員。
・ 何如 ………… どうであるか。いかがでしたか。(状態 ・ 事実についての疑問を表す)。
・ 雅望 ………… 麗しい風貌。優れた人品。
・ 魏武 ………… ここでは曹操 (一五五~二二〇) を指す。死後、子の曹丕 (三国志の魏の初代皇帝) から武帝と諡された。
・ 崔季珪 …… 曹操の臣下 (一六三~二一六)。名は琰。 「季珪」 は字。容姿に優れ、ひげが長く、威厳が備わっていた。
「魏武捉刀」 の話では、最後に、曹操は匈奴からの使者を殺してしまいます。それでは、なぜ、自分を英雄だ、と見抜いた匈奴の使者を、追いかけてまで殺させたのでしょうか。考えてみましょう。
ここでは、考えられる二つの理由を挙げておきます。
在「魏武捉刀」的故事中,最後,曹操殺掉了匈奴派來的使者。那麼,為什麼要追上去殺掉看穿自己是英雄的匈奴使者呢?讓我們想一想。 這裡列出可以想到的兩個理由。
理由1 見栄えのする臣下 「崔季珪」 の外見に惑わされることなく、曹操を 「英雄だ」 と見抜いた、匈奴の使者の眼力の素晴らしさ。この使者は、ただ者ではないと分かり、敵となった時、自分を苦しめる存在になるかも知れないという恐怖から。
理由一:沒有被相貌堂堂的臣下「崔季珪」的外貌所迷惑,就看穿了曹操「是英雄」——匈奴使者眼力的出眾。(曹操)知道這個使者不是等閒之輩,出於對其成為敵人時、可能成為讓自己痛苦的存在的恐懼。
理由2 この使者が匈奴に帰ったとき、 「魏の武帝はたいした人物ではなかった。その近くで刀を持っていた臣下の方が、英雄であった」 と報告されるのを恐れたこと。魏武の低い評価が匈奴に伝われば、見くびられ、侵略を受けるなど、大問題になると考えたから。
理由二:害怕這個使者回到匈奴時,報告說「魏的武帝不是什麼了不起的人物。在其身旁持刀的臣下,才是英雄」。若對魏武的低評價傳到匈奴,便會被輕視、遭受侵略等,曹操認為這將會成為大問題。
※ 今となっては、魏武の心理は想像の中ですが、 「自分にとって少しも不利になる者は取り除いておかなければならない」 と考える慎重さ、そして素早い決断力、魏の武帝 (曹操) のそんな一面がわかるエピソードの一つであることは、間当いありません。
※ 現在,魏武的心理只能在想象之中,但「必須除去對自己哪怕稍有不利的人」這樣的謹慎,以及迅速的決斷力——這是了解魏的武帝(曹操)那一面的逸聞之一,這一點是無庸置疑的。
言語文化 #75
講師 渡辺恭子
魏武将に匈奴の使を見んとす。 自ら以へらく、 形陋にして不足らざる雄に遠国に。 崔季珪を使て代はらしめ、 帝自ら捉り刀を立つ牀頭に。
既に畢り、 令めて間諜を問はしめて曰はく、
「魏王何如。」と。
匈奴使答へて曰はく、
「魏王雅望非ず常に。 然れども牀頭に捉る刀を人、 此れ乃ち英雄也。」と。
魏武聞き之を、 追ひて殺さしむ此の使を。
魏武将に匈奴の使ひを見んとす。 自ら以へらく形陋にして遠国に雄たるに足らずと。 崔季珪をして代はらしめ、 帝自ら刀を捉りて牀頭に立つ。
既に畢はり、 間諜をして問はしめて曰はく、
「魏王何如。」と。
匈奴の使ひ答へて曰はく、
「魏王は雅望常に非ず。 然れども牀頭に刀を捉る人、 此れ乃ち英雄なり。」と。
魏武之を聞き、 此の使ひを追いて殺さしむ。
〈口語訳〉
魏の武帝 (曹操) が、 匈奴の使者を呼び寄せて引見しようとした。 (曹操は、) 自分は風采が上がらないので、 遠国を威圧するには充分でないと思った。 (そこで、) 臣下である崔季珪に身代わりをさせ、 帝 (曹操) 自らは刀を持って玉座のかたわらに立った。
(会見は、) 会見が終わった後、 工作員に尋ねさせて言うには、
「魏王 (の印象) は、 いかがでしたか。」 と。
匈奴の使者は答えて言った。
「魏王は並々ならぬ風貌の方です (非常に立派です)。 しかしながら、 玉座のそばで刀を持っていた人、 彼こそ英雄です。」 と。
魏の武帝 (曹操) はこのことを聞くと、 (臣下に) この使者を追いかけて殺させた。
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