学習のねらい
大岡信『折々のうた』に取り上げられた『万葉集』の歌を、その解説文を参考としながら読んでいきます。『万葉集』に関する基礎知識を押さえたうえで、柿本人麻呂と大伴家持の歌を読み、何を表現しようとした歌なのかを考え、鑑賞します。
文法・表現
- 〜に取り上げられた〜(受身連体)
- 「に取り上げられた歌」=「被選入的歌」。
- 〜を参考としながら〜(並行+手段)
- 「を参考としながら読んでいきます」=「一邊參考一邊閱讀」。
- 〜を押さえたうえで、〜(前提+目的)
- 「基礎知識を押さえたうえで」=「掌握基礎之後」。
- 何を〜とした歌なのか考えてみましょう(疑問内包+勧誘)
- 「何を〜とした歌なのか考えてみましょう」=「思考是表達什麼的歌」。
中文翻譯
閱讀大岡信《折々のうた》中所選的《萬葉集》和歌,並一邊參考其解說文一邊讀下去。在掌握有關《萬葉集》的基礎知識之後,閱讀柿本人麻呂與大伴家持的歌,思考它們是想表達什麼之歌、加以鑑賞。
『折々のうた』は、詩人として、また評論家として著名な大岡信が、さまざまな日本の歌を取り上げて解説したものです。一九七九年から二〇〇七年まで、新聞に連載されたもので、それが書籍としてまとめられ刊行されています。
文法・表現
- 〜として、また〜として(並列の資格)
- 「詩人として、また評論家として」=「身為詩人,又身為評論家」。
- 〜さまざまな〜を取り上げて解説したもの(連体修飾+名詞句)
- 「さまざまな歌を取り上げて解説したもの」=「選取各種歌並解說的作品」。
- 〜まで、〜に連載されたもの(範圍+受身連体)
- 「新聞に連載されたもの」=「連載於報紙的」。
- 〜それが書籍としてまとめられ刊行されています(受身+進行)
- 「書籍としてまとめられ刊行されています」=「被整理為書並出版」。
- 〜は、短いものですが、〜(譲歩)
- 「解説文は、短いものですが、〜」=「解說文雖短,但…」。
- 〜を広げてくれるもので、〜(受益+並列)
- 「視野を広げてくれるもので、〜愛されました」=「拓寬視野,被…喜愛」。
中文翻譯
《折々のうた》是身為詩人、亦為評論家著名的大岡信,選取各種日本的歌並加以解說之作。從一九七九年到二〇〇七年止連載於報紙,後集結為書籍刊行。
●学習のポイント●
〈一〉『万葉集』について知る
〈二〉「淡海の海……」の歌を理解し鑑賞する
〈三〉「春の苑……」の歌を理解し鑑賞する
文法・表現
- 〜について知る(漢語)
- 「について知る」=「了解…」。
- 〜を理解し鑑賞する(並列)
- 「を理解し鑑賞する」=「理解並鑑賞」。
中文翻譯
〈一〉了解《萬葉集》
〈二〉理解並鑑賞「淡海の海……」之歌
〈三〉理解並鑑賞「春の苑……」之歌
■『万葉集』について知る
『万葉集』 現存最古の歌集。
- 内容
- 全二十巻。約四五〇〇首。
- 六〇〇年代前半から七五九年までに作られた歌から選んだもの。
- 皇族や貴族の歌だけではなく、東歌・防人歌という庶民層の歌も含まれる。
- 成立
- 奈良時代、七〇〇年代の後半。七五九年以降まもなくか。
- 大伴家持が編集に関わったか。
■「淡海の海……」の歌を理解し鑑賞する
夕方の琵琶湖に波が立ち、そこに千鳥が群れて飛びまわっている。千鳥よ、お前たちが鳴くと、心がしんみりとするほどに、ここに都があった昔のことが思われる、という意味の歌です。
文法・表現
- 〜に〜が立ち、〜(連用+並列)
- 「波が立ち、千鳥が飛びまわっている」=「波湧、千鳥飛舞」。
- 〜よ、〜と、〜(呼びかけ+条件+帰結)
- 「千鳥よ、お前たちが鳴くと、〜心がしんみりとする」=「千鳥啊,當你們鳴叫,心便沉重」。
- 〜ほどに、〜が思われる(程度+受身)
- 「ほどに、〜昔のことが思われる」=「到…的程度,令人想起往事」。
- 〜という意味の歌です(同格+斷定)
- 「という意味の歌です」=「是…意義的歌」。
中文翻譯
傍晚的琵琶湖湧起波瀾,那裡有千鳥成群地飛舞。千鳥啊,當你們鳴叫起來,便令人心情低迴地,想起這裡曾有都城的、昔日的事——是這樣意義的歌。
千鳥は昔と変わらずに湖で鳴いているけれども、ここにあった都はもうすでにない。その変わらない千鳥と変わってしまった都とを対比させて、その失われた都を思う気持ちをしみじみと表現した歌です。人麻呂が都の跡に立った時の心情を想像してみましょう。
