言語文化 #74
講師 渡辺恭子
学習のねらい
「史話」の二回目です。今回は、前回に続き歴史書 正史 『三国志』 を読みます。魏の将軍曹操と劉備の家臣である関羽との 「義」 にまつわる話です。 『三国志』 は、 好きな人も多いと思います。 話の展開にそって、 丁寧に内容を理解し、 登場人物の生き方や考え方を通じて、 「史話」 の面白さを味わいましょう。
這是「史話」的第二回。本回繼上回,閱讀歷史書正史《三國志》。這是關於魏的將軍曹操與劉備的家臣關羽之間「義」的故事。相信很多人喜歡《三國志》。讓我們順著故事的發展,仔細理解內容,通過登場人物的生活方式和思考方式,品味「史話」的有趣之處吧。
●学習のポイント●
〈一〉 本文を声に出して読む
〈二〉 漢字の意味に注意しながら現代語に訳す
〈三〉 「曹操」 と 「関羽」 の性格を、 それぞれの言葉と行動から考えよう
漢文の学習では、 訓読のきまりに従って、 漢文を読めるようにすること、 そして、 漢文のリズムに慣れることが大切です。 訓点 ( 「返り点」 「送り仮名」 「句読点」 ) の学習で学んだ知識を生かして、 「曹公以関羽為義 (曹公関羽を以つて義と為す)」 の文章を声に出して何度でも読んでみましょう。 主な記号 (漢字の向かって左下に書いてある 「返り点」 ) については、 第二十回 「訓読の基本①」 を、 もう一度確認してください。
読み方に注意する漢字
・ 不可背之 (之に背くべからず)
訳 : この誓いに反することはできない。
・ 終ニ (つひニ) 結局。
・ 当 (まさニ ~ べシ) 当然 ~ べきである。
当然を表す 「再読文字」
「関羽」 は劉備に仕えていた武将ですが、 このときには、 劉備の行方が分かったら立ち去るのを条件に、 一時的に曹操に降伏していました。 曹操は関羽をとても高く評価していて、 異例の待遇で自分の軍に迎え入れました。
「關羽」是效忠劉備的武將,但此時以「若查明劉備下落便離去」為條件,暫時向曹操投降了。曹操對關羽評價極高,以破例的待遇將其納入自己的軍中。
今回学習するのは、 劉備の居場所が分かった関羽が、 どう行動するかという場面です。
本回學習的,是查明了劉備所在之處的關羽,將如何行動的場面。
関羽はどちらの道を選んだのでしょうか。 そして、 関羽の決断に対して曹操はどのような対応をしたのでしょうか。 本文を現代語に訳しながら考えていきましょう。
文章の初めをみると、 いきなり 「関羽が嘆息して言う」 から始まっています。 実はここには書かれていませんが、 この前に、 曹操の家臣 「張遼」 からの質問があるのです。 関羽がいずれ自分のもとを立ち去るのを心配した曹操が、 関羽と仲の良かった家臣の張遼に、 関羽の本心を確かめるように頼んだのでした。 そこで、 張遼は関羽に 「曹操のもとを立ち去るのか?」 とその真意を質し、 その関羽の回答に当たるのが、 冒頭 〈 羽歎じて曰はく、 (関羽が嘆息して言うことに) 〉 以下のカギ括弧部分なのです。
看文章的開頭,是突然從「關羽嘆息著說」開始的。其實這裡雖然沒有寫,但在此之前,曹操的家臣「張遼」向關羽提問。擔心關羽終有一天會離自己而去的曹操,委托與關羽交情甚篤的家臣張遼去探明關羽的真心。於是張遼向關羽詢問「是否要離開曹操」,對此關羽的回答,就是開頭「關羽嘆息著說」以下的引號部分。
【 語句の意味 】
● ここに出てくる重要語句の意味を理解しましょう。
・ 羽 ………… 関羽。
・ 曹公 ……… 曹操を指す。
・ 知る ……… 理解している。
・ 不可 (べカラず)
…… ~ できない。 不可能を表す。
・ 終 (ついニ) …… 結局。
・ 当 (まさニ ~ べシ ・ 再読文字)
…… 当然 ~ べきである。
・ 遼 ………… 張遼。 曹操の将。 関羽とは親友。
・ 曹公義之 (曹公之れを義とす)
