日本語学論集にほんごがくろんしゅう』第一四号 二〇一八年三月

変体漢文へんたいかんぶんにおける、表記体ひょうきたい起因きいんする言語的げんごてき特徴とくちょう整理せいり

田中草大たなかそうた

§0 本稿の目的p. 1

変体漢文へんたいかんぶん日本語にほんご表記体ひょうきたいの一るいであるが、漢文式かんぶんしき主体しゅたいとするその特徴とくちょうのために、日本語にほんご表記ひょうきするにさいして種々しゅじゅ制約せいやく特色とくしょくゆうする。それらが変体漢文へんたいかんぶん言語げんご語彙ごい語法ごほう等にも様々さまざま影響えいきょうを及ぼし、結果けっかとして文体的ぶんたいてき特徴とくちょうを成す大きな要因よういんとなっている。のみならず、そうした特徴とくちょう変体漢文へんたいかんぶんの中で表現ひょうげんとして固定化こていかする中で、口頭語こうとうごや、いわゆる和漢混淆文わかんこんこうぶん等の他文体ぶんたいにも及んでいくことになる。すなわちもはや漢文かんぶん表記ひょうきゆえの制約せいやくという状況じょうきょうを超え、日本語にほんごの中のより広いにおいてその姿すがたを見せることになるのである。

本稿は「変体漢文へんたいかんぶんにはどのような書記上しょきじょう制約せいやくないし特色とくしょくがあり、それらがその言語げんごにどのような影響えいきょうを与えているか」を分類ぶんるい整理せいりすることを目的もくてきとする。但しそれに先立って、そもそも「変体漢文へんたいかんぶん言語げんご」とは何を指すか、という基本的きほんてきな問題について確認しておく必要があると思われるので、まず次節じせつにおいてこのことを論じる。なお変体漢文へんたいかんぶん上代じょうだいから近代きんだいに至る極めて長期にわたって用いられたものであるが、本稿では主に平安へいあん鎌倉かまくら時代じだい実態じったい念頭ねんとうに置いて論を進める。

文法・表現

【のみならず】
  • 意義:「だけでなく、さらに〜も」の意を表す副助詞的表現。前の内容に加えて、さらに予想外・付加的な事態を導く。
  • 書き言葉的で改まった語感。学術論文でよく用いられる。
  • 類義:〜ばかりか、〜はもとより、〜のみか。
【〜するに際して】
  • 意義:複合助詞。「〜する場合・時に」の意で、ある動作・状況の場面を限定する。
  • 学術文・改まった文体で多用。「〜において」と類似するが、動的な場面に使う。
  • 例:日本語を表記するに際して種々の制約を有する。
【〜を目的とする】
  • 意義:論文の目的・意図を宣言する定型表現。「目的は〜することにある」の書き言葉的表現。
  • 同型:〜を課題とする、〜を目標とする、〜を明らかにする。
【但し〜に先立って】
  • 意義:「但し」は前述の内容に制限・例外を加える接続詞。「〜に先立って」は「〜の前に・まず〜してから」の意。
  • 論文でよく見られる論旨転換のパターン:目的を述べた後に「但し」で前置きを入れる。
【〜を念頭に置いて】
  • 意義:「念頭に置く」=「心に留めておく・考慮に入れる」の慣用表現。副詞的に使い、考察の前提を示す。

中文翻譯

變體漢文是日語表記體的一種,由於其以漢文式為主體的特性,在表記日語時存在種種制約與特色。這些因素對變體漢文語言的語彙、語法等方面產生了各種影響,進而成為形成文體特徵的重要要因。不僅如此,這些特徵在變體漢文中固定化為特定表現形式,進而波及口頭語以及所謂和漢混淆文等其他文體。由此超越了漢文表記之制約的層次,在日語的更廣泛場域中顯現其姿態。

本稿以「變體漢文存在何種書記上的制約乃至特色,以及這些因素對其語言產生何種影響」為目的,對此進行分類與整理。但在此之前,有必要確認「變體漢文的語言」究竟指的是什麼這一基本問題,因此首先在下一節加以論述。另外,變體漢文被使用的時期極長,自上代延續至近代,但本稿主要以平安鎌倉時代的實態為考察對象展開論述。

§1 変体漢文の言語pp. 1–8

二ノ一 表記体としての変体漢文とその言語(前半)pp. 1–2

変体漢文へんたいかんぶん仮名文かなぶん仮名交り文かなまじりぶんと同様に日本語にほんごによる思想しそう文字化もじかしたものであるが、大きく漢字化かんじか漢文化かんぶんかという二つの行程こうてい制約せいやくとなるため、元の日本語にほんごをそのまま変体漢文へんたいかんぶんに落とし込むことは極めて困難である。次の(a)を例にとって見てみよう。

(a)いつのかみのめにて候しもの〔ゆつりて候しかとも、
   こうれんをふけうし候て、(略)うせ候ぬ。(注1)

これは鎌倉かまくら時代じだい譲状ゆずりじょうから抜き出したものである。候文そうろうぶんという手紙文てがみぶんならではの文体ぶんたいを纏ってはいるが、仮名かなを主体にして書かれているので、書き手の心内にある言語げんごがそのまま表出ひょうしゅつされたものと一往見ることができる。

ところが(a)が書かれた数ヶ月後、この文書もんじょが別の文書もんじょ引用いんようされることになり、その際に、変体漢文へんたいかんぶんの形に書き換えられるということが起こった。それが次の(A)である。

(A)いへどもゆづりたまふ伊豆守妻いずのかみのつま(略)、不レたてまつらず公蓮こうれん死去しきょ畢。(注2)

これを変換元へんかんもとの(a)と較べると、省略しょうりゃくされた要素ようそ(「にてそうろうしもの」「そうろう」「しか→き」)や、追加ついかされた要素ようそ(「ゆづり」→「譲給じょうきゅう」)、き換えられた要素ようそ(「ども」→「すい」、「うせ」→「死去しきょ」、「ぬ」→「おわん」)など、種々しゅじゅちがいがあることが判る。(A)は、(a)を再現さいげんしようとしながらも変体漢文へんたいかんぶんにおける漢字化かんじか漢文化かんぶんかという表記上ひょうきじょう構造こうぞう制約せいやく等を受けて生まれた、その意味いみ言語表現げんごひょうげんとしては不完全と評し得るものである。

文法・表現

【〜と同様に】
  • 意義:「〜と同じように」の意。比較・並列を表す複合助詞的表現。学術文で対象を並列する際に多用。
  • 例:仮名文や仮名交り文と同様に日本語による思想を文字化したもの。
【〜ということが起こった】
  • 意義:「こと」の名詞節化+「が起こった」。ある事態の発生を客観的に述べる表現。変体漢文への書き換えという「事態」を中立的に報告している。
  • 学術文では直接的な「〜した」より「〜ということが起こった」が客観的な距離感を与える。
【〜と較べると】
  • 意義:比較の視点を示す表現。「較べる」は「比べる」と同義。学術文では「〜に比して」「〜と比較すると」も類義。
【〜ながらも】
  • 意義:逆接を表す接続助詞。「〜しているが、にもかかわらず」の意。ここでは「再現しようとしながらも=再現しようとしているが、完全にはできなかった」。

中文翻譯

變體漢文與假名文、假名交じり文相同,都是將日語思想文字化的產物,但由於漢字化與漢文化這兩個過程構成制約,要將原本的日語直接轉化為變體漢文極為困難。讓我們以下面的(a)為例來看看。

(a)いつのかみのめにて候しもの〔ゆつりて候しかとも、
   こうれんをふけうし候て、(略)うせ候ぬ。(注1)

這是從鎌倉時代的讓渡文書中摘錄的。雖然帶有候文這種書信體裁特有的文體,但由於以假名為主體書寫,可以初步認為書寫者心中的語言被直接表達了出來。

然而,(a)寫成數月後,這份文書被引用於另一份文書,在此過程中,文字被改寫為變體漢文的形式,這就是下面的(A)。

(A)雖レ譲レ給伊豆守妻(略)、不レ孝公蓮死去畢。(注2)

與變換前的(a)相比,可以看出存在種種差異:省略的要素(「にて候しもの」「候」「しか→き」)、追加的要素(「ゆづり」→「譲給」)、替換的要素(「ども」→「雖」、「うせ」→「死去」、「ぬ」→「畢」)。(A)雖力圖再現(a),卻受制於變體漢文中漢字化、漢文化這一表記上的結構與制約而形成,從這個意義上說,作為語言表現是不完整的。

二ノ一 表記体としての変体漢文とその言語(後半)pp. 2–3

ところが一度それが書かれてしまうと、それを読み下した次の(a')は、元々の(a)とは明らかに異なるものでありながら、しかし日本語にほんごとして確立かくりつしており、もはや不完全なものとは言えない。

(a')伊豆守妻いずのかみのつまゆずり給ふといへども、公蓮こうれん不孝ふこうして死去しきょし畢んぬ。

変体漢文へんたいかんぶん自体は表記体ひょうきたいであって、本来は文体ぶんたいとは区別されるものなのであるが、(A)から復元ふくげんされる(a')という日本語にほんご独自どくじ特徴とくちょうを持つものなのであって、ここに文体ぶんたいを認めることができる。つまり、最初は表記体上ひょうきたいじょう強制きょうせいに基づく、消極的しょうきょくてきなものであったとしても、それが変体漢文へんたいかんぶんの中で文字表現もじひょうげんとして固定こていされると、同時にそれが変体漢文へんたいかんぶん言語げんご文体的ぶんたいてき特徴とくちょうにもなっていくわけである。

もっとも、変体漢文へんたいかんぶんくまでも(A)という形で表出ひょうしゅつされるのみで、その言葉ことばは次の二ノ二せつで見るように不確定ふかくてい未分化みぶんかな部分を残したものである。つまり(a')のように一通りに確定かくていされた姿すがた実際じっさいには存在そんざいしない、その意味いみ架空かくうのものであるのだが、実際じっさいに何らかの事情じじょうによりこのような言葉ことばが何らかの形で「現実化げんじつか」することがある。例えば、書かれた変体漢文へんたいかんぶん音読おんどくまたは黙読もくどくされる、或いは訓点くんてんが付される、読み下し文よみくだしぶんが作られる、といったことによってである。更には語彙ごい語法ごほうが他文体ぶんたい口頭語こうとうご波及はきゅうするといったことによってこの「現実化げんじつか」がたされることもある。

文法・表現

【〜でありながら、しかし〜】
  • 意義:逆接の複文構造。「〜でありながら」は「〜であるにもかかわらず」の意で、期待に反する後続内容を導く。
  • 学術文で対照・矛盾する事実を並置する際の典型的表現。
【つまり〜わけである】
  • 意義:「つまり」は前述の内容を言い換え・要約する接続詞。「〜わけである」は当然の帰結・論理的結論を示す表現。
  • 論文での論理展開の定型:事実→「つまり」→解釈・結論。
  • 「〜ことになる」「〜のである」とも比較。
【〜としても、〜されると】
  • 意義:仮定表現。「〜としても」は仮定の譲歩(「たとえ〜であっても」)。後続の「〜されると」は条件付き帰結を示す。
  • ここでは「最初は消極的であったとしても、固定化されると文体的特徴になる」という因果関係を示している。
【尤も〜のみで】
  • 意義:「尤も」は前述の内容に留保・補足を加える接続詞(「もっとも、ただ〜」)。「〜のみで」は「〜だけで、それ以上ではない」の限定表現。
  • 論文で一方的な主張を和らげ、複雑性を認める際に使う。

中文翻譯

然而,一旦它被寫出來,由(A)讀下的(a')雖明顯與原本的(a)不同,但已作為日語確立起來,不再能稱之為不完整。

(a')伊豆守妻に譲り給ふと雖も、公蓮を不孝して死去し畢んぬ。

變體漢文本身是表記體,原本應與文體有所區別,但從(A)復元的(a')這一日語擁有獨自的特徵,在此可以認定文體的存在。也就是說,即便最初是基於表記體上的強制、是消極性的產物,一旦在變體漢文中作為文字表現固定下來,同時也會成為變體漢文語言的文體特徵。

不過,變體漢文終究只以(A)的形式表出,其語言如下一節所見,仍保留著不確定、未分化的部分。也就是說,像(a')那樣一義確定的形態在實際上並不存在,在這個意義上是虛構的;但實際上有時確因某種緣由,這樣的語言得以以某種形式「現實化」。例如,書寫的變體漢文被音讀或默讀、附加訓點、製成讀下文等情況下,以及語彙、語法波及其他文體或口頭語,「現實化」由此得以實現。

二ノ二 「変体漢文の言語」の範疇pp. 3–4

変体漢文へんたいかんぶん表記体ひょうきたいすなわち日本語にほんご表記方法ひょうきほうほうの一しゅであって、日本語にほんごそのものではない。「変体漢文へんたいかんぶんには漢文訓読語かんぶんくんどくご特徴とくちょう和文語わぶんご特徴とくちょうあわつ」などと言う場合の「変体漢文へんたいかんぶん」は、厳密げんみつには「変体漢文へんたいかんぶんによって表現ひょうげんされている日本語にほんご」と言うべきものである(これを簡略化かんりゃくかして「変体漢文体へんたいかんぶんたい」とも呼び得るだろう)。しかし変体漢文へんたいかんぶんという表記方法ひょうきほうほうには、表音性ひょうおんせいつまり一義的ぎてきには音配列おんはいれつであるところの言語げんご表現ひょうげんする能力のうりょくにおいて無視むしできぬ不確定性ふかくていせいがあることは誰しもが感じるところであろう。では、「変体漢文へんたいかんぶん言語げんご」を日本語史学にほんごしがく対象たいしょうとするさい、その範疇はんちゅうをどのように規定きていすべきであろうか。

例として、雲州往来うんしゅうおうらいにある「所レ差可レ足」(第一通)・「被二投一消息一」(第十通)という字句じくを見よう。これらをルビに従って読み下すよみくだすとそれぞれ「差フ所足ンヌ可シ」「消息(ヲ)投ゲ被レタリ」となる。実はこのルビは享禄本きょうろくぼん訓点くんてんであり、過去に確かにこれらの字句じくからこれらの日本語にほんご復元ふくげんされたことを意味する。

しかし、だからと言って「変体漢文へんたいかんぶん『所差可足』『被投消息』の言語げんご」とはイコール「ネガフ/トコロ/タン/ヌ/ベシ」「セウソク/ヲ/ナゲ/ラレ/タリ」であると言えるだろうか。これらの内、「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及び「セウソク」「ナグ」「ラル」については、(仮にこの享禄本きょうろくぼん加点かてんが無くとも)各々の漢字かんじの当時の字訓じくん字音じおんまた加点例かてんれいなどを基にして語形ごけい推定すいていされるものである。加えて、「ヲ」は、表記ひょうき漢字かんじを持たないが、この文における「消息」の統語的とうごてきな役割と、SVOの漢文式かんぶんしき語序ごじょに支えられて、この部分にヲががわれることはほぼ確実視し得るものである。

これらに対して、「タンヌベシ」における助動詞じょどうしヌ、「ナゲラレタリ」における助動詞じょどうしタリは、いずれも訓読くんどく復元ふくげん)の際に言わば恣意的しいてき読み添えよみそえられた要素ようそである蓋然性がいぜんせいが大きい。少なくとも、元の文字列もじれつ「可足」「被投」から直接に導かれるものではない。これらに対しては「タルベシ」「ナゲラル」という、よりシンプルな訓読くんどく復元ふくげん)も不可能ではなかったはずだし、寧ろ充分あり得ただろう。このように見て、「変体漢文へんたいかんぶん言語げんご」としては、「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及び「セウソク」「ヲ」「ナグ」「ラル」(活用語かつようご活用形かつようけいを捨象)のみを認めることとしたい。

みぎを要するに、本稿で「変体漢文へんたいかんぶん言語げんご」と呼ぶものは、一義的ぎてきには、書かれた字句じくから直接に抽出ちゅうしゅつできるである。それは言語げんごというよりは、言語げんごとして実現じつげんする以前の抽象的ちゅうしょうてき単位たんいと言うべきものかも知れない。

文法・表現

【すなわち】
  • 意義:言い換え・定義を示す接続詞。前の内容をより正確に言い直す。「つまり」より書き言葉的・改まった語感。
  • 例:変体漢文は表記体すなわち日本語の表記方法の一種。
【〜というよりは〜と言うべき】
  • 意義:二段階の言い換え表現。「〜というよりは」は不正確な表現を否定し、「〜と言うべき」でより正確な表現を提示する。
  • 学術文での用語・概念の精密化パターン。
【〜すべきであろうか】
  • 意義:疑問形+意志・推量の「べき」+婉曲の「であろう」。問題提起・研究課題を示す疑問文の定型。
  • 論文の問い立て(Forschungsfrage)によく使われる。
【(仮に〜が無くとも)】
  • 意義:反実仮想(「たとえ〜がなかったとしても」)。ある証拠がなくても同じ結論になることを示し、論拠の堅固さを強調する。

中文翻譯

變體漢文是表記體,即日語表記方法的一種,而非日語本身。說「變體漢文兼具漢文訓讀語的特徵與和文語的特徵」時,「變體漢文」嚴格而言應稱「由變體漢文所表現的日語」(亦可簡稱「變體漢文體」)。但是,變體漢文這一表記方法在表現作為音序列的語言時存在不可忽視的不確定性,這是人人都能感受到的。那麼,將「變體漢文的語言」作為日語史學的研究對象時,應如何規定其範疇呢?