文法・表現
- 〜は〜けれども、〜(譲歩)
- 「千鳥は〜鳴いているけれども、〜都はもうすでにない」=「千鳥仍鳴,但都已不在」。
- 〜と〜とを対比させて、〜を表現した〜(対比+手段+連体)
- 「不変の千鳥と変わってしまった都とを対比させて、〜を表現した歌」=「對比…,表達…的歌」。
- 〜しみじみと〜(深く心に染みる)
- 「しみじみと表現した」=「深切地表達」。
- 〜の跡に立って、〜を眺め、〜を聞き、〜を寄せる情景(連用+連用+連体)
- 「跡に立って、湖を眺め、〜を寄せる情景」=「佇立遺跡,望湖,寄情」。
- 〜が思い浮かんでくると、〜を実感できます(条件+帰結)
- 「思い浮かんでくると、〜実感できます」=「浮現出來,便能實感」。
中文翻譯
千鳥不變地仍在湖中鳴叫,但這裡曾有的都城已經不在。將不變的千鳥與變了的都對比,深切地表達了思念那失去之都的心情,是這樣的歌。試著想像一下人麻呂佇立於都城遺跡上時的心情吧。
- 作者
柿本人麻呂 …… 大和時代の人。六〇〇年代終わりから七〇〇年代初めに活躍。
【重要語句】
- 千鳥 ……… チドリ科の鳥の総称。餌をあさるために、海辺や、河口に群れるのが特徴。
- しのに …… 悲しみで心がしっとり濡れる。
- 古 ……… ここでは、「近江大津宮」のことを指す。現在の滋賀県大津にあった都で、六六七年から七一二年まで存在した。中大兄皇子はこの都で即位して天智天皇となる。六七二年の壬申の乱によって壊滅した。
- 思ほゆ …… 自然と思われる。感じられる。
柿本人麻呂
淡海の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 情もしのに 古思ほゆ
文法・表現
- 淡海の海(古典名詞)
- 「淡海の海」=琵琶湖。淡水之海。
- 夕波千鳥(造語)
- 「夕波千鳥」=「夕波中遊的千鳥」。人麻呂的造語。
- 汝が鳴けば(已然形+ば条件)
- 「汝が鳴けば」=「當你鳴叫時」。
- 情もしのに(古典副詞)
- 「しのに」=「悲哀地、滲透心情地」。「心がしっとり濡れて」的意思。
- 古思ほゆ(受身的記憶)
- 「古思ほゆ」=「令人想起昔日」。「思ほゆ」=「思ふ」+受身助動詞「ゆ」。
中文翻譯
「淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば情もしのに古思ほゆ」
【現代語訳】
琵琶湖の夕方の波に千鳥が飛び回り、(千鳥よ)おまえが鳴くと、(都があった)昔のことが思い出されるよ。
「淡海の海」は琵琶湖。「夕波千鳥」は夕波に遊ぶ千鳥のことで、人麻呂の造語とされる。「しのに」は悲哀で心がしっとり濡れての意。近江の大津には天智天皇がたてた都があったが、壬申の乱で壊滅した。人麻呂はこの乱後に詩人として大成した人だが、近江に赴いて荒都鎮魂の歌を詠むなど、「古」の都と人を悲傷する思いがひときわ深かったらしい。右の歌の調べ、そういう心情を巧みに言葉に盛っていて、心にしみる調べがある。
文法・表現
- 〜は〜のことで、〜とされる(同格+受身)
- 「『夕波千鳥』は〜のことで、〜とされる」=「『夕波千鳥』指…,被認為是…」。
- 〜は〜の意(古典熟語+意味)
- 「『しのに』は悲哀で心がしっとり濡れての意」=「『しのに』是悲傷地心被濡濕之意」。
- 〜があったが、〜で壊滅した(過去+手段+過去)
- 「都があったが、〜で壊滅した」=「有過都,但因…而毀滅」。
- 〜跡を訪れたとき、〜感慨をこめて作った歌(連体修飾+態度)
- 「跡を訪れたとき、〜感慨をこめて作った歌」=「造訪殘跡時懷感慨而作的歌」。
- 〜という美しい造語、〜という呼びかけ、〜のように感じさせます(並列+帰結)
- 「美しい造語、呼びかけ、〜のように感じさせます」=「美麗的造語、呼喚,令…感受到」。「感じさせる」=使役。
中文翻譯
「淡海の海」是琵琶湖。「夕波千鳥」是在夕波中遊弋的千鳥之意,據說是人麻呂的造語。「しのに」是「因悲哀心彷彿被濕潤」之意。近江的大津曾有天智天皇所建之都,但因壬申之亂而毀滅。人麻呂雖是亂後作為詩人大成之人,但他赴近江、詠荒都鎮魂之歌等等,對「古」之都與人感到悲傷的心情似乎特別深。右邊這首歌的調子,正是把這樣的心情巧妙地盛進言語之中,有著沁入人心的調子。
■「春の苑……」の歌を理解し鑑賞する
