言語文化 #5・6
NHK高校講座 ラジオ学習メモ
学習のねらい
絵仏師良秀 【一】
物語の前半を読み、絵仏師良秀の行動や心情を読み取り、良秀がどのような人物であるか考えてみましょう。また、活用する動詞の中でも、規則的な活用をする四段・上一段・下一段・上二段・下二段活用の動詞について学びましょう。
【繪佛師良秀(一)】閱讀物語前半,讀取繪佛師良秀的行動與心情,思考良秀是怎樣的人物。又,在有活用的動詞中,學習進行規則性活用的「四段・上一段・下一段・上二段・下二段」活用的動詞。
●学習のポイント●
〈1〉良秀の人物像を読み取る
〈二〉動詞の活用 その1
〈三〉良秀の心情と行動の意味を考える
〈一〉讀取良秀的人物形象 〈二〉動詞的活用 其1 〈三〉思考良秀的心情與行動的意義
■良秀の人物像を読み取る
仏画を描き、それを売って生活する絵仏師良秀の家の隣から出火し、火が燃え広がろうとしています。その時、良秀は制作中の仏画や妻子を家に残したまま、一人逃げ出し、大通りの向かい側に立って、家の燃える様を見ているのです。自分以外のことにはまったく関心のない良秀の人物像が描き出されています。
畫佛畫並販賣以維生的繪佛師良秀的家,從隔壁起火,火將要燃燒擴展。那時,良秀把製作中的佛畫與妻子留在家中,獨自逃出,立於大通的對面,看著家正在燃燒。可以讀取到「對於自己以外的事完全沒有興趣的良秀」的人物形象。
■動詞の活用 その1
古文の動詞には規則的な活用をする五種類の動詞があります。変化する活用語尾の部分を表にしました。カタカナは行によって変化する部分、ひらがなは変わらない部分を表します。各活用形は略して示しましたが、上から未然形、連用形、終止形、連体形、已然形、命令形の順です。
古文的動詞中,有進行規則性活用的五種動詞。把變化的活用語尾部分整理為表。片假名表示依「行」變化的部分,平假名表示不變化的部分。各活用形以簡稱表示——從上至下依序為未然形、連用形、終止形、連體形、已然形、命令形。
| 活用する段 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 四段活用 | ア | イ | ウ | ウ | エ | エ |
| 上一段活用 | イ | イ | イる | イる | イれ | イよ |
| 下一段活用 | エ | エ | エる | エる | エれ | エよ |
| 上二段活用 | イ | イ | ウ | ウる | ウれ | イよ |
| 下二段活用 | エ | エ | ウ | ウる | ウれ | エよ |
講師 吉田 茂
言語文化 #5・6
「立つ」という動詞は、変化しない部分「立」と、後に続く語などによって変化する部分「つ」に分けられ、変化しない部分を語幹、変化する部分を活用語尾(語尾)と言います。この「立つ」は、語尾だけで示せば、「た・ち・つ・つ・て・て」と活用しますから、タ行四段活用の動詞となります。
「着る」は語幹と語尾の区別がありませんので、活用させると「着・着・着る・着る・着れ・着よ」となり、カ行上一段活用の動詞です。また、「見る」も同じ種類の動詞で、マ行上一段活用の動詞です。上一段活用の動詞の「イ」が「エ」に変わっただけのものが下一段活用の動詞です。これは「蹴る」の一語だけです。これも語幹と語尾の区別がありませんので、活用させると「蹴・蹴・蹴る・蹴る・蹴れ・蹴よ」となり、カ行下一段活用の動詞と説明できます。
また、ダ行下二段活用の動詞「出づ」を活用させると、「出で・出で・出づ・出づる・出づれ・出でよ」となります。上二段活用の動詞は、下二段活用の「エ」を「イ」に変えるだけですから、例えば、「起く」という動詞は、「起き・起き・起く・起くる・起くれ・起きよ」となり、カ行上二段活用の動詞です。終止形が「起く」、「連体形が「起くる」、「已然形が「起くれ」となり、現代語と異なりますので注意しましょう。下二段活用の動詞も同様です。
動詞の活用をマスターするのはたいへんなことですが、何回も唱えたり、何度も活用表を書いたりして覚えるのがよいと思います。
「立つ」這個動詞,可被分為不變化的部分「立」與「依後續語等而變化的部分『つ』」。把不變化的部分叫做「語幹」,變化的部分叫做「活用語尾(語尾)」。這個「立つ」如果只看語尾,會以「た・ち・つ・つ・て・て」進行活用,因此是「タ行四段活用」的動詞。各動詞依「活用的行」與「活用的段數」進行分類。「四段活用」是タ行的「た・ち・つ・て」這四段變化。
■良秀の心情と行動の意味を考える
火が迫る我が家から逃げ出した良秀に「たいへんなことですね」と火事見舞いに来た人が声を掛けますが、良秀は騒ぐ様子もなく、家が焼けるのをただ見つめ、うなずいては、ときどき笑っているというのです。この良秀の行動にひそむ良秀の心情はどのようなものなのでしょうか。それを考えながら、読み進めていきましょう。
從火逼近的自家逃出的良秀,被前來慰問火災的人說「真是不得了啊」打招呼,但良秀並無慌亂之樣,只是凝視著家正在燃燒,點頭、偶爾發笑——故事如此說。潛藏在良秀這行動之中的良秀的心情是什麼樣的呢?讓我們從這個段落讀取看看吧。
言語文化 #5・6
学習のねらい
絵仏師良秀 【二】
良秀は家の焼けるのを見て、「もうけものよ」と言っています。この言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか。それを考えながら読み進めましょう。また、不規則な活用をする四種類の動詞を学んでいきます。さらに、この説話が後世に与えた影響について理解しましょう。