以《雲州往來》中的「所レ差可レ足」(第一通)、「被二投一消息一」(第十通)為例。依照振假名讀下,分別得到「差フ所足ンヌ可シ」「消息(ヲ)投ゲ被レタリ」。這些振假名實際上是享祿本的訓點,意味著過去確實從這些字句中復元了這些日語。

但是,因此就能說「變體漢文『所差可足』『被投消息』的語言」等同於「ネガフ/トコロ/タン/ヌ/ベシ」「セウソク/ヲ/ナゲ/ラレ/タリ」嗎?其中「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及「セウソク」「ナグ」「ラル」即便沒有享祿本的加點,也可依各漢字當時的字訓、字音及加點例推定語形。此外,「ヲ」雖無表記漢字,但依「消息」在句中的句法角色以及漢文式SVO語序,此處宛用ヲ幾乎可以確定。

然而,「タンヌベシ」中的助動詞「ヌ」、「ナゲラレタリ」中的助動詞「タリ」,在訓讀(復元)時有很大可能是被恣意讀添的要素。至少,它們並非直接從「可足」「被投」的字列中導出。對這些字句而言,「タルベシ」「ナゲラル」這種更簡單的訓讀(復元)也並非不可能,甚至可以說相當充分。由此,本稿中「變體漢文的語言」僅認定「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及「セウソク」「ヲ」「ナグ」「ラル」(活用語捨象活用形)。

總而言之,本稿所稱「變體漢文的語言」,一義上是指可從書寫的字句中直接抽出的語。與其說它是語言,不如說是語言實現之前的抽象單位。

二ノ三 変体漢文はヨメるか(問題設定・研究史)(注3)p. 4

変体漢文へんたいかんぶん背後はいごに(つまり思想内容しそうないようとして)日本語にほんごがあることは認められても、変体漢文へんたいかんぶんで書かれた文章ぶんしょう特定とくてい日本語文にほんごぶん再現さいげん可能であるか(再現さいげんされるべくして書かれたものであるか)ということについては研究者けんきゅうしゃ間で見解けんかいが一致していない。すなわち、亀井孝かめいたかし氏の言葉を借りれば(注4)、変体漢文へんたいかんぶんはヨメるか――よめる(=文意ぶんい理解りかいできる)ものではあっても、ヨメる(=特定とくていぶん復元ふくげんできる)ものであるか否か――という問題である。小林芳規こばやしよしのり氏や峰岸明みねぎしあきら氏はヨムことが(完全には無理としても、かなりの程度までは)可能であるとする立場を取るが、他方、小松英雄こまつひでお氏のように「(引用者注、法隆寺ほうりゅうじ金堂薬師仏光背銘こんどうやくしぶつこうはいめいについて)訓読くんどくしないでも理解りかいできる以上、「訓読くんどくという行為こういを予想して作成され」たものでもない(傍点引用者)」「訓読くんどくという行為こういを予想して作成され」たとみなすべき漢字文かんじぶん存在そんざい具体的ぐたいてきに指摘することができない」(注5)とする立場もある。よりくだけた言い方をすれば、変体漢文へんたいかんぶんは後で見て意味いみ文章内容ぶんしょうないよう)が判ればそれで良かったのであって、特定とくてい日本語文にほんごぶん復元ふくげんされ得るような表記形態ひょうきけいたいではなかった、とする考えである。また船城俊太郎ふなしろしゅんたろう氏も、将門記しょうもんきの二本の古点本こてんぼん調査ちょうさから、同一箇所の訓点くんてんが二本間で相違そういするケースが一定数あることを指摘され、「峰岸みねぎし氏の「定訓じょうくん」のようなかんがえかたで、全体を律しようとするのはあやまりである。すくなくとも、一字一訓ということにあまりに固執するのは、よろしくないであろう」と、同様の見解を示され、「変体漢文へんたいかんぶんをふくめた日本漢文にほんかんぶんからよみとられてくる日本語にほんご文章ぶんしょうは、言ってみれば「大同」で「小異」のあるものだったのである」と結論されている(注6)。

文法・表現

【〜ということについては〜が一致していない】
  • 意義:研究上の論争・見解の相違を客観的に報告する表現。「ということについては」は問題の範囲を限定。「見解が一致していない」は学術的論争の存在を示す。
【〜の言葉を借りれば】
  • 意義:他者の表現・概念を引用する際の慣用句。「借りれば」は仮定条件形で「使わせてもらえば」の意。
  • 類義:〜の言葉を使えば、〜によれば。
【〜とする立場を取る / 〜とする立場もある】
  • 意義:研究者の立場・主張を客観的に紹介する表現。「立場を取る」は積極的な支持を、「立場もある」はより中立的に一方の見解を示す。
【より砕けた言い方をすれば】
  • 意義:難解な説明を平易に言い換える際のメタ言語的表現。「砕ける」は「平易になる」の意(口語的)。
  • 論文で専門用語的説明に続けて通俗的説明を補足する際に使う。

中文翻譯

即便承認變體漢文背後(即作為思想內容)存在日語,變體漢文所寫的文章能否復元為特定日語文(即是否是應當被復元而寫就的)這一問題,研究者之間見解不一。也就是說,借用亀井孝氏的話(注4),這是「變體漢文可讀嗎」——雖然よめる(=能理解文意),但是否ヨメる(=能復元為特定的語·文)——的問題。小林芳規氏和峰岸明氏持有「訓讀(即便無法完全,也能在相當程度上)是可能的」的立場。另一方面,也存在如小松英雄氏所持的立場:「(引用者注,關於法隆寺金堂藥師佛光背銘)既然不訓讀也能理解,就不是以『訓讀這一行為』為預設而作成的(傍點為引用者所加)」「無法具體指出應視為以訓讀為預設而作成的漢字文的存在」(注5)。更通俗地說,就是「變體漢文只要事後看明白意思就夠了,並非可復元為特定日語文的表記形態」的觀點。船城俊太郎氏也從《将門記》兩本古點本的調查出發,指出同一處訓點在兩本之間存在相異的情況,示以相同見解,並得出結論:「包含變體漢文在內的日本漢文中讀出的日語文章,可以說是『大同』而『小異』的」(注6)。

二ノ三 ヨメるか(小林・峰岸の見解)p. 5

これに対して、小林芳規こばやしよしのり氏は古事記こじきについて「本文の用字法ようじほうには統一意識とういついそんし、表意ひょうい漢字かんじ字種じしゅが少なく平易へいいなものを選ぼうとする意識いしきが認められ、漢字かんじとそのくんとの関係かんけいが一漢字かんじくん又は二くんというせま対応たいおう原則げんそくとしており、上代じょうだいにおける常用字じょうようじ基盤きばんとし反映はんえいしている」(注7)という仮説かせつに基づき、それら常用字じょうようじ訓漢字くんかんじ)各々の和訓わくん確定かくていしていくことによって古事記こじきをヨモウとされた。また峰岸明みねぎしあきら氏は「少数ではあっても訓点本くんてんぼんそんするところから、当時の人々に変体漢文へんたいかんぶん訓読くんどくすべきものであるという認識にんしきがあったこと、敷衍ふえんすれば、変体漢文へんたいかんぶんという文章様式ぶんしょうようしき背後はいご国語文こくごぶん存在そんざいすることを人々が認めていたということ」が言えるとし、次のような見解けんかいを示された。

 このような文章ぶんしょう作成事情さくせいじじょうを説明するに当たって、これが漢字かんじを利用した文章表記ぶんしょうひょうきであるので、元来もとより表現内容ひょうげんないよう伝達でんたつのみが意図いとされ、それに対応たいおうする国語文こくごぶん作成さくせいは、必ずしもおこなわれないのではなかったのではないか、表現内容ひょうげんないよう理解りかいを求めることは意図いとされていたのであろうが、その国語文こくごぶん再現さいげんまでは期待きたいされていなかったであろうなどとする立場たちばそんするようである。しかしながら、このような立場たちばは、畢竟ひっきょう文字列もじれつを単なる記号きごう連続れんぞくと見做す立場たちばつらなるもので、現実げんじつ文章ぶんしょうに対する理解りかいとしては必ずしも自然しぜんではないように思う。記録体きろくたい文章ぶんしょうは、具体的ぐたいてき国語文こくごぶんあらかじ存在そんざいし、それを基に漢文かんぶん表記様式ひょうきようしきを利用して作成さくせいされたもの、換言かんげんすれば、変体漢文へんたいかんぶんという文章様式ぶんしょうようしき背後はいご具体的ぐたいてき国語文こくごぶん存在そんざい想定そうていせらるべきものと理解りかいすべきではなかろうか。
峰岸みねぎし(一九八六イ)序章じょしょう第二せつ、四十九・五十頁)

また、船城ふなしろ氏の先掲論では将門記しょうもんきの二本の点本てんぼん間で訓法くんほうがしばしば一致しないことを以て「変体漢文へんたいかんぶんが(一通りに)ヨメる」とする考えに疑義ぎぎていされたのであるが、これは検討対象けんとうたいしょう将門記しょうもんきという、変体漢文へんたいかんぶんの中でも文学志向ぶんがくしこうの強いもの、すなわ文飾ぶんしょくの跡が多くうかがえるものであることを考慮こうりょに入れるべきかと思われる。つまり、表現ひょうげん日常性にちじょうせいからはなれていくに従って訓読くんどくもバリエーションを生じやすくなるとかんがえられるのであって、将門記しょうもんきにおける結論けつろんが一般的な記録きろく文書もんじょなどにおいても同様に当てはまるとは必ずしも言えないのではないか。

文法・表現

【〜に基づき、〜をヨモウとされた】
  • 意義:「〜に基づき」は根拠・方法を示す複合助詞。「〜とされた」は他者の行為を引用する敬体(尊敬語的客観化)。
  • 論文で先行研究者の手法・主張を紹介する定型。
【〜とし、〜を示された】
  • 意義:引用文に続く動詞「とし」は主張・見解のまとめを示す。「示された」は研究者への敬意を含む尊敬表現。
【〜を考慮に入れるべきかと思われる】
  • 意義:「考慮に入れる」は「勘案する・考えに含める」の慣用表現。「〜べきか」は当然性の疑問、「〜と思われる」は婉曲な主張。
  • 反論を示しながらも穏やかな語調を保つ学術文の典型パターン。
【〜に従って〜しやすくなる】
  • 意義:「〜に従って」は比例変化を示す複合助詞(「〜するにつれて」に類似)。「〜やすくなる」は可能性・傾向の増加を示す。

中文翻譯

對此,小林芳規氏就《古事記》提出了這樣的假說:「正文用字法具有統一意識,可以看出有意選擇字種少且平易的表意漢字,以一漢字一訓或二訓的狹窄對應關係為原則,反映並建立在上代常用字的基礎上」(注7),並依此逐一確定各常用字(訓漢字)的和訓,嘗試讀解《古事記》。峰岸明氏則指出:「從少數訓點本的存在可以得知,當時的人們有著變體漢文應當訓讀的認識,推衍而言,人們承認變體漢文這一文章樣式的背後存在著國語文」,並表示了如下見解。

(峰岸(一九八六イ)序章第二節,四十九・五十頁):對於這樣的文章作成情況,由於這是利用漢字的文章表記,有種立場認為:也許元來只意圖傳達表現內容,與之對應的國語文的作成並非必然被要求;意圖讓人理解表現內容,但不一定期待其國語文的再現。然而,如此立場歸根究柢連於將文字列視作單純符號連續的立場,對現實文章的理解而言未必自然。記錄體文章是在預先存在具體國語文的基礎上,利用漢文的表記樣式作成的,換言之,應當理解為:變體漢文這一文章樣式的背後,應當假定存在著具體的國語文。

此外,船城氏的上述論文以《将門記》兩本點本之間訓法多有不一致為據,對「變體漢文可以(一義地)被訓讀」的觀點提出了疑義。但稿者認為應當考慮到:考察對象《将門記》在變體漢文中屬於文學志向較強的作品,即文藻修飾的痕跡較多。也就是說,表現越偏離日常性,訓讀就越容易產生多種變體,因此《将門記》的結論未必能同樣適用於一般的記錄或文書。

二ノ三 ヨメるか(稿者の立場・漢字の意味)pp. 5–6

さて、稿者こうしゃかんがえでは、両者りょうしゃ主張しゅちょうは「変体漢文へんたいかんぶん訓読くんどくされるべきものとして書かれたか否か」という点に集約しゅうやくすることができる。そして稿者こうしゃは、小林こばやし峰岸みねぎし両氏らの主張しゅちょうすなわち「変体漢文へんたいかんぶん訓読くんどくされるべきものとして書かれた(=書かれた変体漢文へんたいかんぶん読み手よみてからは「訓読くんどく」によって理解りかいされた)」という立場たちばに立つ。そしてそのことは、実は反対派はんたいは意見いけんである「変体漢文へんたいかんぶんは、見て意味いみ文章内容ぶんしょうないよう)が判ればそれで良かった(よって、訓読くんどくという〈日本語文にほんごぶん〉化を経ての読解どっかいを必ずしも要求ようきゅうするものではない)」という主張しゅちょう意味いみするところを精査せいさしていくことによって、自然しぜんみちびかれる結論けつろんであるように、稿者こうしゃには思われるのである。よって、以下この主張しゅちょうについて少し踏み込んでみたい。