春の苑(園)に、赤い桃の花が色鮮やかに照り輝いている。その花の輝きは樹木の下の道を照らし、そこに少女が立っている、という意味の歌です。
文法・表現
- 〜に、〜が〜照り輝いている(並列+進行)
- 「苑に、桃の花が照り輝いている」=「園中桃花閃耀」。
- 〜の輝きは〜を照らし、〜に〜が立っている(多重描写)
- 「輝きは道を照らし、そこに少女が立っている」=「光輝照路,有少女立著」。
- 〜という意味の歌です(同格+斷定)
- 「という意味の歌です」=「是…意義的歌」。
中文翻譯
春之園裡,紅色的桃花色彩鮮豔地閃耀著。那花的光輝照亮樹下的小徑,少女走出而佇立——是這樣意義的歌。
まるでこの世とは別世界のような明るく美しい風景を描いています。桃の花の下に立っているのは、どのような少女なのか、いろいろと想像してみましょう。
文法・表現
- まるで〜のような〜(比況)
- 「まるで〜のような風景」=「彷彿…那樣的風景」。
- 〜とは別世界(比較+名詞句)
- 「この世とは別世界」=「與此世不同的別世界」。
- 〜のは、どのような〜なのか、〜想像してみましょう(疑問内包+勧誘)
- 「立っているのは、どのような少女なのか、想像してみましょう」=「立著的是怎樣的少女,試著想像」。
中文翻譯
描寫了彷彿與此世不同的、別世界般明亮美麗的風景。立於桃花樹下的,是怎樣的少女呢?讓我們各種地想像看看吧。
- 作者
大伴家持 …… 奈良時代の人。七〇〇年代の始めに生まれた。『万葉集』の編集にも関わったとされる。
【重要語句】
- にほふ …… 鮮やかな色が明るく映えること。
大伴家持
春の苑 紅にほふ桃の花 下照る道に出で立つ少女
文法・表現
- 春の苑(連体修飾)
- 「春の苑」=「春之園」。
- 紅にほふ(古典形容詞+にほふ)
- 「紅にほふ」=「紅色鮮明照耀」。「にほふ」=色美而明亮。
- 下照る道(連体修飾)
- 「下照る道」=「下方被照亮的路」。
- 出で立つ少女(連用+名詞)
- 「出で立つ少女」=「佇立而出的少女」。
中文翻譯
「春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女」
【現代語訳】
春の園に、赤く色鮮やかに照り輝いている桃の花、その輝きに照らされた道に、立っている少女よ。
巻頭に、春の園の桃と李を眺めて作った歌二首を掲げるうち、桃の歌。家持三十四歳当時の三月一日、国守だった越中での作。「にほふ」は色美しく映える意。家持は植物好きだったらしい。庭にいろいろな花木も植えていただろう。ただ、この有名な歌、実景だろうか。桃は満開だったとしても、少女は家持が呼び出した夢の乙女ではないのか。歌からの想像で、確かな根拠はないのだが。
文法・表現
- 〜に、〜を眺めて作った〜二首を掲げるうち、〜の歌(連用+連体)
- 「巻頭に、〜歌二首を掲げるうち、桃の歌」=「於卷頭舉出兩首,這是桃的歌」。
- 家持〜歳当時の〜、〜だった〜での作(連体+時間+場所)
- 「三十四歳当時の三月一日、国守だった越中での作」=「三十四歲時、三月一日,於擔任國守的越中所作」。
- 〜は〜の意(語義注釈)
- 「『にほふ』は〜の意」=「『にほふ』是…的意」。
- 〜らしい(推量)
- 「植物好きだったらしい」=「似乎喜好植物」。
- 〜とは限らない(限定的打消)
- 「必ずしも想像とは限らない」=「未必是想像」。
- 〜ではないか、〜ではなく、〜と置いている、と読まれることが多い(推量+対比+受身)
- 「ではないか、ではなく、〜と置いている、と読まれることが多い」=「並非…,而是…,常被如此解讀」。
- 〜あなた次第(任意)
- 「想像はあなた次第」=「任憑你想像」。
中文翻譯
在卷頭,標出眺望春之園中桃與李所作的兩首歌,其中關於桃的歌。是家持三十四歲當時三月一日、擔任越中國守時的作品。「にほふ」是色彩美麗映出之意。家持似乎是個喜歡植物的人。庭中也栽種了各種花木吧。不過,這首有名的歌,是實景嗎?即使桃花是滿開的,那少女難道不是家持喚出的夢中乙女嗎?是從歌而來的想像,確切的根據是沒有的。
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文法・表現
- 〜の〜及び〜を〜禁じます(漢語並列)
- 「無断転載及び商用利用を固く禁じます」——「及び」=書面並列;「固く」=強調副詞。