…… 「之」 = 関羽の考え。
・ 顔良 …… 袁紹の将。 白馬の戦いで関羽に斬られた。
・ 先主 …… 劉備。 曹操に敗れた劉備は袁紹軍に属していた。
・ 左右 …… 曹操の側近。
※ このように漢文で使われている意味が、 日本での意味と異なるものを 「和漢異義語」 という。
(例)
日本 : 「百姓」 農業を営む人のこと。
漢文 : 「百姓」 人民 ・ 庶民のこと。
・ 欲追之 (これを追わんと欲す)
…… ここでの 「欲す」 は助動詞。 意味 「 ~ しようとする」
・ 「勿カレ」 (なカレ)
…… ~ するな。 禁止を表す。
自分の敵陣にいる劉備のところに行く) 関羽の行動を尊重した。
・ 也 ………… 置き字。 強調を表す。
※ 「(逃げた関羽に対して、) 追っ手を差し向けるべきだ」 という側近に対して、 曹操はそれを厳しく許さなかったということ。
今回の話の内容をまとめると、 「関羽が自分のもとに長く留まらないだろうと思っていた曹操が、 そのことを腹心の家臣 「張遼」 に尋ねさせた。 関羽は、 曹操の厚遇に感謝しているものの、 「手柄を立てて曹操に恩返しができたら、 劉備のもとに帰る」 と答えた。 そして関羽は、 前回学習した 「白馬の戦い」 で敵の名将 「顔良」 を斬って手柄を立てると、 曹操からの恩賞にも封印し、 手紙を捧げて決別を告げ、 袁紹の軍にいる主君劉備のもとへ帰った。 曹操の側近が関羽を追おうとしたが、 曹操は 「彼は彼で自分の主君のためにしている。 追ってはならぬ」 と強く止めた。」 という話です。
歸納本回故事的內容:「預感關羽不會長久留在自己身邊的曹操,讓腹心家臣『張遼』去詢問。關羽表示雖然感謝曹操的厚遇,但『若能立下戰功回報曹操,便回到劉備身邊』。然後關羽在上回學習的「白馬之戰」中斬殺了敵方名將顏良,立下戰功後,將曹操的賞賜全數封存,送去書信告別,回到了在袁紹軍中的主君劉備身邊。曹操的側近欲追趕關羽,但曹操強硬阻止道:『他不過是在為他自己的主君效力,不可追趕。』」
この文章についての五つの質問を考えながら、 「曹操」 と 「関羽」 の性格をとらえていきましょう。
讓我們一邊思考關於這篇文章的五個問題,一邊把握「曹操」與「關羽」的性格吧。
質問①
この文章は、 関羽が 「嘆じて……」 とはじまっています。 なぜ関羽はため息をついているのでしょうか。
→ この嘆きは 「曹操に厚くもてなしてもらっているのに、 生死を共にすると誓った劉備の元に帰るために、 曹操の好意に答えることができない辛さ」 からの嘆き。 必ず戦いで功を立てて曹操に恩返しをしてから、 立ち去りたいと思っている。
質問①:這篇文章以關羽「嘆息著……」開始。為什麼關羽要嘆息呢? → 這份嘆息,是出於「雖受曹操厚遇,卻因要回到立誓共生死的劉備身邊,而無法回應曹操好意的痛苦」。他心想必定要在戰鬥中立下戰功回報曹操,再行離去。
質問②
家臣の張遼からこの関羽の言葉を聞いた曹操は、 どう思ったのでしょうか。
→ 生死を共にする誓いをかわした主君を決して裏切らない姿勢さ、 そして受けた恩義には報いる誠実な関羽の考えを、 「義、 忠義」 だと思った。
質問③
関羽は、 前回学んだ 「白馬の戦い」 で、 敵である袁紹軍の名将 「顔良」 を殺しました。 これは大きな手柄です。 そんな関羽に対して、 曹操は手厚い褒美を与えています。 どんな思いからだったのでしょうか。
→ 関羽が去る前に、 きちんと手柄に見合った褒美を与えたかったという曹操のけじめ。
※ 曹操は、 関羽を引き留めたいとの思いもあったが、 同時に、 関羽が褒美などで気持ちを動かされない人物であることも見抜いていたであろう。
質問④
「左右之を追はんと欲す」 (曹操の側近が関羽を追いかけて捕らえようとした。) とありますが、 側近が関羽を捕まえようとしたのは、 なぜでしょうか。