変体漢文へんたいかんぶんで書かれた文章ぶんしょう内容ないよう理解りかいするためには、当然ながらそこに書かれた漢字列かんじれつすなわち、各々の漢字かんじ(乃至複数ふくすう漢字かんじから成る漢字句かんじく)の意味いみが判らなくてはならない。では、ここで言うところの「漢字かんじ漢字句かんじく意味いみ」とは一体何であろうか。漢字かんじ中国語ちゅうごくご表記ひょうきするための文字もじであるから、漢字かんじ意味いみと言えば最も普通には中国ちゅうごくにおいてその字が表す「」が有する意味いみ、ということになるであろう。例えば「驚」の意味いみと言えば、この字が書き表す中国語ちゅうごくごキヤウ(中古音ちゅうこおんでは[kǐaŋ](注8))の意味いみということになる。

このことを念頭ねんとうに置きつつ、以下の例を見られたい。

(1イ)先例せんれい昼時ひるどき只目令レそうろうレ楽、而よってレ入レ暗もって笏扇しゃくおうぎおどろかすレ之、(小右記しょうゆうき正暦四しょうりゃくし(九九三)年正月廿二日しょうがつにじゅうににち

(1ロ)令二はばかり申御念劇もうすおんねんぎょうそうろう之間、久不レ令レおどろかす言上事由ごんじょうじゆう一者也、(某書状・平安院政期へいあんいんせいき平安遺文へいあんいぶん4795)

(2イ)使等つかいら不レ可レかく事、同令レふれ所々しょしょおこなう也、みずからかねてもよおしそうろう由、一日所レ申也、(小右記しょうゆうき長和二ちょうわに(一〇一三)年五月七日)

(2ロ)そもそも御八講之間、安楽光院あんらくこういん御幸可レなる二何日一そうろう乎、…かねて而可レられ仰下おおせくだしそうろう也、(尊性法親王そんしょうほうしんのう書状・天福元てんぷくがん(一二三三)年四月廿七日・鎌倉遺文かまくらいぶん4487)

文法・表現

【〜という点に集約することができる】
  • 意義:「集約する」=「まとめる・一点に絞る」。複数の議論を一つの問いに収束させる際の学術表現。
  • 論文で対立する主張を整理する際の典型パターン。
【〜という立場に立つ】
  • 意義:著者自身の研究上の立場を明示する表現。「立場に立つ」は「〜の見解を採る」の慣用。
  • 対比:「〜とする立場もある」(他者の立場)vs「〜という立場に立つ」(自分の立場)。
【踏み込んでみたい】
  • 意義:「踏み込む」=「より深く考察する」の比喩表現。「〜みたい」は試みる意志。
  • 論文で詳細な議論に入る前の予告表現として使われる。
【乃至】
  • 意義:「〜または〜」「〜あるいは〜」の意の書き言葉的接続語。漢語由来。論文・法令文書に多用。

中文翻譯

稿者認為,雙方的主張可以歸結為「變體漢文是否是作為應當被訓讀的東西而書寫的」這一問題。稿者站在小林、峰岸兩氏的主張一側,即「變體漢文是作為應當被訓讀的東西而書寫的(=書寫的變體漢文是由讀者通過「訓讀」加以理解的)」。稿者認為,這一結論實際上可以通過仔細審查反對方的主張——「變體漢文只要看了能明白意思(文章內容)就夠了(因此未必要求通過訓讀這種〈日語文〉化的過程進行閱讀)」——自然地導出。因此,以下想對這一主張稍作深入探討。

要理解用變體漢文書寫的文章的內容,當然必須理解其中所寫的漢字列,即各漢字(乃至由複數漢字構成的漢字句)的意義。那麼,這裡所說的「漢字/漢字句的意義」究竟是什麼?由於漢字是用於表記中文的文字,說到漢字的意義,通常指的是該字在中國所表示的「語」所具有的意義。例如,說「驚」的意義,指的是這個字所書寫的中文キヤウ(中古音為[kǐaŋ](注8))的意義。

請帶著這一認識來看下面的例子。(例子(1)中的「驚」,(2)中的「兼」見下節分析。)

二ノ三 例(1)(2)の分析・宛字pp. 6–7

みぎの(1)の二例における「驚」は、所謂〈おどろク〉の意味いみでは全くなく、〈ラセル〉とか〈連絡れんらくスル〉とかいうような意味いみで用いられている。これは、「驚」が表す中国語ちゅうごくごキヤウの意味いみではなく、「驚」を訓読くんどくした日本語にほんごオドロカスが持つ意味いみである。また、(2)の二例における「兼」は〈あらかじメ〉という意味いみであり、これも、「兼」が表す中国語ちゅうごくごケムの意味いみでなく、「兼」を訓読くんどくした日本語にほんごカネテが持つ意味いみである。このように、変体漢文へんたいかんぶんにおいては本来の漢字かんじ漢文かんぶん知識ちしきからはただしい理解りかいに至れず、その字句じく訓読法くんどくほうが判って初めて語彙ごい文意ぶんいも通ずるという部分が、随所ずいしょに見られるのである。

つまり、「変体漢文へんたいかんぶん意味いみが判れば良かった」と言うにしても、その場合の「意味いみ」とは「漢字かんじ漢字句かんじく意味いみ」ではなくして、「それらの漢字かんじ漢字句かんじく訓読くんどくした日本語にほんご意味いみ」である。ということは、変体漢文へんたいかんぶん文章内容ぶんしょうないようさえ理解りかいできれば良かった、と言おうとする場合にさえ、その各々の漢字かんじ漢字句かんじくが「訓読くんどく」できなくてはならないのである。

みぎのことの一層甚だしい例として、所謂宛字あてじがある。

以外もってのほか失礼しつれい仕了、浅猿あさまし候云々、(愚昧記ぐまいき嘉応二かおうに(一一七〇)年正月廿日)

検校けんぎょう更以不レ可レ有二抑留おくりゅう一、穴賢あなかしこ々々、(慈円起請文じえんきしょうもん承元二しょうげんに(一二〇八)年二月・鎌倉遺文かまくらいぶん1716)

こと令二歎申なげきもうし一之旨、糸惜いとをし思食之間、重所レ被二仰遣おおせつかわし一也、(吾妻鏡あずまかがみ文治四ぶんじし(一一八八)年四月十二日)

〇以二此旨一、可レ令二洩申もうしもれ一給二候覧そうろうらむ一、恐惶謹言きょうこうきんげん、(摂政御教書せっしょうみぎょうしょ養和元ようわがん(一一八一)年十一月廿二日・鎌倉遺文かまくらいぶん50370)

またこれに類する現象げんしょうとして、一資料しりょう内で一つの複数ふくすう用字ようじにより表記ひょうきされることがある。峰岸みねぎし(二〇〇三)で指摘されている例を次に掲げる。

駒引こまひき貞信公記抄ていしんこうきしょう延喜十二えんぎじゅうに(九一二)年四月三十日)

駒牽こまひき(同・延長五えんちょうご(九二七)年五月二日)

故兼忠朝臣こかねただあそん維吉これよし御堂関白記みどうかんぱくき長和元ちょうわがん(一〇一二)年閏十月十六日)

将軍維能しょうぐんこれよし(同・同四(一〇一五)年十一月三日)

賀茂河かもがわ御堂関白記みどうかんぱくき長保二ちょうほうに(一〇〇〇)年三月廿日) 〇鴨河かもがわ(同・寛弘元かんこうがん(一〇〇四)年五月十一日)

これらは、変体漢文へんたいかんぶん背後はいご特定とくてい日本語にほんご――訓読くんどくを経てのみ同定どうてい可能な――が存することの証左しょうさとなるものである。以上のことを別言べつげんすると、変体漢文へんたいかんぶんにおける各々の漢字かんじないし漢字句かんじくが表しているのは「意味いみ」ではなく「」である、ということになる。

文法・表現

【〜ではなくして】
  • 意義:「〜ではなく」の書き言葉的強調形。「して」が付くことでより強い否定・対比の語感を与える。
  • 例:「漢字の意味」ではなくして「訓読した日本語の意味」である。
【〜と言うにしても・〜する場合にさえ】
  • 意義:「〜にしても」は仮定譲歩(「〜だとしても」)。「〜する場合にさえ」は「〜という極端な場合においても」の意で、結論の必然性を強調。
【〜の証左となる】
  • 意義:「証左(しょうさ)」=「証拠・証明」の書き言葉。「〜の証拠になる」の格調高い表現。
  • 類義:〜の証拠となる、〜を示すものである。
【別言すると】
  • 意義:「別の言い方をすると」の意の接続詞的表現。前の議論を別の角度から言い換え、本質を抽出する際に使う。

中文翻譯

上述(1)兩例中的「驚」,完全不是〈驚嚇〉的意思,而是用於〈通知〉〈聯絡〉等意思。這並非「驚」所表示的中文キヤウ的意義,而是將「驚」訓讀的日語オドロカス所具有的意義。同樣,(2)兩例中的「兼」表示〈預先〉的意思,這也並非「兼」所表示的中文ケム的意義,而是將「兼」訓讀的日語カネテ所具有的意義。如此,在變體漢文中,隨處可見僅憑本來的漢字、漢文知識無法得到正確理解、只有明白其字句的訓讀法才能通曉語彙與文意的情況。

也就是說,即便說「變體漢文只要明白意思就夠了」,此時的「意思」也並非「漢字/漢字句的意義」,而是「訓讀這些漢字/漢字句後的日語的意義」。這意味著,即便是要說「只要能理解文章內容就夠了」,也必須能「訓讀」其中各個漢字/漢字句。

更極端的例子是所謂宛字。(列舉「浅猿(アサマシ)」「穴賢(アナカシコ)」「糸惜(イトヲシ)」「覧(ラム)」等例。)這些宛字並非某特定記主的奇特用法,而是在中古後期至中世前期具有一定普遍性的,光憑各漢字的「意義」根本無從理解語詞。

此外,類似現象還有:同一資料中一個語以複數用字表記(如「駒引」「駒牽」均讀コマヒキ,「維吉」「維能」「維良」均為人名,「賀茂河」「鴨河」均為地名)。這些都是變體漢文背後存在特定日語——只有通過訓讀才能確認的日語——的佐證。換言之,變體漢文中各漢字或漢字句所表示的,不是「意義」而是「語」。

二ノ三 定訓・まとめpp. 7–8

もっとも、単語たんごレベルであっても「不審ふしん(イブカシ/フシンナリ)」のように語種ごしゅを決めかねる等のケースが存在そんざいすることも確かではあるが、原則げんそくとしては先述の如く変体漢文へんたいかんぶんは「ヨメなければよめない」という結論けつろんは動かないであろう。

なお、こうしたことと表裏一体ひょうりいったい現象げんしょうとして、「定訓じょうくん」と「常用漢字じょうようかんじ訓漢字くんかんじ)」の存在そんざいがある。これは変体漢文へんたいかんぶんがヨメたことそのものの証拠しょうこにはならないが、変体漢文へんたいかんぶんをヨメるものにしている重要な要素ようそである。すなわち、奈良時代ならじだいに既に特定とくてい漢字かんじ特定とくてい和語わごとの密接みっせつ関係かんけい成立せいりつ、つまり「和訓わくん固定化こていか」が進んでいた(=定訓じょうくん成立せいりつ)ことは夙に小林芳規こばやしよしのり峰岸明みねぎしあきらの両氏らが訓仮名くんがな辞書じしょ訓注くんちゅうなどを物証として究明きゅうめいされたが、更にそれらの漢字かんじを用いて日本語にほんご表記ひょうきするに際して、一つの和語わごについて一つの漢字かんじを充てる、また逆に一つの漢字かんじには一つのくん(用法)を与えるという強い傾向けいこうが見られることも、小林芳規こばやしよしのり小山登久こやまとしひさ峰岸明みねぎしあきらの三氏らが指摘している(注9)。このような装置そうちによって、仮名かなを使用せずに日本語文にほんごぶんとしてヨメるものとしての変体漢文へんたいかんぶん表記ひょうきが可能となったのである。

文法・表現

【表裏一体の現象として】
  • 意義:「表裏一体(ひょうりいったい)」=「表と裏が一体、切り離せない関係」の四字熟語。「〜と表裏一体の現象」は「〜と密接に関連する/不可分の現象」の意。
【夙に〜されたが、更に〜も指摘している】
  • 意義:「夙(つと)に」=「早くから・以前から」の書き言葉。先行研究の時系列的積み重ねを示す表現。
  • 「〜されたが、更に〜も」は「従来の研究に加えて、さらに」の論文的展開。
【〜を物証として究明された】
  • 意義:「物証」=「物的証拠」。「究明する」=「徹底的に調べ明らかにする」。これらが組み合わさり、証拠に基づく学術的検証の意を示す。

中文翻譯

當然,即便在單語層面,也確實存在如「不審(イブカシ/フシンナリ)」這樣難以確定語種的情況,但原則上如前所述,「不訓讀就不能讀懂」的結論應當是不動搖的。

另外,與此表裏一體的現象是「定訓」和「常用漢字(訓漢字)」的存在。這雖然不是變體漢文可被訓讀本身的直接證據,卻是使變體漢文得以被訓讀的重要機制。即:奈良時代已進行了特定漢字與特定和語之間密切關係的建立,也就是「和訓的固定化」(=定訓的成立),這早已由小林芳規、峰岸明兩氏以訓假名、辭書訓注等物證加以闡明。此外,在以這些漢字表記日語時,存在一個和語對應一個漢字、以及反過來一個漢字只賦予一個訓(用法)的強烈傾向,這也由小林芳規、小山登久、峰岸明三氏指出(注9)。正是這一機制使得不使用假名也能作為日語文被訓讀的變體漢文表記成為可能。

§2 表記上の特徴の整理pp. 9–19

【1】定訓に基づく表記(前半)pp. 9–10

本稿では、変体漢文へんたいかんぶん言語げんご影響えいきょうする表記上ひょうきじょう特徴とくちょうを次の四つの点から捉える。

【1】定訓じょうくんに基づく表記ひょうき

【2】《辞》の表記ひょうきにおける制約せいやく

【3】漢字化かんじか

【4】日本語にほんご中国語ちゅうごくご文構成ぶんこうせい相違そうい

漢字かんじ日本語にほんご表現ひょうげんするには幾つかの方法があるが、大別すると(い)漢字かんじ表語面ひょうごめんを活用する方法(正訓せいくん正音せいおん)、(ろ)表音面ひょうおんめんを活用する方法(訓仮名くんがなを含む)、(は)両者を併用へいようする方法、の三類に分けられるだろう。それぞれの例を万葉集まんようしゅうから挙げると次のようになる(傍線部ぼうせんぶ表語用法ひょうごようほう波線部はせんぶ表音用法ひょうおんようほうである)。

(い)花之色(ハナノイロ)     巻第十まきだいじゅう・二二七八

(ろ)波奈乃伊呂(ハナノイロ)   巻第十四まきだいじゅうし・三三七六

(は)鼻毘之毘之尓(ハナビシビシニ)巻第五まきだいご・八九二

(ろ)のように表音面ひょうおんめんを利用すると、原理的げんりてきには日本語にほんごのほぼ全ての漢字かんじ表記ひょうき可能であるが、変体漢文へんたいかんぶんは(い)のように表語面ひょうごめんを活用する方法を基本原理きほんげんりとするものであるので、表記ひょうき可能なは、字音語じおんご正音表記せいおんひょうきに基づく)と、ある漢字かんじ定訓じょうくんとなっている和語わご正訓表記せいくんひょうきに基づく)との二類が主体しゅたいとなる。前者の字音語じおんごについては後述の【3】漢字化かんじかにて触れることとし、ここでは後者の、漢字かんじ定訓じょうくんとなっている和語わごについて説明する。

