言語文化 #2・3
NHK高校講座 ラジオ学習メモ
古文
古文入門 古文の世界へ [説話]
宇治拾遺物語
児のそら寝 【全二回】
学習のねらい
寺に預けられている児(子ども)は、僧たちがぼた餅を作ろうというのを聞いて、それを食べたいと思っています。しかし、食べたいという気持ちを僧たちに気づかれないように振る舞おうとします。その児の心理を読み味わいましょう。また、五十音図、現代語訳する際の注意点を学びますが、これは古文を本格的に読んでいくための準備ですので、頑張って取り組んでいきましょう。
【學習目標】被寄放在寺院的「児(小孩)」聽到僧人們說要做萩餅,想吃。然而想要採取「不被僧人們察覺『想吃』之心」的行動。讓我們閱讀並品味該児的心理。又,學習五十音圖以及翻成現代語時的注意事項。
講師 吉田 茂
●学習のポイント●
〈1〉朗読を聞いた後、物語前半の内容を理解する
〈二〉五十音図、現代語訳する際の注意点を知る
〈三〉児の心理を追跡する
〈一〉聽完朗讀後,理解物語前半的內容 〈二〉了解五十音圖、現代語譯時的注意點 〈三〉追蹤児的心理
■朗読を聞いた後、物語前半の内容を理解する
■聽完朗讀後,理解物語前半的內容
見事な朗読には、古文に描かれる世界を目の前に示してくれる力があります。比叡山延暦寺に一人の児が学問や行儀見習いのために預けられています。ある夜、僧たちはぼた餅を作ろうと言い出します。児は食べたい一心から起きて待っているのはみっともないと考えて、寝たふりをして待つことにします。すると、僧たちは早くもぼた餅を作りあげた様子です。これが、物語前半の内容です。
出色的朗讀,具有將古文中描繪的世界呈現在眼前的力量。一個児為了學問與儀禮見習而被寄放在比叡山延曆寺。某夜,僧人們說起要做萩餅。児因「想吃」的一心而認為「起來等候是不體面的」,於是裝睡等候。從第三段落開始,描寫了萩餅做好的樣子,僧人們聚集起鬨。可以期待萩餅做好的児的反應。
■五十音図、現代語訳する際の注意点を知る
■了解五十音圖、現代語譯時的注意點
五十音図の縦の列を「行」、横の列を「段」と呼びます。例えば、「ふ」はハ行ウ段の仮名というように、すべての仮名は「~行」「~段」で説明できます。
古文ではワ行イ段の仮名「ゐ」とワ行エ段の仮名「ゑ」を用いますので、注意しましょう。
「ん」は五十音図に入っていない仮名です。古文では通常、四十七字の仮名を用います。この四十七字の仮名を重複しないように用いた「いろは歌」(次ページ)があります。平安時代の中頃に作られた歌で、文字を書いたり、覚えたりするのに用いられたようです。
把五十音圖的縱列稱為「行」,把橫列稱為「段」。例如,「ふ」是ハ行ウ段的假名——像這樣,所有假名都可以用「○行」「○段」來說明。古文中會使用ワ行イ段的假名「ゐ」與ワ行エ段的假名「ゑ」,因此要注意。「ん」是不在五十音圖中的假名。
■五十音図(古文)
あいうえお
かきくけこ
さしすせそ
たちつてと
なにぬねの
はひふへほ
まみむめも
やいゆえよ
らりるれろ
わゐうゑを
(五十音圖)あ・い・う・え・お/か・き・く・け・こ/さ・し・す・せ・そ/た・ち・つ・て・と/な・に・ぬ・ね・の/は・ひ・ふ・へ・ほ/ま・み・む・め・も/や・い・ゆ・え・よ/ら・り・る・れ・ろ/わ・ゐ・う・ゑ・を
言語文化 #2・3
いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす
(伊呂波歌)「いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす」
(色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず)
*( )内は意味をわかりやすくするために漢字を当て、濁点を加えたもの。
(漢字標記版)「色は匂へど散りぬるを我が世誰ぞ常ならむ有為の奥山今日越えて浅き夢見じ酔ひもせず」 *括弧內是為了使意義易懂而套用漢字、加上濁點的版本。
