変体漢文における、表記体に起因する言語的特徴の整理
§0 本稿の目的p. 1
変体漢文は日本語の表記体の一類であるが、漢文式を主体とするその特徴のために、日本語を表記するに際して種々の制約や特色を有する。それらが変体漢文の言語の語彙・語法等にも様々な影響を及ぼし、結果として文体的特徴を成す大きな要因となっている。のみならず、そうした特徴は変体漢文の中で表現として固定化する中で、口頭語や、いわゆる和漢混淆文等の他文体にも及んでいくことになる。則ちもはや漢文表記ゆえの制約という状況を超え、日本語の中のより広い場においてその姿を見せることになるのである。
本稿は「変体漢文にはどのような書記上の制約ないし特色があり、それらがその言語にどのような影響を与えているか」を分類・整理することを目的とする。但しそれに先立って、そもそも「変体漢文の言語」とは何を指すか、という基本的な問題について確認しておく必要があると思われるので、まず次節においてこのことを論じる。なお変体漢文は上代から近代に至る極めて長期にわたって用いられたものであるが、本稿では主に平安鎌倉時代の実態を念頭に置いて論を進める。
文法・表現
- 【のみならず】
- 意義:「だけでなく、さらに〜も」の意を表す副助詞的表現。前の内容に加えて、さらに予想外・付加的な事態を導く。
- 書き言葉的で改まった語感。学術論文でよく用いられる。
- 類義:〜ばかりか、〜はもとより、〜のみか。
- 【〜するに際して】
- 意義:複合助詞。「〜する場合・時に」の意で、ある動作・状況の場面を限定する。
- 学術文・改まった文体で多用。「〜において」と類似するが、動的な場面に使う。
- 例:日本語を表記するに際して種々の制約を有する。
- 【〜を目的とする】
- 意義:論文の目的・意図を宣言する定型表現。「目的は〜することにある」の書き言葉的表現。
- 同型:〜を課題とする、〜を目標とする、〜を明らかにする。
- 【但し〜に先立って】
- 意義:「但し」は前述の内容に制限・例外を加える接続詞。「〜に先立って」は「〜の前に・まず〜してから」の意。
- 論文でよく見られる論旨転換のパターン:目的を述べた後に「但し」で前置きを入れる。
- 【〜を念頭に置いて】
- 意義:「念頭に置く」=「心に留めておく・考慮に入れる」の慣用表現。副詞的に使い、考察の前提を示す。
中文翻譯
變體漢文是日語表記體的一種,由於其以漢文式為主體的特性,在表記日語時存在種種制約與特色。這些因素對變體漢文語言的語彙、語法等方面產生了各種影響,進而成為形成文體特徵的重要要因。不僅如此,這些特徵在變體漢文中固定化為特定表現形式,進而波及口頭語以及所謂和漢混淆文等其他文體。由此超越了漢文表記之制約的層次,在日語的更廣泛場域中顯現其姿態。
本稿以「變體漢文存在何種書記上的制約乃至特色,以及這些因素對其語言產生何種影響」為目的,對此進行分類與整理。但在此之前,有必要確認「變體漢文的語言」究竟指的是什麼這一基本問題,因此首先在下一節加以論述。另外,變體漢文被使用的時期極長,自上代延續至近代,但本稿主要以平安鎌倉時代的實態為考察對象展開論述。
§1 変体漢文の言語pp. 1–8
二ノ一 表記体としての変体漢文とその言語(前半)pp. 1–2
変体漢文は仮名文や仮名交り文と同様に日本語による思想を文字化したものであるが、大きく漢字化と漢文化という二つの行程が制約となるため、元の日本語をそのまま変体漢文に落とし込むことは極めて困難である。次の(a)を例にとって見てみよう。
(a)いつのかみのめにて候しもの〔ゆつりて候しかとも、
こうれんをふけうし候て、(略)うせ候ぬ。(注1)
これは鎌倉時代の譲状から抜き出したものである。候文という手紙文ならではの文体を纏ってはいるが、仮名を主体にして書かれているので、書き手の心内にある言語がそのまま表出されたものと一往見ることができる。
ところが(a)が書かれた数ヶ月後、この文書が別の文書に引用されることになり、その際に、変体漢文の形に書き換えられるということが起こった。それが次の(A)である。
(A)雖レ譲レ給伊豆守妻(略)、不レ孝公蓮死去畢。(注2)
これを変換元の(a)と較べると、省略された要素(「にて候しもの」「候」「しか→き」)や、追加された要素(「ゆづり」→「譲給」)、置き換えられた要素(「ども」→「雖」、「うせ」→「死去」、「ぬ」→「畢」)など、種々の違いがあることが判る。(A)は、(a)を再現しようとしながらも変体漢文における漢字化・漢文化という表記上の構造・制約等を受けて生まれた、その意味で言語表現としては不完全と評し得るものである。
文法・表現
- 【〜と同様に】
- 意義:「〜と同じように」の意。比較・並列を表す複合助詞的表現。学術文で対象を並列する際に多用。
- 例:仮名文や仮名交り文と同様に日本語による思想を文字化したもの。
- 【〜ということが起こった】
- 意義:「こと」の名詞節化+「が起こった」。ある事態の発生を客観的に述べる表現。変体漢文への書き換えという「事態」を中立的に報告している。
- 学術文では直接的な「〜した」より「〜ということが起こった」が客観的な距離感を与える。
- 【〜と較べると】
- 意義:比較の視点を示す表現。「較べる」は「比べる」と同義。学術文では「〜に比して」「〜と比較すると」も類義。
- 【〜ながらも】
- 意義:逆接を表す接続助詞。「〜しているが、にもかかわらず」の意。ここでは「再現しようとしながらも=再現しようとしているが、完全にはできなかった」。
中文翻譯
變體漢文與假名文、假名交じり文相同,都是將日語思想文字化的產物,但由於漢字化與漢文化這兩個過程構成制約,要將原本的日語直接轉化為變體漢文極為困難。讓我們以下面的(a)為例來看看。
(a)いつのかみのめにて候しもの〔ゆつりて候しかとも、
こうれんをふけうし候て、(略)うせ候ぬ。(注1)
這是從鎌倉時代的讓渡文書中摘錄的。雖然帶有候文這種書信體裁特有的文體,但由於以假名為主體書寫,可以初步認為書寫者心中的語言被直接表達了出來。
然而,(a)寫成數月後,這份文書被引用於另一份文書,在此過程中,文字被改寫為變體漢文的形式,這就是下面的(A)。
(A)雖レ譲レ給伊豆守妻(略)、不レ孝公蓮死去畢。(注2)
與變換前的(a)相比,可以看出存在種種差異:省略的要素(「にて候しもの」「候」「しか→き」)、追加的要素(「ゆづり」→「譲給」)、替換的要素(「ども」→「雖」、「うせ」→「死去」、「ぬ」→「畢」)。(A)雖力圖再現(a),卻受制於變體漢文中漢字化、漢文化這一表記上的結構與制約而形成,從這個意義上說,作為語言表現是不完整的。
二ノ一 表記体としての変体漢文とその言語(後半)pp. 2–3
ところが一度それが書かれてしまうと、それを読み下した次の(a')は、元々の(a)とは明らかに異なるものでありながら、しかし日本語として確立しており、もはや不完全なものとは言えない。
(a')伊豆守妻に譲り給ふと雖も、公蓮を不孝して死去し畢んぬ。
変体漢文自体は表記体であって、本来は文体とは区別されるものなのであるが、(A)から復元される(a')という日本語は独自の特徴を持つものなのであって、ここに文体を認めることができる。つまり、最初は表記体上の強制に基づく、消極的なものであったとしても、それが変体漢文の中で文字表現として固定されると、同時にそれが変体漢文の言語の文体的特徴にもなっていくわけである。
尤も、変体漢文は飽くまでも(A)という形で表出されるのみで、その言葉は次の二ノ二節で見るように不確定・未分化な部分を残したものである。つまり(a')のように一通りに確定された姿は実際には存在しない、その意味で架空のものであるのだが、実際に何らかの事情によりこのような言葉が何らかの形で「現実化」することがある。例えば、書かれた変体漢文が音読または黙読される、或いは訓点が付される、読み下し文が作られる、といったことによってである。更には語彙や語法が他文体や口頭語へ波及するといったことによってこの「現実化」が果たされることもある。
文法・表現
- 【〜でありながら、しかし〜】
- 意義:逆接の複文構造。「〜でありながら」は「〜であるにもかかわらず」の意で、期待に反する後続内容を導く。
- 学術文で対照・矛盾する事実を並置する際の典型的表現。
- 【つまり〜わけである】
- 意義:「つまり」は前述の内容を言い換え・要約する接続詞。「〜わけである」は当然の帰結・論理的結論を示す表現。
- 論文での論理展開の定型:事実→「つまり」→解釈・結論。
- 「〜ことになる」「〜のである」とも比較。
- 【〜としても、〜されると】
- 意義:仮定表現。「〜としても」は仮定の譲歩(「たとえ〜であっても」)。後続の「〜されると」は条件付き帰結を示す。
- ここでは「最初は消極的であったとしても、固定化されると文体的特徴になる」という因果関係を示している。
- 【尤も〜のみで】
- 意義:「尤も」は前述の内容に留保・補足を加える接続詞(「もっとも、ただ〜」)。「〜のみで」は「〜だけで、それ以上ではない」の限定表現。
- 論文で一方的な主張を和らげ、複雑性を認める際に使う。
中文翻譯
然而,一旦它被寫出來,由(A)讀下的(a')雖明顯與原本的(a)不同,但已作為日語確立起來,不再能稱之為不完整。
(a')伊豆守妻に譲り給ふと雖も、公蓮を不孝して死去し畢んぬ。
變體漢文本身是表記體,原本應與文體有所區別,但從(A)復元的(a')這一日語擁有獨自的特徵,在此可以認定文體的存在。也就是說,即便最初是基於表記體上的強制、是消極性的產物,一旦在變體漢文中作為文字表現固定下來,同時也會成為變體漢文語言的文體特徵。
不過,變體漢文終究只以(A)的形式表出,其語言如下一節所見,仍保留著不確定、未分化的部分。也就是說,像(a')那樣一義確定的形態在實際上並不存在,在這個意義上是虛構的;但實際上有時確因某種緣由,這樣的語言得以以某種形式「現實化」。例如,書寫的變體漢文被音讀或默讀、附加訓點、製成讀下文等情況下,以及語彙、語法波及其他文體或口頭語,「現實化」由此得以實現。
二ノ二 「変体漢文の言語」の範疇pp. 3–4
変体漢文は表記体すなわち日本語の表記方法の一種であって、日本語そのものではない。「変体漢文には漢文訓読語的特徴と和文語的特徴を併せ持つ」などと言う場合の「変体漢文」は、厳密には「変体漢文によって表現されている日本語」と言うべきものである(これを簡略化して「変体漢文体」とも呼び得るだろう)。しかし変体漢文という表記方法には、表音性つまり一義的には音配列であるところの言語を表現する能力において無視できぬ不確定性があることは誰しもが感じるところであろう。では、「変体漢文の言語」を日本語史学の対象とする際、その範疇をどのように規定すべきであろうか。
例として、雲州往来にある「所レ差可レ足」(第一通)・「被二投一消息一」(第十通)という字句を見よう。これらをルビに従って読み下すとそれぞれ「差フ所足ンヌ可シ」「消息(ヲ)投ゲ被レタリ」となる。実はこのルビは享禄本の訓点であり、過去に確かにこれらの字句からこれらの日本語が復元されたことを意味する。
しかし、だからと言って「変体漢文『所差可足』『被投消息』の言語」とはイコール「ネガフ/トコロ/タン/ヌ/ベシ」「セウソク/ヲ/ナゲ/ラレ/タリ」であると言えるだろうか。これらの内、「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及び「セウソク」「ナグ」「ラル」については、(仮にこの享禄本の加点が無くとも)各々の漢字の当時の字訓・字音また加点例などを基にして語形が推定されるものである。加えて、「ヲ」は、表記の漢字を持たないが、この文における「消息」の統語的な役割と、SVOの漢文式語序に支えられて、この部分にヲが宛がわれることはほぼ確実視し得るものである。
これらに対して、「タンヌベシ」における助動詞ヌ、「ナゲラレタリ」における助動詞タリは、いずれも訓読(復元)の際に言わば恣意的に読み添えられた要素である蓋然性が大きい。少なくとも、元の文字列「可足」「被投」から直接に導かれるものではない。これらに対しては「タルベシ」「ナゲラル」という、よりシンプルな訓読(復元)も不可能ではなかったはずだし、寧ろ充分あり得ただろう。このように見て、「変体漢文の言語」としては、「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及び「セウソク」「ヲ」「ナグ」「ラル」(活用語は活用形を捨象)のみを認めることとしたい。
右を要するに、本稿で「変体漢文の言語」と呼ぶものは、一義的には、書かれた字句から直接に抽出できる語である。それは言語というよりは、言語として実現する以前の抽象的な単位と言うべきものかも知れない。
文法・表現
- 【すなわち】
- 意義:言い換え・定義を示す接続詞。前の内容をより正確に言い直す。「つまり」より書き言葉的・改まった語感。
- 例:変体漢文は表記体すなわち日本語の表記方法の一種。
- 【〜というよりは〜と言うべき】
- 意義:二段階の言い換え表現。「〜というよりは」は不正確な表現を否定し、「〜と言うべき」でより正確な表現を提示する。
- 学術文での用語・概念の精密化パターン。
- 【〜すべきであろうか】
- 意義:疑問形+意志・推量の「べき」+婉曲の「であろう」。問題提起・研究課題を示す疑問文の定型。
- 論文の問い立て(Forschungsfrage)によく使われる。
- 【(仮に〜が無くとも)】
- 意義:反実仮想(「たとえ〜がなかったとしても」)。ある証拠がなくても同じ結論になることを示し、論拠の堅固さを強調する。
中文翻譯
變體漢文是表記體,即日語表記方法的一種,而非日語本身。說「變體漢文兼具漢文訓讀語的特徵與和文語的特徵」時,「變體漢文」嚴格而言應稱「由變體漢文所表現的日語」(亦可簡稱「變體漢文體」)。但是,變體漢文這一表記方法在表現作為音序列的語言時存在不可忽視的不確定性,這是人人都能感受到的。那麼,將「變體漢文的語言」作為日語史學的研究對象時,應如何規定其範疇呢?