先の二ノ三せつにて述べたように、定訓じょうくんによる和語わご表記ひょうきすなわち、特定とくてい漢字かんじ(例、犬)の読み方として特定とくてい和語わご(例、イヌ)が定着ていちゃくすることによって、逆に特定とくてい和語わご(イヌ)を表記ひょうきするのに特定とくてい漢字かんじ(犬)が用いられるようになること、これが漢文式かんぶんしき表記ひょうきによって日本語にほんご表記ひょうきできる根幹的こんかんてき機構きこうであると言える。それでは、そのような定訓じょうくんは那辺において成立せいりつするか。本稿が主な対象たいしょうとする平安鎌倉時代へいあんかまくらじだいまでの状況じょうきょうについて言えば、それは漢文文献かんぶんぶんけんを(訓点くんてんを差す等して)日本語文にほんごぶんとして読み下すよみくだす、いわゆる漢文訓読かんぶんくんどくの場であったとかんがえられる。

文法・表現

【大別すると〜の三類に分けられる】
  • 意義:「大別する」=「大まかに分類する」。「〜に分けられる」は分類結果を示す受身形。論文の分類提示の定型。
【〜を基本原理とするものであるので】
  • 意義:「〜を基本原理とする」は「〜を根本方針とする」の意。「〜ので」は原因・理由を示す。変体漢文の本質から論を展開する際の言い方。
【那辺において成立するか】
  • 意義:「那辺(なへん)」=「どの点で・どこで」の書き言葉的疑問語。「〜において成立するか」は問題提起の表現。
  • 現代語なら「どのような場で成立するか」。

中文翻譯

本稿從以下四個方面把握影響變體漢文語言的表記上的特徵。

【1】基於定訓的表記 【2】《辭》的表記制約 【3】語的漢字化 【4】日語與中文的文章構成之相異

以漢字表現日語的方法可大致分為三類:(い)活用漢字表語面的方法(正訓・正音)、(ろ)活用表音面的方法(含訓假名)、(は)兩者並用的方法。分別以《萬葉集》為例,則如上所示(波線為表語用法,波浪線為表音用法)。

如(ろ)那樣利用表音面,原理上幾乎所有日語語詞都可以用漢字表記;但變體漢文以(い)活用表語面的方法為基本原理,因此可表記的語以字音語(基於正音表記)和作為某漢字定訓的和語(基於正訓表記)兩類為主體。字音語留待後述的【3】語的漢字化中論及,此處說明後者,即成為漢字定訓的和語。

如前二ノ三節所述,基於定訓的和語表記——即特定漢字(如「犬」)作為特定和語(如イヌ)的讀法定著,進而特定和語(イヌ)用特定漢字(犬)來表記——這是以漢文式表記書寫日語的根本機構。那麼,這種定訓在何處成立?就本稿主要考察的平安鎌倉時代為止的情況而言,應當是在加訓點等閱讀漢文文獻、即所謂漢文訓讀的場合中形成的。

【1】定訓に基づく表記(後半)p. 10

実際じっさい漢文訓読かんぶんくんどくにおいては、漢字かんじ和語わごとは多対多の関係かんけいを持つことがめずらしくないが、その使用頻度しようひんど意味いみ上の対応たいおうの強さなどにおうじて、上記の定訓じょうくん関係かんけいが多くの字/において成立せいりつしていったのであろう。よって漢字かんじ表語面ひょうごめんを活用する(い)式の日本語にほんご表記ひょうきにおいては当然そうした、漢字かんじでの表記ひょうきが可能なが選ばれる(それらの制限せいげんされる)ということになる。

一方そういった場に、すなわ漢文かんぶん訓読くんどくする際に用いられなかった語彙ごい(それらは漢文かんぶんが含む漢字かんじ意味いみに上手く対応たいおうしない語則ごそく日本語にほんご独自どくじ意味いみを持つや、漢文かんぶん読み下すよみくだす時の文体ぶんたいにそぐわないと感じられたであったろう)は、漢字かんじと結び付く機会きかいが得られなかったため、表記ひょうきするための正訓字せいくんじを持たず、ひいては漢字かんじ表語面ひょうごめんを活用する(い)式の日本語にほんご表記ひょうきにおいては現れることができない。

以上のことから、変体漢文へんたいかんぶん言語げんごは「広義こうぎ漢文訓読語かんぶんくんどくご」(注10)をその基本的きほんてきよそおいとすることになる。これは本稿が題目だいもくとする、表記様式ひょうきようしき影響えいきょうによる変体漢文へんたいかんぶん言語的特徴げんごてきとくちょうとして筆頭ひっとうに掲げられるものと言えるだろう。またこのことは逆に言えば和文系語彙わぶんけいごい和文特有語わぶんとくゆうごや、口語こうご俗語ぞくごの類)への制限せいげんでもある。こうした語彙ごい万葉仮名まんようがなないし仮名かなにより、または所謂宛字あてじ(二ノ三節の例参照さんしょう)により表記ひょうきすることは可能であった(これらはいずれも漢字かんじ表音用法ひょうおんようほう混用こんようになる)が、飽くまで例外的れいがいてき補助的ほじょてきなものであった。オノマトペを典型てんけいとする、漢字かんじがいにくいは自動的に切り捨てられることになり、これも変体漢文へんたいかんぶん言語げんご特徴とくちょうに大きな影響えいきょうを与えている(注11)。

文法・表現

【〜に応じて〜が成立していったのであろう】
  • 意義:「〜に応じて」は「〜に従って・〜の程度に合わせて」の意の複合助詞。「〜のであろう」は推量の婉曲表現。歴史的事実の推定に使われる。
【延いては】
  • 意義:「延いて(ひいて)は」=「さらに進んで・ひいては」の書き言葉的接続語。ある事態が広い影響に及ぶことを示す。
  • 類義:さらには、ひいては。
【〜を典型とする】
  • 意義:「〜を典型とする(〜類)」=「〜を代表例とする(類)」の意。典型例を示しつつ、その範疇を示す。

中文翻譯

在實際的漢文訓讀中,漢字與和語之間多對多的關係並不罕見,但根據使用頻率和語義對應的強度,許多字/語之間建立了上述定訓關係。因此在活用漢字表語面的(い)式日語表記中,自然選擇那些可用漢字表記的語(即被限定於這些語)。

另一方面,那些在漢文訓讀的場合中未被使用的語彙(它們是與漢文所含漢字的意義不能很好對應的語——即具有日語獨自意義的語,或被認為與讀下漢文時的文體不相稱的語),因為沒有機會與漢字相結合,因此沒有用於表記的正訓字,進而在活用漢字表語面的(い)式日語表記中無法出現。

由此,變體漢文的語言以「廣義的漢文訓讀語」(注10)為其基本面貌。這可以說是本稿所論——受表記樣式影響的變體漢文語言特徵——中最首要的一項。反過來說,這也意味著對和文系語彙(和文特有語及口語、俗語之類)的限制。此類語彙雖可通過萬葉假名或假名、或所謂宛字(參見二ノ三節例子)加以表記(這些都是漢字表音用法的混用),但終究只是例外性、輔助性的。以擬聲擬態詞為典型的、難以用漢字表記的語,會被自動捨棄,這也對變體漢文語言的特徵產生了深遠影響(注11)。

【1】語用上の補足・【2】《辞》の表記pp. 10–11

以上、変体漢文へんたいかんぶんが(い)式の表記法ひょうきほうであることから必然的にその語彙ごいが「広義こうぎ漢文訓読語かんぶんくんどくごをその基本的きほんてきよそおいとする」ことを確認してきたのであるが、但し注意しておきたいのは、このことによって即座に、変体漢文へんたいかんぶん語彙ごい訓点資料くんてんしりょう語彙ごいと大凡で一致するとまで言えるわけではないということである。このことについて、以下の二点を指摘しておきたい。

一点目は、文体間共通語ぶんたいかんきょうつうご(注10参照さんしょう)の合成ごうせいによる和文特有語わぶんとくゆうご記録語きろくご存在そんざいである。例えば、動詞どうしヤム・名詞めいしコト・形容詞けいようしナシはいずれも和文わぶん漢文訓読文かんぶんくんどくぶん両方で用いられる文体間共通語ぶんたいかんきょうつうごであるが、それが複合ふくごうしたヤムゴトナシ(無止むし)は和文わぶんには用いられるが漢文訓読文かんぶんくんどくぶんには用いられない。しかし、構成要素こうせいようそはいずれも定訓じょうくんにより漢字表記かんじひょうきが可能であるため、変体漢文へんたいかんぶんでは用いられる(例、経暹阿闍梨きょうせんあじゃり者是無レ止真言師しんごんじ、(中右記ちゅうゆうき寛治七かんじしち(一〇九三)年十月三日))。

もう一点は、(い)式表記ひょうきに由来する語形上ごけいじょう制約せいやくは、語義ごぎ用法ようほう上の制約せいやくとは必ずしも結び付かないということである。用法上の例として、副詞ふくしカネテを挙げよう。和文語わぶんごカネテと訓読語くんどくごアラカジメはいわゆる二形対立たいりつの例としてよく知られているが、変体漢文へんたいかんぶんではアラカジメだけではなくカネテも用いられる(二ノ三節の例(2)参照)。これはカネテが動詞どうしカヌに由来する副詞ふくしであり、このカヌは漢文訓読かんぶんくんどくの場で「兼」字の定訓じょうくんとなっており漢字表記かんじひょうきが可能となっているため、それを援用えんようしてテ形のカネテもこの字で表記ひょうきしている。この副詞ふくし用法は漢文訓読文かんぶんくんどくぶんでは用いられないが、そのことは変体漢文へんたいかんぶんにおける使用しよう抑制よくせいには結び付いていないのである。

右の二点は、変体漢文へんたいかんぶん言語げんごの中で非漢文訓読語ひかんぶんくんどくご特徴とくちょうを成すものと認められる(注12)。

前項【1】にて変体漢文へんたいかんぶん言語げんご漢文訓読語かんぶんくんどくご関連かんれん付けたが、そこでも確認したように、両者は同一のものとまでは見なせない。…漢文かんぶん表記ひょうきによって特に強い制約せいやくを受け、且つ日本語にほんごとしては必須であるためこの読み添えよみそえかかわってくることが予想される要素ようそとして、所謂《辞》の部分がある。ここでは、助詞じょし助動詞じょどうし接辞せっじ活用語尾かつようごびの四つの観点かんてんから概観がいかんする(いずれも詳細については別稿べっこうを期す)。

文法・表現

【即座に〜とまで言えるわけではない】
  • 意義:「即座に」=「すぐに・直接に」。「〜とまで言えるわけではない」は過度な一般化を否定する論文的留保表現。
【援用して】
  • 意義:「援用(えんよう)する」=「他のものを応用・引用して利用する」。ある規則・用法を別の文脈に適用する際の書き言葉。
【別稿を期す】
  • 意義:「期す(きす)」=「〜することを計画する・予定する」。論文で詳細は別の論文で扱う、という予告表現の定型。
  • 類義:別稿に譲る、今後の課題とする。

中文翻譯

以上確認了由於變體漢文是(い)式表記法,其語彙必然「以廣義的漢文訓讀語為基本面貌」;但需要注意的是,並不能由此立刻說變體漢文的語彙與訓點資料的語彙大體一致。關於這一點,以下指出兩點。

第一點是通過文體間共通語(參見注10)合成產生的和文特有語・記錄語的存在。例如,動詞ヤム、名詞コト、形容詞ナシ都是在和文與漢文訓讀文中均使用的文體間共通語,但它們合成的ヤムゴトナシ(無止)雖用於和文,卻不用於漢文訓讀文。然而由於構成要素都可通過定訓進行漢字表記,因此在變體漢文中可以使用。

第二點是:源自(い)式表記的語形上制約未必與語義・用法上的制約相連。以副詞カネテ為例:和文語カネテと訓讀語アラカジメ是著名的二形對立例,但在變體漢文中不僅用アラカジメ,カネテ也被使用。這是因為カネテ源自動詞カヌ,而カヌ在漢文訓讀中成為「兼」字的定訓,可以用漢字表記,借此カネテ的テ形也用此字表記。カネテ的副詞用法在漢文訓讀文中不出現,但這並未導致其在變體漢文中被抑制。以上兩點可以認定為變體漢文語言中具有非漢文訓讀語特徵的部分(注12)。

在前項【1】中將變體漢文的語言與漢文訓讀語相關聯,但如前所確認,兩者並非完全同一。……受漢文式表記特別強烈制約、且作為日語必不可少、因而預計將涉及讀添問題的要素,是所謂《辭》的部分。此處從助詞、助動詞、接辭、活用語尾四個觀點進行概觀(各項詳細留待別稿)。

【2A】助詞pp. 12–13

変体漢文へんたいかんぶん言語げんごにおける助詞じょしは、漢字かんじにより表記ひょうき可能な不読字ふどくじにより誘引ゆういんされる構文こうぶんにより補読ほどく可能な、の三類に大別たいべつされる。なおこの三類いずれも語形ごけいとしては広義こうぎ漢文訓読語かんぶんくんどくごとなる(前述【1】で述べた通り、語義ごぎ・用法についてはこの限りではない)。

漢字かんじにより表記ひょうき可能なは、格助詞かくじょしにニ(于(注14)・於)・ニオイテ(於)・ト(与。並列へいれつ用法)・ヨリ(従・自)、連体助詞れんたいじょしにノ(之。一部ガもあるか)、接続助詞せつぞくじょしにテ(而)・バ(者)、係助詞かかりじょしにハ(者)、副助詞ふくじょしにバカリ(許)、終助詞しゅうじょし(または係助詞かかりじょし等の文末ぶんまつ用法)にカ(歟)・ヤ(乎・哉)・カナ(哉)・ノミ・マクノミ・ラクノミ(耳・而已)などがある。

不読字ふどくじにより誘引ゆういんされるとはどのようなものか。これは、田中たなか(二〇一七ロ)で次のように分類ぶんるいした不読字ふどくじの甲乙二類の内の乙類に相当そうとうするものである。

甲類 原則げんそくとして読みに関与かんよしないもの。但し文の断続には関与かんよし得る。通時的つうじてき不読字ふどくじのまま。 (例)矣・焉・兮
乙類 それ自体は読まれないが、特定とくていの読みを(補読ほどくとして)誘引ゆういんするもの。 (例)之・于・於・也・乎

乙類について例を示して説明すると、例えば「于」は元々「于今」のように、それ自体は読まれないもののニという読みを誘引ゆういんしていた。また「也」は古くは不読ふどくであったが、このがあると直前のにナリが読み添えよみそえられる強い傾向けいこうがあった。構文こうぶんにより補読ほどく可能なの例としては、格助詞かくじょしヲが筆頭ひっとうに挙げられる。この日本語文にほんごぶんに必須でありながら表記ひょうきのための字を持たないが、SVOの漢文式かんぶんしき語序ごじょに支えられて、多くの場合は文脈ぶんみゃくから補読ほどくすることができる(例、送レ消息しょうそく消息しょうそくヲ送ル)。

以上に対して、表記ひょうきのための文字もじもなく、不読字ふどくじによる誘引ゆういんも無く、構文こうぶん文脈ぶんみゃくからの推測すいそくも効きにくいものとして、添加てんか卓立たくりつ等の意味いみかかわわる係助詞かかりじょし副助詞ふくじょしがある。モ・コソ・スラ・サヘ・ノミなどがこれに当たる(注15)。よってこれらは変体漢文へんたいかんぶんにおいて現れ難い要素ようそとなる。

