言語文化 #54・55
講師 吉田 茂
学習のねらい
幼なじみの男女の成長と結婚までの流れを、特に和歌に注目することによって理解します。また、男が別の女の所に通うようになった経緯と、そうした男の行動に対するもとの女の行動や思いを読み味わいましょう。
藉由特別注目和歌,理解幼年相識的男女之成長與直到結婚的過程。並品味讀取——男人開始往別的女子處去的原委,以及對這男人的行為,原本的女子的行為與想法。
●学習のポイント●
〈一〉男女の成長と心の変化を理解する
〈二〉男女の歌の贈答を読み味わう
〈三〉男の行動とそれに対する女の行動や思いを読み取る
〈一〉理解男女的成長與心的變化 〈二〉品讀男女歌的贈答 〈三〉讀取男人的行為與對此女人的行為或想法
筒井筒のもとで遊ぶ、幼なじみの男女がいました。二人は成長するにつれて互いを意識し、無邪気な心はなくなり、二人の間は疎遠になりますが、男も女もともに結婚しようと強く思うようになりました。そのため、女の親は別の男との縁談を勧めますが、女はまったく耳を貸そうとしません。
在井欄邊玩耍的青梅竹馬男女。兩人隨著成長而互相意識,無邪的心消失了、兩人之間變得疏遠;但男人與女人都同樣地強烈地想要結婚。所以女人的父母勸她與別的男人成親,但女人完全不聽。
【重要語句】
● ど、ども(逆接の接続助詞)…が。…けれども。
● あはす(サ行下二段動詞)…………結婚させる。
● で(打消の接続助詞)…………………ないで。
【読解のポイント】
① 接続助詞「ば」
已然形 + ば 確定条件を表す。……ので。……と。
けれ(過去の助動詞「けり」の已然形) + ば ……ったので。
② 強意の係助詞「こそ」と助動詞「む」
こそ + 得(ア行下二段動詞の未然形) + め(意志の助動詞「む」の已然形)
……手に入れよう。ここでは、結婚しよう、の意。助動詞「む」の主な意味に、推量と意志があるが、主語が一人称の場合は、意志の意味となる。
二人は歌を詠み交わして、めでたく結婚しました。この男女の歌は当時広く行われていた贈答歌です。男が筒井に背丈を比べたことを詠むと、女は髪の長さを比べたことを詠み、見事に応じています。男の求婚の歌に対して、女は結婚を承諾する歌で答えていることを読み味わいましょう。
兩人交換和歌、圓滿地結了婚。這對男女的歌是當時廣泛流行的贈答歌。男人吟詠在井欄比身高之事,女人吟詠比頭髮之長,漂亮地呼應著。請品讀——對男人求婚的歌,女人以承諾結婚的歌作答這件事。
【重要語句】
● 妹 ………………(男性から見た)愛しい女性。 〈背(女性から見た)愛しい男性〉
● 髪上げ ……… 女性の成人の儀式。 〈※ 裳着 女性の成人の儀式〉
● 本意 ……… 本来の望み、本来の志。「ほい」と読む場合もある。
● あふ ……………(ハ行四段動詞) 結婚する。
【読解のポイント】
① 男と女の贈答歌
……二首の歌の表現がよく呼応していることを確認します。
【男】 筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに (=求婚)
【女】 くらべこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰か上ぐべき (=承諾)
| 男 | 女 |
| 井筒にかけし | くらべこし |
| まろがたけ | 振り分け髪 |
| 過ぎにけらしな | 過ぎぬ |
| 妹 | 君 |
② 助動詞の接続
打消の助動詞「ず」 = 見ざる・ならず → 未然形の語に接続
過去の助動詞「き」 = かけし・くらべこし → 連用形の語に接続(カ変・サ変の動詞に接続する場合は未然形)
完了の助動詞「ぬ」 = 過ぎに・過ぎぬ → 連用形の語に接続
推量・意志の助動詞「べし」 = 上ぐべき → 終止形の語に接続(ラ変型の活用語に接続する場合は連体形)
助動詞の接続を覚える方法として、次のように、童謡「うさぎとかめ」のリズムに合わせ、歌って覚える方法もあります。参考にしてください。
む ・ ず / むず / まし ・ じ / しむ ・ まほし /
もし / もし / かめよ / かめさんよ
