言語文化 #63
講師 渡辺恭子
学習のねらい
『論語』の三回目、「政治」についてです。今回の学習では、まず初めに『論語』の「政治」に関する二つの章句を読み味わいます。その後、「政治に関する孔子の考え方」についての理解を深め、さらに「為政者の心構え」として、孔子が重視していたのは何かを考えていきましょう。
●学習のポイント●
〈一〉「政治」について述べた二つの章句を読み味わおう
〈二〉「政治に関する孔子の考え方」についての理解を深めよう
〈三〉「孔子が重視していた為政者の心構え」について考えよう
(1)子曰く、「其の身正しければ、不令にして行はる。……」
● 政治を行う者は、まず自分自身を正すことが大切です。
● 施政者首先要端正自身,這是重要的。
ポイント
孔子が「政治を行うものが、自分自身を正すことが大切である」といった理由を考えましょう。
孔子は、政治を行うものが、自分自身を正せば、自然と人々(人民)も良くなると考えていたからです。
讓我們思考孔子說「施政者端正自身是重要的」的理由。那是因為孔子認為,施政者若能端正自身,人們(人民)自然也會向好的方向改變。
・ 「其の身」 …… 上に立つ者の身。為政者の身。
・ 「令す」 ……… 命令を下すこと。
・ 「雖も」 ……… 「たとえ ~ としても」「 ~ であったとしても」(逆接の仮定を表す)
・「其の身」……居上位者之身。為政者之身。・「令す」……發布命令。・「雖も」……「即使~也」「即使是~也」(表示逆接假定)
(2)子貢政を問う。子曰く、「食を足し、兵を足し、民これを信にす。……」
● 弟子の子貢が、孔子に「政治」について質問しています。
● 弟子子貢正在向孔子詢問「政治」的問題。
ポイント
孔子が「信(信義の心)が大切である」と教えた理由を考えましょう。
「食糧」の充足(人民の最低限の生活の保障)
「軍備」の充足(国家としての体制の維持)
といった、「人間の生存欲求」以上に、「信」(道徳的信義)を、重要なもの、価値のあるものとして、位置づけていました。
孔子は、どんなに生活が豊かになっても、政治において「信義の心」がなければ、人間社会は成り立たないと考えていたからです。
讓我們思考孔子教導「信(信義之心)是重要的」的理由。「食糧」的充足(人民最低限度生活的保障)、「軍備」的充足(作為國家體制的維持),比起這些「人的生存欲求」,孔子將「信」(道德的信義)定位為重要而有價值之物。那是因為孔子認為,無論生活變得多麼富足,若政治中沒有「信義之心」,人類社會便無法成立。
・ 「子貢」 ………… 「孔門の十哲」の一人。聡明で言葉巧みな雄弁家。孔子の死後、最後までお墓のそばを離れなかった弟子でもある。
・ 「政」 ………… ここでは「政治」のこと。
・ 「足し」 …………… 充足する。十分に満たすこと。
・ 「兵」 …………… 軍備
・ 「民これを信にす」
…… 人民についていえば、人民に信義の心を持たせることだ。民が信義の心を持つようにさせる。
・ 「之」 ………………… 「民(人民)」を指す。
・ 「必ず」 …………… どうしても。
・ 「去らば」 …………… 取り去るならば。
・ 「斯の三者」 ……… 食(食糧)・兵(軍備)・信(信義の心)。
・ 「何をか先にせん」
…… どれを先にしますか(疑問形)。
・ 「斯の二者」 ……… 食(食糧)・信(信義の心)。
・ 「自」 ………………… より。
・ 「立たず」 …………… 人間として生きていけない。
・「子貢」……「孔門十哲」之一。聰明而能言善道的雄辯家。也是孔子死後,最後離開墓旁的弟子。・「政(まつりごと)」……此處指「政治」。・「足し」……充足。充分滿足。・「兵」……軍備。・「民これを信にす」……就人民而言,就是讓人民擁有信義之心。讓民眾保有信義之心。・「之」……指「民(人民)」。・「必ず」……無論如何。・「去らば」……若去除的話。・「斯の三者」……食(食糧)・兵(軍備)・信(信義之心)。・「何をか先にせん」……哪個先去除(疑問形)。・「斯の二者」……食(食糧)・信(信義之心)。・「自(より)」……從・自。・「立たず」……無法作為人存活。
① 【今回学習した以外の章句から】
● 政治家が人民をまとめるときは、権力ではなく、「徳(道徳)」と「礼(礼儀)」とによるのがよい。
為政者が「徳」と「礼」とによって人民を治めたならば、人民の心には、悪いことを恥かしく思う気持ちが生まれて、自然と正しい道に進んで行くようになる。