文法・表現

【三類に大別される】
  • 意義:受動態による分類の提示。「大別される」は「大きく分けると〜になる」の受身形。論文の分析・整理の定型。
【〜に当たる(注15)】
  • 意義:「〜に当たる」=「〜に相当する・〜の部類に属する」。列挙した例が前述の分類に対応することを示す。
【〜に支えられて】
  • 意義:「〜に支えられる」=「〜によって可能になる・〜に依拠する」。ある言語的現象の成立条件を示す表現。
  • 例:SVO漢文式語序に支えられて、補読できる。

中文翻譯

變體漢文語言中的助詞大致分為三類:可用漢字表記的語、由不讀字誘引的語、可由構文補讀的語。且這三類在語形上都屬於廣義的漢文訓讀語(如前【1】所述,語義・用法不受此限)。

可用漢字表記的助詞有:格助詞ニ(于・於)・ニオイテ(於)・ト(与,並列用法)・ヨリ(従・自),連體助詞ノ(之),接続助詞テ(而)・バ(者),係助詞ハ(者),副助詞バカリ(許),終助詞(或係助詞文末用法)カ(歟)・ヤ(乎・哉)・カナ(哉)・ノミ・マクノミ・ラクノミ(耳・而已)等。

所謂「由不讀字誘引的語」,是田中(二〇一七ロ)中所分類的不讀字甲乙二類中的乙類。甲類:原則上不參與讀音,但可參與文句的斷續,通時的地保持不讀字狀態(例:矣・焉・兮)。乙類:本身不被讀出,但誘引特定讀音(作為補讀)(例:之・于・於・也・乎)。以乙類為例:「于」原本如「于今」那樣,本身不讀但誘引ニ的讀音;「也」古時為不讀字,但其出現會強烈誘引前語讀添ナリ。

可由構文補讀的語以格助詞ヲ為首。ヲ對日語文必不可少,卻無表記用字,但依靠漢文式SVO語序,多數情況下可從文脈補讀(例:送レ消息=消息ヲ送ル)。

相對地,既無表記文字、又無不讀字誘引、且難以從構文或文脈推測的,是表示添加・卓立等意義的係助詞・副助詞,如モ・コソ・スラ・サヘ・ノミ等(注15)。因此這些是在變體漢文中難以出現的要素。

【2B】助動詞p. 13

助動詞じょどうし助詞じょしと同様に、漢字かんじにより表記ひょうき可能な不読字ふどくじにより誘引ゆういんされる構文こうぶん文脈ぶんみゃくにより補読ほどく可能な、の三類に大別たいべつされる。まず漢字かんじにより表記ひょうき可能なであるが、助詞じょしに較べて助動詞じょどうしはこの例が比較的ひかくてき多い。みとめ方にかかわわるズ(不)、ヴォイスや待遇たいぐうかかわわるル・ラル(被)・シム(令)、指定していかかわわるナリ(也)・タリ(為)、アスペクトにかかわわるムトス(欲)、モダリティにかかわわるベシ(可)・ゴトシ(如)などである。またいわゆる再読文字さいどくもじによって表現ひょうげんされる助動詞句じょどうしくで、変体漢文へんたいかんぶんでも用いられるものとして、イマダ〜ズ(未)、マサニ〜ムトス(将)、ヨロシク〜ベシ(宜)、スベカラク〜ベシ(須)、マサニ〜ベシ(応)等が挙げられる。

構文こうぶんにより補読ほどく可能なの例としては、指定していかかわわるナリ・タリがあり、文脈ぶんみゃくにより補読ほどく可能なの例としてはテンスにかかわわるキ、アスペクトにかかわわるリ・タリ等がある。変体漢文へんたいかんぶん訓点資料くんてんしりょうを見ると、過去かこ事態じたいであることが文脈ぶんみゃく上うかがわれる行為こういに必ずキが読み添えよみそえられるわけではない。リ・タリは変体漢文へんたいかんぶん訓点資料くんてんしりょう豊富ほうふに例があるが、これらについても同様であり、読み手よみて次第で加除されるものであって変体漢文へんたいかんぶん言語げんごとして内在するものではないとかんがえられる(二ノ二節参照さんしょう)。

以上に対して、表記ひょうきのための文字もじもなく、不読字ふどくじによる誘引ゆういんも無く、構文こうぶん文脈ぶんみゃくからの推測すいそくも効きにくいものとして、メリ・終止しゅうしナリ・ラム・ケムなどの推量すいりょうかかわわる助動詞じょどうしの多くや、希望きぼう助動詞じょどうしマホシ・タシ等がある。またテンスを文字上もじじょう明示化めいじかできないという制約せいやくから、変体漢文へんたいかんぶんにおいてテンスは文法的ぶんぽうてきにではなく語彙的ごいてき典型的てんけいてきには日時を表す名詞めいし副詞ふくし等との共起きょうき)に表示ひょうじされる、すなわ中国語的ちゅうごくごてき傾向けいこうを有することが推測すいそくされる。

文法・表現

【ヴォイスや待遇に関わる】
  • 意義:「ヴォイス(voice)」は言語学用語で「態(能動・受動等)」。「待遇(たいぐう)」は相手への敬意・配慮を表す文法的カテゴリー。
  • 専門的文法用語を並列する日本語学論文の典型的な記述スタイル。
【読み手次第で加除されるもの】
  • 意義:「読み手次第」=「読む人によって決まる」。「加除」=「加えたり省いたりすること」。訓讀の可変性・不確定性を示す表現。
【語彙的に表示される】
  • 意義:「語彙的(ごいてき)」=「語彙の選択によって」。「文法的(ぶんぽうてき)」と対比して、文法形式ではなく語彙で意味を表すことを示す。
  • 日本語学・言語学の基本概念。「時制を語彙的に表示する」=「昨日・明日などの時間詞で時制を示す」。

中文翻譯

助動詞與助詞相同,也大致分為三類:可用漢字表記的語、由不讀字誘引的語、可由構文或文脈補讀的語。可用漢字表記的助動詞比助詞更多,有:表示否定的ズ(不),表示態或待遇的ル・ラル(被)・シム(令),表示指定的ナリ(也)・タリ(為),表示體貌的ムトス(欲),表示情態的ベシ(可)・ゴトシ(如)等。另外,通過所謂再讀文字表現的助動詞句在變體漢文中也有使用,如:イマダ〜ズ(未)、マサニ〜ムトス(将)、ヨロシク〜ベシ(宜)、スベカラク〜ベシ(須)、マサニ〜ベシ(応)等。

可由構文補讀的有表示指定的ナリ・タリ,可由文脈補讀的有表示時制的キ、表示體貌的リ・タリ等。從變體漢文訓點資料來看,並非凡文脈上可見為過去事態的行為都必然讀添キ。リ・タリ在訓點資料中例子豐富,但同樣是依讀者而異、可加可減的,可認為並非作為語言內在於變體漢文中(參見二ノ二節)。

相對地,既無表記文字、又無不讀字誘引、且難以從構文文脈推測的,是表示推量的助動詞,如メリ・終止ナリ・ラム・ケム等多數,以及表示希望的マホシ・タシ等。此外,由於無法在文字上明示時制,在變體漢文中,時制的表示不是文法性的,而是語彙性的(典型的是與表示日時的名詞・副詞等共現),即具有中文式的傾向。

【2C】接辞・【2D】活用語尾pp. 14–15

【2C】接辞せっじ

変体漢文へんたいかんぶん接辞せっじは、広義こうぎ漢文訓読語かんぶんくんどくごぞくするものとそうでないものとに分けられる。前者ぜんしゃ接頭語せっとうごアヒ(相)、接尾語せつびごゴトニ(毎)・ラ(等)などであるが、かずは多くない(築島つきしま(一九六三)五五頁)。なお語義ごぎ用法ようほうは必ずしも漢文訓読語かんぶんくんどくご一致いっちしないことはこれまでの例と同様どうようである。

 一方いっぽう後者こうしゃの、漢文訓読語かんぶんくんどくごぞくさないものとは、接頭語せっとうごウチ(打)・接尾語せつびごトノ(殿)のように接辞せっじとしては漢文訓読かんぶんくんどく文では基本的きほんてきもちいられないが、語源ごげんおなじくするなどが漢文訓読かんぶんくんどく文でももちいられるために表記ひょうき可能なものである。他に敬意けいいを表す接頭語せっとうご「御」も訓読くんどく文では基本的きほんてきもちいられないが変体漢文へんたいかんぶんでは頻用ひんようされる。

【2D】活用語尾かつようごび

漢字かんじ表語面ひょうごめん活用かつようする方法ほうほうによって表記ひょうきできるのは一般的いっぱんてきかたちであり、個別的こべつてきかたち表記ひょうきできない。よって変体漢文へんたいかんぶんにおいては用言ようげん活用かつよう原則げんそくとして表記ひょうきされない。無論、助動詞じょどうし接続せつぞくや、体言たいげん修飾しゅうしょくにおける連体形れんたいけいなど、接続せつぞくにおける活用かつよう他文体たぶんたい同様どうようおこなわれていたはずで、それは変体漢文へんたいかんぶん訓点資料くんてんしりょう状況じょうきょうからも確認かくにんできるが、原理的げんりてきには、ぶんれるかつづくかを明示めいじできないことになる。連体形終止れんたいけいしゅうし表現ひょうげんし得ない。また音便おんびん表示ひょうじされない(注16)。係り結びかかりむすびは、先述の「誘引ゆういん」の現象げんしょう考慮こうりょすると、係りかかり語句ごく表示ひょうじされていれば呼応こおうとなる結びむすび活用かつよう補読ほどくされたはずであるが、係り結びかかりむすび関わるかかわる係助詞かかりじょし基本的きほんてき変体漢文へんたいかんぶんでは表現ひょうげんされないので、これものぞみ難い。

文法・表現

【〜に属するものとそうでないものとに分けられる】
  • 意義:二項対立の分類を示す論文定型。「〜と~とに分けられる」は受身形により客観的分類を表す。
【〜ために表記可能なものである】
  • 意義:「〜ために」は原因・理由。「表記可能なもの」は「表記できるもの」の書き言葉的表現。論拠から結論を導く典型的な論文文体。
【原理的には〜ことになる】
  • 意義:「原理的には」=「理論上は・原則として考えれば」。「〜ことになる」は論理的帰結を示す。実態でなく理論的帰結を述べる際に使われる。
【〜し得ない】
  • 意義:「〜し得(え)ない」=「〜することができない」の文語的・書き言葉的表現。「表現しえない」「実現しがたい」と同種。

中文翻譯

【2C】接辭

變體漢文的接辭可分為屬於廣義漢文訓讀語的與不屬於的兩類。前者有接頭語アヒ(相)、接尾語ゴトニ(毎)・ラ(等)等,但數量不多(築島(一九六三)五五頁)。另外,語義・用法不一定與漢文訓讀語一致,這一點與前述例子相同。

 另一方面,後者,即不屬於漢文訓讀語的,是像接頭語ウチ(打)・接尾語トノ(殿)這樣,作為接辭在漢文訓讀文中基本上不使用,但由於與其同源的語在漢文訓讀文中也有使用,因此可以表記的詞。此外,表示敬意的接頭語「御」在訓讀文中也基本不用,但在變體漢文中被頻繁使用。

【2D】活用語尾

通過活用漢字表語面的方法可以表記的是語的一般形式,語的個別形式無法表記。因此在變體漢文中,用言的活用原則上不被表記。當然,助動詞的接續、體言修飾中的連體形等,語與語接續時的活用應與其他文體相同地進行,這也可從變體漢文訓點資料的情況中確認,但在理論上,文的斷續便無法明示。連體形終止也無法表現。音便也不被表示(注16)。關於係り結び,若考慮到前述的「誘引」現象,若係り語句被表示,則作為呼應的結び活用應也被補讀;但由於係り結び相關的係助詞在變體漢文中基本上不被表現,這也難以實現。

【2E】制約への対応(前半)pp. 15–16

【2E】制約せいやくへの対応たいおう

 以上で見てきたように、変体漢文へんたいかんぶんにおいては幾つかいくつか手段しゅだん活用かつようして《辞》の顕在的けんざいてき潜在的せんざいてき表現ひょうげんおこなわれているのであるが、漢文かんぶん式の表記法ひょうきほうによる制約せいやくは大きく、表現ひょうげんできないものも少なくない。しかしその一方いっぽうで、変体漢文へんたいかんぶんにおいては、あたかもそうした制約せいやくによる欠如けつじょおぎなおうとするかのように、種々しゅじゅ対応たいおう認められるみとめられるのである。

 その典型てんけいとしては独自どくじ語句ごく活用かつようがある。既にべた中では助動詞じょどうし相当そうとうのヲハンヌ(了・畢・訖)がこれに当たる。また助動詞じょどうしではムが表記ひょうきできないが、その内の意志用法いしようほうについてはムトス・ムトオモフ(欲)がこれをおぎなっている。その他に、接続助詞せつぞくじょしではそのバラエティの不足ふそくおぎなうように連語れんごのヨッテ(依)やイヘドモ(雖)が活用かつようされている(例、相府しょうふ答云「此事所存、然而依レ不レ可レ闕、雖レ極無レ便所レ検討也」者、(小右記しょうゆうき長和四ちょうわし(一〇一五)年六月十三日))。また変体漢文へんたいかんぶんでは敬意表現けいいひょうげんとしてシメタマフ(令〜給)という和文わぶんにも漢文訓読文かんぶんくんどくぶんにもられない表現ひょうげんもちいられるが(築島つきしま(一九七〇))、これは和文わぶんにおけるセタマフ・サセタマフのス・サスが変体漢文へんたいかんぶんでは表記ひょうきできないため、この相当そうとうするシム(令)で代替だいたいすることによって生まれたうまれた表現ひょうげんとらえられる(田中たなか(二〇一八))。

 格助詞かくじょしでは、表記ひょうきされないが文構造ぶんこうぞうにより復元ふくげん可能なとしてヲ・ニをげたが、ぎゃくに言えば「おく消息しょうそく」が「消息しょうそくおくル」となり「おく清水しみずニ」が「清水しみずおくル」のような不安定ふあんていさがあり、また「消息しょうそく清水しみずおくル」のように両方りょうほうかく構文こうぶんをどのように表記ひょうきするかという問題もんだいがある。これにたいしては、ニに「於」をてて「おく消息しょうそく於二清水しみず一」(小右記しょうゆうき長元元ちょうげんがん(一〇二八)年九月廿一日)とするような方法ほうほうもあるが、〜ヲモッテ(以)によってヲかく顕在化けんざいかして「以レ消息しょうそくおく奈良なら」(殿暦でんりゃく天永三てんえいさん(一一一二)年二月九日)のようにすることもおこなわれている。この他にも後述こうじゅつのように変体漢文へんたいかんぶんで「以」がたしている役割やくわりには色々いろいろなものがあるようである。

文法・表現

【宛もそうした制約による欠如を補おうとするかのように】
  • 意義:「宛も(あたかも)〜かのように」=「まるで〜であるかのように」。類比・比喩的な言い方で、意図的な補完ではなく、結果的にそう見える、という表現。
  • 学術文で客観的に「まるで〜のような現象」を描写する際に用いる。
【これに対しては〜するような方法もあるが】
  • 意義:「これに対しては」は問題への対応策を導く。「〜するような方法もあるが」は一方の策を提示しつつ、逆接で別の方法に繋げる構造。
【〜のようにすることも行われている】
  • 意義:「行われている」は受身の習慣的・反復的用法。「〜という方法が実際に採用されていた」という事実を客観的に述べる表現。