→ 一つには、 逃亡したので捕らえて処罰しなければならないと考えたから。 もう一つは、 関羽の逃亡先は、 曹操の敵陣、 袁紹の軍にいる劉備。 つまり、
関羽が敵側に回るのを阻止しなければならないと思ったからでしょう。
質問⑤
なぜ曹操は側近に対して 「追ふこと勿れ」 と言ったのでしょうか。
→ 曹操は、 生死をともにする誓いをかわした主君 (劉備) を決して裏切らない忠義な関羽の考えを 「義」 だと思ったから。
※ 「義」 とは、 忠義 ・ 正義という意味。 つまり、 関羽が逃亡したのは、 主君である劉備との誓いを守ろうとする忠義 ・ 正義に基づく行動なので、 とがめることはできないと考え、 「関羽を追うな」 と側近に言ったのです。 そして、 「曹操から受けた恩義にしっか り報いる態度」 も、 関羽に対する高評価となりました。
質問⑤:為什麼曹操對側近說「不可追趕」呢? → 因為曹操認為,絕不背叛立誓共生死的主君(劉備)的忠義態度,就是「義、忠義」。「接受恩義、認真回報的態度」,也成為了曹操對關羽的高度評價。 ★關羽——忠義深重、不忘恩義之人。 ★曹操——高度評價這樣的關羽,不拘泥於形式,做出寬大而有人情的判斷之人。
関羽 ─ ─ 忠義に厚く、 恩義を忘れない人。
曹操 ─ ─ そんな関羽を高く評価し、 形式にとらわれず、 寛大で人情のある判断をする人。
言語文化 #74
講師 渡辺恭子
羽歎じて曰く、
「吾極めて知る曹公の我を待することの厚きを。然れども吾受け劉将軍の厚恩を、誓ふに死を共にするを以てす。之に背く不からず。吾終に留まらず。吾要ず当に効を立てて以て曹公に報いて乃ち去るべし。」
遼羽の言を以て曹公に報ず。曹公之を義とす。
及びて羽殺すに顔良を、曹公其の必ず去るを知り、重く賞賜を加ふ。羽尽く其の賜はる所に封し、書を拝し辞を告げて而して奔る先主に於いて袁軍に。左右之を追はんと欲す。曹公曰はく、
「彼各其の主の為にす、追ふこと勿れ也。」
羽歎じて曰はく、
「吾極めて曹公の我を待するの厚きを知る。 然れども吾劉将軍の厚恩を受け、 誓ふに死を共にするを以つてす。 之に背くべからず。 吾終に留まらず。 吾要ず当に効を立てて以つて曹公に報いて乃ち去るべし。」 と。
遼羽の言を以つて曹公に報ず。 曹公之れを義とす。
羽の顔良を殺すに及ぶや、 曹公其の必ず去るを知り、 重く賞賜を加ふ。 羽尽く其の賜はる所に封じ、 書を拝し辞を告げて先主に袁の軍に奔る。 左右之を追わんと欲す。 曹公曰はく、
「彼各其の主の為にす、 追うこと勿れ。」 と。
〈口語訳〉
関羽が嘆息して言うことに、
「私は曹公 (=曹操) が自分を厚遇してくれているのを非常に良く理解している。 しかし、 私は劉備将軍の厚い恩情を被り、 生死を共にすることを誓っている。 (だから) この誓いに反することはできないのだ。 私は、 結局、 ここ、 (つまり曹操のもと) に留まることはない。 私は、 必ず、 当然、 手柄を立てて、 (それで) 曹公にご恩返しをして、 そして (曹公のもとを) 立ち去るべきである。」 と。 張遼は、 関羽の言葉を曹公に報告した。
曹操はこれ (=関羽の考え) を忠義だと見なした。
関羽が顔良を殺すという (ご恩返しの) 機会が訪れて、 曹公は (これで) 関羽が必ず立ち去ると分かり、 手厚い褒美を与えた。 関羽は、 そのいあただいた褒美の品に残らず封印して、 書簡を送って別れを告げて、 袁紹軍にいる、 以前仕えていた主人である劉備の元に逃げ出した。 側近が関羽を追いかけて捕らえようとした。 (その時、 ) 曹公がいったことに、
「彼も (君たちも) それぞれ、 自分の主君のためにしている (の だから罪には問えない)。 追うな。」 と。
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