古文を現代語訳する際、そのままでは文がうまくつながらない場合は、次のような語句を補って訳すとよい現代語訳になります。
把古文翻成現代語時,若原樣不能順利連接句子的情況,則補上下列詞語來翻譯就會成為好的現代語譯。
①助詞「が・は・を」を補います。
比叡の山に児ありけり。 → 比叡山に児〔が〕いた。
①補上助詞「が・は・を」。例:「比叡の山に児ありけり。」→「比叡山に児〔が〕いた。」
②「の・もの・こと・ところ」などを補います。
いでくるを待ちけるに → できあがる〔の〕を待っていたところ
②補上「の・もの・こと・ところ」等。例:「いでくるを待ちけるに」→「できあがる〔の〕を待っていたところ」
③主語や動作の対象となる語などを補います。
ひしめきあひたり。 → 〔僧たちが〕集まって騒いでいる。
③補上作為主語或動作對象的詞語等。例:「ひしめきあひたり。」→「〔僧たちが〕集まって騒いでいる。」
■児の心理を追跡する
児の心理を表す言葉はどれでしょうか。追跡していくと、「心寄せ」を見つけることができます。「心寄せ」は期待する意ですから、僧たちのぼた餅を作ろう、という言葉を聞いて、そのできあがるのを期待したことがわかります。次はどこでしょうか。心理ですから、「思ひ」に注目して追跡すると、「しいださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて」を見いだすことができます。ぼた餅を作りあげるのを待って寝ないでいるのも、行儀見習いの身として格好悪いと思って、ということです。子どもながらに、気をつかって寝たふりをする児の心理が手に取るようにわかります。現代小説を読む場合も同じですが、主人公の心理を追跡しながら読むところにおもしろみがあります。
表達児的心理的詞語是哪個呢?追蹤下去,可以找到「心寄せ」。「心寄せ」是「期待」的意思,所以可知児是聽到僧人們「做萩餅」這句話,期待著它做好。下一個是在哪呢?因為是心理,所以注目「思ひ」這個詞。「ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふ」這部分有「思ふ」。意思是「(兒)想:如果只一次就回應,恐怕會被認為一直在等」。從這裡可以讀到「想吃萩餅,但又怕被認為一直在等」這種糾結的児的心情。
言語文化 #2・3
児のそら寝【二】
学習のねらい
ぼた餅のできあがるのを待っていた児は、あれこれ思案して、さらに寝たふりを続けます。結局、極めて悪いタイミングで返事をすることになり、僧たちに大笑いされてしまうのです。児と僧との駆け引きのおもしろさを味わいましょう。また、単語の分類とその品詞について学んでいきましょう。
【學習目標】等候萩餅做好的児,反覆思量,繼續裝睡。結果在極差的時機回應,被僧人們大笑。讓我們品味児與僧人之間鬥智的趣味。並理解詞語的分類及其品詞。
●学習のポイント●
〈1〉児の心理の追跡を続け、児と僧との駆け引きのおもしろさを味わう
〈二〉単語の分類を理解する
〈三〉僧が笑った理由を考える
〈一〉繼續追蹤児的心理,品味児與僧人之間鬥智的趣味 〈二〉理解詞語的分類 〈三〉思考僧人們笑的理由
■児の心理の追跡を続け、
児と僧との駆け引きのおもしろさを味わう
■繼續追蹤児的心理,品味児與僧人之間鬥智的趣味
前回は、ぼた餅ができあがった様子で、僧たちが集まって騒いでいる、というところまで読みました。今回はその続きです。きっと起こしてくれるだろうと思って待っていると、想定通り、「起きてください」という僧の声が掛かります。児は「うれし」とは思ったものの、もう一度呼ばれたら返事をしようと我慢して寝たふりを続けます。すると、さっきとは逆に、「お起こし申し上げるな」と別の僧が言うのです。児は「あなわびしと思ひて」とあるように、すっかり困り果ててしまいます。それでも、児はもう一度起こしてくれよと思いながら寝たふりを続けます。児の心理が非常にリアルに表現されている部分です。