中文翻譯

【2E】對制約的應對

 如上所見,變體漢文中通過幾種手段對《辭》進行了顯在的・潛在的表現,但漢文式表記法帶來的制約很大,無法表現的部分也不少。然而另一方面,在變體漢文中,宛如要彌補那些因制約而造成的缺失,出現了種種應對方法。

 其典型是獨自語句的活用。在前文中已述及的有相當於助動詞的ヲハンヌ(了・畢・訖)。此外,助動詞ム無法表記,但其中的意志用法由ムトス・ムトオモフ(欲)加以補充。接續助詞方面,連語ヨッテ(依)和イヘドモ(雖)被活用,以補充接續助詞種類的不足(例:相府答云「此事所存、然而依レ不レ可レ闕、雖レ極無レ便所レ検討也」者,(小右記・長和四(一〇一五)年六月十三日))。另外,變體漢文中使用シメタマフ(令〜給)這一在和文和漢文訓讀文中均未見的敬意表現(築島(一九七〇)),這被認為是因為和文中セタマフ・サセタマフ的ス・サス在變體漢文中無法表記,以與此相當的シム(令)替代而產生的表現(田中(二〇一八))。

 格助詞方面,雖舉出了ヲ・ニ作為不表記但可由文構造復元的語,但反過來說,「送レ消息」讀為「消息ヲ送ル」、「送レ清水ニ」讀為「清水ニ送ル」,存在不穩定性,而且同時帶兩個格的「消息ヲ清水ニ送ル」這樣的構文如何表記也成問題。對此,有將ニ用「於」表記為「送レ消息於二清水一」(小右記・長元元(一〇二八)年九月廿一日)的方法,也有通過〜ヲモッテ(以)使ヲ格顯在化,如「以レ消息レ送レ奈良」(殿暦・天永三(一一一二)年二月九日)的做法。此外,如後文所述,「以」在變體漢文中發揮的作用似乎還有各種各樣的面向。

【2E】制約への対応(後半)p. 16

 また、発話はつわ等の引用いんようを示す助詞じょしトは変体漢文へんたいかんぶんでは表記ひょうきされず、結果的けっかてきにこのによって引用いんようわりをしめすことができなくなっているが(引用いんよう開始かいしは「曰」などによりしめせる)、そのわりに「者(テヘリ・テハレバ)」や「云々」を活用かつようすることでこのけつおぎなっている。

 また接続助詞せつぞくじょしにおいては、副詞ふくし共起きょうきさせることによる意味いみ特定とくていおこなわれている。例えばバ(者)は未然形みぜんけい接続せつぞくすると仮定条件かていじょうけんを、已然形いぜんけい接続せつぞくすると確定条件かくていじょうけんを表すが、【2D】で見たようにこの区別くべつ変体漢文へんたいかんぶんでは表示ひょうじされない。そこで変体漢文へんたいかんぶんでは、副詞ふくしモシを付加ふかして「若いた懈怠けたい者」(源頼朝みなもとのよりとも言上状ごんじょうじょう文治元ぶんじがん(一一八五)年十二月六日・鎌倉遺文かまくらいぶん26)のようにすることで、仮定用法かていようほうであることを明示めいじしている。同様どうように、「雖」は逆接確定ぎゃくせつかくていにも逆接仮定ぎゃくせつかていにももちいられるものであったが(但し、用法ようほうおうじてイヘドモとイフトモとを訓み分けていたよみわけていたか、イヘドモ一訓いっくん両方りょうほう意味いみを表していたかは不分明ふぶんめい)、変体漢文へんたいかんぶんではタトヒ(縦・設など)を付加ふかすることで、逆接仮定ぎゃくせつかていであることを明示めいじしている(例、縦よりレ他方雖レ申レ栄爵えいしゃく、一切不レ可レ裁許さいきょ、(小右記しょうゆうき治安三じあんさん(一〇二三)年十二月五日))。これらを逆に言えば、仮定条件かていじょうけんのバがモシと共起きょうきしやすいことや、逆接仮定ぎゃくせつかていのイヘドモ(イフトモ)がタトヒと共起きょうきしやすいことが、変体漢文へんたいかんぶん言語げんご特徴とくちょうとなるわけである。

 またダニ・スラ・サヘのような範列的はんれつてき関係かんけいすなわ同類どうるいの他との関係かんけいを表すような助詞じょし表現ひょうげん変体漢文へんたいかんぶんではかなわないとべたが、吾妻鏡あずまかがみにおいては、こうした助詞じょしが使えない分、その代用だいようとなるような副詞ふくしもちいる工夫くふうられるという指摘してきがある(青木あおき(一九七六))。このことは他の変体漢文資料へんたいかんぶんしりょうにおいても程度差ていどさこそあれみとめられるものとおもわれる。またこれは確認かくにんが難しいであろうが、文脈ぶんみゃくによって推読すいどく可能なヲかくを、モッテ(以)によってえて顕在化けんざいかさせることには、とりたて詞とりたてし的な卓立たくりつ意図いと読み取るよみとる余地よちがあるようにおもわれる。

 活用語尾かつようごびけないことは、文章ぶんしょう読解どっかい上必ずしも大きな障壁しょうへきとはならないが、比較的ひかくてき問題もんだいとなるのはぶんつづきを明示めいじできないこと、れの一種である命令形めいれいけい明示めいじできないことである。前者ぜんしゃについては、頻用ひんようされているわけではないが特定とくてい不読字ふどくじ(矣・焉)によって文終止ぶんしゅうしを示す方法ほうほうがある。また「也」は助動詞じょどうしナリの中でもとく終止形しゅうしけいのみを示すのが普通ふつうであるので、これも文終止ぶんしゅうしを示すのに効果的こうかてきである。また命令形めいれいけいについては、文脈ぶんみゃくによっては補読ほどくできたようだが(例、承聞うけたまわりきくついで令(セヨト)奏達そうたつ(シ)給、(享禄本雲州往来きょうろくぼんうんしゅうおうらい・三九通))、かなり限定的げんていてきであったとおもわれる。類義るいぎを表すベシ(可、また再読文字さいどくもじの宜・須なども)の活用かつようがこれをおぎなっているものとかんがえられる。

 右に見てきたことは、「仮名かなが使えない」という困難こんなん変体漢文へんたいかんぶんにおいてかえって独自どくじ語彙ごい文体ぶんたい生み出すうみだす要因よういんとなっているものとることができ興味深いきょうみぶかい

文法・表現

【その代わりに〜ことでこの欠を補っている】
  • 意義:「この欠(けつ)を補う」=「この欠如・不足を補う」。漢字語「欠」は書き言葉的。「その代わりに」は代替手段を導く。
【〜こそあれ認められるものと思われる】
  • 意義:「〜こそあれ」=「〜の違いはあるが」。程度差を認めつつも全体的な傾向を肯定する表現。「〜と思われる」は推測の婉曲。
【〜余地があるように思われる】
  • 意義:「余地(よち)がある」=「可能性・空間がある」。「〜ように思われる」と組み合わせ、断定を避けた慎重な解釈提示。
【却って〜要因となっているものと見ることができ興味深い】
  • 意義:「却って(かえって)」=「逆に・むしろ」。逆説的な事実を指摘し、「興味深い」で締める。学術文での発見の提示に使われる定型。

中文翻譯

 另外,表示發話等引用的助詞ト在變體漢文中不被表記,結果無法通過這個詞來表示引用的結尾(引用的開始可以通過「曰」等來表示),但取而代之,通過活用「者(テヘリ・テハレバ)」和「云々」來彌補這一缺失。

 另外,接續助詞方面,也通過與副詞共現來特定語義。例如,バ(者)接續未然形表示假定條件,接續已然形表示確定條件,但如【2D】所見,這一區別在變體漢文中無法表示。因此在變體漢文中,通過添加副詞モシ,如「若致レ懈怠者」(源頼朝言上状・文治元(一一八五)年十二月六日・鎌倉遺文26),來明示是假定用法。同樣地,「雖」既可用於逆接確定也可用於逆接假定(但根據用法是訓讀區分為イヘドモ和イフトモ,還是一訓イヘドモ表示兩種意思,尚不分明),變體漢文中通過添加タトヒ(縦・設等)來明示是逆接假定(例:縦自レ他方雖レ申レ栄爵、一切不レ可レ裁許,(小右記・治安三(一〇二三)年十二月五日))。反過來說,假定條件的バ易與モシ共現,逆接假定的イヘドモ(イフトモ)易與タトヒ共現,正是變體漢文語言的特徵。

 關於ダニ・スラ・サヘ這樣表示範列關係——即與同類其他語之關係——的助詞在變體漢文中難以表現,已前述;但有指摘指出,在《吾妻鏡》中,因無法使用這些助詞,可以看到活用替代性副詞的巧思(青木(一九七六))。這在其他變體漢文資料中,程度不一,應也可以認可。另外,雖確認困難,但對於從文脈可推讀的ヲ格用モッテ(以)特意使其顯在化,似乎有讀出取立詞式卓立意圖的餘地。

 活用語尾無法書寫這一點,未必構成文章理解上的重大障壁,但相對成問題的是無法明示文的斷續,以及作為斷句一種的命令形無法明示。關於前者,雖非頻用,但有通過特定的不讀字(矣・焉)來表示文終止的方法。「也」在助動詞ナリ中通常只表示終止形,因此也有效地用於表示文終止。關於命令形,從文脈來看有時可以補讀(例:承聞之次令(セヨト)奏達(シ)給,(享禄本雲州往来・三九通)),但應相當有限。表示類義的ベシ(可,另有再讀文字的宜・須等)的活用被認為補充了這一不足。

 以上所見,「無法使用假名」這一困難,在變體漢文中反而成為孕育獨自語彙・文體的要因,耐人尋味。

【3】語の漢字化pp. 17–18

【3】漢字化かんじか

【2A】でべたように、漢字かんじ表音機能ひょうおんきのうではなく表語機能ひょうごきのう基盤きばんとする変体漢文へんたいかんぶんにおいては、漢字かんじによって表語ひょうごできない和文系語彙わぶんけいごい利用りようできない。反対はんたいに、漢字かんじ表語機能ひょうごきのうによって最も表記ひょうきしやすいのは字音語じおんごであり、変体漢文へんたいかんぶんでもこれが存分ぞんぶん活用かつようされた。にとって、和文系語彙わぶんけいごい不足ふそくおぎなうのに大きな役割やくわりたしたであろう。極端きょくたんに言えば、読み方よみかたらなくても字面じめんさえっていれば語彙ごいとして取り込めたとりこめたわけである。読みよみを持たないである不読字ふどくじ変体漢文へんたいかんぶん使用しようされることも、これとを一にする事象じしょうとらえられる。

 また、漢字化かんじか和製漢語わせいかんご醸成じょうせいにも直接ちょくせつ影響えいきょうしている。和製漢語わせいかんごは、広義こうぎには中国ちゅうごくになく日本にほんつくられた字音語じおんごを指し、狭義きょうぎには和語わご漢字表記かんじひょうきしてその漢字かんじ字音読みじおんよみすることにより新たあらた生じたしょうじたを指す。前者ぜんしゃは必ずしも文字化もじか関わらかかわらないが、後者こうしゃ和語わご漢字表記かんじひょうきということが直接ちょくせつ関わるかかわるため、変体漢文へんたいかんぶんは(広義こうぎのみならず)狭義きょうぎ和製漢語わせいかんご生まれるうまれる重要じゅうよう土壌どじょうであった。火事かじ(ヒノコト→クワジ)、返事へんじ(カヘリゴト→ヘンジ)、兼日けんじつ(カネテノヒ→ケムジツ)、寄進きしん(ヨセマヰラス→キシン)、腹立ふくりつ(ハラダチ→フクリフ)などの例がられている。

 漢字化かんじか和製漢語わせいかんご生み出すうみだすのは、その字面じめん音読みおんよみ訓読みくんよみかを明示めいじしないためであるが、このことはまた、和語わご漢語かんごとを合成ごうせいすることへの抵抗感ていこうかん減じげんじ混種語こんしゅご生み出すうみだす要因よういんにもなっていたことが考えられようかんがえられよう松下まつした(一九五一)本論二参照ほんろんにさんしょう)。

 漢字化かんじか関わるかかわる事象じしょうとしてもう一点いってん品詞性ひんしせい拡張かくちょうということを挙げるあげる文字もじ表語面ひょうごめん活用かつようする表記方法ひょうきほうほうの下では、一語いちご内部ないぶ変異へんい表記ひょうき反映はんえいされない。日本語にほんごにおいては、このことは典型的てんけいてきには体言たいげんかく用言ようげん活用かつようとの(非)表示ひょうじというかたち現れるあらわれる松下まつした(一九五一)本論ほんろん一に言う「零表記ぜろひょうき」にほぼ相当そうとう)。この結果けっか本来ほんらい日本語にほんごでは比較的ひかくてき明瞭めいりょう体言たいげん用言ようげん相違そうい変体漢文へんたいかんぶんでは視覚上しかくじょうにくくなり、例えば「参内之間さんだいのあいだ」や「消息到来しょうそくとうらい」がそれぞれ「参内さんだいセルあいだ」「消息しょうそく到来とうらいス」のようにも「参内さんだいあいだ」「消息しょうそく到来とうらいノ」のようにも読まれるよまれるようになる。後者こうしゃ場合ばあい体言たいげん用言ようげん的にもちいられているとも、用言ようげん体言たいげん的なかたちっているとも解釈かいしゃくされる状態じょうたいになっている。そうしたものが具体的ぐたいてきにどれほどあったかはわからないが(助動詞じょどうしキなどの読み添えよみそえ同様どうように、読み手よみて次第しだいというめんがあったと考えられるかんがえられる)、享禄本きょうろくぼん雲州往来うんしゅうおうらいに「連日参内之間れんじつさんだいのあいだ」「自愛之処じあいのところ」(それぞれ二通、十七通)のような例があり、事象じしょうとしてそんしたこと自体じたいたしかである(高山寺本こうさんじぼん古往来こおうらいでの状況じょうきょうについて、小林こばやし(一九七二)第七節だいしちせつ参照さんしょう)。こうしたものが一般化いっぱんかする中で、現代げんだいの「八月上旬頃はちがつじょうじゅんごろもっと見頃みごろ」「正面入口しょうめんいりぐちにて受付うけつけ」のような、「非陳述的書記ひちんじゅつてきしょき」(矢田やだ(二〇一二)第一編第三章だいいちへんだいさんしょう)と呼ばれるよばれる言語表現げんごひょうげん生じたしょうじたものと考えられるかんがえられる

文法・表現

【これと揆を一にする事象と捉えられる】
  • 意義:「揆(き)を一にする」=「同じ原理・方針による」の書き言葉的慣用句。「捉えられる」は受身的な推測表現。
  • 現代語なら「同じ性質のことと考えられる」。
【〜のみならず〜】
  • 意義:「のみならず」=「だけでなく」の書き言葉的接続。広義・狭義の両方に言及する際の表現。
【〜ことが考えられよう】
  • 意義:「〜よう」は意志・推量の助動詞。「考えられよう」=「考えられるだろう」の書き言葉的形。読者への同意誘導を含む婉曲推量。
【〜と呼ばれる言語表現が生じたものと考えられる】
  • 意義:「〜と呼ばれる」は先行研究の用語を引用する形式。「〜ものと考えられる」は長い論証の末に到達した推論を示す定型。