以《雲州往來》中的「所レ差可レ足」(第一通)、「被二投一消息一」(第十通)為例。依照振假名讀下,分別得到「差フ所足ンヌ可シ」「消息(ヲ)投ゲ被レタリ」。這些振假名實際上是享祿本的訓點,意味著過去確實從這些字句中復元了這些日語。
但是,因此就能說「變體漢文『所差可足』『被投消息』的語言」等同於「ネガフ/トコロ/タン/ヌ/ベシ」「セウソク/ヲ/ナゲ/ラレ/タリ」嗎?其中「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及「セウソク」「ナグ」「ラル」即便沒有享祿本的加點,也可依各漢字當時的字訓、字音及加點例推定語形。此外,「ヲ」雖無表記漢字,但依「消息」在句中的句法角色以及漢文式SVO語序,此處宛用ヲ幾乎可以確定。
然而,「タンヌベシ」中的助動詞「ヌ」、「ナゲラレタリ」中的助動詞「タリ」,在訓讀(復元)時有很大可能是被恣意讀添的要素。至少,它們並非直接從「可足」「被投」的字列中導出。對這些字句而言,「タルベシ」「ナゲラル」這種更簡單的訓讀(復元)也並非不可能,甚至可以說相當充分。由此,本稿中「變體漢文的語言」僅認定「ネガフ」「トコロ」「タル」「ベシ」及「セウソク」「ヲ」「ナグ」「ラル」(活用語捨象活用形)。
總而言之,本稿所稱「變體漢文的語言」,一義上是指可從書寫的字句中直接抽出的語。與其說它是語言,不如說是語言實現之前的抽象單位。
二ノ三 変体漢文はヨメるか(問題設定・研究史)(注3)p. 4
変体漢文の背後に(つまり思想内容として)日本語があることは認められても、変体漢文で書かれた文章が特定の日本語文に再現可能であるか(再現されるべくして書かれたものであるか)ということについては研究者間で見解が一致していない。則ち、亀井孝氏の言葉を借りれば(注4)、変体漢文はヨメるか――よめる(=文意が理解できる)ものではあっても、ヨメる(=特定の語・文に復元できる)ものであるか否か――という問題である。小林芳規氏や峰岸明氏はヨムことが(完全には無理としても、かなりの程度までは)可能であるとする立場を取るが、他方、小松英雄氏のように「(引用者注、法隆寺金堂薬師仏光背銘について)訓読しないでも理解できる以上、「訓読という行為を予想して作成され」たものでもない(傍点引用者)」「訓読という行為を予想して作成され」たとみなすべき漢字文の存在を具体的に指摘することができない」(注5)とする立場もある。より砕けた言い方をすれば、変体漢文は後で見て意味(文章内容)が判ればそれで良かったのであって、特定の日本語文に復元され得るような表記形態ではなかった、とする考えである。また船城俊太郎氏も、将門記の二本の古点本の調査から、同一箇所の訓点が二本間で相違するケースが一定数あることを指摘され、「峰岸氏の「定訓」のようなかんがえかたで、全体を律しようとするのはあやまりである。すくなくとも、一字一訓ということにあまりに固執するのは、よろしくないであろう」と、同様の見解を示され、「変体漢文をふくめた日本漢文からよみとられてくる日本語の文章は、言ってみれば「大同」で「小異」のあるものだったのである」と結論されている(注6)。
文法・表現
- 【〜ということについては〜が一致していない】
- 意義:研究上の論争・見解の相違を客観的に報告する表現。「ということについては」は問題の範囲を限定。「見解が一致していない」は学術的論争の存在を示す。
- 【〜の言葉を借りれば】
- 意義:他者の表現・概念を引用する際の慣用句。「借りれば」は仮定条件形で「使わせてもらえば」の意。
- 類義:〜の言葉を使えば、〜によれば。
- 【〜とする立場を取る / 〜とする立場もある】
- 意義:研究者の立場・主張を客観的に紹介する表現。「立場を取る」は積極的な支持を、「立場もある」はより中立的に一方の見解を示す。
- 【より砕けた言い方をすれば】
- 意義:難解な説明を平易に言い換える際のメタ言語的表現。「砕ける」は「平易になる」の意(口語的)。
- 論文で専門用語的説明に続けて通俗的説明を補足する際に使う。
中文翻譯
即便承認變體漢文背後(即作為思想內容)存在日語,變體漢文所寫的文章能否復元為特定日語文(即是否是應當被復元而寫就的)這一問題,研究者之間見解不一。也就是說,借用亀井孝氏的話(注4),這是「變體漢文可讀嗎」——雖然よめる(=能理解文意),但是否ヨメる(=能復元為特定的語·文)——的問題。小林芳規氏和峰岸明氏持有「訓讀(即便無法完全,也能在相當程度上)是可能的」的立場。另一方面,也存在如小松英雄氏所持的立場:「(引用者注,關於法隆寺金堂藥師佛光背銘)既然不訓讀也能理解,就不是以『訓讀這一行為』為預設而作成的(傍點為引用者所加)」「無法具體指出應視為以訓讀為預設而作成的漢字文的存在」(注5)。更通俗地說,就是「變體漢文只要事後看明白意思就夠了,並非可復元為特定日語文的表記形態」的觀點。船城俊太郎氏也從《将門記》兩本古點本的調查出發,指出同一處訓點在兩本之間存在相異的情況,示以相同見解,並得出結論:「包含變體漢文在內的日本漢文中讀出的日語文章,可以說是『大同』而『小異』的」(注6)。
二ノ三 ヨメるか(小林・峰岸の見解)p. 5
これに対して、小林芳規氏は古事記について「本文の用字法には統一意識が存し、表意の漢字は字種が少なく平易なものを選ぼうとする意識が認められ、漢字とその訓との関係が一漢字一訓又は二訓という狭い対応を原則としており、上代における常用字を基盤とし反映している」(注7)という仮説に基づき、それら常用字(訓漢字)各々の和訓を確定していくことによって古事記をヨモウとされた。また峰岸明氏は「少数ではあっても訓点本の存するところから、当時の人々に変体漢文は訓読すべきものであるという認識があったこと、敷衍すれば、変体漢文という文章様式の背後に国語文の存在することを人々が認めていたということ」が言えるとし、次のような見解を示された。
このような文章の作成事情を説明するに当たって、これが漢字を利用した文章表記であるので、元来表現内容の伝達のみが意図され、それに対応する国語文の作成は、必ずしも行われないのではなかったのではないか、表現内容の理解を求めることは意図されていたのであろうが、その国語文の再現までは期待されていなかったであろうなどとする立場も存するようである。併しながら、このような立場は、畢竟、文字列を単なる記号の連続と見做す立場に連なるもので、現実の文章に対する理解としては必ずしも自然ではないように思う。記録体の文章は、具体的な国語文が予め存在し、それを基に漢文の表記様式を利用して作成されたもの、換言すれば、変体漢文という文章様式の背後に具体的な国語文の存在が想定せらるべきものと理解すべきではなかろうか。
(峰岸(一九八六イ)序章第二節、四十九・五十頁)
また、船城氏の先掲論では将門記の二本の点本間で訓法がしばしば一致しないことを以て「変体漢文が(一通りに)ヨメる」とする考えに疑義が呈されたのであるが、これは検討対象が将門記という、変体漢文の中でも文学志向の強いもの、則ち文飾の跡が多く窺えるものであることを考慮に入れるべきかと思われる。つまり、表現が日常性から離れていくに従って訓読もバリエーションを生じやすくなると考えられるのであって、将門記における結論が一般的な記録や文書などにおいても同様に当てはまるとは必ずしも言えないのではないか。
文法・表現
- 【〜に基づき、〜をヨモウとされた】
- 意義:「〜に基づき」は根拠・方法を示す複合助詞。「〜とされた」は他者の行為を引用する敬体(尊敬語的客観化)。
- 論文で先行研究者の手法・主張を紹介する定型。
- 【〜とし、〜を示された】
- 意義:引用文に続く動詞「とし」は主張・見解のまとめを示す。「示された」は研究者への敬意を含む尊敬表現。
- 【〜を考慮に入れるべきかと思われる】
- 意義:「考慮に入れる」は「勘案する・考えに含める」の慣用表現。「〜べきか」は当然性の疑問、「〜と思われる」は婉曲な主張。
- 反論を示しながらも穏やかな語調を保つ学術文の典型パターン。
- 【〜に従って〜しやすくなる】
- 意義:「〜に従って」は比例変化を示す複合助詞(「〜するにつれて」に類似)。「〜やすくなる」は可能性・傾向の増加を示す。
中文翻譯
對此,小林芳規氏就《古事記》提出了這樣的假說:「正文用字法具有統一意識,可以看出有意選擇字種少且平易的表意漢字,以一漢字一訓或二訓的狹窄對應關係為原則,反映並建立在上代常用字的基礎上」(注7),並依此逐一確定各常用字(訓漢字)的和訓,嘗試讀解《古事記》。峰岸明氏則指出:「從少數訓點本的存在可以得知,當時的人們有著變體漢文應當訓讀的認識,推衍而言,人們承認變體漢文這一文章樣式的背後存在著國語文」,並表示了如下見解。
(峰岸(一九八六イ)序章第二節,四十九・五十頁):對於這樣的文章作成情況,由於這是利用漢字的文章表記,有種立場認為:也許元來只意圖傳達表現內容,與之對應的國語文的作成並非必然被要求;意圖讓人理解表現內容,但不一定期待其國語文的再現。然而,如此立場歸根究柢連於將文字列視作單純符號連續的立場,對現實文章的理解而言未必自然。記錄體文章是在預先存在具體國語文的基礎上,利用漢文的表記樣式作成的,換言之,應當理解為:變體漢文這一文章樣式的背後,應當假定存在著具體的國語文。
此外,船城氏的上述論文以《将門記》兩本點本之間訓法多有不一致為據,對「變體漢文可以(一義地)被訓讀」的觀點提出了疑義。但稿者認為應當考慮到:考察對象《将門記》在變體漢文中屬於文學志向較強的作品,即文藻修飾的痕跡較多。也就是說,表現越偏離日常性,訓讀就越容易產生多種變體,因此《将門記》的結論未必能同樣適用於一般的記錄或文書。
二ノ三 ヨメるか(稿者の立場・漢字の意味)pp. 5–6
さて、稿者の考えでは、両者の主張は「変体漢文は訓読されるべきものとして書かれたか否か」という点に集約することができる。そして稿者は、小林・峰岸両氏らの主張、則ち「変体漢文は訓読されるべきものとして書かれた(=書かれた変体漢文は読み手からは「訓読」によって理解された)」という立場に立つ。そしてそのことは、実は反対派の意見である「変体漢文は、見て意味(文章内容)が判ればそれで良かった(よって、訓読という〈日本語文〉化を経ての読解を必ずしも要求するものではない)」という主張の意味するところを精査していくことによって、自然に導かれる結論であるように、稿者には思われるのである。よって、以下この主張について少し踏み込んでみたい。
変体漢文で書かれた文章の内容を理解するためには、当然ながらそこに書かれた漢字列、則ち、各々の漢字(乃至複数の漢字から成る漢字句)の意味が判らなくてはならない。では、ここで言うところの「漢字/漢字句の意味」とは一体何であろうか。漢字は中国語を表記するための文字であるから、漢字の意味と言えば最も普通には中国においてその字が表す「語」が有する意味、ということになるであろう。例えば「驚」の意味と言えば、この字が書き表す中国語キヤウ(中古音では[kǐaŋ](注8))の意味ということになる。
このことを念頭に置きつつ、以下の例を見られたい。
(1イ)先例昼時只目令レ候レ楽、而依レ入レ暗以二笏扇一驚レ之、(小右記・正暦四(九九三)年正月廿二日)