僧の言葉によって、児の気持ちが揺れる様子や、児と僧との駆け引きが見事に描き出されています。これを読み味わいましょう。
上次讀到「萩餅做好的樣子,僧人們聚集起鬨」的部分。本次接續。児想著「一定會把我叫醒吧」便等候,按預期,「請起來」這樣的僧人的聲音傳來。児雖然認為「うれし(高興)」,但又因為想著「若再被叫一次就應答」而忍耐著裝睡,這時聽到「喂,不要叫醒(少爺)。少爺已經睡著了」的話,便覺得「啊呀、糟了」,繼續忍耐裝睡。
■単語の分類を理解する
言葉の最小単位を単語と言います。単語は次の十種類の品詞に分類されます。
把語言的最小單位叫做「單詞」。單詞被分類為以下十種品詞。
*傍線部の語以外は、「児のそら寝」に見える語である。一部を示している。
*傍線部以外的詞,是「児のそら寝」中可見的詞。僅列出其中一部分。
言語文化 #2・3
品詞の中で、主語になる名詞を体言とも言い、単独で述語となる動詞、形容詞、形容動詞を用言とも言います。
意味が通じ、読んで不自然にならないように、できるだけ小さく区切った言葉の単位を文節と言います。単独か、付属語をともなって文節になる語を自立語と言い、単独では文節にならず、自立語に付いて文節の一部になるものを付属語と言います。
用言の動詞、形容詞、形容動詞と付属語の助動詞は語尾が変化します。これを活用すると言います。
品詞之中,把成為主語的名詞也稱為「體言」,把單獨即成為述語的動詞、形容詞、形容動詞也稱為「用言」。把「意義通順、讀來不顯得不自然,盡可能小地切分的詞語單位」叫做「文節」。把「單獨、或附屬語伴隨而成為文節的詞」叫做「自立語」,把「單獨無法成為文節、必須伴隨自立語的詞」叫做「附屬語」。在自立語、附屬語中,把「語形依需要而變化的詞」叫做「活用語(有活用的詞)」。
今日も良き天気なり(今日も良い天気だ)
単語で分けると → 今日 も 良き 天気 なり
文節で分けると → 今日も 良き 天気なり
依單詞分→「今日/も/良き/天気/なり」 依文節分→「今日も/良き/天気なり」
自立語……今日・良き・天気 付属語……も・なり
活用する語(活用語)……良き(形容詞)・なり(助動詞)
自立語……今日、良き、天気 附屬語……も、なり 活用語……良き(形容詞)、なり(助動詞)
■僧が笑った理由を考える
僧たちがむしゃむしゃとぼた餅をおいしそうに食べる音まで聞こえてきます。児はもうどうしようもなくて、長い時間がたった後に、「えい(はい)」と返事をしたので、僧たちは大笑いしたと言うのです。児の気づかいが裏目に出てしまったという話です。僧たちの大きな笑い声が聞こえてきそうです。
僧の行動と児の心の中の思いとが見事にからみあって、緊張感を作り出しています。そして、最後の僧たちの笑いによって、その緊張感が一瞬にして緩む、それを見事に描き出した文章です。この健康的な笑いこそ、世俗説話(世の中一般の人々の説話)を多く載せる『宇治拾遺物語』の魅力の一つなのです。
ところで、僧たちは最後まで児の空寝に気づいていなかったのでしょうか。いろいろな解釈ができるところです。皆さんも考えてみてください。
ここでは児の失敗を描いていますが、気づかいが裏目に出て失敗することは、現代でもあることだと思います。ここに「児のそら寝」の説話が、古典の一つとして現代でも読み継がれる秘密があるのかもしれません。
連僧人們大口大口地、看起來很好吃地吃萩餅的聲音都傳了過來。児已經無計可施,過了很長時間後,回了「えい(嗯)」,因此僧人們大笑——故事如此說。是「児的顧慮反而招來反效果」這樣的故事。 聽到僧人們的大笑聲,児這時的心情會如何呢?「うれし」嗎?應該不會。被裝睡之事識破,更加加深難為情。為什麼僧人們笑了呢?讓我們思考看看。可以想成是「等到萩餅快被吃光的時機才終於回應這份笨拙感」覺得好笑,或是這笑中也含有「我們知道你是醒著的」這份識破感。讓我們從各種視角思考児的「装睡(そら寝)」的滑稽吧。
言語文化 #2・3
古文
宇治拾遺物語
児のそら寝
講師 吉田 茂