中文翻譯

【3】語的漢字化

如【2A】所述,以漢字表語機能而非表音機能為基盤的變體漢文,無法利用漢字無法表語的和文系語彙。反之,最容易通過漢字表語機能表記的是字音語,變體漢文中也充分加以活用。對於書寫者而言,這應當在彌補和文系語彙不足方面發揮了重要作用。極端地說,即使不知道讀法,只要知道字面便可作為語彙吸收。不讀字(無訓讀的字)被使用於變體漢文,也可被認為是與此同一原理的事象。

 另外,語的漢字化也直接影響了和製漢語的醸成。和製漢語,廣義上指中國沒有而在日本創造的字音語;狹義上指通過將和語用漢字表記,再以字音讀那些漢字,由此新產生的語。前者未必與文字化相關,但後者直接關係到和語的漢字表記,因此變體漢文是(不僅廣義,也是)狹義和製漢語誕生的重要土壤。已知的例子有:火事(ヒノコト→クワジ)、返事(カヘリゴト→ヘンジ)、兼日(カネテノヒ→ケムジツ)、寄進(ヨセマヰラス→キシン)、腹立(ハラダチ→フクリフ)等。

 語的漢字化產生和製漢語,是因為其字面不明示是音讀還是訓讀;而這同時也可認為減低了將和語與漢語合成的抵抗感,成為產生混種語的要因(松下(一九五一)本論二參照)。

 作為語的漢字化相關事象,再舉一點——品詞性的擴張。在活用文字表語面的表記方法下,一語內部的變異不被反映於表記。在日語中,這典型地以體言的格和用言的活用的(非)表示形式出現(近乎松下(一九五一)本論一所說的「零表記」)。其結果,原本日語中體言與用言相對分明的差異在變體漢文中視覺上難以辨別,例如「参内之間」和「消息到来」分別可讀為「参内セル間」「消息到来ス」,也可讀為「参内ノ間」「消息到来ノ」。後者的情況下,已成為體言被用言的方式使用,或用言採取體言形式,兩種解釋均可的狀態。其中具體有多少難以確定(如助動詞キ的讀添,也有取決於讀者的一面),但《享禄本雲州往来》中有「連日参内之間」「自愛之処」(分別見第二通、第十七通)等例子,這一事象確實存在(關於高山寺本古往来的狀況,參見小林(一九七二)第七節)。隨著此類現象的一般化,可認為現代「八月上旬頃が最も見頃」「正面入口にて受付」這樣被稱為「非陳述的書記」(矢田(二〇一二)第一編第三章)的語言表現由此產生。

【4A】翻訳文法pp. 18–19

【4】日本語にほんご中国語ちゅうごくご文構成ぶんこうせい相違そうい

【4A】翻訳文法ほんやくぶんぽう

 変体漢文へんたいかんぶん言語げんご日本語にほんごであって中国語ちゅうごくごではないが、中国語ちゅうごくご日本語にほんごとして訓み下すよみくだす漢文訓読かんぶんくんどくという機構きこうをその土台どだいとしているため、漢文訓読語かんぶんくんどくごにおける、漢文法かんぶんぽう由来ゆらいする文法ぶんぽう大坪おおつぼ(一九八一)はこれを「翻訳文法ほんやくぶんぽう」と呼ぶよぶ)を変体漢文へんたいかんぶんでもそのまま(または若干じゃっかんかたちを変えて)活用かつようする場合ばあいがある。例えば、中国語文ちゅうごくごぶんでは受け身文うけみぶん動作主どうさしゅを「為X」で示すことがあり、漢文訓読文かんぶんくんどくぶんではこれを読み下しよみくだして「XのためにVせらる」(=XニヨッテVサレル)という文型ぶんけい生じるしょうじるが、変体漢文へんたいかんぶんでもこれをりて「為X被V」という文型ぶんけいることがある。

一昨いっさく華山院女王かざんのいんにょおう為レ盗人ぬすびと被レ殺害さつがい路頭死ろとうし夜中やちゅう為レ犬被レしょく、(小右記しょうゆうき万寿元まんじゅがん(一〇二四)年十二月八日)

賀茂別雷社かものわけいかずちしゃ神主かんぬし成真じょうしん、於二貴布祢社きふねしゃ御前おまえ一、為レ敵人てきじん被レ射損しゃそん者、(官文殿続文かんもんでんぞくもん寛元二かんげんに(一二四三)年十月十日・鎌倉遺文かまくらいぶん6384)

 また変体漢文へんたいかんぶんではノミ(耳・而已)やイカン(如何)によってぶん終止しゅうしするれいられるが、これらも「翻訳文法ほんやくぶんぽう」の借用しゃくようと言え、直接ちょくせつには日中にっちゅう両語りょうご文構成ぶんこうせい相違そうい起因きいんするものである。

其趣そのおもむき一、云「あり旱魃事かんばつのこと一而已」者(小右記しょうゆうき寛仁三かんにんさん(一〇一九)年五月廿日)

卯剋許うのこくばかりおく消息しょうそく頭中将許とうのちゅうじょうのもと云「明日除目あすのじもく可レ被レ延引歟えんいんか故如何ゆえいかん」者、(殿暦でんりゃく長治元ちょうじがん(一一〇四)年十一月十一日)

 ところで、小林芳規こばやしよしのり漢文訓読文かんぶんくんどくぶんについて「すで所与しょよ漢文かんぶん所定しょてい日本語にほんご理解りかいするところから語詞ごし語法ごほう漢文かんぶん言い廻しいいまわしがあり和歌わか口頭語こうとうごとはことなる説明的せつめいてき文章語ぶんしょうご性格せいかくを持つ」と指摘してきされている(築島つきしま小林こばやし(一九八〇)二五二頁)。変体漢文へんたいかんぶんは「所与しょよ」のものではなく新たあらた作り出されるつくりだされる文章ぶんしょうではあるが、漢文訓読文かんぶんくんどくぶん同じくおなじく説明的せつめいてき文章語ぶんしょうご性格せいかく」を有するゆうするものと考えられるかんがえられる。そしてそれは漢文式かんぶんしき書くかく、つまり中国語式ちゅうごくごしき連ねるつらねるという表記上ひょうきじょう方法ほうほうから自ずと導かれるおのずとみちびかれる文体ぶんたいなのであろうと考えられるかんがえられる。それらを具体的ぐたいてき要素ようそによって論じるろんじる用意よういいま稿者こうしゃには無いが、例えば和文わぶんでは省略しょうりゃくやす要素ようそ変体漢文へんたいかんぶんでは省略しょうりゃくしにくい(注17)とか、或いは和文わぶんでは一文いちぶんで言えることが変体漢文へんたいかんぶんではぶん一旦いったん区切らくぎらないと書き表しかきあらわしにくい(注18)といったことが、その要因よういんとして挙げられるあげられるのではないかと思われるおもわれる。これらも大きな意味いみでの翻訳文法ほんやくぶんぽう由来ゆらいする特徴とくちょう呼ぶよぶことができるだろう。

文法・表現

【〜という機構をその土台としているため】
  • 意義:「機構(きこう)」=「仕組み・メカニズム」の書き言葉。「〜を土台とする」は「〜を基盤にする」の比喩的表現。「〜ため」は理由節。
【〜と指摘されている】
  • 意義:受身形で先行研究の見解を引用する定型。「〜と述べている」より客観性を強調。引用者が同意している含意。
【自ずと導かれる文体なのであろうと考えられる】
  • 意義:「自ずと(おのずと)」=「自然に・おのおのに」。「〜のであろう」(推量)+「〜と考えられる」(客観的推測)の二重婉曲。最も慎重な推論提示の形式。

中文翻譯

【4】日語與中文文章構成的相異

【4A】翻譯文法

 變體漢文的語言是日語而非中文,但由於以將中文訓讀為日語的漢文訓讀這一機制為其土台,在漢文訓讀語中存在源自漢文文法的文法(大坪(一九八一)稱之為「翻譯文法」),變體漢文有時也原樣(或稍作變形)加以活用。例如,中文中被動文的動作主以「為X」表示,漢文訓讀文將其讀下為「XのためにVせらる」(=XニヨッテVサレル)這一文型;變體漢文中也借用這一文型,採用「為X被V」的文型。

〇一昨、華山院女王為レ盗人被レ殺害、路頭死、夜中為レ犬被レ食、(小右記・万寿元(一〇二四)年十二月八日)

〇賀茂別雷社神主成真、於二貴布祢社御前一、為レ敵人被レ射損者、(官文殿続文・寛元二(一二四三)年十月十日・鎌倉遺文6384)

 另外,變體漢文中有以ノミ(耳・而已)或イカン(如何)終止文的例子,這些也可說是「翻譯文法」的借用,直接源於日中兩語文章構成的相異。

〇問二其趣一、云「有二旱魃事一而已」者(小右記・寛仁三(一〇一九)年五月廿日)

〇卯剋許送レ消息於頭中将許云「明日除目可レ被レ延引歟、故如何」者、(殿暦・長治元(一一〇四)年十一月十一日)

 話說,小林芳規氏就漢文訓讀文指出「由於是從既有的漢文以規定的日語理解,詞語・語法上帶有漢文的說法,具有不同於和歌及口頭語的說明性文章語的性格」(築島・小林(一九八〇)二五二頁)。變體漢文雖是新創作的文章而非「既有」之物,但可認為與漢文訓讀文同樣具有「說明性文章語的性格」。而這應是從以漢文式——即以中文式——排列語詞這一表記上的方法中自然導出的文體。目前筆者尚無用具體要素加以論述的準備,但例如和文中容易省略的要素在變體漢文中不易省略(注17),或者和文中一句話能說清楚的,在變體漢文中不先斷開文便難以書寫(注18),這些應可作為其要因列舉。這些也可稱為廣義翻譯文法所由來的特徵。

【4B】修辞p. 19

【4B】修辞しゅうじ

 修辞しゅうじ上の問題もんだいも、日中にっちゅう両語りょうご文構成ぶんこうせい相違そうい基づくもとづくものとしてとらえ得るだろう。先述の【2D】にて、変体漢文へんたいかんぶん係り結びかかりむすび表現ひょうげんできないことをべたが、係り結びかかりむすび漢文訓読文かんぶんくんどくぶんにおいてもその使用しようきわめて限定的げんていてきであることがられている(係助詞かかりじょし自体の使用しよう制約せいやくが大きい。築島つきしま(一九六〇)参照さんしょう)。これについて「漢文訓読文かんぶんくんどくぶんが、情意的じょういてきなものの介入かいにゅうはいして、事柄ことがら事柄ことがらとして伝達でんたつすることをもっぱらとするものであることを、よく示している」との解釈かいしゃくがある(阪倉さかくら(一九九三)二七〇頁)。漢文訓読文かんぶんくんどくぶんにおいては訓点くんてんさえせば係り結びかかりむすび表現ひょうげんできたはずであり、それをしていないのは漢文訓読文かんぶんくんどくぶん文章ぶんしょう上の性格せいかく基づくもとづくのであると見るのである。

 他方たほう変体漢文へんたいかんぶんにおいてはそもそも係り結びかかりむすび表現ひょうげんする手段しゅだんがない。この制約せいやくは、変体漢文へんたいかんぶん基本的きほんてきには日常的にちじょうてきものもちいられるものであり、仏典ぶってん漢籍かんせき訓読文くんどくぶんよりも一層いっそう事柄ことがら事柄ことがらとして伝達でんたつすることをもっぱらとするもの」である以上は、とく支障ししょうとはならなかったと考えられるかんがえられるが、しかし実際じっさいには変体漢文へんたいかんぶん文章ぶんしょうにおいて「情意的じょういてきなものの介入かいにゅう」がおこなわれることは、ないではなかった。例えば日記にっきにおいて、その日の出来事できごとたいして記主きしゅ自らみずから感想かんそう記すしるす場合ばあい上申文書じょうしんもんじょにおいて、自らみずから窮状きゅうじょう要望ようぼう効果的こうかてき説得的せっとくてき述べようのべようとする場合ばあい吾妻鏡あずまかがみなどの典籍てんせきにおいて、ドラマチックな場面ばめん描こうえがこうとする場合ばあい、などがこれにたる。こうした場合ばあいには変体漢文へんたいかんぶんは、係り結びかかりむすび種々しゅじゅ推量助動詞すいりょうじょどうしによるような和文的わぶんてき情意じょうい表現ひょうげんはできなかったわりに、対句ついく中核ちゅうかくとする漢文的かんぶんてき情意じょうい表現ひょうげん可能かのうであった。同様どうように、掛詞かけことば引歌ひきうた困難こんなんわりに、彼土かのち故事こじ引用いんよう容易たやすであった(注19)。これらはうまでもなく、その表記様式ひょうきようしきゆえに変体漢文へんたいかんぶん言語げんご有しているゆうしている特徴とくちょうである。

文法・表現

【〜として捉え得るだろう】
  • 意義:「捉え得る(とらえうる)」=「捉えることができる」の書き言葉的形。「〜だろう」の推量と合わせて、解釈の提示を慎重に行う表現。
【ないではなかった】
  • 意義:「ないではない」=「なくはない・たまにはある」という二重否定。全否定を避けた婉曲的肯定。「あった」より弱く、完全にゼロとは言えないことを示す。
  • 類義:なきにしもあらず、稀ではなかった。
【〜の代わりに、〜が可能であった】
  • 意義:「〜の代わりに」は代替関係を示す。できないものの代わりにできるものがある、という変体漢文の「補完」構造を論じる際の定型。
【言うまでもなく】
  • 意義:「言うまでもなく」=「述べるまでもなく・もちろん」。論文で前提として共有されることを確認する際の副詞的表現。

中文翻譯

【4B】修辭

 修辭上的問題,也可作為基於日中兩語文章構成相異的事象來把握。在前述【2D】中提到,變體漢文無法表現係り結び;而係り結び在漢文訓讀文中的使用也是極為有限的(係助詞本身的使用有很大限制,參見築島(一九六〇))。關於這一點,有解釋認為「很好地表明了漢文訓讀文以排除情意性介入、將事物作為事物傳達為專務的性格」(阪倉(一九九三)二七〇頁)。漢文訓讀文中只要添加訓點,係り結び本應可以表現,而未這樣做,被認為是基於漢文訓讀文文章上的性格。

 另一方面,變體漢文根本就沒有表現係り結び的手段。這一制約,由於變體漢文基本上被用於日常性書寫,比佛典和漢籍的訓讀文更是「以將事物作為事物傳達為專務」,因此應不構成特別的障礙;但實際上,在變體漢文的文章中,「情意性的介入」也並非不存在。例如:日記中記主記錄對當天事件的感想之時;上申文書中要有效・說服性地陳述自身窮狀或要求之時;《吾妻鏡》等典籍中試圖描繪戲劇性場面之時,等等,皆屬此列。在這些情況下,變體漢文雖無法像和文那樣通過係り結び和各種推量助動詞表達情意,卻可以以對句為核心進行漢文式的情意表現。同樣,掛詞和引歌難以實現,而中土故事的引用卻易於進行(注19)。這些不言而喻,都是因其表記樣式使然,是變體漢文語言所特有的特徵。

§3 まとめ及び展望pp. 19–24

第四節 まとめ及び展望(前半)pp. 19–20

 以上、本稿ほんこうでは表記体ひょうきたい起因きいんする変体漢文へんたいかんぶん言語的特徴げんごてきとくちょうについて分類ぶんるいして記述きじゅつおこなった。変体漢文へんたいかんぶん言語げんご影響えいきょうする表記上ひょうきじょう特徴とくちょうと、それにより影響えいきょうされた言語上げんごじょう特徴とくちょうとを簡潔かんけつにまとめると、つぎのようになる。