(1ロ)令二憚二申御念劇一候之間、久不レ令レ驚二言上事由一者也、(某書状・平安院政期・平安遺文4795)
(2イ)使等不レ可レ闕事、同令レ触所々行也、自レ兼催候由、一日所レ申也、(小右記・長和二(一〇一三)年五月七日)
(2ロ)抑御八講之間、安楽光院御幸可レ為二何日一候乎、…兼而可レ被二仰下一候也、(尊性法親王書状・天福元(一二三三)年四月廿七日・鎌倉遺文4487)
文法・表現
- 【〜という点に集約することができる】
- 意義:「集約する」=「まとめる・一点に絞る」。複数の議論を一つの問いに収束させる際の学術表現。
- 論文で対立する主張を整理する際の典型パターン。
- 【〜という立場に立つ】
- 意義:著者自身の研究上の立場を明示する表現。「立場に立つ」は「〜の見解を採る」の慣用。
- 対比:「〜とする立場もある」(他者の立場)vs「〜という立場に立つ」(自分の立場)。
- 【踏み込んでみたい】
- 意義:「踏み込む」=「より深く考察する」の比喩表現。「〜みたい」は試みる意志。
- 論文で詳細な議論に入る前の予告表現として使われる。
- 【乃至】
- 意義:「〜または〜」「〜あるいは〜」の意の書き言葉的接続語。漢語由来。論文・法令文書に多用。
中文翻譯
稿者認為,雙方的主張可以歸結為「變體漢文是否是作為應當被訓讀的東西而書寫的」這一問題。稿者站在小林、峰岸兩氏的主張一側,即「變體漢文是作為應當被訓讀的東西而書寫的(=書寫的變體漢文是由讀者通過「訓讀」加以理解的)」。稿者認為,這一結論實際上可以通過仔細審查反對方的主張——「變體漢文只要看了能明白意思(文章內容)就夠了(因此未必要求通過訓讀這種〈日語文〉化的過程進行閱讀)」——自然地導出。因此,以下想對這一主張稍作深入探討。
要理解用變體漢文書寫的文章的內容,當然必須理解其中所寫的漢字列,即各漢字(乃至由複數漢字構成的漢字句)的意義。那麼,這裡所說的「漢字/漢字句的意義」究竟是什麼?由於漢字是用於表記中文的文字,說到漢字的意義,通常指的是該字在中國所表示的「語」所具有的意義。例如,說「驚」的意義,指的是這個字所書寫的中文キヤウ(中古音為[kǐaŋ](注8))的意義。
請帶著這一認識來看下面的例子。(例子(1)中的「驚」,(2)中的「兼」見下節分析。)
二ノ三 例(1)(2)の分析・宛字pp. 6–7
右の(1)の二例における「驚」は、所謂〈驚ク〉の意味では全くなく、〈知ラセル〉とか〈連絡スル〉とかいうような意味で用いられている。これは、「驚」が表す中国語キヤウの意味ではなく、「驚」を訓読した日本語オドロカスが持つ意味である。また、(2)の二例における「兼」は〈予メ〉という意味であり、これも、「兼」が表す中国語ケムの意味でなく、「兼」を訓読した日本語カネテが持つ意味である。このように、変体漢文においては本来の漢字・漢文の知識からは正しい理解に至れず、その字句の訓読法が判って初めて語彙・文意も通ずるという部分が、随所に見られるのである。
つまり、「変体漢文は意味が判れば良かった」と言うにしても、その場合の「意味」とは「漢字/漢字句の意味」ではなくして、「それらの漢字/漢字句を訓読した日本語の意味」である。ということは、変体漢文は文章内容さえ理解できれば良かった、と言おうとする場合にさえ、その各々の漢字/漢字句が「訓読」できなくてはならないのである。
右のことの一層甚だしい例として、所謂宛字がある。
〇以外失礼仕了、浅猿候云々、(愚昧記・嘉応二(一一七〇)年正月廿日)
〇検校更以不レ可レ有二抑留一、穴賢々々、(慈円起請文・承元二(一二〇八)年二月・鎌倉遺文1716)
〇殊令二歎申一之旨、糸惜思食之間、重所レ被二仰遣一也、(吾妻鏡・文治四(一一八八)年四月十二日)
〇以二此旨一、可レ令二洩申一給二候覧一、恐惶謹言、(摂政御教書・養和元(一一八一)年十一月廿二日・鎌倉遺文50370)
またこれに類する現象として、一資料内で一つの語が複数の用字により表記されることがある。峰岸(二〇〇三)で指摘されている例を次に掲げる。
〇駒引(貞信公記抄・延喜十二(九一二)年四月三十日)
〇駒牽(同・延長五(九二七)年五月二日)
〇故兼忠朝臣男維吉(御堂関白記・長和元(一〇一二)年閏十月十六日)
〇将軍維能(同・同四(一〇一五)年十一月三日)
〇賀茂河(御堂関白記・長保二(一〇〇〇)年三月廿日) 〇鴨河(同・寛弘元(一〇〇四)年五月十一日)
これらは、変体漢文の背後に特定の日本語――訓読を経てのみ同定可能な――が存することの証左となるものである。以上のことを別言すると、変体漢文における各々の漢字ないし漢字句が表しているのは「意味」ではなく「語」である、ということになる。
文法・表現
- 【〜ではなくして】
- 意義:「〜ではなく」の書き言葉的強調形。「して」が付くことでより強い否定・対比の語感を与える。
- 例:「漢字の意味」ではなくして「訓読した日本語の意味」である。
- 【〜と言うにしても・〜する場合にさえ】
- 意義:「〜にしても」は仮定譲歩(「〜だとしても」)。「〜する場合にさえ」は「〜という極端な場合においても」の意で、結論の必然性を強調。
- 【〜の証左となる】
- 意義:「証左(しょうさ)」=「証拠・証明」の書き言葉。「〜の証拠になる」の格調高い表現。
- 類義:〜の証拠となる、〜を示すものである。
- 【別言すると】
- 意義:「別の言い方をすると」の意の接続詞的表現。前の議論を別の角度から言い換え、本質を抽出する際に使う。
中文翻譯
上述(1)兩例中的「驚」,完全不是〈驚嚇〉的意思,而是用於〈通知〉〈聯絡〉等意思。這並非「驚」所表示的中文キヤウ的意義,而是將「驚」訓讀的日語オドロカス所具有的意義。同樣,(2)兩例中的「兼」表示〈預先〉的意思,這也並非「兼」所表示的中文ケム的意義,而是將「兼」訓讀的日語カネテ所具有的意義。如此,在變體漢文中,隨處可見僅憑本來的漢字、漢文知識無法得到正確理解、只有明白其字句的訓讀法才能通曉語彙與文意的情況。
也就是說,即便說「變體漢文只要明白意思就夠了」,此時的「意思」也並非「漢字/漢字句的意義」,而是「訓讀這些漢字/漢字句後的日語的意義」。這意味著,即便是要說「只要能理解文章內容就夠了」,也必須能「訓讀」其中各個漢字/漢字句。
更極端的例子是所謂宛字。(列舉「浅猿(アサマシ)」「穴賢(アナカシコ)」「糸惜(イトヲシ)」「覧(ラム)」等例。)這些宛字並非某特定記主的奇特用法,而是在中古後期至中世前期具有一定普遍性的,光憑各漢字的「意義」根本無從理解語詞。
此外,類似現象還有:同一資料中一個語以複數用字表記(如「駒引」「駒牽」均讀コマヒキ,「維吉」「維能」「維良」均為人名,「賀茂河」「鴨河」均為地名)。這些都是變體漢文背後存在特定日語——只有通過訓讀才能確認的日語——的佐證。換言之,變體漢文中各漢字或漢字句所表示的,不是「意義」而是「語」。
二ノ三 定訓・まとめpp. 7–8
尤も、単語レベルであっても「不審(イブカシ/フシンナリ)」のように語種を決めかねる等のケースが存在することも確かではあるが、原則としては先述の如く変体漢文は「ヨメなければよめない」という結論は動かないであろう。
なお、こうしたことと表裏一体の現象として、「定訓」と「常用漢字(訓漢字)」の存在がある。これは変体漢文がヨメたことそのものの証拠にはならないが、変体漢文をヨメるものにしている重要な要素である。則ち、奈良時代に既に特定の漢字と特定の和語との密接な関係の成立、つまり「和訓の固定化」が進んでいた(=定訓の成立)ことは夙に小林芳規、峰岸明の両氏らが訓仮名や辞書の訓注などを物証として究明されたが、更にそれらの漢字を用いて日本語を表記するに際して、一つの和語について一つの漢字を充てる、また逆に一つの漢字には一つの訓(用法)を与えるという強い傾向が見られることも、小林芳規、小山登久、峰岸明の三氏らが指摘している(注9)。このような装置によって、仮名を使用せずに日本語文としてヨメるものとしての変体漢文の表記が可能となったのである。
文法・表現
- 【表裏一体の現象として】
- 意義:「表裏一体(ひょうりいったい)」=「表と裏が一体、切り離せない関係」の四字熟語。「〜と表裏一体の現象」は「〜と密接に関連する/不可分の現象」の意。
- 【夙に〜されたが、更に〜も指摘している】
- 意義:「夙(つと)に」=「早くから・以前から」の書き言葉。先行研究の時系列的積み重ねを示す表現。
- 「〜されたが、更に〜も」は「従来の研究に加えて、さらに」の論文的展開。
- 【〜を物証として究明された】
- 意義:「物証」=「物的証拠」。「究明する」=「徹底的に調べ明らかにする」。これらが組み合わさり、証拠に基づく学術的検証の意を示す。
中文翻譯
當然,即便在單語層面,也確實存在如「不審(イブカシ/フシンナリ)」這樣難以確定語種的情況,但原則上如前所述,「不訓讀就不能讀懂」的結論應當是不動搖的。
另外,與此表裏一體的現象是「定訓」和「常用漢字(訓漢字)」的存在。這雖然不是變體漢文可被訓讀本身的直接證據,卻是使變體漢文得以被訓讀的重要機制。即:奈良時代已進行了特定漢字與特定和語之間密切關係的建立,也就是「和訓的固定化」(=定訓的成立),這早已由小林芳規、峰岸明兩氏以訓假名、辭書訓注等物證加以闡明。此外,在以這些漢字表記日語時,存在一個和語對應一個漢字、以及反過來一個漢字只賦予一個訓(用法)的強烈傾向,這也由小林芳規、小山登久、峰岸明三氏指出(注9)。正是這一機制使得不使用假名也能作為日語文被訓讀的變體漢文表記成為可能。
§2 表記上の特徴の整理pp. 9–19
【1】定訓に基づく表記(前半)pp. 9–10
本稿では、変体漢文の言語に影響する表記上の特徴を次の四つの点から捉える。
【1】定訓に基づく表記
【2】《辞》の表記における制約
【3】語の漢字化
【4】日本語と中国語の文構成の相違
漢字で日本語を表現するには幾つかの方法があるが、大別すると(い)漢字の表語面を活用する方法(正訓・正音)、(ろ)表音面を活用する方法(訓仮名を含む)、(は)両者を併用する方法、の三類に分けられるだろう。それぞれの例を万葉集から挙げると次のようになる(傍線部が表語用法、波線部が表音用法である)。
(い)花之色(ハナノイロ) 巻第十・二二七八
(ろ)波奈乃伊呂(ハナノイロ) 巻第十四・三三七六
(は)鼻毘之毘之尓(ハナビシビシニ)巻第五・八九二
(ろ)のように表音面を利用すると、原理的には日本語のほぼ全ての語が漢字で表記可能であるが、変体漢文は(い)のように表語面を活用する方法を基本原理とするものであるので、表記可能な語は、字音語(正音表記に基づく)と、ある漢字の定訓となっている和語(正訓表記に基づく)との二類が主体となる。前者の字音語については後述の【3】語の漢字化にて触れることとし、ここでは後者の、漢字の定訓となっている和語について説明する。
先の二ノ三節にて述べたように、定訓による和語の表記、則ち、特定の漢字(例、犬)の読み方として特定の和語(例、イヌ)が定着することによって、逆に特定の和語(イヌ)を表記するのに特定の漢字(犬)が用いられるようになること、これが漢文式の表記によって日本語が表記できる根幹的な機構であると言える。それでは、そのような定訓は那辺において成立するか。本稿が主な対象とする平安鎌倉時代までの状況について言えば、それは漢文文献を(訓点を差す等して)日本語文として読み下す、いわゆる漢文訓読の場であったと考えられる。