これも今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち、よひのつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、この児、心よせに聞きけり。さりとて、しいださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて、かたかたに寄りて、寝たるよしにて、いでくるを待ちけるに、すでにしいだしたるさまにて、ひしめきあひたり。
(古文原文)これも今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち、よひのつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、この児、心よせに聞きけり。さりとて、しいださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて、かたかたに寄りて、寝たるよしにて、いでくるを待ちけるに、すでにしいだしたるさまにて、ひしめきあひたり。
この児、さだめておどろかさむずらむと待ちゐたるに、僧の、「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、いまひとこゑ呼ばれていらへむと、念じて寝たるほどに、「や、な起こしたてまつりそ。幼き人は寝入りたまひにけり。」と言ふこゑのしければ、あなわびしと思ひて、いま一度起こせかしと思ひ寝に聞けば、ひしひしとただ食ひに食ふ音しければ、ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、僧たちわらふことかぎりなし。
(古文原文續)この児、さだめておどろかさむずらむと待ちゐたるに、僧の、「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、いまひとこゑ呼ばれていらへむと、念じて寝たるほどに、「や、な起こしたてまつりそ。幼き人は寝入りたまひにけり。」と言ふ声のしければ、あなわびしと思ひて、いま一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば、ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
『宇治拾遺物語』
【現代語訳】
これも今は昔、比叡山延暦寺に児〔が〕いた。僧たち〔が〕、夜の退屈さに、「さあ、ぼた餅〔を〕作ろう。」と言った〔の〕を、この児〔は〕、期待して聞いた。そうかといって、作りあげる〔の〕を待って寝ないでいる〔の〕も、きっとよくないだろうと思って、〔部屋の〕片隅に寄って、寝ているふりで、できあがる〔の〕を待っていたところ、早くも作りあげた様子で、〔僧たちが〕集まって騒いでいる。
この児〔は〕、きっと〔僧たちが自分を〕起こしてくれるだろうと待っていると、僧が、「もしもし。お起きなさい。」と言う〔の〕を、〔児は〕うれしいとは思うが、たった一度で答える〔の〕も、待っていたかと〔僧たちが〕思うといけないと考えて、もう一度呼ばれて〔から〕答えようと、我慢して寝ているうちに、「おい、お起こし申し上げるな。幼い人は寝入りなさってしまったよ。」と言う声がしたので、〔児は〕ああ困ったと思って、もう一度起こしてくれよと思いながら寝て聞いていると、むしゃむしゃとただひたすら食べる音がしたので、どうしようもなくて、長い時間がたった後に、「はい。」と答えたので、僧たち〔が〕笑うこと〔は〕このうえない。
*〔 〕内の言葉は、「現代語訳する際の注意点」にしたがって補ったもの。
(現代語譯)這個現在算起來也是從前,在比叡山延曆寺有〔一個〕児。僧人們在夜的閒暇中說了「來吧,做〔個〕萩餅吧」這話,這個児〔則〕期待地聽著。話雖如此,等做好而不睡也(一定是)不好的,於是想到便靠到〔房間〕角落,裝著睡覺的樣子,等候做好出來,正當這時,已經做好的樣子,(僧人們)集中起鬨著。