● 政治家統合人民時,不以權力,而以「徳(道德)」與「禮(禮儀)」為好。若為政者以「徳」與「禮」治理人民,人民心中便會產生以壞事為恥的心情,自然地走向正確的道路。
② 【今回学習した章句から】
● 政治家にとって一番大切なことは、「信(信義の心)」である。
政治は、政治を行うもの(為政者)の在り方が重要です。
● 對政治家而言最重要的是「信(信義之心)」。政治的關鍵在於施政者(為政者)的存在方式。
孔子の理想とする政治を行うには、政治家にどのような心構えが必要なのでしょうか。 ➡
自らは常に正しい行いに心がけ、民衆の「信義の心」を大切にし、「徳」と「礼」によって人民を治めようとする心構えが必要なのです。
要實踐孔子所理想的政治,政治家需要怎樣的心態呢?→自己時刻注意正確的行為,珍視民眾的「信義之心」,以「徳」與「禮」治理人民,這樣的心態是必要的。
まとめ
孔子は、国家の治安安定のために、「政治」を重視していました。孔子の考える政治は、まずは肉親への愛情。そしてその愛を隣人へと広げ、社会へと拡大していくものです。
また、政治を行う者(為政者)の立派な姿勢は、あたかも「風が草をなびかせるように」人民の「信頼」を呼ぶと考えていました。そして、このような素晴らしい「君子」のもとで、愛にあふれた理想的な社会ができることを、孔子は強く望んでいました。
● 「君子」
…… ① 徳を備えた立派な人。
② それを目指して努力している人。
③ 努力の結果、政治を担当する立場に立つ人(為政者・支配者)。
孔子為了國家的治安穩定,重視「政治」。孔子所思考的政治,首先是對至親的愛。然後將那份愛擴展至鄰人,進而擴大至社會。此外,孔子認為施政者(為政者)出色的姿態,宛如「風使草靡然」一般,能呼喚人民的「信賴」。並且孔子強烈希望,在這樣優秀的「君子」統治下,能建立充滿愛的理想社會。
言語文化 #63
講師 渡辺恭子
子曰く、「其の身正しければ、不令にして行はる。其の身不正なれば、雖も令するに不従はれず。」
〔子路〕
子貢政を問ふ。子曰く、「食を足し、兵を足し、民これを信にす。」子貢曰く、「必ず不得已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。」曰く、「兵を去らん。」子貢曰く、「必ず不得已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。」曰く、「食を去らん。自り古より皆死有り。民信無くんば不立たず。」
〔顔淵〕
子曰はく、「其の身正しければ、令せずして行はる。其の身正しからざれば、令すと雖も従はれず。」と。
〈口語訳〉
孔先生がおっしゃることに、「上に立つ者(為政者)が、自分の心を正し、行いを正せば、(為政者を敬い信頼するので、)特に命令しなくても、下々に正しい行いをしてもらえる。しかし、上に立つ者(為政者)が、正しくなければ、(為政者を信頼しないので、)いくら命令を下しても下々に従ってもらえない。」と。
子貢政を問ふ。子曰はく、「食を足し、兵を足し、民これを信にす。」と。子貢曰はく、「必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。」と。曰はく、「兵を去らん。」と。子貢曰はく、「必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。」と。曰はく、「食を去らん。古より皆死有り。民信無くんば立たず。」と。
〈口語訳〉
子貢が政治について(孔先生に)お尋ねした。孔先生が答えられた、「食糧を充分に満たし、軍備を充分に満たし、人民には信頼の心を持たせることだ。」と。子貢が(続けて)お尋ねした、「どうしてもやむを得ず、取り去る場合には、この三つの中で、どれを先にしますか。」と。(孔先生は)答えられた、「軍備を取り去れ。」と。子貢が(更に)お尋ねした、「どうしてもやむを得ず、取り去る場合には、残り二つの中で、どちらを先にしますか。」と。(孔先生は)答えられた、「食糧を取り去れ。昔から人は皆死ぬ定めにある。民は信義がなければ、国の存亡を問題にする前に、すでに人間として生きていけないからなのだ。」と。
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