【繪佛師良秀(二)】良秀看著家正在燃燒,說「もうけものよ(賺到了啊)」。這句話中蘊含了什麼樣的意義呢?請一邊思考一邊讀下去。又,學習不規則活用的四種動詞。再者,請理解此說話對後世產生的影響。
●学習のポイント●
〈1〉良秀の言葉の意味を読み取る
〈二〉動詞の活用 その2
〈三〉良秀の絵に対する姿勢を考えた後、この話の影響を理解する
〈一〉讀取良秀的話的意義 〈二〉動詞的活用 其2 〈三〉思考良秀對繪畫的態度後,理解此話的影響
■良秀の言葉の意味を読み取る
良秀は仏画や妻子が残っている家が焼けるのを見て、「もうけものよ」と言葉を発します。それは、今まで描いてきた不動尊の火炎は不十分なもので、ここで初めてリアルな火炎の描き方を会得できたと考えたからです。これを生かして仏画を描けば、多くの家が建てられるほどの収入も得られるのだと言い放ち、さらに、才能のない者ほど物を惜しむのだ、と言って火事見舞いの人々をあざ笑うのです。
良秀看著留有佛畫與妻子的家正在燃燒,發出「もうけものよ」這話。那是因為(他)認為:至今所畫的不動尊的火焰是不充分的,在這裡才第一次掌握了「真實火焰的畫法」。若利用這個畫佛畫,恐怕能獲得足以建多座家的收入——這份打算,與其說是「賺到了」,不如說是「太棒了」。良秀比起作為繪佛師獲得收入、養家糊口,更重視「畫好佛畫」這件事,可以說。在這裡可以讀取到「執著於藝術的良秀的姿態」。
■動詞の活用 その2
今回は不規則な活用をする四種類の動詞を学びます。これらの動詞はカ行、サ行、ナ行、ラ行に活用し、それぞれカ行変格活用、サ行変格活用、ナ行変格活用、ラ行変格活用と呼ばれています。活用表とそれに属する動詞を次に示します。
本回學習不規則活用的四種動詞。這些動詞分別在カ行、サ行、ナ行、ラ行進行活用,分別被稱為「カ行變格活用」「サ行變格活用」「ナ行變格活用」「ラ行變格活用」。下面顯示活用表與屬於它的動詞。
| 活用する段 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 来(こ) カ行変格活用 |
こ | き | く | くる | くれ | こ こよ |
| す・おはす サ行変格活用 |
せ | し | す | する | すれ | せよ |
| 死ぬ・往ぬ ナ行変格活用 |
な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね |
| あり・をり・はべり いまそかり(がり) ラ行変格活用 |
ら | り | り | る | れ | れ |
カ行変格活用の動詞は「来(こ)」一語です。命令形が「こ」「こよ」の二つの形があることに注意しましょう。サ行変格活用は「す」「おはす」の二語、ナ行変格活用は「死ぬ」「往ぬ(去ぬ)」の二語、ラ行変格活用は「あり」「をり」「はべり」「いまそかり(いまそがり・いますかり・いますがり)」の四語です。「来」「す」の二語は語幹と語尾の区別がありません。ラ行変格活用は、ラ行四段活用と比べて、終止形の「り」のみが異なっているにすぎません。四種類の変格活用に属する語、活用のしかたを覚えたいものです。
「カ行變格活用」的動詞是「來(こ)」一個詞。請注意命令形有「こ」「こよ」兩種形式。「サ行變格活用」是「す」「おはす」二個詞,「ナ行變格活用」是「死ぬ」「往ぬ(去ぬ)」二個詞,「ラ行變格活用」是「あり」「をり」「はべり」「いまそかり(いまそがり・いますか…)」
言語文化 #5・6
■良秀の絵に対する姿勢を考えた後、この話の影響を理解する
■思考良秀對繪畫的態度後,理解此話的影響
この出来事の後、描いた絵は「良秀がよぢり不動」と呼ばれて、長く人々に称賛されている、と結ばれています。良秀は火事の際に、仏画や妻子のことよりも、不動尊の火炎を描くヒントを得たことを一番の幸せと考えています。ここに芸術に執着する良秀の姿勢を読みとることができます。その後、良秀の話は『十訓抄』巻六にも取られ、近代では「羅生門」の作者で知られる芥川龍之介が、この話から着想して「地獄変」という小説を創作しました。さらに戦後、三島由紀夫が芥川の「地獄変」をもとに書いた新作歌舞伎「地獄変」が上演されたり、同名の映画が上映されたりしました。これは、良秀の強烈な生き方が後の人々にも影響を与えたということを物語っているのかもしれません。
故事結尾說:「在這件事之後,他所畫的畫被稱為『良秀がよぢり不動』,長久受到人們稱讚。」良秀在火災之際,比起佛畫與妻子,更把「獲得描繪不動尊火焰的靈感」當作最大的幸福。從這裡可以讀取到「執著於藝術的良秀的姿態」。雖然乍看是個怪人,但正因如此,他才完成了「良秀がよぢり不動」這幅傑作。 此事被流傳下來,使得「描寫『把家人作為犧牲品也要追求藝術的人』為主題的作品」隨之誕生。著名的有谷崎潤一郎的《刺青》、芥川龍之介的《地獄變》等。
言語文化 #5・6
講師 吉田 茂
これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて、大路へ出でにけり。人の書かする仏もおはしけり。また衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。
それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。見れば、すでに我が家に移りて、煙、炎くゆりけるまで、おほかた向かひのつらに立ちて眺めければ、「あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。「いかに。」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。「あはれ、しつるせうとくかな。年ごろはわろく書きけるものかな。」と言ふ時に、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ち給へるぞ。あさましきことかな。ものの憑き給へるか。」と言ひければ、「なんでふものの憑き給ふべきぞ。年ごろ不動尊の火炎を悪しく書きけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、心得つるなり。これこそせうとくよ。この道を立てて世にあらむには、仏だによく書き奉らば、百千の家も出で来なむ。わたうたちこそ、させる能もおはせねば、ものをも惜しみ給へ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。
その後にや、良秀がよぢり不動とて、今に人々愛で合へり。
(古文原文)これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて、大路へ出でにけり。人の書かする仏もおはしけり。また衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。見れば、すでに我が家に移りて、煙・炎くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちて、眺めければ、「あさましきこと。」とて、人どもの来とぶらひけれど、騒がず。「いかに。」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。「あはれ、しつるせうとくかな。年ごろはわろくかきけるものかな。」と言ふ時に、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ち給へるぞ。あさましきことかな。物のつき給へるか。」と言ひければ、「なんでふ物のつくべきぞ。年ごろ不動尊の火炎をあしく書きけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと心得つるなり。これこそせうとくよ。この道を立てて、世にあらんには、仏だによく書き奉らば、百千の家もいできなん。わたうたちこそ、させる能もおはせねば、物をも惜しみ給へ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。 その後にや、良秀がよぢり不動とて、今に人々めで合へり。
『宇治拾遺物語』
言語文化 #5・6
【現代語訳】
これも今となっては昔のことだが、絵仏師良秀という者がいた。(良秀の)家の隣から火が出て、風がおおいかぶさるように吹いて(火が)迫ったので、(良秀は家から)逃げ出して、大通りへ出てしまった。(良秀の家には)人が(注文して)描かせている仏(の絵)もいらっしゃった。また(夜のため)着物を着ていない妻や子なども、すべてそのまま家の中にいた。
(良秀は)それもかまわず、ただ(自分が)逃げ出したのを幸いなこととして、(通りの)向こう側に立っていた。見ると、(火は)もう我が家に移って、煙や炎が立ち上がった時まで、(良秀は)あらかた向こう側に立って眺めていたので、「たいへんなことですね。」と言って、人々が見舞いに来たが、(良秀はまったく)動揺しない。「どうしたのですか。」と(ある)人が言ったところ、向こう側に立って、家が焼けるのを見て、うなずいて、ときどき笑った。「ああ、たいへんなもうけものをしたことよ。長年の間(火炎を)不十分に描いたものだなあ。」と(良秀が)言う時に、見舞いに来た人々が、「これはまたどうして、このようにお立ちになっているのですか。あきれはてたことよ。(悪い)霊が取り憑いていらっしゃるのか。」と言ったところ、「どうして霊が取り憑くはずがあろうか。長年の間不動尊の火炎を下手に描いていたのだ。今見ると、(火炎は)このように燃えるものなのだなあと理解したのだ。これこそもうけものよ。この(仏画を描く)ことを職業として生きていくからには、せめて仏だけでも上手に描き申し上げるならば、たくさんの家もきっとできるだろう。おまえさんたちこそ、さほどの才能もおありでないので、物を惜しみなさるのだ。」と言って、(人々を)あざ笑って立っていた。
その後であろうか、「良秀のよじり不動」といって、今でも人々が称賛し合っている。
(現代語譯)這個從現在來看也是從前的事,有叫做繪佛師良秀的人。(良秀的)家從隔壁起火,因為風像覆蓋過來似地吹,火逼近,於是(良秀)從家中逃出,到大通去了。(良秀家中)有人(訂製)讓他畫的佛(畫)也(敬語)在其中。又,沒穿衣服的妻子等也都在屋內。(良秀)不顧那些,只把逃出當作要緊,站在對面那邊。看著(房子),已經火轉到自家,煙與火炎冒起來,(良秀)一直站在對面那邊眺望,於是「真是慘啊」這樣慰問前來的人們,(良秀)並不慌張。