文法・表現
- 【大別すると〜の三類に分けられる】
- 意義:「大別する」=「大まかに分類する」。「〜に分けられる」は分類結果を示す受身形。論文の分類提示の定型。
- 【〜を基本原理とするものであるので】
- 意義:「〜を基本原理とする」は「〜を根本方針とする」の意。「〜ので」は原因・理由を示す。変体漢文の本質から論を展開する際の言い方。
- 【那辺において成立するか】
- 意義:「那辺(なへん)」=「どの点で・どこで」の書き言葉的疑問語。「〜において成立するか」は問題提起の表現。
- 現代語なら「どのような場で成立するか」。
中文翻譯
本稿從以下四個方面把握影響變體漢文語言的表記上的特徵。
【1】基於定訓的表記 【2】《辭》的表記制約 【3】語的漢字化 【4】日語與中文的文章構成之相異
以漢字表現日語的方法可大致分為三類:(い)活用漢字表語面的方法(正訓・正音)、(ろ)活用表音面的方法(含訓假名)、(は)兩者並用的方法。分別以《萬葉集》為例,則如上所示(波線為表語用法,波浪線為表音用法)。
如(ろ)那樣利用表音面,原理上幾乎所有日語語詞都可以用漢字表記;但變體漢文以(い)活用表語面的方法為基本原理,因此可表記的語以字音語(基於正音表記)和作為某漢字定訓的和語(基於正訓表記)兩類為主體。字音語留待後述的【3】語的漢字化中論及,此處說明後者,即成為漢字定訓的和語。
如前二ノ三節所述,基於定訓的和語表記——即特定漢字(如「犬」)作為特定和語(如イヌ)的讀法定著,進而特定和語(イヌ)用特定漢字(犬)來表記——這是以漢文式表記書寫日語的根本機構。那麼,這種定訓在何處成立?就本稿主要考察的平安鎌倉時代為止的情況而言,應當是在加訓點等閱讀漢文文獻、即所謂漢文訓讀的場合中形成的。
【1】定訓に基づく表記(後半)p. 10
実際の漢文訓読においては、漢字と和語とは多対多の関係を持つことが珍しくないが、その使用頻度や意味上の対応の強さなどに応じて、上記の定訓の関係が多くの字/語において成立していったのであろう。よって漢字の表語面を活用する(い)式の日本語表記においては当然そうした、漢字での表記が可能な語が選ばれる(それらの語に制限される)ということになる。
一方そういった場に、則ち漢文を訓読する際に用いられなかった語彙(それらは漢文が含む漢字の意味に上手く対応しない語則ち日本語独自の意味を持つ語や、漢文を読み下す時の文体にそぐわないと感じられた語であったろう)は、漢字と結び付く機会が得られなかったため、表記するための正訓字を持たず、延ては漢字の表語面を活用する(い)式の日本語表記においては現れることができない。
以上のことから、変体漢文の言語は「広義の漢文訓読語」(注10)をその基本的な装いとすることになる。これは本稿が題目とする、表記様式の影響による変体漢文の言語的特徴として筆頭に掲げられるものと言えるだろう。またこのことは逆に言えば和文系語彙(和文特有語や、口語・俗語の類)への制限でもある。こうした語彙は万葉仮名ないし仮名により、または所謂宛字(二ノ三節の例参照)により表記することは可能であった(これらはいずれも漢字の表音用法の混用になる)が、飽くまで例外的・補助的なものであった。オノマトペを典型とする、漢字を宛がいにくい語は自動的に切り捨てられることになり、これも変体漢文の言語の特徴に大きな影響を与えている(注11)。
文法・表現
- 【〜に応じて〜が成立していったのであろう】
- 意義:「〜に応じて」は「〜に従って・〜の程度に合わせて」の意の複合助詞。「〜のであろう」は推量の婉曲表現。歴史的事実の推定に使われる。
- 【延いては】
- 意義:「延いて(ひいて)は」=「さらに進んで・ひいては」の書き言葉的接続語。ある事態が広い影響に及ぶことを示す。
- 類義:さらには、ひいては。
- 【〜を典型とする】
- 意義:「〜を典型とする(〜類)」=「〜を代表例とする(類)」の意。典型例を示しつつ、その範疇を示す。
中文翻譯
在實際的漢文訓讀中,漢字與和語之間多對多的關係並不罕見,但根據使用頻率和語義對應的強度,許多字/語之間建立了上述定訓關係。因此在活用漢字表語面的(い)式日語表記中,自然選擇那些可用漢字表記的語(即被限定於這些語)。
另一方面,那些在漢文訓讀的場合中未被使用的語彙(它們是與漢文所含漢字的意義不能很好對應的語——即具有日語獨自意義的語,或被認為與讀下漢文時的文體不相稱的語),因為沒有機會與漢字相結合,因此沒有用於表記的正訓字,進而在活用漢字表語面的(い)式日語表記中無法出現。
由此,變體漢文的語言以「廣義的漢文訓讀語」(注10)為其基本面貌。這可以說是本稿所論——受表記樣式影響的變體漢文語言特徵——中最首要的一項。反過來說,這也意味著對和文系語彙(和文特有語及口語、俗語之類)的限制。此類語彙雖可通過萬葉假名或假名、或所謂宛字(參見二ノ三節例子)加以表記(這些都是漢字表音用法的混用),但終究只是例外性、輔助性的。以擬聲擬態詞為典型的、難以用漢字表記的語,會被自動捨棄,這也對變體漢文語言的特徵產生了深遠影響(注11)。
【1】語用上の補足・【2】《辞》の表記pp. 10–11
以上、変体漢文が(い)式の表記法であることから必然的にその語彙が「広義の漢文訓読語をその基本的な装いとする」ことを確認してきたのであるが、但し注意しておきたいのは、このことによって即座に、変体漢文の語彙が訓点資料の語彙と大凡で一致するとまで言えるわけではないということである。このことについて、以下の二点を指摘しておきたい。
一点目は、文体間共通語(注10参照)の合成による和文特有語・記録語の存在である。例えば、動詞ヤム・名詞コト・形容詞ナシはいずれも和文と漢文訓読文両方で用いられる文体間共通語であるが、それが複合したヤムゴトナシ(無止)は和文には用いられるが漢文訓読文には用いられない。しかし、語の構成要素はいずれも定訓により漢字表記が可能であるため、変体漢文では用いられる(例、経暹阿闍梨者是無レ止真言師、(中右記・寛治七(一〇九三)年十月三日))。
もう一点は、(い)式表記に由来する語形上の制約は、語義・用法上の制約とは必ずしも結び付かないということである。用法上の例として、副詞カネテを挙げよう。和文語カネテと訓読語アラカジメはいわゆる二形対立の例としてよく知られているが、変体漢文ではアラカジメだけではなくカネテも用いられる(二ノ三節の例(2)参照)。これはカネテが動詞カヌに由来する副詞であり、このカヌは漢文訓読の場で「兼」字の定訓となっており漢字表記が可能となっているため、それを援用してテ形のカネテもこの字で表記している。この副詞用法は漢文訓読文では用いられないが、そのことは変体漢文における使用の抑制には結び付いていないのである。
右の二点は、変体漢文の言語の中で非漢文訓読語的特徴を成すものと認められる(注12)。
前項【1】にて変体漢文の言語を漢文訓読語と関連付けたが、そこでも確認したように、両者は同一のものとまでは見なせない。…漢文的表記によって特に強い制約を受け、且つ日本語としては必須であるためこの読み添えに関ってくることが予想される要素として、所謂《辞》の部分がある。ここでは、助詞・助動詞・接辞・活用語尾の四つの観点から概観する(いずれも詳細については別稿を期す)。
文法・表現
- 【即座に〜とまで言えるわけではない】
- 意義:「即座に」=「すぐに・直接に」。「〜とまで言えるわけではない」は過度な一般化を否定する論文的留保表現。
- 【援用して】
- 意義:「援用(えんよう)する」=「他のものを応用・引用して利用する」。ある規則・用法を別の文脈に適用する際の書き言葉。
- 【別稿を期す】
- 意義:「期す(きす)」=「〜することを計画する・予定する」。論文で詳細は別の論文で扱う、という予告表現の定型。
- 類義:別稿に譲る、今後の課題とする。
中文翻譯
以上確認了由於變體漢文是(い)式表記法,其語彙必然「以廣義的漢文訓讀語為基本面貌」;但需要注意的是,並不能由此立刻說變體漢文的語彙與訓點資料的語彙大體一致。關於這一點,以下指出兩點。
第一點是通過文體間共通語(參見注10)合成產生的和文特有語・記錄語的存在。例如,動詞ヤム、名詞コト、形容詞ナシ都是在和文與漢文訓讀文中均使用的文體間共通語,但它們合成的ヤムゴトナシ(無止)雖用於和文,卻不用於漢文訓讀文。然而由於構成要素都可通過定訓進行漢字表記,因此在變體漢文中可以使用。
第二點是:源自(い)式表記的語形上制約未必與語義・用法上的制約相連。以副詞カネテ為例:和文語カネテと訓讀語アラカジメ是著名的二形對立例,但在變體漢文中不僅用アラカジメ,カネテ也被使用。這是因為カネテ源自動詞カヌ,而カヌ在漢文訓讀中成為「兼」字的定訓,可以用漢字表記,借此カネテ的テ形也用此字表記。カネテ的副詞用法在漢文訓讀文中不出現,但這並未導致其在變體漢文中被抑制。以上兩點可以認定為變體漢文語言中具有非漢文訓讀語特徵的部分(注12)。
在前項【1】中將變體漢文的語言與漢文訓讀語相關聯,但如前所確認,兩者並非完全同一。……受漢文式表記特別強烈制約、且作為日語必不可少、因而預計將涉及讀添問題的要素,是所謂《辭》的部分。此處從助詞、助動詞、接辭、活用語尾四個觀點進行概觀(各項詳細留待別稿)。
【2A】助詞pp. 12–13
変体漢文の言語における助詞は、漢字により表記可能な語・不読字により誘引される語・構文により補読可能な語、の三類に大別される。なおこの三類いずれも語形としては広義の漢文訓読語となる(前述【1】で述べた通り、語義・用法についてはこの限りではない)。
漢字により表記可能な語は、格助詞にニ(于(注14)・於)・ニオイテ(於)・ト(与。並列用法)・ヨリ(従・自)、連体助詞にノ(之。一部ガもあるか)、接続助詞にテ(而)・バ(者)、係助詞にハ(者)、副助詞にバカリ(許)、終助詞(または係助詞等の文末用法)にカ(歟)・ヤ(乎・哉)・カナ(哉)・ノミ・マクノミ・ラクノミ(耳・而已)などがある。
不読字により誘引される語とはどのようなものか。これは、田中(二〇一七ロ)で次のように分類した不読字の甲乙二類の内の乙類に相当するものである。
甲類 原則として読みに関与しないもの。但し文の断続には関与し得る。通時的に不読字のまま。 (例)矣・焉・兮
乙類 それ自体は読まれないが、特定の読みを(補読として)誘引するもの。 (例)之・于・於・也・乎
乙類について例を示して説明すると、例えば「于」は元々「于今」のように、それ自体は読まれないもののニという読みを誘引していた。また「也」は古くは不読であったが、この語があると直前の語にナリが読み添えられる強い傾向があった。構文により補読可能な語の例としては、格助詞ヲが筆頭に挙げられる。この語は日本語文に必須でありながら表記のための字を持たないが、SVOの漢文式語序に支えられて、多くの場合は文脈から補読することができる(例、送レ消息=消息ヲ送ル)。
以上に対して、表記のための文字もなく、不読字による誘引も無く、構文や文脈からの推測も効きにくいものとして、添加・卓立等の意味に関わる係助詞・副助詞がある。モ・コソ・スラ・サヘ・ノミなどがこれに当たる(注15)。よってこれらは変体漢文において現れ難い要素となる。