る ・ す ・ らる ・ さす / ゆ ・ ふ ・ らゆ
せかいのうちで / おまえほど
〈以上、未然形に接続〉
つ ・ ぬ ・ たり ・ けり / たし ・ き ・ けむ
あゆみののろい / ものはない
〈以上、連用形に接続〉
らむ ・ めり / らし ・ べし / まじ ・ なり
どうして / そんなに / のろいのか
〈以上、終止形に接続〉
数年経つうちに、女の親が亡くなり、経済的支援を受けられなくなると、男は生活のために、河内国高安の別の女の所に通っていくようになりました。それでも、もとの女は不快なそぶりを見せることもなく送り出すので、男は不審に思って出かけたふりをして、庭の植え込みに隠れて見ると、女は美しく化粧をし、身づくろいをして、男を心配する歌を詠むのです。それを聞いて男は改心し、別の女の所には通わなくなりました。
幾年過去後,女子的父母去世,無法再得到經濟支援,男人為了生活,便開始往河內國高安的另一個女子處去。即使如此,原本的女子也並沒有表現不悅、總是把男人送出門,所以男人覺得可疑,假裝出門、躲在庭中花叢,一看——女子精心化妝、整理儀容,吟詠掛念男人的歌。男人聽了便改心,不再往別的女子處去了。
【重要語句】
● 年ごろ ………………… 数年。長年。
● たより ………………… 生活のよりどころ。経済的支援。
● いふかひなし(形容詞ク活用)…言ってもかいがない。みじめだ。
● 悪し(形容詞シク活用)………… 悪い。不快だ。
● 前栽 ………………… 庭の植え込み。
● いぬ(ナ変動詞)………………… 行く。
● ながむ(マ行下二段動詞)…… もの思いにふけりながら、ぼんやりと見る。
● かなし(形容詞シク活用)………… 愛しい。
【読解のポイント】
● 序詞と掛詞
「風吹けば沖つ白波」は「た(立)つ」を導く序詞。「白波」が「立つ」という意味の関連から序詞となる。「序詞」は通常七音以上の長さを持ち、ある語句を導き出す。
「たつ」は「(白波が)立つ」の意と「たつた(竜田)山」の意とを掛ける掛詞。「掛詞」は同音異義を用いて、一つの語句あるいは音に複数の意味を持たせる。
「風吹けば沖つ白波」 (序詞)
↓
立(つ) (掛詞)
↓
竜田山
夜半、竜田山を越えて高安の女の所へ行く男の無事を祈る歌。序詞・掛詞を用いた歌は、『古今和歌集』に多く見られる。
学習のねらい
二番目の女の行動や心情に対する男の気持ちを読み取ったうえで、もとの女と二番目の女とが対比的に描かれていることを読み味わいましょう。また、この物語における歌の役割を考え、物語の様式の一つである「歌物語」について理解しましょう。
讀取男人對第二個女子的行為與心情的感受之後,請品讀——原本的女子與第二個女子被對比性地描寫。並且,思考此物語中歌的角色,理解物語的樣式之一「歌物語」吧。
●学習のポイント●
〈一〉二番目の女の行動や心情を読み取る
〈二〉男の心情を理解する
〈三〉歌物語の特徴を考える
〈一〉讀取第二個女子的行為與心情 〈二〉理解男人的心情 〈三〉思考歌物語的特徵
たまたま河内国高安に住む二番目の女のもとを訪ねた男は、初めは奥ゆかしく振る舞っていた女が自ら家族などの飯を盛っている姿を見て、嫌になり、通わなくなりました。
男人偶然造訪住在河內國高安的第二個女子處時,看見起初還奧妙地表現的女子,後來自己親手為家人盛飯的樣子,便覺得厭惡,不再去了。
【重要語句】
● 心にくし(形容詞ク活用)……… 奥ゆかしい。
● つくる(ラ行四段動詞)…………… 装う。ふりをする。
● 手づから(副詞)………………… 自分の手で。
● 心憂がる(ラ行四段動詞)…… 嫌に思う。「心憂し」(形容詞ク活用、嫌だの意)が動詞となったもの。
【読解のポイント】
● 「こそ …… 已然形、」の形をとって、意味の上で切れずに下へ続き、逆接の意味を表します。
はじめこそ(係助詞)心にくくもつくりけれ(過去の助動詞「けり」の已然形)、
→ 初めこそ奥ゆかしく振る舞っていたが、……