【1】定訓じょうくん基づくもとづく表記ひょうき → 語形ごけいの面における広義こうぎ漢文訓読語かんぶんくんどくご採用さいよう和文系語彙わぶんけいごい排除はいじょ

【2】《辞》の表記ひょうきにおける制約せいやく → 代替語句だいたいごく活用かつよう共起語きょうきごによる語義ごぎ補強ほきょうなど

【3】漢字化かんじか → 字音語じおんご活用かつよう和製漢語わせいかんご混種語こんしゅご醸成じょうせい品詞性ひんしせい拡張かくちょうなど

【4】日本語にほんご中国語ちゅうごくご文構成ぶんこうせい相違そうい → 翻訳文法ほんやくぶんぽう摂取せっしゅ漢文かんぶん漢詩文かんしぶん修辞しゅうじ活用かつよう

 勿論もちろん変体漢文へんたいかんぶん言語げんご同時代どうじだい他文体たぶんたいくらして有するゆうする特徴とくちょうは、けっしてそのすべてが表記体ひょうきたい起因きいんするわけではなかろう。表記体ひょうきたい制約せいやくえたところで獲得かくとくした特徴とくちょうもまたそんするはずである。しかし、変体漢文へんたいかんぶんという(現代げんだいから見ると)特異とくい表記方法ひょうきほうほうがその言語げんご及ぼしたおよぼした影響えいきょうも大きいはずとかんがえ、その観点かんてんからの分類ぶんるい試みたこころみた次第しだいである。こうした分類ぶんるい整理せいりによって、変体漢文へんたいかんぶん文体ぶんたい上の特徴とくちょうがどのようにして形成けいせい構成こうせいされているかが、より分析的ぶんせきてき立体的りったいてき理解りかいできるようになることが期待きたいされる。

文法・表現

【〜次第である】
  • 意義:「〜次第(しだい)である」=「〜した経緯・理由である」の書き言葉的結び。論文で研究動機や手順を説明する際の定型表現。
  • 例:「…観点からの分類を試みた次第である」=「…という観点で分類を試みた次第です」。
【〜わけではなかろう】
  • 意義:「〜わけではない」の推量形。「〜とは限らないだろう」の意。全面否定を避けた婉曲的留保表現。
【より分析的・立体的に理解できるようになることが期待される】
  • 意義:「〜ことが期待される」は受身的な期待表現。論文の成果・貢献を主張する際の定型。直接的な「〜できる」より控えめで学術文に適切。

中文翻譯

 以上,本稿對源於表記體的變體漢文語言特徵進行了分類記述。將影響變體漢文語言的表記上的特徵,及由此影響的語言上的特徵,簡潔歸納如下。

【1】基於定訓的表記 → 語形面上廣義漢文訓讀語的採用、和文系語彙的排除

【2】《辭》的表記制約 → 代替語句的活用、共現語對語義的補強等

【3】語的漢字化 → 字音語的活用、和製漢語・混種語的醸成、品詞性的擴張等

【4】日語與中文文章構成的相異 → 翻譯文法的攝取、漢文・漢詩文式修辭的活用

 當然,變體漢文語言相對於同時代其他文體所具有的特徵,未必全部都起因於表記體。超越表記體制約而獲得的特徵也應當存在。但筆者認為,作為(從現代角度看來)特異的表記方法,變體漢文對其語言造成的影響也應很大,因此嘗試從這一觀點進行分類。期待通過這樣的分類整理,能更為分析性・立體性地理解變體漢文文體特徵的形成與構成方式。

第四節 まとめ及び展望(後半)・他文体への波及pp. 20–21

 また、二ノ一節でべた「最初さいしょ表記体ひょうきたい上の強制きょうせい基づくもとづく消極的しょうきょくてきなものであったとしても、それが変体漢文へんたいかんぶんの中で文字表現もじひょうげんとして固定こていされると、同時どうじにそれが変体漢文へんたいかんぶん言語げんご文体的特徴ぶんたいてきとくちょうにもなっていく」ということについても、改めてあらためて強調きょうちょうしておきたい。もしそれらがたん制約せいやく基づくもとづく消極的しょうきょくてきなものに過ぎないすぎないのだとしたら、そのような表現ひょうげんは、そうした制約せいやくから解放かいほうされた仮名文かなぶん仮名交り文かなまじりぶんには現れあらわれないはずである。しかし実際じっさいにはつぎしめすように、そうした文章ぶんしょうにおいても、本稿ほんこう指摘してきした事象じしょう現れるあらわれることがある。

・タメニ〜セラル…【4A】参照さんしょう

石川麿大臣いしかわまろだいじん、(略)五年己酉ごねんきゆう東宮とうぐうのためにころされたまへりとこそは。(大鏡おおかがみ・天、六一頁)

しばらてらニ不レまいらほどニ、其ノ絵像えぞう盗人ぬすびとためニ被レぬすヌ。(今昔物語集こんじゃくものがたりしゅう・十二ノ十七、①一九四頁)

〇その引用者注いんようしゃちゅう後漢こうかん光武帝こうぶていを指す)、つつがおはしまさざりけり。士卒しそつ、これをらず。てきのためにたれたまひたることをなげいて、…(十訓抄じっきんしょう・中・六ノ十七、二三六頁)

にしきふくろあり。これをてきのためにめられて、命限りいのちかぎりおもはむおりけてるべし。(とはずがたり・四、四六四頁)

・シメタマフ…【2E】参照さんしょう ※築島つきしま(一九七〇)より引用いんよう

〇そこのつぼくらめうまざらむやは。さてこそ(子安貝こやすがいヲ)とらしめたまはめ、(竹取物語たけとりものがたり

〇をのこどもの中にまじりて、よるをひるになして(子安貝こやすがいヲ)とらしめたまふ、(同)

〇(和歌わかヲ)御前ごぜんによみもうさしめたまへ、(源氏物語げんじものがたり早蕨さわらび

〇びんなきこともあらばおもくかんだうせしめたまべきよしなんおほせこと侍つれば、(同・浮舟うきふね

 これらは、表記ひょうき上の制約せいやくという消極的しょうきょくてき原因げんいん由来ゆらいする言語要素げんごようそが、文体的特徴ぶんたいてきとくちょうへと成熟せいじゅくしていき積極的せっきょくてきもちいられるようになった好例こうれいと言えるだろう。そのことの反映はんえいとして、右にげたような他文体たぶんたいへの波及はきゅうという事実じじつがあるとられるのである。

 但し稿者こうしゃは、変体漢文へんたいかんぶんかれる文章ぶんしょう一般的いっぱんてき性質せいしつからすると、こうした他文体たぶんたいへの「波及はきゅう」は変体漢文へんたいかんぶんから直接ちょくせつおこなわれたというよりは、変体漢文へんたいかんぶん言語げんご男性語だんせいご口頭語こうとうご含むふくむ)を反映はんえいするものであり、その男性語だんせいご他文体たぶんたいへと波及はきゅうしていったという道筋みちすじをとるものが多かったろうと考えているかんがえている。しかしぎゃくに言えば、そのような男性語だんせいご直接ちょくせつ知るしる材料ざいりょうとして、変体漢文へんたいかんぶん比類ひるいなきものと言える。変体漢文へんたいかんぶん言語げんご特徴とくちょう多角的たかくてき検討けんとうすることは、日本語位相史研究にほんごいそうしけんきゅう様々さまざまめん寄与きよし得るものと考えられるかんがえられる

 今後こんご課題かだいとしては、まず本稿ほんこう記述きじゅつくまで素描そびょうぎず、各々おのおの特徴とくちょう実態じったいについては今後こんご精査せいさしていく必要ひつようがある。また本稿ほんこうべたうち文法ぶんぽう的な事項じこうは、漢文訓読語かんぶんくんどくご文法ぶんぽう一致いっちするてん大きいおおきいようであるが、どれくらい一致いっちし、どこに相違点そういてんがあるかといったことについても今後こんご調査ちょうさ検討けんとうしていきたい。

文法・表現

【改めて強調しておきたい】
  • 意義:「改めて(あらためて)」=「もう一度・再び」。「〜しておきたい」は意図・意志の表現。論文結論部で重要ポイントを再強調する際の定型。
【単に〜に過ぎないのだとしたら】
  • 意義:「単に〜に過ぎない」=「ただ〜だけに過ぎない」。「〜のだとしたら」は仮定条件節。「もし〜なら〜はずだ」という反事実的推論(反証)の構造。
【好例と言えるだろう】
  • 意義:「好例(こうれい)」=「良い例・典型的な例」。「〜と言えるだろう」の推量で断定を避けつつ評価を示す。
【比類なきものと言える】
  • 意義:「比類(ひるい)なき」=「比べるものがない・唯一無二の」の書き言葉的表現。研究資料としての変体漢文の価値を強調する。

中文翻譯

 另外,二ノ一節中提到的「最初即便是基於表記體強制的消極性表現,一旦在變體漢文中作為文字表現固定下來,同時也就成為變體漢文語言的文體特徵」,也想在此再次強調。如果那些僅僅是基於制約的消極性表現,那麼這樣的表現就不應出現在從這些制約中解放出來的假名文・假名交じり文中。然而實際上,如以下所示,這些文章中也會出現本稿所指摘的事象。

・タメニ〜セラル…參見【4A】

〇石川麿大臣、(略)五年己酉、東宮のために殺されたまへりとこそは。(大鏡・天、六一頁)

〇暫ク寺ニ不レ詣ル程ニ、其ノ絵像盗人ノ為ニ被レ盗ヌ。(今昔物語集・十二ノ十七、①一九四頁)

〇その身(引用者注,指後漢光武帝),つつがおはしまさざりけり。士卒、これを知らず。敵のために討たれ給ひたることを歎いて、…(十訓抄・中・六ノ十七、二三六頁)

〇錦の袋あり。これを敵のために攻められて、命限りと思はむ折、開けて見るべし。(とはずがたり・四、四六四頁)

・シメタマフ…參見【2E】 ※引用自築島(一九七〇)

〇そこのつぼくらめ子うまざらむやは。さてこそ(子安貝ヲ)とらしめ給はめ、(竹取物語)

〇をのこ共の中にまじりて、よるをひるになして(子安貝ヲ)とらしめ給ふ、(同)

〇(和歌ヲ)御前によみ申さしめたまへ、(源氏物語・早蕨)

〇びんなきこともあらばおもくかんだうせしめ給べきよしなんおほせ事侍つれば、(同・浮舟)

 這些可以說是源於表記制約這一消極原因的語言要素,成熟為文體特徵並被積極使用的好例。這一事實的反映,正是如上所舉的向其他文體波及的現象。

 但筆者認為,從變體漢文文章的一般性質來看,這種向其他文體的「波及」,與其說是直接從變體漢文傳播,不如說多是因變體漢文語言反映男性語(包括口頭語),而那種男性語波及其他文體的路徑。然而反過來說,作為直接了解那種男性語的材料,變體漢文堪稱無與倫比。多角度研究變體漢文語言特徵,可認為能對日語位相史研究的各個方面有所貢獻。

 今後的課題方面,首先本稿的記述終究只是素描,各個特徵的實態今後有必要精查。另外,本稿所述的文法性事項與漢文訓讀語的文法似有較多一致之處,一致到什麼程度、相異之處在哪裡,也希望今後加以調查・探討。

注・参考文献・付記pp. 21–24

[注]

1 延応元えんおうがん(一二三九)年六月日公蓮こうれん橘公業たちばなきみなり譲状案ゆずりじょうあん鎌倉遺文かまくらいぶん5446。

2 延応元えんおうがん(一二三九)年十一月五日関東下知状かんとうげちじょう鎌倉遺文かまくらいぶん5496。

3 本節ほんせつ田中たなか(二〇一七イ)序論第一章第八節じょろんだいいっしょうだいはちせつ内容ないよう再構成さいこうせいしたものである。

(注4〜注19 は本文ほんぶん該当箇所参照)

参考文献さんこうぶんけん

青木あおき 孝(一九七六)「吾妻鏡あずまかがみ見えるみえる関係かんけい比較ひかく)を表わす」副詞ふくしとその用字ようじ佐伯梅友さえきうめとも博士喜寿記念国語学論集はかせきじゅきねんこくごがくろんしゅう刊行会かんこうかい編『佐伯梅友博士喜寿記念国語学論集さえきうめともはかせきじゅきねんこくごがくろんしゅう表現社ひょうげんしゃ

大坪併治おおつぼへいじ(一九八一)『平安時代へいあんじだいにおける訓点語くんてんご文法ぶんぽう笠間書房かさましょぼう、二〇一五再刊さいかん

小田おだ 勝(二〇一五)『実例詳解古典文法総覧じつれいしょうかいこてんぶんぽうそうらん和泉書院いずみしょいん

小野泰央おのやすひさ(二〇一一)『中世漢文学ちゅうせいかんぶんがく形象けいしょう勉誠出版べんせいしゅっぱん

小山登久こやまのぼりひさ(一九九六)『平安時代公家日記へいあんじだいくげにっき国語学的研究こくごがくてきけんきゅう』おうふう

亀井かめい 孝(一九五七)「古事記こじきはよめるか―散文さんぶん部分ぶぶんにおける字訓じくんおよびいはゆる訓読くんどく問題もんだい―」武田祐吉たけだゆうきち編『古事記大成こじきたいせい3 言語文化篇げんごぶんかへん

亀井かめい 孝(一九八五)『亀井孝論文集かめいたかしろんぶんしゅう4 日本語のすがたところろにほんごのすがたこころ(二)』吉川弘文館よしかわこうぶんかん

木田章義きだあきよし(二〇一四)「狸親父たぬきおやじ一言ひとこと古事記こじきはよめるか―」『国語国文こくごこくぶん』八十三ノ九

小林芳規こばやしよしのり(一九七一)「高山寺本古往来こうさんじぼんこおうらいにおける漢字かんじ用法上ようほうじょう性格せいかく振仮名ふりがな有無うむ手懸りとする考察てがかりとするこうさつ―」『国文学攷こくぶんがくこう』五十七

小林芳規こばやしよしのり(一九七二)「国語史料こくごしりょうとしての高山寺本古往来こうさんじぼんこおうらい高山寺典籍文書綜合調査団こうさんじてんせきもんじょそうごうちょうさだん編『高山寺資料叢書こうさんじしりょうそうしょ 二 高山寺本古往来こうさんじぼんこおうらい表白集ひょうびゃくしゅう東京大学出版会とうきょうだいがくしゅっぱんかい

小林芳規こばやしよしのり(一九八二)「古事記訓読こじきくんどくについて」青木和夫あおきかずおほか校注こうちゅう日本思想大系にほんしそうたいけい1 古事記こじき岩波書店いわなみしょてん

以下いか参考文献さんこうぶんけん略)

付記ふき

 本稿ほんこう平成二十九年度へいせいにじゅうくねんど日本学術振興会にほんがくじゅつしんこうかい科学研究費補助金かがくけんきゅうひほじょきん特別研究員奨励費とくべつけんきゅういんしょうれいひ研究課題けんきゅうかだい語彙ごい書記しょき観点かんてんによる変体漢文へんたいかんぶん歴史的研究れきしてきけんきゅう」)による成果せいか一部いちぶである。

(たなか そうた 人文社会系研究科じんぶんしゃかいけいけんきゅうか 助教じょきょう

中文翻譯(付記)

《付記》

 本稿是平成二十九年度日本學術振興會科學研究費補助金(特別研究員獎勵費,研究課題「以語彙與書記為觀點的變體漢文歷史研究」)成果的一部分。

(田中草大 人文社會系研究科 助教)