文法・表現
- 【三類に大別される】
- 意義:受動態による分類の提示。「大別される」は「大きく分けると〜になる」の受身形。論文の分析・整理の定型。
- 【〜に当たる(注15)】
- 意義:「〜に当たる」=「〜に相当する・〜の部類に属する」。列挙した例が前述の分類に対応することを示す。
- 【〜に支えられて】
- 意義:「〜に支えられる」=「〜によって可能になる・〜に依拠する」。ある言語的現象の成立条件を示す表現。
- 例:SVO漢文式語序に支えられて、補読できる。
中文翻譯
變體漢文語言中的助詞大致分為三類:可用漢字表記的語、由不讀字誘引的語、可由構文補讀的語。且這三類在語形上都屬於廣義的漢文訓讀語(如前【1】所述,語義・用法不受此限)。
可用漢字表記的助詞有:格助詞ニ(于・於)・ニオイテ(於)・ト(与,並列用法)・ヨリ(従・自),連體助詞ノ(之),接続助詞テ(而)・バ(者),係助詞ハ(者),副助詞バカリ(許),終助詞(或係助詞文末用法)カ(歟)・ヤ(乎・哉)・カナ(哉)・ノミ・マクノミ・ラクノミ(耳・而已)等。
所謂「由不讀字誘引的語」,是田中(二〇一七ロ)中所分類的不讀字甲乙二類中的乙類。甲類:原則上不參與讀音,但可參與文句的斷續,通時的地保持不讀字狀態(例:矣・焉・兮)。乙類:本身不被讀出,但誘引特定讀音(作為補讀)(例:之・于・於・也・乎)。以乙類為例:「于」原本如「于今」那樣,本身不讀但誘引ニ的讀音;「也」古時為不讀字,但其出現會強烈誘引前語讀添ナリ。
可由構文補讀的語以格助詞ヲ為首。ヲ對日語文必不可少,卻無表記用字,但依靠漢文式SVO語序,多數情況下可從文脈補讀(例:送レ消息=消息ヲ送ル)。
相對地,既無表記文字、又無不讀字誘引、且難以從構文或文脈推測的,是表示添加・卓立等意義的係助詞・副助詞,如モ・コソ・スラ・サヘ・ノミ等(注15)。因此這些是在變體漢文中難以出現的要素。
【2B】助動詞p. 13
助動詞も助詞と同様に、漢字により表記可能な語・不読字により誘引される語・構文や文脈により補読可能な語、の三類に大別される。まず漢字により表記可能な語であるが、助詞に較べて助動詞はこの例が比較的多い。みとめ方に関わるズ(不)、ヴォイスや待遇に関わるル・ラル(被)・シム(令)、指定に関わるナリ(也)・タリ(為)、アスペクトに関わるムトス(欲)、モダリティに関わるベシ(可)・ゴトシ(如)などである。またいわゆる再読文字によって表現される助動詞句で、変体漢文でも用いられるものとして、イマダ〜ズ(未)、マサニ〜ムトス(将)、ヨロシク〜ベシ(宜)、スベカラク〜ベシ(須)、マサニ〜ベシ(応)等が挙げられる。
構文により補読可能な語の例としては、指定に関わるナリ・タリがあり、文脈により補読可能な語の例としてはテンスに関わるキ、アスペクトに関わるリ・タリ等がある。変体漢文訓点資料を見ると、過去の事態であることが文脈上うかがわれる行為に必ずキが読み添えられるわけではない。リ・タリは変体漢文訓点資料に豊富に例があるが、これらについても同様であり、読み手次第で加除されるものであって変体漢文が言語として内在するものではないと考えられる(二ノ二節参照)。
以上に対して、表記のための文字もなく、不読字による誘引も無く、構文や文脈からの推測も効きにくいものとして、メリ・終止ナリ・ラム・ケムなどの推量に関わる助動詞の多くや、希望の助動詞マホシ・タシ等がある。またテンスを文字上に明示化できないという制約から、変体漢文においてテンスは文法的にではなく語彙的(典型的には日時を表す名詞・副詞等との共起)に表示される、則ち中国語的な傾向を有することが推測される。
文法・表現
- 【ヴォイスや待遇に関わる】
- 意義:「ヴォイス(voice)」は言語学用語で「態(能動・受動等)」。「待遇(たいぐう)」は相手への敬意・配慮を表す文法的カテゴリー。
- 専門的文法用語を並列する日本語学論文の典型的な記述スタイル。
- 【読み手次第で加除されるもの】
- 意義:「読み手次第」=「読む人によって決まる」。「加除」=「加えたり省いたりすること」。訓讀の可変性・不確定性を示す表現。
- 【語彙的に表示される】
- 意義:「語彙的(ごいてき)」=「語彙の選択によって」。「文法的(ぶんぽうてき)」と対比して、文法形式ではなく語彙で意味を表すことを示す。
- 日本語学・言語学の基本概念。「時制を語彙的に表示する」=「昨日・明日などの時間詞で時制を示す」。
中文翻譯
助動詞與助詞相同,也大致分為三類:可用漢字表記的語、由不讀字誘引的語、可由構文或文脈補讀的語。可用漢字表記的助動詞比助詞更多,有:表示否定的ズ(不),表示態或待遇的ル・ラル(被)・シム(令),表示指定的ナリ(也)・タリ(為),表示體貌的ムトス(欲),表示情態的ベシ(可)・ゴトシ(如)等。另外,通過所謂再讀文字表現的助動詞句在變體漢文中也有使用,如:イマダ〜ズ(未)、マサニ〜ムトス(将)、ヨロシク〜ベシ(宜)、スベカラク〜ベシ(須)、マサニ〜ベシ(応)等。
可由構文補讀的有表示指定的ナリ・タリ,可由文脈補讀的有表示時制的キ、表示體貌的リ・タリ等。從變體漢文訓點資料來看,並非凡文脈上可見為過去事態的行為都必然讀添キ。リ・タリ在訓點資料中例子豐富,但同樣是依讀者而異、可加可減的,可認為並非作為語言內在於變體漢文中(參見二ノ二節)。
相對地,既無表記文字、又無不讀字誘引、且難以從構文文脈推測的,是表示推量的助動詞,如メリ・終止ナリ・ラム・ケム等多數,以及表示希望的マホシ・タシ等。此外,由於無法在文字上明示時制,在變體漢文中,時制的表示不是文法性的,而是語彙性的(典型的是與表示日時的名詞・副詞等共現),即具有中文式的傾向。
【2C】接辞・【2D】活用語尾pp. 14–15
【2C】接辞
変体漢文の接辞は、広義の漢文訓読語に属するものとそうでないものとに分けられる。前者は接頭語アヒ(相)、接尾語ゴトニ(毎)・ラ(等)等であるが、数は多くない(築島(一九六三)五五頁)。なお語義・用法は必ずしも漢文訓読語と一致しないことはこれまでの例と同様である。
一方後者の、漢文訓読語に属さないものとは、接頭語ウチ(打)・接尾語トノ(殿)のように接辞としては漢文訓読文では基本的に用いられないが、語源を同じくする語などが漢文訓読文でも用いられるために表記可能なものである。他に敬意を表す接頭語「御」も訓読文では基本的に用いられないが変体漢文では頻用される。
【2D】活用語尾
漢字の表語面を活用する方法によって表記できるのは語の一般的な形であり、語の個別的な形は表記できない。よって変体漢文においては用言の活用は原則として表記されない。無論、助動詞の接続や、体言修飾における連体形など、語と語の接続における活用は他文体と同様に行われていたはずで、それは変体漢文訓点資料の状況からも確認できるが、原理的には、文が断れるか続くかを明示できないことになる。連体形終止も表現し得ない。また音便も表示されない(注16)。係り結びは、先述の「誘引」の現象を考慮すると、係りの語句が表示されていれば呼応となる結びの活用も補読されたはずであるが、係り結びに関わる係助詞は基本的に変体漢文では表現されないので、これも望み難い。
文法・表現
- 【〜に属するものとそうでないものとに分けられる】
- 意義:二項対立の分類を示す論文定型。「〜と~とに分けられる」は受身形により客観的分類を表す。
- 【〜ために表記可能なものである】
- 意義:「〜ために」は原因・理由。「表記可能なもの」は「表記できるもの」の書き言葉的表現。論拠から結論を導く典型的な論文文体。
- 【原理的には〜ことになる】
- 意義:「原理的には」=「理論上は・原則として考えれば」。「〜ことになる」は論理的帰結を示す。実態でなく理論的帰結を述べる際に使われる。
- 【〜し得ない】
- 意義:「〜し得(え)ない」=「〜することができない」の文語的・書き言葉的表現。「表現しえない」「実現しがたい」と同種。
中文翻譯
【2C】接辭
變體漢文的接辭可分為屬於廣義漢文訓讀語的與不屬於的兩類。前者有接頭語アヒ(相)、接尾語ゴトニ(毎)・ラ(等)等,但數量不多(築島(一九六三)五五頁)。另外,語義・用法不一定與漢文訓讀語一致,這一點與前述例子相同。
另一方面,後者,即不屬於漢文訓讀語的,是像接頭語ウチ(打)・接尾語トノ(殿)這樣,作為接辭在漢文訓讀文中基本上不使用,但由於與其同源的語在漢文訓讀文中也有使用,因此可以表記的詞。此外,表示敬意的接頭語「御」在訓讀文中也基本不用,但在變體漢文中被頻繁使用。
【2D】活用語尾
通過活用漢字表語面的方法可以表記的是語的一般形式,語的個別形式無法表記。因此在變體漢文中,用言的活用原則上不被表記。當然,助動詞的接續、體言修飾中的連體形等,語與語接續時的活用應與其他文體相同地進行,這也可從變體漢文訓點資料的情況中確認,但在理論上,文的斷續便無法明示。連體形終止也無法表現。音便也不被表示(注16)。關於係り結び,若考慮到前述的「誘引」現象,若係り語句被表示,則作為呼應的結び活用應也被補讀;但由於係り結び相關的係助詞在變體漢文中基本上不被表現,這也難以實現。
【2E】制約への対応(前半)pp. 15–16
【2E】制約への対応
以上で見てきたように、変体漢文においては幾つかの手段を活用して《辞》の顕在的・潜在的表現が行われているのであるが、漢文式の表記法による制約は大きく、表現できないものも少なくない。しかしその一方で、変体漢文においては、宛もそうした制約による欠如を補おうとするかのように、種々の対応が認められるのである。
その典型としては独自の語句の活用がある。既に述べた中では助動詞相当のヲハンヌ(了・畢・訖)がこれに当たる。また助動詞ではムが表記できないが、その内の意志用法についてはムトス・ムトオモフ(欲)がこれを補っている。その他に、接続助詞ではそのバラエティの不足を補うように連語のヨッテ(依)やイヘドモ(雖)が活用されている(例、相府答云「此事所存、然而依レ不レ可レ闕、雖レ極無レ便所レ検討也」者、(小右記・長和四(一〇一五)年六月十三日))。また変体漢文では敬意表現としてシメタマフ(令〜給)という和文にも漢文訓読文にも見られない表現が用いられるが(築島(一九七〇))、これは和文におけるセタマフ・サセタマフのス・サスが変体漢文では表記できないため、この語に相当するシム(令)で代替することによって生まれた表現と捉えられる(田中(二〇一八))。
格助詞では、表記されないが文構造により復元可能な語としてヲ・ニを挙げたが、逆に言えば「送レ消息」が「消息ヲ送ル」となり「送レ清水ニ」が「清水ニ送ル」のような不安定さがあり、また「消息ヲ清水ニ送ル」のように両方の格を取る構文をどのように表記するかという問題がある。これに対しては、ニに「於」を宛てて「送レ消息於二清水一」(小右記・長元元(一〇二八)年九月廿一日)とするような方法もあるが、〜ヲモッテ(以)によってヲ格を顕在化して「以レ消息レ送レ奈良」(殿暦・天永三(一一一二)年二月九日)のようにすることも行われている。この他にも後述のように変体漢文で「以」が果たしている役割には色々なものがあるようである。