二番目の女は男の来訪を求めて歌を詠んで贈ると、やっとのことで、男は通って行くという返事をします。女は喜んで待っていますが、男の通って来ない日が続きます。そこで、二番目の女は、あなたを頼みにはしませんが、それでもあなたを恋しく思っていますという二首目の歌を詠んで贈りますが、とうとう、男は通って行かなくなってしまいました。この時の男の心情を読み取りましょう。
第二個女子為求男人到訪而詠歌相贈,男人總算回信說會去。女子高興地等待,但男人不來的日子接連。於是第二個女子又詠了第二首歌相贈——「我不再依靠你,但仍戀慕你」。最終男人完全不再造訪了。請讀取此時男人的心情。
【重要語句】
● さりければ(接続詞)…………………… そういふわけで。
● な(副詞)・・・そ(終助詞)…… するな。 重要な禁止表現。
● 頼む(マ行四段動詞)…………………… 頼みとする。信頼する。
● 住む(マ行四段動詞)……………………(男が女の所へ)通う。
【読解のポイント】
① 歌の倒置表現
雲な隠しそ ・ 雨は降るとも 通常の表現 = 雨は降るとも ・ 雲な隠しそ。
② 「ぬ」の識別
頼まぬものの マ行四段動詞「頼む」の未然形 + 「ぬ」 → 打消の助動詞「ず」の連体形。 → 頼みとはしないものの。
一番目の女の返歌「くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずして誰か上ぐべき」
肩過ぎぬ ガ行上二段動詞「過ぐ」の連用形 + 「ぬ」 → 完了の助動詞「ぬ」の終止形。 → 肩を過ぎてしまった。
『伊勢物語』における歌の役割を確認し、物語の様式の一つである歌物語の特徴を考えましょう。
確認《伊勢物語》中歌的角色,思考物語樣式之一的歌物語的特徵吧。
大和の男と女
● 「筒井筒」の歌 = 男の求婚
● 「くらべこし」 = 女の承諾
● 「風吹けば」の歌 = 女の、夫を心配する気持ち = 他者(夫)への思い →「みやび」
二番目の女
● 「君があたり」の歌 = 会いたいと思う女の気持ち = 自分に終始する
● 「君来むと」の歌 = 男を恋しく思う女の気持ち = 自分に終始する
歌は登場人物の心情を凝縮するかたちで詠まれています。そして、この物語では、歌が地の文以上に物語の展開や物語の終結に貢献していることに気づかされます。このように、歌が物語において中心的な役割を果たしているものを、特に歌物語と呼んでいます。
歌以凝縮登場人物心情的形式被詠出。並且,這部物語中,可以發現——歌比地之文更貢獻於物語的展開與終結。如此,特別把歌在物語中扮演中心角色的作品,稱為「歌物語」。
歌物語は、物語文学の一つの様式で、平安時代の十世紀に制作されました。『伊勢物語』がその代表的作品です。ほかに、『大和物語』『平中物語』などがあります。『大和物語』の中では「姨捨」「生田川」などの話が有名です。ぜひ読んでみてください。
歌物語是物語文學的一種樣式,制作於平安時代的十世紀。《伊勢物語》是其代表作。其他還有《大和物語》《平中物語》等。《大和物語》中「姨捨」「生田川」等故事很有名。請務必讀讀看。
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありければ、男はこの女をこそ得めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ。
筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに
女、返し、
くらべこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰か上ぐべき
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、たよりなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、河内の国高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。さりければ、このもとの女、悪しと思へる気色もなくて、出だしやりければ、男、異心ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へいぬる顔にて見れば、この女、いとよう化妝して、うちながめて、