文法・表現
- 【宛もそうした制約による欠如を補おうとするかのように】
- 意義:「宛も(あたかも)〜かのように」=「まるで〜であるかのように」。類比・比喩的な言い方で、意図的な補完ではなく、結果的にそう見える、という表現。
- 学術文で客観的に「まるで〜のような現象」を描写する際に用いる。
- 【これに対しては〜するような方法もあるが】
- 意義:「これに対しては」は問題への対応策を導く。「〜するような方法もあるが」は一方の策を提示しつつ、逆接で別の方法に繋げる構造。
- 【〜のようにすることも行われている】
- 意義:「行われている」は受身の習慣的・反復的用法。「〜という方法が実際に採用されていた」という事実を客観的に述べる表現。
中文翻譯
【2E】對制約的應對
如上所見,變體漢文中通過幾種手段對《辭》進行了顯在的・潛在的表現,但漢文式表記法帶來的制約很大,無法表現的部分也不少。然而另一方面,在變體漢文中,宛如要彌補那些因制約而造成的缺失,出現了種種應對方法。
其典型是獨自語句的活用。在前文中已述及的有相當於助動詞的ヲハンヌ(了・畢・訖)。此外,助動詞ム無法表記,但其中的意志用法由ムトス・ムトオモフ(欲)加以補充。接續助詞方面,連語ヨッテ(依)和イヘドモ(雖)被活用,以補充接續助詞種類的不足(例:相府答云「此事所存、然而依レ不レ可レ闕、雖レ極無レ便所レ検討也」者,(小右記・長和四(一〇一五)年六月十三日))。另外,變體漢文中使用シメタマフ(令〜給)這一在和文和漢文訓讀文中均未見的敬意表現(築島(一九七〇)),這被認為是因為和文中セタマフ・サセタマフ的ス・サス在變體漢文中無法表記,以與此相當的シム(令)替代而產生的表現(田中(二〇一八))。
格助詞方面,雖舉出了ヲ・ニ作為不表記但可由文構造復元的語,但反過來說,「送レ消息」讀為「消息ヲ送ル」、「送レ清水ニ」讀為「清水ニ送ル」,存在不穩定性,而且同時帶兩個格的「消息ヲ清水ニ送ル」這樣的構文如何表記也成問題。對此,有將ニ用「於」表記為「送レ消息於二清水一」(小右記・長元元(一〇二八)年九月廿一日)的方法,也有通過〜ヲモッテ(以)使ヲ格顯在化,如「以レ消息レ送レ奈良」(殿暦・天永三(一一一二)年二月九日)的做法。此外,如後文所述,「以」在變體漢文中發揮的作用似乎還有各種各樣的面向。
【2E】制約への対応(後半)p. 16
また、発話等の引用を示す助詞トは変体漢文では表記されず、結果的にこの語によって引用の終わりを示すことができなくなっているが(引用の開始は「曰」などにより示せる)、その代わりに「者(テヘリ・テハレバ)」や「云々」を活用することでこの欠を補っている。
また接続助詞においては、副詞と共起させることによる意味の特定も行われている。例えばバ(者)は未然形に接続すると仮定条件を、已然形に接続すると確定条件を表すが、【2D】で見たようにこの区別は変体漢文では表示されない。そこで変体漢文では、副詞モシを付加して「若致レ懈怠者」(源頼朝言上状・文治元(一一八五)年十二月六日・鎌倉遺文26)のようにすることで、仮定用法であることを明示している。同様に、「雖」は逆接確定にも逆接仮定にも用いられるものであったが(但し、用法に応じてイヘドモとイフトモとを訓み分けていたか、イヘドモ一訓で両方の意味を表していたかは不分明)、変体漢文ではタトヒ(縦・設など)を付加することで、逆接仮定であることを明示している(例、縦自レ他方雖レ申レ栄爵、一切不レ可レ裁許、(小右記・治安三(一〇二三)年十二月五日))。これらを逆に言えば、仮定条件のバがモシと共起しやすいことや、逆接仮定のイヘドモ(イフトモ)がタトヒと共起しやすいことが、変体漢文の言語の特徴となるわけである。
またダニ・スラ・サヘのような範列的関係、則ち同類の他語との関係を表すような助詞の表現は変体漢文では適わないと述べたが、吾妻鏡においては、こうした助詞が使えない分、その代用となるような副詞を用いる工夫が見られるという指摘がある(青木(一九七六))。このことは他の変体漢文資料においても程度差こそあれ認められるものと思われる。またこれは確認が難しいであろうが、文脈によって推読可能なヲ格を、モッテ(以)によって敢えて顕在化させることには、とりたて詞的な卓立の意図を読み取る余地があるように思われる。
活用語尾が書けないことは、文章読解上必ずしも大きな障壁とはならないが、比較的問題となるのは文の断れ続きを明示できないこと、断れの一種である命令形が明示できないことである。前者については、頻用されているわけではないが特定の不読字(矣・焉)によって文終止を示す方法がある。また「也」は助動詞ナリの中でも特に終止形のみを示すのが普通であるので、これも文終止を示すのに効果的である。また命令形については、文脈によっては補読できたようだが(例、承聞之次令(セヨト)奏達(シ)給、(享禄本雲州往来・三九通))、かなり限定的であったと思われる。類義を表すベシ(可、また再読文字の宜・須なども)の活用がこれを補っているものと考えられる。
右に見てきたことは、「仮名が使えない」という困難が変体漢文において却って独自の語彙・文体を生み出す要因となっているものと見ることができ興味深い。
文法・表現
- 【その代わりに〜ことでこの欠を補っている】
- 意義:「この欠(けつ)を補う」=「この欠如・不足を補う」。漢字語「欠」は書き言葉的。「その代わりに」は代替手段を導く。
- 【〜こそあれ認められるものと思われる】
- 意義:「〜こそあれ」=「〜の違いはあるが」。程度差を認めつつも全体的な傾向を肯定する表現。「〜と思われる」は推測の婉曲。
- 【〜余地があるように思われる】
- 意義:「余地(よち)がある」=「可能性・空間がある」。「〜ように思われる」と組み合わせ、断定を避けた慎重な解釈提示。
- 【却って〜要因となっているものと見ることができ興味深い】
- 意義:「却って(かえって)」=「逆に・むしろ」。逆説的な事実を指摘し、「興味深い」で締める。学術文での発見の提示に使われる定型。
中文翻譯
另外,表示發話等引用的助詞ト在變體漢文中不被表記,結果無法通過這個詞來表示引用的結尾(引用的開始可以通過「曰」等來表示),但取而代之,通過活用「者(テヘリ・テハレバ)」和「云々」來彌補這一缺失。
另外,接續助詞方面,也通過與副詞共現來特定語義。例如,バ(者)接續未然形表示假定條件,接續已然形表示確定條件,但如【2D】所見,這一區別在變體漢文中無法表示。因此在變體漢文中,通過添加副詞モシ,如「若致レ懈怠者」(源頼朝言上状・文治元(一一八五)年十二月六日・鎌倉遺文26),來明示是假定用法。同樣地,「雖」既可用於逆接確定也可用於逆接假定(但根據用法是訓讀區分為イヘドモ和イフトモ,還是一訓イヘドモ表示兩種意思,尚不分明),變體漢文中通過添加タトヒ(縦・設等)來明示是逆接假定(例:縦自レ他方雖レ申レ栄爵、一切不レ可レ裁許,(小右記・治安三(一〇二三)年十二月五日))。反過來說,假定條件的バ易與モシ共現,逆接假定的イヘドモ(イフトモ)易與タトヒ共現,正是變體漢文語言的特徵。
關於ダニ・スラ・サヘ這樣表示範列關係——即與同類其他語之關係——的助詞在變體漢文中難以表現,已前述;但有指摘指出,在《吾妻鏡》中,因無法使用這些助詞,可以看到活用替代性副詞的巧思(青木(一九七六))。這在其他變體漢文資料中,程度不一,應也可以認可。另外,雖確認困難,但對於從文脈可推讀的ヲ格用モッテ(以)特意使其顯在化,似乎有讀出取立詞式卓立意圖的餘地。
活用語尾無法書寫這一點,未必構成文章理解上的重大障壁,但相對成問題的是無法明示文的斷續,以及作為斷句一種的命令形無法明示。關於前者,雖非頻用,但有通過特定的不讀字(矣・焉)來表示文終止的方法。「也」在助動詞ナリ中通常只表示終止形,因此也有效地用於表示文終止。關於命令形,從文脈來看有時可以補讀(例:承聞之次令(セヨト)奏達(シ)給,(享禄本雲州往来・三九通)),但應相當有限。表示類義的ベシ(可,另有再讀文字的宜・須等)的活用被認為補充了這一不足。
以上所見,「無法使用假名」這一困難,在變體漢文中反而成為孕育獨自語彙・文體的要因,耐人尋味。
【3】語の漢字化pp. 17–18
【3】語の漢字化
【2A】で述べたように、漢字の表音機能ではなく表語機能を基盤とする変体漢文においては、漢字によって表語できない和文系語彙は利用できない。反対に、漢字の表語機能によって最も表記しやすいのは字音語であり、変体漢文でもこれが存分に活用された。書き手にとって、和文系語彙の不足を補うのに大きな役割を果たしたであろう。極端に言えば、読み方を知らなくても字面さえ知っていれば語彙として取り込めたわけである。読みを持たない字である不読字が変体漢文に使用されることも、これと揆を一にする事象と捉えられる。
また、語の漢字化は和製漢語の醸成にも直接に影響している。和製漢語は、広義には中国になく日本で作られた字音語を指し、狭義には和語を漢字表記してその漢字を字音読みすることにより新たに生じた語を指す。前者は必ずしも文字化に関わらないが、後者は和語の漢字表記ということが直接に関わるため、変体漢文は(広義のみならず)狭義の和製漢語が生まれる重要な土壌であった。火事(ヒノコト→クワジ)、返事(カヘリゴト→ヘンジ)、兼日(カネテノヒ→ケムジツ)、寄進(ヨセマヰラス→キシン)、腹立(ハラダチ→フクリフ)などの例が知られている。
語の漢字化が和製漢語を生み出すのは、その字面が音読みか訓読みかを明示しないためであるが、このことはまた、和語と漢語とを合成することへの抵抗感を減じ、混種語を生み出す要因にもなっていたことが考えられよう(松下(一九五一)本論二参照)。
語の漢字化に関わる事象としてもう一点、品詞性の拡張ということを挙げる。文字の表語面を活用する表記方法の下では、一語の内部の変異は表記に反映されない。日本語においては、このことは典型的には体言の格と用言の活用との(非)表示という形で現れる(松下(一九五一)本論一に言う「零表記」にほぼ相当)。この結果、本来の日本語では比較的明瞭な体言と用言の相違が変体漢文では視覚上に得にくくなり、例えば「参内之間」や「消息到来」がそれぞれ「参内セル間」「消息到来ス」のようにも「参内ノ間」「消息到来ノ」のようにも読まれるようになる。後者の場合、体言が用言的に用いられているとも、用言が体言的な形を採っているとも解釈される状態になっている。そうしたものが具体的にどれほどあったかは判らないが(助動詞キなどの読み添えと同様に、読み手次第という面があったと考えられる)、享禄本雲州往来に「連日参内之間」「自愛之処」(それぞれ二通、十七通)のような例があり、事象として存したこと自体は確かである(高山寺本古往来での状況について、小林(一九七二)第七節を参照)。こうしたものが一般化する中で、現代の「八月上旬頃が最も見頃」「正面入口にて受付」のような、「非陳述的書記」(矢田(二〇一二)第一編第三章)と呼ばれる言語表現が生じたものと考えられる。
文法・表現
- 【これと揆を一にする事象と捉えられる】
- 意義:「揆(き)を一にする」=「同じ原理・方針による」の書き言葉的慣用句。「捉えられる」は受身的な推測表現。
- 現代語なら「同じ性質のことと考えられる」。
- 【〜のみならず〜】
- 意義:「のみならず」=「だけでなく」の書き言葉的接続。広義・狭義の両方に言及する際の表現。
- 【〜ことが考えられよう】
- 意義:「〜よう」は意志・推量の助動詞。「考えられよう」=「考えられるだろう」の書き言葉的形。読者への同意誘導を含む婉曲推量。
- 【〜と呼ばれる言語表現が生じたものと考えられる】
- 意義:「〜と呼ばれる」は先行研究の用語を引用する形式。「〜ものと考えられる」は長い論証の末に到達した推論を示す定型。
中文翻譯
【3】語的漢字化
如【2A】所述,以漢字表語機能而非表音機能為基盤的變體漢文,無法利用漢字無法表語的和文系語彙。反之,最容易通過漢字表語機能表記的是字音語,變體漢文中也充分加以活用。對於書寫者而言,這應當在彌補和文系語彙不足方面發揮了重要作用。極端地說,即使不知道讀法,只要知道字面便可作為語彙吸收。不讀字(無訓讀的字)被使用於變體漢文,也可被認為是與此同一原理的事象。
另外,語的漢字化也直接影響了和製漢語的醸成。和製漢語,廣義上指中國沒有而在日本創造的字音語;狹義上指通過將和語用漢字表記,再以字音讀那些漢字,由此新產生的語。前者未必與文字化相關,但後者直接關係到和語的漢字表記,因此變體漢文是(不僅廣義,也是)狹義和製漢語誕生的重要土壤。已知的例子有:火事(ヒノコト→クワジ)、返事(カヘリゴト→ヘンジ)、兼日(カネテノヒ→ケムジツ)、寄進(ヨセマヰラス→キシン)、腹立(ハラダチ→フクリフ)等。
語的漢字化產生和製漢語,是因為其字面不明示是音讀還是訓讀;而這同時也可認為減低了將和語與漢語合成的抵抗感,成為產生混種語的要因(松下(一九五一)本論二參照)。
作為語的漢字化相關事象,再舉一點——品詞性的擴張。在活用文字表語面的表記方法下,一語內部的變異不被反映於表記。在日語中,這典型地以體言的格和用言的活用的(非)表示形式出現(近乎松下(一九五一)本論一所說的「零表記」)。其結果,原本日語中體言與用言相對分明的差異在變體漢文中視覺上難以辨別,例如「参内之間」和「消息到来」分別可讀為「参内セル間」「消息到来ス」,也可讀為「参内ノ間」「消息到来ノ」。後者的情況下,已成為體言被用言的方式使用,或用言採取體言形式,兩種解釋均可的狀態。其中具體有多少難以確定(如助動詞キ的讀添,也有取決於讀者的一面),但《享禄本雲州往来》中有「連日参内之間」「自愛之処」(分別見第二通、第十七通)等例子,這一事象確實存在(關於高山寺本古往来的狀況,參見小林(一九七二)第七節)。隨著此類現象的一般化,可認為現代「八月上旬頃が最も見頃」「正面入口にて受付」這樣被稱為「非陳述的書記」(矢田(二〇一二)第一編第三章)的語言表現由此產生。
【4A】翻訳文法pp. 18–19
【4】日本語と中国語の文構成の相違
【4A】翻訳文法
変体漢文の言語は日本語であって中国語ではないが、中国語を日本語として訓み下す漢文訓読という機構をその土台としているため、漢文訓読語における、漢文法に由来する文法(大坪(一九八一)はこれを「翻訳文法」と呼ぶ)を変体漢文でもそのまま(または若干形を変えて)活用する場合がある。例えば、中国語文では受け身文の動作主を「為X」で示すことがあり、漢文訓読文ではこれを読み下して「Xの為にVせらる」(=XニヨッテVサレル)という文型が生じるが、変体漢文でもこれを借りて「為X被V」という文型を採ることがある。
〇一昨、華山院女王為レ盗人被レ殺害、路頭死、夜中為レ犬被レ食、(小右記・万寿元(一〇二四)年十二月八日)
〇賀茂別雷社神主成真、於二貴布祢社御前一、為レ敵人被レ射損者、(官文殿続文・寛元二(一二四三)年十月十日・鎌倉遺文6384)
また変体漢文ではノミ(耳・而已)やイカン(如何)によって文が終止する例が見られるが、これらも「翻訳文法」の借用と言え、直接には日中両語の文構成の相違に起因するものである。
〇問二其趣一、云「有二旱魃事一而已」者(小右記・寛仁三(一〇一九)年五月廿日)
〇卯剋許送レ消息於頭中将許云「明日除目可レ被レ延引歟、故如何」者、(殿暦・長治元(一一〇四)年十一月十一日)
ところで、小林芳規氏は漢文訓読文について「既に所与の漢文を所定の日本語で理解するところから語詞・語法に漢文的言い廻しがあり和歌や口頭語とは異なる説明的な文章語の性格を持つ」と指摘されている(築島・小林(一九八〇)二五二頁)。変体漢文は「所与」のものではなく新たに作り出される文章ではあるが、漢文訓読文と同じく「説明的な文章語の性格」を有するものと考えられる。そしてそれは漢文式に書く、つまり中国語式に語を連ねるという表記上の方法から自ずと導かれる文体なのであろうと考えられる。それらを具体的な要素によって論じる用意は今の稿者には無いが、例えば和文では省略し易い要素が変体漢文では省略しにくい(注17)とか、或いは和文では一文で言えることが変体漢文では文を一旦区切らないと書き表しにくい(注18)といったことが、その要因として挙げられるのではないかと思われる。これらも大きな意味での翻訳文法に由来する特徴と呼ぶことができるだろう。
文法・表現
- 【〜という機構をその土台としているため】
- 意義:「機構(きこう)」=「仕組み・メカニズム」の書き言葉。「〜を土台とする」は「〜を基盤にする」の比喩的表現。「〜ため」は理由節。
- 【〜と指摘されている】
- 意義:受身形で先行研究の見解を引用する定型。「〜と述べている」より客観性を強調。引用者が同意している含意。
- 【自ずと導かれる文体なのであろうと考えられる】
- 意義:「自ずと(おのずと)」=「自然に・おのおのに」。「〜のであろう」(推量)+「〜と考えられる」(客観的推測)の二重婉曲。最も慎重な推論提示の形式。
中文翻譯
【4】日語與中文文章構成的相異
【4A】翻譯文法
變體漢文的語言是日語而非中文,但由於以將中文訓讀為日語的漢文訓讀這一機制為其土台,在漢文訓讀語中存在源自漢文文法的文法(大坪(一九八一)稱之為「翻譯文法」),變體漢文有時也原樣(或稍作變形)加以活用。例如,中文中被動文的動作主以「為X」表示,漢文訓讀文將其讀下為「XのためにVせらる」(=XニヨッテVサレル)這一文型;變體漢文中也借用這一文型,採用「為X被V」的文型。
〇一昨、華山院女王為レ盗人被レ殺害、路頭死、夜中為レ犬被レ食、(小右記・万寿元(一〇二四)年十二月八日)
〇賀茂別雷社神主成真、於二貴布祢社御前一、為レ敵人被レ射損者、(官文殿続文・寛元二(一二四三)年十月十日・鎌倉遺文6384)
另外,變體漢文中有以ノミ(耳・而已)或イカン(如何)終止文的例子,這些也可說是「翻譯文法」的借用,直接源於日中兩語文章構成的相異。
〇問二其趣一、云「有二旱魃事一而已」者(小右記・寛仁三(一〇一九)年五月廿日)
〇卯剋許送レ消息於頭中将許云「明日除目可レ被レ延引歟、故如何」者、(殿暦・長治元(一一〇四)年十一月十一日)
話說,小林芳規氏就漢文訓讀文指出「由於是從既有的漢文以規定的日語理解,詞語・語法上帶有漢文的說法,具有不同於和歌及口頭語的說明性文章語的性格」(築島・小林(一九八〇)二五二頁)。變體漢文雖是新創作的文章而非「既有」之物,但可認為與漢文訓讀文同樣具有「說明性文章語的性格」。而這應是從以漢文式——即以中文式——排列語詞這一表記上的方法中自然導出的文體。目前筆者尚無用具體要素加以論述的準備,但例如和文中容易省略的要素在變體漢文中不易省略(注17),或者和文中一句話能說清楚的,在變體漢文中不先斷開文便難以書寫(注18),這些應可作為其要因列舉。這些也可稱為廣義翻譯文法所由來的特徵。
【4B】修辞p. 19
【4B】修辞
修辞上の問題も、日中両語の文構成の相違に基づくものとして捉え得るだろう。先述の【2D】にて、変体漢文は係り結びを表現できないことを述べたが、係り結びは漢文訓読文においてもその使用が極めて限定的であることが知られている(係助詞自体の使用に制約が大きい。築島(一九六〇)参照)。これについて「漢文訓読文が、情意的なものの介入を排して、事柄を事柄として伝達することを専らとするものであることを、よく示している」との解釈がある(阪倉(一九九三)二七〇頁)。漢文訓読文においては訓点さえ差せば係り結びは表現できたはずであり、それをしていないのは漢文訓読文の文章上の性格に基づくのであると見るのである。
他方、変体漢文においてはそもそも係り結びを表現する手段がない。この制約は、変体漢文が基本的には日常的な書き物に用いられるものであり、仏典や漢籍の訓読文よりも一層「事柄を事柄として伝達することを専らとするもの」である以上は、特に支障とはならなかったと考えられるが、しかし実際には変体漢文の文章において「情意的なものの介入」が行われることは、ないではなかった。例えば日記において、その日の出来事に対して記主が自らの感想を記す場合、上申文書において、自らの窮状や要望を効果的・説得的に述べようとする場合、吾妻鏡などの典籍において、ドラマチックな場面を描こうとする場合、などがこれに当たる。こうした場合には変体漢文は、係り結びや種々の推量助動詞によるような和文的な情意の表現はできなかった代わりに、対句を中核とする漢文的な情意の表現が可能であった。同様に、掛詞や引歌が困難な代わりに、彼土の故事の引用は容易であった(注19)。これらは言うまでもなく、その表記様式ゆえに変体漢文の言語が有している特徴である。
文法・表現
- 【〜として捉え得るだろう】
- 意義:「捉え得る(とらえうる)」=「捉えることができる」の書き言葉的形。「〜だろう」の推量と合わせて、解釈の提示を慎重に行う表現。
- 【ないではなかった】
- 意義:「ないではない」=「なくはない・たまにはある」という二重否定。全否定を避けた婉曲的肯定。「あった」より弱く、完全にゼロとは言えないことを示す。
- 類義:なきにしもあらず、稀ではなかった。
- 【〜の代わりに、〜が可能であった】
- 意義:「〜の代わりに」は代替関係を示す。できないものの代わりにできるものがある、という変体漢文の「補完」構造を論じる際の定型。
- 【言うまでもなく】
- 意義:「言うまでもなく」=「述べるまでもなく・もちろん」。論文で前提として共有されることを確認する際の副詞的表現。
中文翻譯
【4B】修辭
修辭上的問題,也可作為基於日中兩語文章構成相異的事象來把握。在前述【2D】中提到,變體漢文無法表現係り結び;而係り結び在漢文訓讀文中的使用也是極為有限的(係助詞本身的使用有很大限制,參見築島(一九六〇))。關於這一點,有解釋認為「很好地表明了漢文訓讀文以排除情意性介入、將事物作為事物傳達為專務的性格」(阪倉(一九九三)二七〇頁)。漢文訓讀文中只要添加訓點,係り結び本應可以表現,而未這樣做,被認為是基於漢文訓讀文文章上的性格。
另一方面,變體漢文根本就沒有表現係り結び的手段。這一制約,由於變體漢文基本上被用於日常性書寫,比佛典和漢籍的訓讀文更是「以將事物作為事物傳達為專務」,因此應不構成特別的障礙;但實際上,在變體漢文的文章中,「情意性的介入」也並非不存在。例如:日記中記主記錄對當天事件的感想之時;上申文書中要有效・說服性地陳述自身窮狀或要求之時;《吾妻鏡》等典籍中試圖描繪戲劇性場面之時,等等,皆屬此列。在這些情況下,變體漢文雖無法像和文那樣通過係り結び和各種推量助動詞表達情意,卻可以以對句為核心進行漢文式的情意表現。同樣,掛詞和引歌難以實現,而中土故事的引用卻易於進行(注19)。這些不言而喻,都是因其表記樣式使然,是變體漢文語言所特有的特徵。