風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半にや君が ひとり越ゆらむ
と詠みけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
まれまれ、かの高安に来て見れば、はじめこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づから飯匙とりて、けこの器物に盛りけるを見て、心憂がりて、行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
君があたり 見つつを居らむ 生駒山 雲な隠しそ 雨は降るとも
と言ひて見出すに、からうじて、大和人、「来む。」と言へり。喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
君来むと 言ひし夜ごとに 過ぎぬれば 頼まぬものの 恋ひつつぞ経る
と言ひければ、男、住まずなりにけり。
【第二十三段】
【現代語訳】
昔、地方暮らしをしていた人の子どもが、井戸の所に出て遊んでいたのだが、大人になったので、男も女も互いに恥ずかしがって(会わずに)いたのだけれども、男はこの女を妻にしようと考える。女はこの男を(夫にしよう)と思い続けていて、親が(ほかの男と)結婚させようとするけれども、(親の言うことを)聞かないでいた。そうこうするうちに、この隣の男の所から、このように(歌を贈ってきた)。
(昔)筒井の井戸の囲いで高さを比べた私の背丈も、(井筒の高さを)越えてしまったようですね、(恋しい)あなたを見ないうちに。
女が(詠んだ)、返歌、
(長さを)比べ合ってきた、私の振り分け髪も肩を越えました。あなたではなく誰のために髪上げをしましょうか。
などとお互いに歌を交わしあって、とうとう本来の望みどおりに結婚した。
そうして、数年がたつうちに、女は、親が亡くなり、経済的支援がなくなるにつれて、(男はこの女と)いっしょに(貧しくて)みじめな暮らしをしていられようか(いや、していられない)と考えて、河内国高安の郡に、(新たに)通って行く(別の女の)所ができてしまった。そうではあったが、このもとの女は、不快だと思っている様子もなくて、(男を新しい女のもとに)送り出してやったので、男は、ほかの男にひかれる心があって、このような(な態度)であるのだろうかと疑わしく思って、庭の植え込みの中に隠れて座り、河内(の新しい女のもと)に行くふりをして(様子を)うかがっていると、この女は、たいそう美しく化粧して、(河内の方を)もの思いにふけりながらぼんやりと見て、
風が吹くと沖の白波が立つ、その(「たつ」の音を持つ)竜田山を、夜中にあなたは一人で越えているのでしょうか。
と歌を詠んだのを聞いて、(男は、)このうえもなく(女を)愛おしいと思って、河内(の女の所)へも行かなくなった。
たまたま、あの高安(の女の所)に来て見ると、(その女は、)初めこそ奥ゆかしく振る舞っていたが、今ではうちとけて、自分の手でしゃもじを取って、家族などの食器に(飯を)よそったのを見て、(男は)嫌気がさして、行かなくなってしまった。そういうことなので、その女は、(男のいる)大和の方を見やりて、
(あなたが来てくれない今は、せめて)あなたのいるあたりを見続けていましょう。生駒山を、雲よ、隠さないでくれるな。たとえ雨が降っても。
と詠んで外の方を見ていると、やっとのことで、この大和の男が、「来よう。」と(手紙で)言ってきた。(女は)喜んで待ったが、何時も(来ないままに)日が過ぎてしまったので、あなたが来ようと言った夜が毎夜(むなしく)過ぎてしまうので、(今ではあなたを)頼みにはしませんが、(それでも)恋しく思いながら日を過ごしています。
と(女は)詠んでやったけれども、男は、通って行かなくなってしまった。
このページの文書・画像の無断転載及び商用利用を固く禁じます。
嚴禁未經授權轉載及商用本頁文件、圖像。