§3 まとめ及び展望pp. 19–24
第四節 まとめ及び展望(前半)pp. 19–20
以上、本稿では表記体に起因する変体漢文の言語的特徴について分類して記述を行った。変体漢文の言語に影響する表記上の特徴と、それにより影響された言語上の特徴とを簡潔にまとめると、次のようになる。
【1】定訓に基づく表記 → 語形の面における広義の漢文訓読語の採用、和文系語彙の排除
【2】《辞》の表記における制約 → 代替語句の活用、共起語による語義の補強など
【3】語の漢字化 → 字音語の活用、和製漢語・混種語の醸成、品詞性の拡張など
【4】日本語と中国語の文構成の相違 → 翻訳文法の摂取、漢文・漢詩文的修辞の活用
勿論、変体漢文の言語が同時代の他文体に比して有する特徴は、決してその全てが表記体に起因するわけではなかろう。表記体の制約を超えたところで獲得した特徴もまた存するはずである。しかし、変体漢文という(現代から見ると)特異な表記方法がその言語に及ぼした影響も大きいはずと考え、その観点からの分類を試みた次第である。こうした分類・整理によって、変体漢文の文体上の特徴がどのようにして形成・構成されているかが、より分析的・立体的に理解できるようになることが期待される。
文法・表現
- 【〜次第である】
- 意義:「〜次第(しだい)である」=「〜した経緯・理由である」の書き言葉的結び。論文で研究動機や手順を説明する際の定型表現。
- 例:「…観点からの分類を試みた次第である」=「…という観点で分類を試みた次第です」。
- 【〜わけではなかろう】
- 意義:「〜わけではない」の推量形。「〜とは限らないだろう」の意。全面否定を避けた婉曲的留保表現。
- 【より分析的・立体的に理解できるようになることが期待される】
- 意義:「〜ことが期待される」は受身的な期待表現。論文の成果・貢献を主張する際の定型。直接的な「〜できる」より控えめで学術文に適切。
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以上,本稿對源於表記體的變體漢文語言特徵進行了分類記述。將影響變體漢文語言的表記上的特徵,及由此影響的語言上的特徵,簡潔歸納如下。
【1】基於定訓的表記 → 語形面上廣義漢文訓讀語的採用、和文系語彙的排除
【2】《辭》的表記制約 → 代替語句的活用、共現語對語義的補強等
【3】語的漢字化 → 字音語的活用、和製漢語・混種語的醸成、品詞性的擴張等
【4】日語與中文文章構成的相異 → 翻譯文法的攝取、漢文・漢詩文式修辭的活用
當然,變體漢文語言相對於同時代其他文體所具有的特徵,未必全部都起因於表記體。超越表記體制約而獲得的特徵也應當存在。但筆者認為,作為(從現代角度看來)特異的表記方法,變體漢文對其語言造成的影響也應很大,因此嘗試從這一觀點進行分類。期待通過這樣的分類整理,能更為分析性・立體性地理解變體漢文文體特徵的形成與構成方式。
第四節 まとめ及び展望(後半)・他文体への波及pp. 20–21
また、二ノ一節で述べた「最初は表記体上の強制に基づく、消極的なものであったとしても、それが変体漢文の中で文字表現として固定されると、同時にそれが変体漢文の言語の文体的特徴にもなっていく」ということについても、改めて強調しておきたい。もしそれらが単に制約に基づく消極的なものに過ぎないのだとしたら、そのような表現は、そうした制約から解放された仮名文・仮名交り文には現れないはずである。しかし実際には次に示すように、そうした文章においても、本稿で指摘した事象が現れることがある。
・タメニ〜セラル…【4A】参照
〇石川麿大臣、(略)五年己酉、東宮のために殺されたまへりとこそは。(大鏡・天、六一頁)
〇暫ク寺ニ不レ詣ル程ニ、其ノ絵像盗人ノ為ニ被レ盗ヌ。(今昔物語集・十二ノ十七、①一九四頁)
〇その身(引用者注、後漢の光武帝を指す)、つつがおはしまさざりけり。士卒、これを知らず。敵のために討たれ給ひたることを歎いて、…(十訓抄・中・六ノ十七、二三六頁)
〇錦の袋あり。これを敵のために攻められて、命限りと思はむ折、開けて見るべし。(とはずがたり・四、四六四頁)
・シメタマフ…【2E】参照 ※築島(一九七〇)より引用
〇そこのつぼくらめ子うまざらむやは。さてこそ(子安貝ヲ)とらしめ給はめ、(竹取物語)
〇をのこ共の中にまじりて、よるをひるになして(子安貝ヲ)とらしめ給ふ、(同)
〇(和歌ヲ)御前によみ申さしめたまへ、(源氏物語・早蕨)
〇びんなきこともあらばおもくかんだうせしめ給べきよしなんおほせ事侍つれば、(同・浮舟)
これらは、表記上の制約という消極的な原因に由来する言語要素が、文体的特徴へと成熟していき積極的に用いられるようになった好例と言えるだろう。そのことの反映として、右に挙げたような他文体への波及という事実があると見られるのである。
但し稿者は、変体漢文で書かれる文章の一般的性質からすると、こうした他文体への「波及」は変体漢文から直接に行われたというよりは、変体漢文の言語が男性語(口頭語を含む)を反映するものであり、その男性語が他文体へと波及していったという道筋をとるものが多かったろうと考えている。しかし逆に言えば、そのような男性語を直接に知る材料として、変体漢文は比類なきものと言える。変体漢文の言語の特徴を多角的に検討することは、日本語位相史研究の様々な面に寄与し得るものと考えられる。
今後の課題としては、まず本稿の記述は飽くまで素描に過ぎず、各々の特徴の実態については今後精査していく必要がある。また本稿で述べた内の文法的な事項は、漢文訓読語の文法と一致する点が大きいようであるが、どれくらい一致し、どこに相違点があるかといったことについても今後調査・検討していきたい。
文法・表現
- 【改めて強調しておきたい】
- 意義:「改めて(あらためて)」=「もう一度・再び」。「〜しておきたい」は意図・意志の表現。論文結論部で重要ポイントを再強調する際の定型。
- 【単に〜に過ぎないのだとしたら】
- 意義:「単に〜に過ぎない」=「ただ〜だけに過ぎない」。「〜のだとしたら」は仮定条件節。「もし〜なら〜はずだ」という反事実的推論(反証)の構造。
- 【好例と言えるだろう】
- 意義:「好例(こうれい)」=「良い例・典型的な例」。「〜と言えるだろう」の推量で断定を避けつつ評価を示す。
- 【比類なきものと言える】
- 意義:「比類(ひるい)なき」=「比べるものがない・唯一無二の」の書き言葉的表現。研究資料としての変体漢文の価値を強調する。
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另外,二ノ一節中提到的「最初即便是基於表記體強制的消極性表現,一旦在變體漢文中作為文字表現固定下來,同時也就成為變體漢文語言的文體特徵」,也想在此再次強調。如果那些僅僅是基於制約的消極性表現,那麼這樣的表現就不應出現在從這些制約中解放出來的假名文・假名交じり文中。然而實際上,如以下所示,這些文章中也會出現本稿所指摘的事象。
・タメニ〜セラル…參見【4A】
〇石川麿大臣、(略)五年己酉、東宮のために殺されたまへりとこそは。(大鏡・天、六一頁)
〇暫ク寺ニ不レ詣ル程ニ、其ノ絵像盗人ノ為ニ被レ盗ヌ。(今昔物語集・十二ノ十七、①一九四頁)
〇その身(引用者注,指後漢光武帝),つつがおはしまさざりけり。士卒、これを知らず。敵のために討たれ給ひたることを歎いて、…(十訓抄・中・六ノ十七、二三六頁)
〇錦の袋あり。これを敵のために攻められて、命限りと思はむ折、開けて見るべし。(とはずがたり・四、四六四頁)
・シメタマフ…參見【2E】 ※引用自築島(一九七〇)
〇そこのつぼくらめ子うまざらむやは。さてこそ(子安貝ヲ)とらしめ給はめ、(竹取物語)
〇をのこ共の中にまじりて、よるをひるになして(子安貝ヲ)とらしめ給ふ、(同)
〇(和歌ヲ)御前によみ申さしめたまへ、(源氏物語・早蕨)
〇びんなきこともあらばおもくかんだうせしめ給べきよしなんおほせ事侍つれば、(同・浮舟)
這些可以說是源於表記制約這一消極原因的語言要素,成熟為文體特徵並被積極使用的好例。這一事實的反映,正是如上所舉的向其他文體波及的現象。
但筆者認為,從變體漢文文章的一般性質來看,這種向其他文體的「波及」,與其說是直接從變體漢文傳播,不如說多是因變體漢文語言反映男性語(包括口頭語),而那種男性語波及其他文體的路徑。然而反過來說,作為直接了解那種男性語的材料,變體漢文堪稱無與倫比。多角度研究變體漢文語言特徵,可認為能對日語位相史研究的各個方面有所貢獻。
今後的課題方面,首先本稿的記述終究只是素描,各個特徵的實態今後有必要精查。另外,本稿所述的文法性事項與漢文訓讀語的文法似有較多一致之處,一致到什麼程度、相異之處在哪裡,也希望今後加以調查・探討。
注・参考文献・付記pp. 21–24
[注]
1 延応元(一二三九)年六月日公蓮(橘公業)譲状案、鎌倉遺文5446。
2 延応元(一二三九)年十一月五日関東下知状、鎌倉遺文5496。
3 本節は田中(二〇一七イ)序論第一章第八節の内容を再構成したものである。
(注4〜注19 は本文該当箇所参照)
[参考文献]
青木 孝(一九七六)「吾妻鏡に見える「関係(比較)を表わす」副詞とその用字」佐伯梅友博士喜寿記念国語学論集刊行会編『佐伯梅友博士喜寿記念国語学論集』表現社
大坪併治(一九八一)『平安時代における訓点語の文法』笠間書房、二〇一五再刊
小田 勝(二〇一五)『実例詳解古典文法総覧』和泉書院
小野泰央(二〇一一)『中世漢文学の形象』勉誠出版
小山登久(一九九六)『平安時代公家日記の国語学的研究』おうふう
亀井 孝(一九五七)「古事記はよめるか―散文の部分における字訓およびいはゆる訓読の問題―」武田祐吉編『古事記大成3 言語文化篇』
亀井 孝(一九八五)『亀井孝論文集4 日本語のすがたところろ(二)』吉川弘文館
木田章義(二〇一四)「狸親父の一言―古事記はよめるか―」『国語国文』八十三ノ九
小林芳規(一九七一)「高山寺本古往来における漢字の用法上の性格―振仮名の有無を手懸りとする考察―」『国文学攷』五十七
小林芳規(一九七二)「国語史料としての高山寺本古往来」高山寺典籍文書綜合調査団編『高山寺資料叢書 二 高山寺本古往来・表白集』東京大学出版会
小林芳規(一九八二)「古事記訓読について」青木和夫ほか校注『日本思想大系1 古事記』岩波書店
(以下、参考文献略)
《付記》
本稿は平成二十九年度日本学術振興会科学研究費補助金(特別研究員奨励費、研究課題「語彙と書記の観点による変体漢文の歴史的研究」)による成果の一部である。
(たなか そうた 人文社会系研究科 助教)
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《付記》
本稿是平成二十九年度日本學術振興會科學研究費補助金(特別研究員獎勵費,研究課題「以語彙與書記為觀點的變體漢文歷史研究」)成果的一部分。
(田中草大 人文社會系研究科 助教)